軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

本気

「皆さんにお願いがあります。王国に力をお貸しください」

エリカがそう言うと、会議室は静まりかえった。

貴族たちは何を考えているのだろうか?

それを予想することは出来るが、あまりいい感情は抱いていないだろう。

「敵は外国から支援を受けた元貴族たちです。このままいけば、王国に敵国の軍隊がなだれ込むでしょう。そうなれば、王国は各地で火の海に包まれてしまいます」

中には、これ幸いにと動き出す貴族たちもいるだろう。

腕を組んだ貴族が、俺を睨みながらエリカに言う。

「エリカ様も、バルトファルトの小僧の指揮に従えと仰いますか?」

俺が気に入らないようだ。

エリカは堂々と頷く。

「公爵が若すぎるという不満はもっともです。ですが、私はそれが最善だと信じています」

言い切るエリカに、腕を組んでいた貴族は黙ってしまった。

隣に座っている紳士風の貴族は手を組んだ状態で俺に問う。

「この混乱する現状を、バルトファルト公爵は乗り切れる自信があるのかおたずねしたい」

現状を正しく理解している人間は少ない。

情報が集まりにくいからな。

だが、俺にはルクシオンがいるので問題なかった。

つくづく思う。

チートって凄い、ってね。

「自信ならある。俺に従うなら勝たせてやるよ」

俺の言葉に、周囲が苦々しい顔をするのだった。

「成り上がり者は威勢がいい。事実であれば心強いのだけどな」

「一斉決起をした敵だぞ。後手に回っているのに勝てるのか?」

「誰だって勝てる。問題はその後だ」

そう、このクーデターだが、敵国からすれば失敗すると思われている。

ホルファート王国内をかき乱したいだけだ。

誰も、最初から期待などしていないのだ。

「この場にいる方々には、すぐに国境に向かってもらう。国内の敵は王宮で対処する」

筋骨隆々の貴族が俺を笑ってみていた。

「なんと。自分たちだけで解決できると?」

「そうだ。一番の問題は国境だからな」

紳士風の貴族は頷いていた。

「――無能ではないようで助かる。確かに、国内で決起した連中は捨て駒だろう」

レッドグレイブ家の代表として参加しているギルバートさんが、俺に冷たい視線を向けていた。

「バルトファルト公爵。それで、我々にどの国境を守れと? 王国は広大だ。全周囲に戦力を派遣など出来ないが?」

俺を試しているような気がする。

「急ぐのはフレーザー家への援軍です」

テーブルに置かれた地図を指さし、俺はどこに援軍を送るのかを指示した。

それを見て、モットレイ伯爵が驚いていた。

「随分と偏った配置だな」

他の貴族たちも同様だ。

「ファンオース公爵家側は放置か?」

「あそこは動いてもおかしくないぞ」

「この配置、失敗すれば王国に敵がなだれ込むぞ」

それだけ偏った配置を求めた。

理由は、動きそうな国を事前に調べていたからだ。

「ファンオース公爵家は動かない。あそこに余力はないからな」

モットレイ伯爵がアゴを撫でていた。

「断言しますか。今までのファンオース家なら、これを機会に動きますが?」

「以前の戦場で徹底的に叩いた。馬鹿じゃなければ攻め込まないですよ。そもそも、まとまった戦力を用意できないですからね」

この場にいる貴族の大半が、公国戦の時は国境に向かっていた。

紳士風の貴族が、皆が聞きたかった事を聞いてくる。

「陛下の勅命です。従いましょう。ですが、ハッキリさせたいのですよ。バルトファルト公爵のお立場を、ね。我々は、この混乱を利用して、レッドグレイブ家が利益を得るように動かないか心配しているわけです」

ギルバートさんが目を閉じた。

この場にいる貴族たちは、俺がこの状況を利用してうまく立ち回るつもりではないかと心配しているようだ。

――うまく立ち回るに決まっているだろうが!

