軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

婚約破棄

「この大馬鹿者が!」

アンジェに呼び出された俺は、正座をして俯いていた。

リビアとノエルも俺を囲んでいる。

「リオンさん、やり過ぎです!」

「ビックリしたわよ。本当にドン引きだったわよ! もっと軽めの奴を想像していたのに、あそこまでしたら駄目じゃない!」

エリヤとの決闘だが、俺が周囲をドン引きさせたことに怒っていた。

いや、俺の評判を落としたことに、だろうか?

アンジェが溜息を吐いている。

「必要以上に自分の名を貶めるな。あそこまでやる必要はなかったはずだ」

俺は小さく笑うのだった。

「英雄なんて柄じゃないので、少し引かれた方が俺としては丁度良いんだよ」

「リオンさん、あれは少しじゃありません。皆さんドン引きでしたよ」

リビアが何を言っているんだ? みたいな顔をして俺に注意してきた。

ノエルは腕を組んでいる。

「ま、結果的にはよかったのかな?」

エリカが自分の気持ちを口に出した。

それが今は一番の収穫だ。

「だが、本当に忙しいのはここからだ。王妃様は必ず動くぞ」

ミレーヌ様が差し伸べた手を振り払ったようなものだ。

アンジェはすぐに行動を起こすべきだと告げてくる。

「もう一度確認するぞ。リオン、お前は簒奪にも手を貸さない。だが、王家にも必要以上に近付かない。この方針でいいんだな?」

それは、どちらに味方するよりも厳しい選択だった。

だが、可愛い姪のためだ。

やってやると決めている。

「もう準備は出来ている。――ルクシオン!」

俺の右肩当たりに浮かんでいるルクシオンは、やる気のない感じで説明するのだった。

『エリカのフレーザー家への嫁入りを全力で支援しつつ、立場を王国寄りに見せるつもりです。ミレーヌへの対応は難しくなるでしょうけどね』

「え、そうなの? 謝ったら許してくれない?」

ミレーヌ様が怒ったままはちょっと困ると言うと、三人が凄く呆れた目を俺に向けてくる。

「リオン、お前は王妃様をどうしたいんだ?」

「リオンさん『メッ!』です」

「いや、あんた人妻にどうしてそこまでこだわるのよ」

単純に好みだからね。

アンジェが少し嬉しそうにしている。

「これからは私の実家も頼れない。王妃様もきっと手を貸さない。我々だけでこの状況を切り抜けることになるな」

リビアは、そんなアンジェを見て不安そうにしている。

「アンジェ、楽しそうにしていませんか?」

「そう見えるか?」

微笑むアンジェの顔を見て、ノエルは肩をすくめていた。

「凄く楽しそうよ。それで、何からはじめるの?」

アンジェが腰に手を当てる。

「――エリカ様とエリヤの婚約を復活させる。実は、もう許可を得ているんだ」

許可を出したのはローランドだ。

あの糞野郎は、俺とエリカが結婚しないなら、エリヤで我慢すると言ったらしい。

どこまでいっても屑野郎である。

王都にあるレッドグレイブ家の屋敷。

執務室には、親子が揃っている。

ヴィンスは、リオンとエリカの婚約破棄の件について報告を受けていた。

ギルバートは嬉しそうにしている。

「王妃様の手を振り払いましたね。父上、これでリオン君はこちら側であると宣言したようなものです」

だが、ヴィンスは報告書を破り捨てた。

「父上!?」

苛立っているヴィンスは、アンジェの名前を呟く。

「私に逆らうか、アンジェ」

「ど、どうしました? どうしてアンジェが逆らうのですか?」

ヴィンスは鋭い視線をギルバートに向けた。

「事後報告が何よりの証拠だ。こちらを信用していないと言っているようなものだな。それに、エリカ様のフレーザー家への輿入れを強引に進めたようだ」

「王妃様が認めたと?」

「陛下だよ。あのろくでなしは、こういう時だけ動きが速い」

ヴィンスには、ローランドが笑っている姿が見えた。

忌々しい。

普段は遊んでいるが、あれでも能力はそれなりにある。

「アンジェを呼び出しますか?」

「呼び出したところで、ノコノコと顔を出すと思うのか? 無理矢理連れ戻そうにも、侯爵に守られている。今はこちらから敵対出来ないと分かっての行動だ」

リオンを神輿として、派閥の仲間を集めている状況だ。

敵対すれば、派閥が維持できない。

リオンの名前で集めた仲間だ。

敵対すれば、確実に離れてしまう。

ギルバートが目を細める。

「話し合いの場を用意します」

「それよりも、アンジェが何を目的にしているのか調べろ」

公爵家の動きは怪しくなっていた。

ヴィンスは呟く。

「今の王国を生きながらえさせて何の意味があるというのか」

公国との戦争後から、ヴィンスは今の王家に未来はないと考えていた。

新しい王家が必要になる。

それをアンジェも理解しているはずだった。

こちら側だと思っていたが、どうやら敵対するらしい娘にヴィンスは小さく微笑む。

「――お手並み拝見といこうか」

報告書を燃やしている女性がいた。

王宮の執務室。

無表情で、エリカのフレーザー家への輿入れについて書かれた報告書を燃やしているのはミレーヌだった。

