軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

バルトファルト兄弟

王宮の一室。

司令部として借りたその場所で、俺はルクシオンからの報告を聞いていた。

『淑女の森、正統王国派、両グループを拘束しました』

淑女の森という名前を聞いてゲンナリしてしまう。

そもそも、俺がこんな目に遭っているのは、あいつらのせいだ。

俺の近くで話を聞いているアンジェは、地図の上に置いてある駒をどける。

「意外に早かったな」

『そもそも、お粗末すぎましたからね』

ユリウスもこの場にいて、敵の動きに合わせて駒を配置する。

「情報の伝達速度が違いすぎる。これでは敵に同情したくなってくるな」

『ローランドがあらかじめ敵の動きを予想していたのも大きいですけどね』

「父上が、ここまで先読みをしていたのか。――意外だな」

ユリウスからしても、ローランドの先読みは意外だそうだ。

アンジェが駒を動かす。

「王都を目指している敵の艦隊は、ブラッドたちが対処しているのだな?」

『はい。集結前に敵を叩けるでしょう』

「グレッグとクリスが王都で暴れ回っている鎧の対処。ジルクは敵の捕縛。もう、ほとんど終わったようなものだな」

残っている敵の駒は少なかった。

『――ドニエル子爵家の屋敷に突入。敵を匿っていたそうです』

ユリウスが苦々しい顔をしている。

「王都に屋敷を構える貴族たちが、こんなにも裏切っていたのか」

彼らの屋敷には、決起のための武器が運び込まれていた。

俺は腕を組む。

「俺、必要かな?」

この場にいるだけだった。

アンジェが俺に言い聞かせてくる。

「司令官は堂々としていろ。この戦いは、もう終わったのも同然だ。大事なのは、これから動くだろう敵国だな」

ラーシェル神聖王国。

ホルファート王国よりも小さいが、大きな浮島を持つ大国だ。

ミレーヌさんの実家の敵でもある。

「俺を怖がっているのに、攻撃してくるのか」

情報では、俺への危機感を強めていたようだ。

だが、攻め込んでくるとは思わなかった。

何か秘策でもあるのか?

アンジェが俺に説明してくれる。

「リオンは王妃様と親しいからな。どうせ敵になるなら、ホルファート王国を疲弊させたいのではないか? 相手はお前の詳しい情報を知らないからな。国力さえ削ってしまえば、攻め込む余裕がなくなると考えたのかもしれないぞ」

あり得るのか?

首をかしげていると、ユリウスも俺に同じ事を言う。

「今回のクーデターは、王国内に亀裂を入れるものだな。鎮圧後、各地の貴族たちが決起するように働きかけるのではないか?」

ルクシオンが一つ目を俺に向ける。

『フレーザー家に攻め込むのは、救援が遅れると考えているからでしょう。――おや、正統王国義勇軍も捕縛したそうです』

「その名前もそうだけど、何て言うか凄いよな」

自分たちが正義だと言わんばかりだ。

いや、本気で思っているのだろう。

ドアがノックされると、師匠が入ってくるのだった。

サービスワゴンを押しており、その後ろにはリビアやノエルもいた。

「ミスタリオン、お茶の用意が出来ましたよ」

「師匠!」

師匠がお茶の用意を始めると、俺にリビアやノエルのことを伝えてくる。

「お二人にも手伝ってもらいましてね。お二人とも、随分とミスタリオンを心配していましたよ」

「え?」

リビアが俺を見ながらお盆で口元を隠していた。

「あ、あまり無茶をして欲しくなかったんです」

ノエルの方は、少し雑に軽食を俺たちに渡してくる。

「無理して戦う必要もないんだから、大人しくしておきなさいよ」

二人を前に、返事に困る俺に師匠が言うのだ。

「ミスタリオン、時に言葉にしなければ伝わらないこともあります。大事に思うだけでは、婚約者も不安に感じますよ」

「そ、そうですね」

三人の視線が俺に集まると、どう答えるべきか悩んでしまう。

すると、部屋にユリウスの軽食を持って来たマリエがやってくるのだ。

「ユリウス、サンドイッチよ」

「おぉ、ありがたい! マリエのサンドイッチがあれば百人力だ!」

喜ぶユリウスを見て、俺は思うのだ。

期待する三人の目。

――俺にユリウスのように振る舞えというのか?

