軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

90 撃退

『ァアアアアアア!』

ビリビリと大気を震わせる声を上げながら、がしゃどくろが進む。

もう湖を上がりそうな勢いだ。

私は筋斗雲の上に立ち、如意棒を振るってその相手をする。

「伸びろ、如意棒!」

ドガシャッ!

『ァアアアア!』

ゴォオ!

「くっ!」

巨体から繰り出されるフルスウィングは、かなり恐ろしい。

金剛不壊の肉体でどうにか耐えられるといっても限度がある。

あと、咄嗟にギフトをオフにしてきたけど。

聴覚は逆にオンのままの方が叫び声に耐性があるかもしれない。

基本、ギフトオンで身体能力系は耐久力ごと上昇しているのだ。

ギフト・フル状態で筋斗雲に乗り、がしゃどくろの周囲を飛び回る。

紙一重の回避なんて芸当はできない。私個人の戦闘センスの問題だ。

そのため、大きく躱して、大きく如意棒を振って打ち据える。

すべてが大雑把な動きで、こんなの武芸者相手には通じないだろうけど。

相手が巨大な妖怪なら、こんな大味の動きでも 十分(じゅうぶん) だ。

人間同士の技量の競い合いではなく、ジャイアント・キリング向けなのが私ね。

その点、明らかに武芸者だろう一人の人間、『黒風大王』ルドロフの相手をヴィルヘルムがするのは理に適っているだろう。

パワー部分で不安な面もあるが……。

ラグナ卿と対峙した時のように、私が押されてしまうはず。

「……!」

筋斗雲で大きく回避し、がしゃどくろの背後に回りながらヴィルヘルムたちの様子を見る。

持ち直して周囲を取り囲む騎士たちの中心で対峙する二人。

銀髪の騎士と、黒熊の獣人。

……ルドロフという男、どうにも武人気質があるみたいだ。

わざわざヴィルヘルムを指名しており、他の騎士たちの死者も見受けられない。

殺さないのが信条なのか。それとも『殺せない』のか。私のように。

黒風大王の 禁(・) 箍児は、紅孩児の 金(・) 箍児と同様、神仏に嵌められたものだ。

暴れ者の妖怪を懲らしめ、戒めるためのものであるのは『緊・禁・金』の輪は、すべて同じ。

ただ、共にあるのが三蔵法師か否か。また嵌められるのが孫悟空か否かの違いだろう。

であれば、殺生禁止ルールが適用されてもおかしくは。

「いえ」

私に課せられた殺生禁止のルールは検証した。

それは、単に殺すのがダメという単純な縛りではない。

おそらく『救うべき者を殺すこと』か『ギフトでなければ殺せない者を殺すこと』が発動条件。

そうでなければ別に殺生は禁じられていない。

ということは。

元々、強者であるラグナ卿や、あのルドロフという男の場合、滅多なことでは『キンコジ』は発動しないのでは?

私の場合、屈強な男性である二人に比べて、元がただの貴族令嬢にすぎないから、二人より厳しい条件ということだ。

ラグナ卿はギフト持ちだが、これまで彼本来の実力で倒せないほどの敵はいなかったか。

逆にあのルドロフという男は、それほどの相手を敵として生きてきたか。

あるいは、殺してはいけない誰かを殺してしまった過去があるか。

「っと、いけない、集中!」

考察はあと!

ヴィルヘルムの心配こそすれ、今の私に相手のことまで気遣っている余裕はない!

「身外身法!」

追加のミニ・カーマインを投入!

「「「ウキッ!」」」

本家・孫悟空は、対峙する妖怪大王の手下たち相手に分身を暴れさせていたけど。

私の場合は違う。

「命令! 今出てきた貴方たちは私のサポート!」

「「「ウキィ!」」」

身外身法を使っても、私自身の脳の容量を圧迫しているような感覚はない。

なら、見る目・考える頭・動く手足が増えた方がいい。

この子たちは私の周囲を飛び回るサポート役だ。

「伸びろ、如意棒ッ!」

がしゃどくろの後方から右肩に向けて如意棒を打ち据える。

固い手応えがあり、やはり一打で壊れる強度じゃない。

こういう場合に取れる手は二パターン!

