軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

43.

ダーグが再び来たのは、集落の腹の症状が落ち着いた頃だった。

今度は一人ではなく、荷車を引いてきた。

荷車の上に、白い袋が積まれている。

「先生、これを受け取っていただけますか」

「何ですか」

「綿です。集落でたくさん作っています。こないだ助けていただいたお礼にと、長老が」

トーコが袋を開けた。

白くて柔らかい、綿の塊が入っていた。

「……鬼族の方々は、綿を栽培しているんですか」

「はい。各地を移動しながら、行く先々で綿を育てています。それを交易品として売りながら暮らしてきました。今はデッドエンド近辺にいるので、ここでも育てています」

「こんなにたくさん」

「まだあります。長老が、必要なだけ持っていっていいと言いまして」

ミリアが袋を覗き込んだ。

「すごく柔らかい……これ、高価なものじゃないですか」

「そうです。でも先生には、どうしてもお礼を。命に関わることを助けていただきましたから」

トーコは少し考えた。

「ありがとうございます。大切に使わせていただきます」

「お役に立てれば」

「十分すぎるほどです」

翌日、八宝斎のところへ行った。

綿の袋を持っていくと、八宝斎が目を輝かせた。

「なにこれ、いい綿じゃない」

「鬼族の方々からいただきました。これで、医療用ガーゼを作れないかと思って」

「ガーゼ……どんなやつ?」

トーコが説明した。

「薄く、均一に織った布です。吸収性が高くて、傷口に当てて止血に使います。今は消毒した布を使っているんですが、吸収が遅くて。ガーゼがあれば、手術のときも処置のときも、ずっと使いやすくなります」

「織り方は?」

「平織りで、目が粗め。通気性が大事です。隙間があった方が、吸収が早い」

「それなら……うちの工房に、小さい織り機があるよ。試してみる?」

「お願いできますか」

「もちろん。面白そうだし」

八宝斎が袋を手に取り、綿を少し引き出した。指でほぐしながら、感触を確かめる。

「品質がいいな。このくらいの細さに引けば、薄くて均一に織れると思う」

「どのくらいかかりますか」

「試作なら今日中に。量産するなら、まず型を決めてから。どんなサイズにする?」

「手術用は、大きめが必要です。処置用は小さめで何種類か」

「わかった。寸法教えて」

トーコが紙に書いた。八宝斎が受け取り、すぐに動き始めた。

夕方、試作品が届いた。

白くて薄い布が、何枚か畳まれていた。

トーコが手に取った。

柔らかかった。今まで使っていた消毒布より、ずっと均一で、軽い。

「……」

魔力視で構造を確認する。目が揃っている。均一に織られている。

水を含ませてみると、すぐに吸い込んだ。

「これです」

「いい感じ?」

「完璧です」

「やった。じゃあ量産の設計に入るね。綿の量があるなら、かなり作れる」

ミリアが、ガーゼを手に取って触っていた。

「先生、これが手術で使えるんですね」

「止血に使えます。今は布を当てているんですが、ガーゼの方が傷口に密着しやすいし、交換が簡単です」

「交換……使い捨てですか」

「できれば使い捨てが理想です。菌の問題があります。ただ、量があれば一度使ったものを滅菌して繰り返し使うこともできます」

「滅菌……シルフィの結界で?」

「結界と、煮沸です」

「なるほど」

ミリアが、少し間を置いた。

「先生、これ……手術以外にも使えますよね」

「どんな用途を考えていますか」

「あの……女性の生理のとき。今は布を当てているんですが、吸収が悪くて困っている方が多くて。これがあれば、ずっと使いやすいんじゃないかと」

トーコが頷いた。

「そうです。それも考えていました」

「先生も考えてたんですか」

「医療用と兼用の素材で作れます。吸収性が高いので、そちらにも使えます」

「……ありがとうございます。そういうことを、先生が考えてくれるのが嬉しいです」

「必要なことですから」

「でも、言いにくいことでもあって……先生は、そういうのをちゃんと必要なこととして扱ってくれる」

トーコが少し、ミリアを見た。

「困っている人がいれば、解決します。それだけです」

「それだけが、大事なんですよ」

ミリアが笑った。

翌日、八宝斎から量産の目処が立ったという連絡が来た。

ガルドが調合室から顔を出した。

「綿がそれだけあるなら、包帯も改良できる。今使っているのより、肌への当たりが良くなる」

「そうですね。お願いします」

「……あと、火傷の処置に当てる素材も。今のは少し粗くて」

「ガーゼで試してみましょう」

「なるほど」

ガルドが、少し考えた。

「鬼族の綿か。思いがけないところから来るもんだな」

「そうですね」

「助けたから、来た」

「そうです」

「……先生が人を選ばないから、こういうことが起きる」

「偶然です」

「偶然を必然にする人間というのがいる。先生はそういう人だ」

ガルドが、そそくさと調合室に戻っていった。

ミリアが「ガルドさん、かっこいいこと言った……」と小声で言った。

「聞こえています」

「わかってます」

シルフィが肩の上で「きゅ」と鳴いた。

魔力視に映るのは、穏やかな翠の光だ。

窓の外で、鬼族の荷車が街の方へ向かっていくのが見えた。

ダーグが手を振っていた。

トーコも、小さく手を上げた。