軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

酒を飲むなら飲まれてはいけない。飲んでないのに飲まれてる奴は……まあどうしようもない

その後、俺達は「まだ仕事がありますので」と告げるジョンをそのままにビルを出て帰路についた。すると事務所の床にもティアによって倒された強面の男が幾人か転がっていた……キャナルから金を引き出す材料を探していたんだろう……わけだが、まあ大した問題ではない。

「はぁ、はぁ……やっと終わった……」

「お疲れさん」

五人の男を建物の外に放り出すという結構な重労働を終えたキャナルに、俺は笑顔でコーヒーを差し出す。それを受け取ったキャナルは一瞬アチッと顔を歪めてから、フーフーと冷ましてそれを飲む。

「はぁ、落ち着いたわ……まったく何でアタシがこんなことを……」

「仕方ねーだろ。俺やティアじゃ目立ちすぎるしな」

いくら夜とはいえ、気絶した人間を何人も背負って運び出すというのは不審に過ぎる。俺やティアがやった場合、衛兵……この世界だと警官か? そういう職種の人物に声をかけられたらごまかしがきかないので、どうしてもキャナルにやってもらうしかなかったのだ。

「それに生きてたからこの程度の処置で済んだんだしな。偉いぞティア」

「フフーン! でしょ? 私だってちゃーんと空気を読むんだから!」

「貴方達の世界って……」

俺達の……というか、大抵の世界であれば押し込み強盗なんて首をはねても何の問題もない。が、どうやらここでは殺人はかなりリスクが高いらしいということを俺達は学んでいる。だからあの事務所でも殺さなかったしティアも強盗相手に不殺を貫き、結果としてこれですんだのだ。

「あー嫌だ嫌だ。やっぱり剣なんて下げてる文化レベルじゃ、人の命は軽いのね」

「ハッ! どんな世界だって下っ端の命なんざ軽いもんさ。文明が発達するとそれを隠すのが上手くなるってだけでな」

「むっ、嫌なこと言うわね」

キャナルが口を尖らせるが、それ以上は何も言わない。ここしばらく仕事を手伝うことで、俺にもこの世界の日陰の部分が少しだが見えてきている。

そう、結局は目をそらして見ない振りをしているだけで、誰だってそんなことには気づいているのだ。わかってたって自分を犠牲にしてまで他人の生活を良くしようなんて考えない。そんな「普通」を責めることができるのは、どこぞの聖人様だけだろう。

「……ねえ、エド。魂って本当にあると思う?」

「ん? さっきの薬の話か?」

にわかに訪れた沈黙。ぽつりと零された言葉に俺が問い返すと、キャナルがコクンと頷く。

「そう。今や魔導学万能の時代なんて言われてるけど、それでも魂の存在は確認されてないの。知識や記憶をデータベース化はできるし、それを書き込んだ核を移植することで擬似的な蘇生、あるいは転生はできるけど、本当の意味での死者蘇生は一度だって成功していない。その理由は魂の存在が証明できない……つまり魂を確固たる存在として扱えないからよ。

でも、S・E・E・Dは魂を拡張するって言う。ジョンの言ってることが本当なら確かに取り返しのつかないものなんだろうけど、それでも思うの。それは魂の存在を証明するものであり、ひいては本物の不老不死に繋がる凄い技術なんじゃないかって。

だからね、多分S・E・E・Dが広まってるのは、単純な魔薬としてだけじゃなく、その先にある可能性を直に感じたいって欲求があるからだと思うわ」

「なるほどなぁ……」

キャナルの語る持論に、俺もコーヒーを啜りながら頷く。確かに不老不死や死者蘇生はどの世界でも幾度となく求められたことのあるものだ。が、大抵の場合非道な実験に繋がる……どっちも誰かを殺さないと証明できない……ため、基本的には禁忌にされていることが多い。

「魂が存在するかって問いなら、俺はあると思うぜ。ただそれを人間がどうこうできるかって言われたら……何とも言えん。手で触れないのはわかるけど、俺は魔法使えねーしな」

「魂に干渉する魔法……精神に影響を与えるのとは違うのよね?」

「違うんじゃないかしら? ああいうのって結局人が普通に持っている感情を増幅したりしてるだけでしょ? 思考が魂だと言うなら疑似人格を搭載したゴーレムは生きてるってことになるけど、それだとそのゴーレムの魂はいつ何処で生まれたのかって話になるし」

「そうか、知性があるから魂ってわけじゃねーもんなぁ」

改めて考えてみると、例えば俺が回収している魔王の力は微妙に意思疎通ができたりできなかったりしてるわけだが、あれに魂があるかと言われると……どうなんだ? 大本の魂は俺なんだから、それぞれ別個の魂を持っているとは考えづらい気がするけど、でも独立した存在として活動しているわけでもあるし……むむむ?