「命令! 敵の右肩、右腕の接合部分を集中攻撃! 『七星剣』! 一人は、これを使って!」

「ウキッ!」

近くを飛んでいたミニ・カーマインの一体に七星剣を貸与する。

金角大王が使った、切れ味の鋭い宝剣。孫悟空が奪って使った宝の一つだ。

ミニたちに右肩を集中攻撃させる。

固すぎる相手は一点集中ダメージで崩すか。

あるいは、固い部分はどうしようもないので核となる部分を探すかだ。

飛び回りながら如意棒で打ち据え、とにかくがしゃどくろの侵攻を押しとどめる。

その間、がしゃどくろを注意深く観察する。

これまでに経験上、ギフトの火眼金睛であれば、相手が核たる弱点のようなものを隠しているなら見抜けるはず。

観察する時間か私の集中力、または観察し続けた情報量でそれを見抜ける確率が跳ね上がるはず。

できるかぎり得られる情報を多くするため、巨躯の周りを縦横無尽に飛び回って、上から背後から観察を続ける。

私の存在を無視することはもうできないようで、がしゃどくろは私を振り払おうとする。

目障りな存在とは認識されたみたいだけど、どうにも人間ほど知性があるとは思えない。

本能的、野性的に物事を判断している様子だ。

核として〝誰か〟がいるとか、そういうことはなさそうに思える。

完全な手動操縦で動いている感じでもない。

誰かの指令で動いているとすれば、こんなふうに、がむしゃらな侵攻や、闇雲な暴れ方はさせないだろう。

反面、人を相手にして騙すような手は通じなさそう。

呼風喚雨で霧を呼び寄せ、視界を奪っても意味がない感じだ。

核としてありがちな心臓部分には、とくに目立ったものはない。

骨の間は空洞であり、致命傷を与えられる箇所はなさそうだ。

また頭骨の内部も同様だ。目玉となる部分もまた空洞。

いったい、この構造のどこから叫び声を発しているのか。

ミニたちに右肩部分を集中攻撃させているが、すぐに崩せる様子じゃない。

「なら、今の私にできることはこうね!」

筋斗雲で斜め上方向へと距離を取る。そして如意棒を構えた。

「伸びろ、如意棒ッ!」

それは伸びた如意棒を突き刺すように。

振り回す攻撃ならば当てられるが効果が薄い。

突き刺すようなこの攻撃は、骨の体という特性を前にして意味がほぼない。

ズシャアア!

案の定、伸びた如意棒は、がしゃどくろの骨の体を貫通してしまう。

貫いたところで、元から空洞である部分を抜けただけであり、ダメージはないだろう。

だけど、これでいい!

「アチャアアアアア!」

私は如意棒を孫悟空の剛力によって、しっかり掴んだまま急降下する!

上空から急降下する動きに合わせて、貫かれて引っ掛かった骨を支点とする。

伸びた如意棒による〝テコの原理〟!

急降下し、剛力を振るう私は力点。貫かれて引っ掛かる骨は支点。

そして、伸びた如意棒の先が作用点!

この場合、支点と作用点に甚大なダメージが期待できる!

壊せなくても、その巨体を浮かび上がらせ、進行を妨げることができる!

『ァアアアア!』

私の動きに合わせ、湖から引き上げられるがしゃどくろの巨体。

バキバキバキ! という奇怪な音が鳴る。

効いている! 初めての有効打!

がしゃどくろの巨体構造にヒビが入り始めた。

「七十二変化! 釈迦如来像(・・・・・) !」

日本最古の仏像、飛鳥大仏、 釈迦如来坐像(しゃかにょらいざぞう) に変身!