俺は一度深呼吸をしてから、覚悟を決めて伝えるのだ。

「三人とも大好き!」

直後、部屋が静かになった。

マリエが首を動かして、誰かに説明を求めている。

「え? 何? もしかして、疲れておかしくなったとか?」

ユリウスが真面目な顔を俺に向けてくる。

「バルトファルト、それは俺でも駄目だって分かるぞ」

「――俺もそう思ったんだ。だけど、言葉が出てこないんだよ」

師匠が目頭を揉んでいた。

「ミスタリオンは、女性を口説くのが得意だと思っていたのですが」

得意じゃないよ! 師匠、俺は女性の扱いなんて知らない童貞だよ!

アンジェが溜息を吐く。

「これからゆっくりと覚えてもらうとしよう。さて、今は目の前の問題だ」

意識を地図に向けると、ルクシオンの目が強く点滅した。

「何だ!? どうした!」

その反応に俺が問うと、ルクシオンはこれまでよりも警戒した声色で答える。

『――マスター、魔装の反応を確認しました』

「魔装? ――黒騎士の爺さんのやつか!」

以前、俺たちを苦しめた黒騎士の爺さんが使用した魔装の反応を、ルクシオンがとらえた。

アンジェも険しい表情になっている。

「まずいぞ。すぐに部隊を向かわせる。敵はどこだ?」

『移動速度が遅いです。形状も過去のデータとは異なっています。目的地は――学園ですね』

リビアが驚いて、ルクシオンに聞き返した。

「学園ですか? どうしてここじゃないんですか?」

『分かりません』

すぐに地図を見て、動かせる部隊を確認する。

「王都上空で待機しているのは――」

ユリウスが一つの駒を指さした。

「バルトファルト男爵の飛行船だ」

「兄貴かよ」

兄貴を向かわせるか悩んだ。

出来れば、戦わせたくない。

だが、身内だからと下がらせたら、示しがつかなくなる。

「俺が――」

俺が出ると告げる前に、ルクシオンが味方からの報告を俺たちに告げた。

『――マスターの兄君からです。敵を発見したのでそちらに向かう、と。すぐに学園に部隊を派遣します』

「俺も出る。アロガンツを出せ」

そう言うと、アンジェが俺の腕を掴むのだった。

「リオン!」

だが、ユリウスが悩みながらも、アンジェを諭すのだった。

「黒騎士レベルの相手が出て来たら、バルトファルトに期待するしかない。バルトファルト、すまないが出撃してくれるか?」

「当たり前だ。あそこにはフィンリーたちもいるんだよ!」

外に出ようとすると、ノエルがドアの前に立ちはだかった。

「ノエル、何の真似だ?」

「――あんた、このままだと本当に壊れるよ」

言われて、すぐに何を言いたいのか理解したが、魔装が出てくるなら俺が出た方がいい。

最悪、ルクシオン本体を使う。

「魔装の相手をしたら戻るだけだ。ルクシオンだと、王都に被害が出る。それに、放っておく方が精神的にきついんだよ」

魔装を吹き飛ばす威力の攻撃をすれば、王都まで吹き飛んでしまう。

アロガンツを使用するのが正解だ。

ノエルが俯いて道を譲ろうとすると、今度はリビアが俺の前に出てきた。

「リビア、話は後だ」

「いえ、私は止めません。リオンさんは家族を助けたいんですよね?」

「――そうだよ。指揮官失格だよ。だから、こんな立場は嫌だったんだ」

愚痴をこぼすと、リビアは俺を見て微笑むのだった。

「私は止めません。ただ、一つだけ約束をしてください」

「約束?」

「リオンさんが家族を守りたいように、私はリオンさんの心を守りたいんです。だから、リオンさんはもっと自分勝手に動いてください。後のことや、面倒なことは私たちが何とかします。だから、自分のやりたいようにしてください」