「……やべーな。考えれば考えるほどわかんなくなってきた。って、そうか。ここまでわけがわかんねーから、そんな怪しい薬にも手を出したくなるってことか」

「かもね。この世界にはまだまだ秘密が沢山あって、そんな秘密を知りたくて……だからアタシは探偵になったの」

「……え? その流れだと学者とか魔術師になった方が良かったんじゃない?」

素朴なティアの疑問に、キャナルの表情がウッと渋くなる。

「それは……ほら、あれよ。そういうのは凄く専門知識がいるし、魔法とかあんまり得意じゃなかったし……

い、いいのよ! アタシは自分の足で秘密を解き明かすの! 人の股間に寄生して喋る黄金の獅子頭とか、世界を超えて羽ばたく巨大な竜とか、七つの夜の向こう側からやってくる災厄の王とか、そういうの!」

「へー」

「……何よ、未来の異世界からやってきた貴方達まで、アタシの夢を笑うわけ?」

「そんなつもりはねーけど、ただ……」

「ただ?」

「素行調査と猫探しじゃ、それは見つからねーだろうなーって」

「うるさいわね! わかってるわよ! でも現実的な収入との折り合いもつけなきゃ生きていけないの! あーもう、コーヒーじゃダメよ! お酒よお酒! お酒飲むわ!」

「おいおい、今から飲むのか?」

「いいのよ! 貴方達も付き合いなさいよね!」

呆れる俺を無視して、キャナルが調理場にある中身が冷える箱を開け、金属製の缶に入った酒を五つ抱えてやってくる。

「お酒だけ飲んだら胃を悪くしちゃうわよ?」

「しゃーねぇ、何かつまみでも作るか。ティアはキャナルの相手を頼む」

「りょーかい。ほらキャナル、付き合うから落ち着いて飲みましょ」

「うぅぅ、ティアちゃーん! エドが酷いの! アタシのこと馬鹿にしてー!」

「はいはい。エドは酷いわね。おつまみができたらひっぱたいてやればいいわ」

「うん、ひっぱたく! スパコーンってひっぱたいてやるわー!」

「……………………」

何とも理不尽な言葉を聞きつつ、俺は調理場へと向かって適当に食材を漁る。今飲み始めたところなのに既に酔っ払っているような言動なのは気にしてはいけない。そんなことを指摘してもスパコーンとひっぱたかれる回数が増えるだけなのだ。

「おいこらエドー! お前もこっち来て飲めー! あ、アタシひゃっこい豆腐が食べたい! 枝豆も!」

「私はじゃがいもの細揚げがいいわ! 塩もいいけど、マヨ? とかいうあの白いのも持ってきて!」

「はいはい。ちょっと待ってな」

二人のお嬢様のために、俺は選んだ食材の調理を始める。ボタンを押すだけで火がつくどころか即座に湯が沸いたり、何なら揚げ物だって数分でできてしまうのだから高度魔導文明というのは素晴らしい。俺の知ってる普通の宿で今の注文をされたら、割と本気で「ふざけんな!」と抗議の声をあげるところだ。

「お待たせしましたお嬢様方。ご注文の品でございます」

「わーい! ありがとうエド! むふー、カリホクね」

「追加でオムレツも焼いてきてー! あと鳥カラも!」

「おいキャナル、作るのはいいけど本当に全部食うんだろうな?」

「食べるわよ! たまにはいいのよ! 太ったらエステで体型整えてくるし! 今は大金持ちだから、そのくらいよゆーなのよ!」

「ったく……」

我が儘な家主に応え、俺は追加の料理を用意するため調理場に戻る。魂談義はいつの間にか他愛の無い雑談へと変わり、結局朝日が昇るまで俺達は酒を飲み明かすのだった。