「心配しなくても、王国を守るために全力を尽くしますよ。今後も王国を守るために尽くします。簒奪もしたければすればいい。俺が全て叩き潰してやる」

エリカが驚いて、俺の袖を握るのだが無視して続けた。

「ローランドの野郎は嫌いだが、好き好んで戦争もしたくない。今更過去のことを持ち出して、ネチネチ仕返しする気もない」

ギルバートさんに俺の気持ちを伝えると、周囲の貴族たちが文句を言ってくる。

中には、王国の方針に苦しめられた貴族もいる。

「理不尽な目に遭っても、王国に尽くす忠誠心は見上げたものだな」

「積年の恨みがないのだろう」

「我々の苦しみが理解できないようだ」

俺はテーブルを殴りつけた。

「理不尽? 恨み? 苦しみ? ――お前ら、俺がどうしてロストアイテムを手に入れたか知らないようだな。教えてやるよ。俺がロストアイテムを手に入れたのは、五十過ぎの女に婿入りさせられそうになったからだ。しかも、遺族年金狙いだぞ!」

周囲の目が少しだけ和らいだ。

目頭を揉んでいる奴もいる。

「王都に暮らす本妻や、その子供のために、親父は毎月苦しみながら仕送りをした。貴族なのに畑を耕し、自分たちの食い物を確保する気持ちが分かるか? 贅沢に暮らしている本妻やその子供は、それを当たり前と思って感謝すらしなかった!」

今考えても理不尽だが、あの頃はこんな面倒なことを考えなくてよかった。

「俺だって腹立たしいよ。今すぐにでも、ローランドを叩き起こして殴ってやりたいよ! けどな、それを決めたのはローランドじゃない。王妃様でもない。今更怒って、王家を焼いても何の解決にもならねーんだよ」

それを聞いていたギルバートさんが、目を開けて俺に言う。

「だが、今の王家ではまとまらないのも事実だ。無理に延命させて、それが問題にならないと? 恨みや苦しみを忘れろと君は言うが、その程度で忘れられないのも理解して欲しいね」

分かっているのだ。

だが、俺にも守るべきものがある。

「好きにすればいい。俺を倒せると思えばかかってこい。いっそ、敵に寝返るか? そうなったら心置きなく相手をしてやれるから、俺は構わないぞ」

文句があるなら前に出ろ。

そう言うと、モットレイ伯爵が手を叩いた。

「若き英雄殿は過激ですね。だが、この危機に 真摯(しんし) に向き合う気持ちは理解しました。皆さん、ここはバルトファルト公爵の指揮下で戦ってみてはどうです? 敵国の好き勝手にさせるのも面白くありませんからね」

その場は、モットレイ伯爵の言葉もあって、一応は納得してくれた。

だが、不満があるのは見え見えだった。

会議室を出た俺は、近付いてくるルクシオンと話をする。

「ルクシオン、状況は?」

『それが、予定したよりも条件がいいですね。よすぎて疑うほどです』

「どういうことだ?」

予定していたよりも、こちらにとっていい結果になっているようだ。

『敵が襲撃した施設ですが、今日に限って部隊が配置されていました。演習名目で実弾を積んだ飛行船も出撃しており、素早く対応が取れています』

「――ミレーヌさんか?」

『ローランドが手配したようです。やられましたね、マスター』

あいつはいったい何がしたいんだ?

というか、このことを予見していたのか?