「そう――私の手は取らない。そう言いたいのね、リオン君。いえ、アンジェかしら?」

ミレーヌからすれば、エリカをリオンへと嫁がせるのは強引だが必要なことだった。

それだけ、危機的状況である。

「皆、私から離れていくのね」

期待していたアンジェもそうだが、目をかけていたリオンにも裏切られた。

そして、我が子であるユリウスやエリカも同様だ。

この一番大事な場面で、ミレーヌは皆に裏切られた。

「そんなに沢山の血を見たいのね。なら、好きにすればいいわ」

ミレーヌにはホルファート王国の崩壊が見えていた。

どちらにもつかない態度を見せるリオンの動き。

レッドグレイブ公爵家の動き。

国内外の動き。

各地で反乱が起き、大地は血で染まるだろう。

領主貴族たちが争い、独立した勢力たちが激しく戦い合う。

そうしている間に近隣の国も手を出してくるはずだ。

ホルファート王国は、確実に滅んでしまう。

この状況を切り抜けるのは、もはや不可能に近い。

「――これは貴方たちが望んだことよ」

瞳から輝きが消えたミレーヌは、そう呟くのだった。

学園の男子寮。

俺の部屋に呼び出したのは、エリカとエリヤの二人だった。

「――婚約式ですか?」

驚いているエリカに対して、エリヤの方はガチガチに緊張していた。

「ゆ、指輪を買わないと! あ、式場の手配も!」

マリエがエリヤをハリセンで叩いた。

「落ち着きなさい!」

叩かれたエリヤが「は、はい!」とマリエに下手に出ている。

だが、今のマリエはちゃんとした地位を持っていないため、エリヤに強くものを言える立場じゃないんだけどね。

俺がアンジェを見ると、代わりに説明してくれた。

「夏期休暇に強行する。婚約式を行えば、そこから二人の結婚を邪魔するなど不可能だからな」

婚約式をした俺に、ミレーヌ様が娘のエリカを押しつけてきたのがいかに力押しだったか分かるというものだ。

「エリヤ殿、分かっていると思うが、この婚約はリオンが面倒を見る」

その意味をエリヤも理解していたようだ。

「ぼ、僕に侯爵の派閥に入れということですよね? だ、大丈夫です。フレーザー家は、今まで王妃様の派閥でしたから。で、でも、エリカとの一件で、それも有耶無耶になっていますし。ただ、元々落ち目で、他にご紹介できる貴族がいません」

落ち目というのは、周りの家から相手にしてもらえなくなるからね。

というか、同じ爵位なのに俺の下についていいのだろうか?

「エリヤが俺の下について問題ないの?」

「あるに決まっている。だが、今は少しでも派閥を大きくしたい」

話を聞いていたユリウスが、俺に分かるように解説してくるのだ。

「バルトファルト、世の中というのは数が重要になる。お前を支持する貴族たちがいると示せば、王宮だって無視できないぞ。ま、アンジェリカの狙いは、レッドグレイブ公爵派閥の切り崩しだけどな」

「え、そうなの?」

アンジェが頷いて同意する。

「簒奪を諦める程度には、父上の派閥を削っておく必要がある。その上で、リオンは王家を全面的に支持すると、国内外に示す」

ただ、これには問題があるらしい。

ユリウスが恥ずかしそうにしていた。

「だが、現時点で王太子の地位には誰もいない。王国を支持すると言っても、正直に言えば後継者争いが待っているようなものだな」

明確に王太子がいれば、その人に忠誠も誓っておけばいい。

だが、今は誰もその地位にいない。

俺は頭を抱えた。

「ちくしょうぉぉぉ! 第二王子を殴ってさえいなければ!」

ユリウスが悲しそうな目を俺に向けている。

「俺も人のことは言えないが、お前ももう少し先を考えて行動したらどうだ?」

ただ、いつまでも悩んでいては始まらない。

姪っ子のために頑張ると決めたなら、すぐに立ち上がって行動するべきなのだ。

「なら、ジェイクに話を付けるか。駄目なら、他の王子を王太子にすればいいし」

アンジェの頬が少し赤い。

「リオン、私はお前のそういうところは好ましく思っているよ」

マリエが首を横に振っていた。

「その発想がまずないわ。王太子を用意するとか、それってどうなの?」

王太子の地位を俺が勝手に決められるものではない。

だが、いくらでもやり方がある。

エリヤが困って口を出せずにいる横で、エリカが俯いていた。

「ここまでしなくてもいいのに。わ、私は――」

そんなエリカの肩に、マリエは手を置くのだった。

「任せなさい。あに――リオンがどうにかしてくれるから」

エリカが小さく頷くと、アンジェが話を聞いていたルクシオンに視線を向ける。

「ま、我々にはルクシオンという切り札があるからな」

ルクシオンは普段通りだ。

『私としては、マスターにこのまま王位についてもらいたいものですけどね。それが一番楽なので』

――冗談ではない。

「却下。俺は王様になりたくない」

ルクシオンの冗談を聞いていたアンジェは「出来るならそれもいいが」とか考え込み、ユリウスは「バルトファルトが王様になったら、俺は串焼き職人になれるだろうか?」と真剣に悩んでいた。

――てめぇ、ユリウス! お前はいったいどこに向かっているんだよ!