「俺のやりたいように? それだと、もっと酷いことに――」

「なりません。リオンさんは優しい人です。派閥とか、国とか、戦争とか――もう、そんなことで悩まないで、好きなようにしてください。大丈夫。私たちが側にいますから」

リビアの真っ直ぐな目に、心の奥まで見透かされそうだった。

「悩まなくていいなら、楽だよな」

「えぇ、リオンさんなら、間違った道には進まないはずです」

俯くと、ルクシオンが会話にまざってくる。

『私もいますからね。大抵のことは、どうにかしますよ。そもそも、マスターが背負い込んでいる悩みなど、私にとっては悩みでもありません』

「お前も言うよな」

笑って、そして視線を巡らせる俺は、皆を安心させるために言うのだ。

「やっぱり、面倒なのは嫌いだから、事後処理は頼むわ。俺、敵をぶっ飛ばしてくる!」

アンジェが首を横に振る。

「いってこい。事後処理は私たちでしてやる」

ユリウスも同様だ。

「お前はやり過ぎるからな。後片付けは俺も手伝おう」

マリエはオロオロとしながらも、俺を見て拳を上げた。

「もう、面倒な連中をとにかくぶっ飛ばしてきて!」

ノエルは、ドアを開けると諦めた顔をしていた。

「リオンは面倒な性格をしているよね。捻くれすぎ」

「悪いが俺は自分に正直な男だよ」

部屋を出ると師匠が頷いていた。

「ミスタリオン、ご武運を」

「――任せてください」

廊下に出ると、リビアが俺に笑顔を向けていた。

ルクシオンが俺の右肩に近付く。

『クレアーレを代わりに来させます。マスター、アロガンツは中庭に着地させます』

「本当に面倒だな。敵さん、まさかこれが切り札だったのか?」

廊下に出た俺は、急いでアロガンツが降り立つ中庭へと向かう。

すると、廊下で待っていたのはフィンだった。

「フィン、お前は避難していろよ。ミアちゃんが不安がるぞ」

「そうしたいが、面倒なのが出て来ただろ? 俺も無関係じゃないんだよ」

フィンの左肩の辺りに浮かぶ黒助は、一つ目を頷かせる。

『コアのない魔装のパーツだが、俺様たちの仲間だからな』

ルクシオンは忌々しそうにしている。

『我々で塵一つ残さず処理します』

『相棒は手を貸すって言ってんだよ!』

フィンを見ると、廊下の窓の外を見るのだった。

「黒助が言うには、今回の魔装の破片は厄介らしいからな。ミアはまだ留学していたいようだし、王都が焼け野原になると困るんだよ」

俺は肩をすくめて見せた。

「シスコンだな。なら、手伝え」

「あぁ」

『イヒャヒャヒャ! 最高の気分だぁぁぁ!』

ルトアートの声が王都に響き渡っていた。

くぐもり、割れたような声を聞いているのは、飛行船の艦橋にいるニックスだった。

学園を見下ろすと、まだ避難が終わっていない。

「砲撃を続けろ!」

王都上空で待機していたニックスは、敵が来たので迎え撃っている。

「ジェナとフィンリーは!」

「ま、まだ見つかりません!」

鎧に乗り込んだ騎士たちを降ろして、二人の救出に向かわせたのだが見つからない。

王都上空で待機していた飛行船が集まってくる。

砲撃を行うが、まったく効いているように見えない。

ニックスは椅子の肘掛けに拳を振り下ろした。

「化け物が」

(何でルトアートの声に似ているんだよ)

自分たちを苦しめてきた本妻の子供。

自分の兄ではあるが、いい思い出など一つもなかった。

目の前の化け物からは、ルトアートの声がする。

『バルトファルトの家紋? バルトファルト――バルトファルトォォォ! それは私の家紋だぁぁぁ! 地位も、名誉も、あいつの全ては私のものだ! 私にこそ相応しい! 侯爵の地位も、公爵家の女も、ロストアイテムも私のだぁぁぁ!』

空に浮かぶのは、大きな塊だ。

醜い肉の塊は、表面が黒く血管が脈打っているように見える。

塊は浮かび、王都上空をゆっくりと学園方面に進んでいた。

先端に人の顔らしきものがあり、細長い手がついている。

後ろには尻尾のような物が生えており、ウネウネと動いていた。

体から触手のようなものも生えている。

「何なんですか、あれは!?」

艦長がそう言うと、ニックスは吐き捨てるように言うのだ。

「俺が知るかよ。まったく、リオンに付き合わされると、いつもこうなるんだ」

公国戦で見た超大型よりはマシだろうが、いくら砲弾を撃ち込んでも傷一つつかない敵を前にニックスは冷や汗をかく。

(ここで逃げたら、学生たちがどうなるか)

学園の屋根に張り付く、蜘蛛型のロボットたちも地上から砲撃していた。

だが、ルトアートは止まらなかった。

「よりにもよって学園を狙うのか」

元々避難場所になっており、学園には周囲の住人たちも避難していた。

ニックスは時間を稼ぐために、この場から動けなかった。

(リオンには伝えている。あいつなら何とかしてくれると思うんだが――)

体中に赤い肉眼がついており、周囲をキョロキョロと見ていた。

それらの眼球が、一斉にニックスの乗る飛行船を向く。

「全員、衝撃に備えろ!」

ニックスが指示を飛ばすと、眼球から火球がいくつも放たれて飛行船に襲いかかってきた。

(――流石に今回は無理か)

それらが爆発し、飛行船は炎に包まれてしまう。