困惑していると、俺についてくるエリカが声をかけてくる。

「お、伯父さん。どうしてあんなことを言ったの? 伯父さんは、平穏に暮らしたいんじゃなかったの?」

エリカの言葉に立ち止まった。

――平穏に暮らしたいし、今でもそう思っている。思ってはいるが。

振り返り、俺はエリカに笑顔を向ける。

「姪っ子を処刑台に上げるなんて嫌だからな。――スローライフはしばらくお預けだ」

「で、でも!」

「今更、引きこもりたいと言っても、状況が許してくれないからな。こいつを手に入れた代償みたいなものさ」

ルクシオンを小突くと、不満そうにしていた。

『私を手に入れたのがそんなに不満ですか?』

「いや、満足していないだけだ」

普段言われたい放題なだけに、言い返してやると気分がいい。

「――伯父さん、今更前世のことにこだわる理由なんてないよ。私のために無理しなくてもいいんだよ」

エリカにしてみれば、俺は前世にこだわっているように見えるのだろう。

だが、それは当然だ。

「俺がこうして前世を持っているなら、何か意味があるはずだ。そうでなければ、前世の記憶など残らないだろ」

『初めて聞きました。今思い付いたのですか?』

「うん」

エリカの前で軽口を叩いていると、ルクシオンが俺に報告してくる。

『マスター、首謀者のアジトを突き止めたそうです』

「早かったな」

『元々、外国の手先ですからね。王国を混乱させるのが目的であり、期待などしていなかったのでしょう。本番はここからですよ』

「分かっている。エリカ、悪いが伯父さんはちょっと忙しい。仕事を終わらせたら、またゆっくり話をしよう。色々と聞きたいこともあるからな」

両親の話。

エリカの話。

聞きたいことは山のようにある。

エリカは俯いていた。

「――伯父さん、ごめんなさい」

「問題ない。ちょっとルクシオンに頼るだけだ」

『その決断を、もう少しだけ早くして欲しかったですね』

ギリギリまで粘ったんだよ。

どうにもならないなら、俺がやるしかないだろうが。

リオンとルクシオンが去ると、エリカはスカートを掴む。

俯いて涙を流していた。

「伯父さん、私のために無理なんてしなくていいのに」

結局、言い出せなかった。

もしもリオンが知ってしまえば、きっと苦しむことになるだろうから。

王都の路地。

逃げ回るのは、淑女の森のメンバーたちだった。

「あり得ない。こんなのあり得ないわ!」

「外国からの支援はどうなっているのよ!」

「どうして失敗するの! 成功するって言ったじゃない!」

ドレス姿で逃げ回っており、服は破けてゴミを引っかける。

そして、女性たちが逃げ出した先で待っていたのは、銃を構えたジルクだった。

エアバイクに乗り、淑女の森のメンバーを囲んでいる。

周囲には、同じようにエアバイクに乗った兵士たちがいた。

「逃げ場はありませんよ。投降してください」

女性たちがその場に座り込むと、兵士たちが近付いて拘束していく。

ジルクに近付くのは、卒業してエアバイクに乗る仕事に就いた騎士――クラリスの取り巻きだった男子だ。

「お前の下で働くとは思わなかったよ」

「こちらも同じです。ただ、ご理解いただきたいですね」

「お前はともかく、お前の上司は信用しているからな」

ジルクはクラリスの元婚約者だ。

クラリスの取り巻きをしていた男子からすれば、文句の一つも言いたいだろう。

だが、我慢して今はジルクに従っている。

「それより、これから何をするんだ?」

「次に向かいます。反乱を起こした首謀者グループはいくつもありますからね」

ジルクたちは、淑女の森のメンバーを引き渡して次へと向かうのだった。

『これで六機目!』

鎧に乗り込んだグレッグが、槍を振り回して大暴れしていた。

ルクシオンが製作した鎧は、敵の新型を圧倒している。

その様子を見ながら、クリスは王宮からの指示を確認していた。

「グレッグ、次に向かうぞ。王都で暴れ回っている鎧はまだいるそうだ」

『こいつら、よくこんなに鎧を持ち込めたな』

呆れるグレッグだが、それはクリスも同じだった。

王都で暴れ回っている鎧は、随分な数が持ち込まれている。

「協力者が多かったのだろうな。その辺りも詳しく調べる必要がある」

取り潰されなかったが、不満を持っていた貴族たちが手を貸したのだろう。

中には、貴族の屋敷から出て来た鎧もいた。

『別に倒すのは問題ないが、ブラッドのやつは大丈夫か?』

ブラッドは一人だけ王都にはいなかった。

「心配ない。あいつは指揮官向きだ」

そう言って、二人は次へと向かうのだった。

王都を目指している飛行戦艦が六隻。

王都に辿り着く前に待ち構えていたのは、リオンの友人たちだった。

それを率いるのは、ブラッドである。

「まったく、バルトファルトも分かっているじゃないか。僕は指揮官の立場こそが相応しい」

乗り込んでいるのは、ダニエルの飛行船だ。

ダニエルが困っている。

「何で辺境伯の子息が、俺の船に乗っているんだよ」

文句を言うダニエルに、ブラッドは肩を叩きながら前を指さした。

「ダニエル君、そう邪険にしないでくれ。さて、彼らの相手をしようじゃないか」

用意した飛行船は十二隻。

敵の倍だ。

「負ける気はしないが、本当に邪魔だけはしないでくれよ」

「心配ない。ほら、敵が側面を晒したぞ。狙い撃って沈めてしまおうか」

敵の動きに合わせて、ダニエルが指示を出す。

「あ~、もう! 砲撃だ。砲撃! レイモンドたちにも伝えろよ」

部下に指示を出すと、敵の艦隊を砲撃しはじめる。

ブラッドはその様子から、視線を地図に向けるのだった。

「こいつらを叩いたら、集結地点を目指している他の艦隊も叩こう。場所的に、次はこっちかな?」

ダニエルが愚痴をこぼす。

「リオンの奴、また俺たちをこき使いやがって。今度、高い店でおごらせてやる」

ブラッドは笑っている。

「うん、祝勝会には丁度良いね。僕たちも参加しよう」

「――え、お前らも来るの?」

「当然だ。もう、僕たちは友達じゃないか」

友達という響きに嫌なことを思い出すダニエルは、両手で顔を隠していた。