お前がもっとしっかりしていれば、俺が苦労することなどなかったのに!

『では、まず――おや?』

ルクシオンが今後の計画を話そうとすると、俺の部屋に客が訪れた。

「もう、ジェイク殿下ったら」

「そう言うな。こんなことを言うのはお前にだけだ」

「またそんなことを言って」

「ふっ、こんな気持ちは初めてだ」

学園の人気のない中庭。

アーレちゃんとジェイク殿下が楽しそうに会話をしていた。

お淑やかなアーレちゃんに、ジェイク殿下は気を引こうと次々に会話のネタを提供している。

物陰に隠れた俺とフィンは、その様子を見て冷や汗を流していた。

「――嘘だろ」

まさか、ここまでジェイク殿下が本気になるとは想像もしていなかった。

途中で性別が判明して、正気に戻ると思っていた。

「おい、どうするんだよ! 攻略対象の男子が全滅したじゃないか!」

ジェイク――アーレちゃん狙い。

同級生――既に既婚者で学園にいない。

アーロン――アーレちゃんになった。

下級生――婚約者あり。

攻略対象の男子を、攻略対象の男子が狙うという展開に声も出ない。

俺はフィンを見る。

「まだ、オスカルがいたはずだ」

「オスカルはお前の姉妹が狙っているだろうが!」

「え? いや、あいつも美形だから、他の女子たちだって狙うだろ。というか、フィンリーたちは本気で狙っていたのか?」

あの二人が狙ったところで、オスカルには近付けないと考えていた。

だが、近くで様子を見ているフィンの方が、オスカルの恋愛事情に詳しかった。

「いや、フィンリーさんが狙っている男子を、他の女子が狙うわけがないだろ」

「何で?」

「お前の妹だからだよ!」

フィンが声を抑えつつ俺に「何で理解していないんだ!」と怒っている。

つまり、フィンリーは王国の英雄になってしまった俺の妹だ。

そんな相手の恋路を邪魔しないという、周りの配慮もあって順調にオスカルとの関係が進展中?

「あ――こっちも詰んだ」

「リアルにリセットボタンなんかねーんだぞ! どうするんだよ。本当にどうするんだよ!?」

慌てているフィンに俺は落ち着くように言うのだ。

「ま、まて、ミアちゃんの体調が良くなるイベントがあるはずだ。それを調べれば問題ない」

「わ、悪いが俺は知らないぞ。妹の話を聞いていた程度だ。詳しいことは知らない。皇帝の爺さんも知らないから、俺たちを王国に留学させたんだからな」

「任せろ。無駄にあの乙女ゲーをプレイしていたマリエがいる。あいつに聞けばすぐに分かる」

それを聞いて、フィンが胸をなで下ろすのだった。

「そ、そうか。よかった」

「え? 私はプレイしたけど、クリアはしていないわよ」

「は?」

マリエを呼びだした俺たちだが、そこで聞いたのはとんでもない話だった。

「いや、買うには買ったんだけど、最後までプレイしていないのよ。後半は動画でプレイ動画を見ただけ」

こいつ、途中で放り投げやがった。

フィンが慌てて確認する。

「な、なら、ミアに関する重要なイベントを覚えていませんか? どんな些細なことでもいいんです」

マリエが腕を組む。

「そう言われても、もう随分前の話だからね。え~と、確か――ダンジョンに入ると元気になる設定だったわね」

――何その設定?

フィンも思い出したようだ。

「そう、それです! ほ、他には?」

ミアちゃんのために必死になっているフィンのために、マリエに思い出すように言うのだ。

――懐から札束を出しながら、ね。

「ほら、これをやるから思い出せ」

「わ~い、兄貴大好き!」

札束を受け取り、すぐに自分の懐にしまい込むマリエを見て悲しくなった。

フィンも複雑な表情をしている。

「お前らの関係って酷いな」

「我が妹ながら、情けない限りだよ」

「いや、お前も酷いよ。妹に札束を出すとかおかしいだろ!」

今日はフィンがいるためか、マリエは普段は気にしないのに照れた顔をする。

猫をかぶるときの顔だった。

「ち、違うの。みんなの生活費を稼ぐのに大変なの」

正直、八人の生活費って凄いんだよね。

毎月、結構な金額が消えていくため、家計を管理するマリエは常にお金を求めている。

「そうでしたか。これは申し訳ない」

謝罪するフィンに、俺は教えてやるのだ。

「違うぞ。こいつは逆ハーレムを目指して、野郎五人を養わないといけなくなったから自業自得だぞ」

「何で言うのよ!」

マリエが俺に掴みかかってくるのを見て、フィンが両手で顔を隠してしまう。

「頼むからミアの重要な情報を教えてください」

すると、物陰からエリカが姿を見せてきた。

「私が知っています」