日本の重要文化財、何するものぞ!

孫悟空のギフトでお釈迦様に変身、とびっきりの不遜である!

実際の重さを正確に知っているわけではないけれど、ギフトで調整!

形も 歪(いびつ) で、とくに腕回りが、かなりアレンジ状態。

とにかく重くなり、如意棒を掴んだまま、のしかかる!

バキバキバキバキッ!!

『ァアアアアア!』

バギィ!

折れた! 如意棒ではなく、がしゃどくろの骨が!

ボフン! と元に戻り、如意棒を元の長さに引き戻し、筋斗雲で再び空へ舞い上がる。

「「「ウキーッ!」」」

右肩に集中攻撃させているミニたちも歓声を上げる。

この光景を目撃している騎士たちもだ。見た目はもうド派手に過ぎる。

「ミニたち、どいて!」

「「「ウキッ!」」」

ミニたちが削ってくれた右肩に向けて渾身の力を込めて如意棒を振り下ろす!

「伸びろ、如意棒ッ!」

バギャア! と、音を立てて、がしゃどくろの右肩の骨を粉砕する!

よし! 集中攻撃は有効! 七星剣をミニに渡したのが効いたかも!

「次は左手を落とすわよ!」

「「「ウキーッ!」」」

大立ち回りを演じながら、がしゃどくろの部位破壊を重ねていく。

両手、胸骨と破壊していけば、かなり勢いが衰えていった。

だが、それでもどうにか湖を出るまでに進んでみせるがしゃどくろ。

「次は右足!」

「「「ウキィッ!」」」

ここまで来れば怖れることはない!

「アチャアアアア!」

『ァアアアアアア!』

湖から這い上がり、立ち上がろうとする巨体の足を、如意棒で打ち払いながら高速機動。

単純でありながら、力強く攻撃すれば、なんともたやすく転ばせることができる。

『ァアアアアアア……!』

叫び声を上げながら、地面に引き倒されるがしゃどくろ。

殺せない縛りだけれど、ここまで来ればどうやって倒せるものなのか。

頭部の破壊で止まるの?

それともキメラと違って生物判定じゃなさそうだからセーフ?

とにかく動きは止められたけど。

その時。ザワリ、と。孫悟空の感覚が嫌な気配を察知した。

「── 三昧真風(・・・・) !」

ゴウッと凄まじい 黄風(・・) が吹き荒れ、私とミニたちに襲いかかる。

「「「ウキー!?」」」

「きゃあ!?」

吹っ飛ばされるミニたち、そして私。

咄嗟に筋斗雲で大きく後退し、眼を庇いながら、どうにか視界を閉ざす黄風から逃れた。

上空から状況を再度、見渡す。

『 三昧真風(さんまいしんぷう) 』の呪文とともに発生した凄まじい風。

これは。

「……アレまで躱したのか」

そう呟く声を孫悟空の聴覚が拾う。

〝先生〟や『黒風大王』ルドロフとともにいた、もう一人の男。

存在感の薄い風使い、マルガルフ。

「『 黄風大王(こうふうだいおう) 』、ね」

三昧真風を使う西遊記の登場人物、黄風大王。

風使いの時点で怪しんでいたけれど……やっぱりそういうこと?

別に『黒風大王』と『黄風大王』って原典でコンビじゃないからね?

金角・銀角と違って! 別々の敵だから! 同派閥でもないし、同勢力でもない!

名前が似ているだけよ! それがコンビというか、同じ陣営!

また、そこにいたのは『黄風大王』マルガルフだけではなかった。

〝先生〟と呼ばれた丸形眼鏡で、ピンク髪の男もそこにいる。

「アレは必ず手に入れたい。いいね? マルガルフ」

「……はい、先生」

どうやら、完全にターゲッティングされたみたい。

そして。

〝先生〟に対して、やはりザワザワと孫悟空が反応している気がした。