軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

76 協力

流石に表立ってアイゼンハルトの屋敷に泊まるのは、はばかられる。

ヴィルヘルムが手配してくれた貴族向けの宿に泊まらせてもらう。

場所は領都だ。実は私、VIP待遇である。なんと驚き、公爵令嬢なので。

誰が孫悟空ギフトこそ本体すぎて公爵令嬢であることを忘れていた、だ。

誰もそんなことを言っていない? それはそう。

「カーマイン嬢」

「はい、ヴィル様」

二人きりにはならないように配慮されつつ、ヴィルヘルムは宿まで私を送ってくれる。

「貴方は強い」

「……はい?」

「それを俺は誰よりも知っているだろう。だが、貴方一人では不安だということも、俺は知っているつもりだ」

まぁ。ヴィルヘルムは緊箍児の発動を見ているものね。

キメラやラグナ卿といった強敵を前にした時は苦戦もする。

本家・孫悟空は最強かもしれないが、ギフト運用者にすぎない私はそうじゃない。

「迂闊に貴方に話してしまった俺が言うことじゃないかもしれないが……危険なことはしないでほしい」

「ヴィル様……」

心配してくれている。それが伝わってきた。

なんだか、むずがゆい気持ちになる。悪くない気分だ。

「……だが」

「はい?」

「俺は、きっと貴方のことを深く知らない。それに……深く貴方に干渉できる関係でもない。だから貴方のすることを止められない」

ヴィルヘルムは私を『止められない』と思っているのか。

止める権利がない、と事実を受け止めているらしい。

いやぁ、うん。ちょっとねぇ。

だって『 隠身法(おんしんほう) 』を使って透明になって潜入すれば余裕じゃない?

なんて思ってしまうのだ。

ちなみに孫悟空が隠身法を使ったのは、暴れてごねて『斉天大聖』の名を冠する役職をわざわざ新設していただき、天界に舞い戻ったあと。

大した仕事もなく遊び呆けているだけならば、と桃の管理を任された役職・斉天大聖。

そこで管理すべき貴重な蟠桃をたらふく盗み食らって、果ては逃げた先で見つけた貴重な仙丹まで盗み食いして『これはまずい、やらかした』と我に返って天界から逃げ出した時に使った法術だ。

猿め、本当にこやつは、と。

あまりにも使用したエピソードがひどすぎる術である。

三蔵法師の弟子になってからの潜入作戦は、わりと小さな虫に変じるのが主流。

でも私は虫に変身とか、したくないので隠身法の方を使うのだ。

「止められないのなら、せめて協力させてもらえないか?」

「あら?」

ここに来て意外な申し出。

「カーマイン嬢を動かしたいわけではない。ただ、もし俺に隠れて……という言い方もどうかと思うけれど……とにかく一人で動くつもりなら、協力させてほしいんだ。もちろん、今回の件で何もする気はないと言うのならそれでもいい。だが、動くなら二人で。俺と協力して、だ。そうしてくれれば少なくとも以前のように貴方が気を失った時にフォローができる」

「ヴィル様……」

ヴィルヘルムには私があの時、なぜ気を失ったのかまで伝えていない。

流石にこれでもかというほどの弱点だから、おいそれと話せなかった。

でも彼が信用できないなんてことはない。

むしろ現状、一番信用できそうな人物といっても過言ではないだろう。

私のギフトは万能でいろいろとできるが……フォローがなくていいとは言い難い。

実際、本家・孫悟空だって猪八戒や沙悟浄の手を借りることもあるし、お釈迦様たち神仏に助けを求めることなんてよくあるのだ。

本家がそうならば、私だってそうした方がいいに決まっている。

「……わかりました。では、改めて話し合いましょう、ヴィル様」

「ああ。ということは、やっぱり一人で動く気だったんだね?」

「それは……まぁ、そのぉ」

「はは、貴方のことが少しだけわかった気がする」

いやぁ、これは私の中の猿めが。猿めが悪いのです。孫悟空の兄貴の仕業です。

お師匠様、聞いてください、悟空の兄貴がぁ……などと八戒ムーブしてみる。

とにかく、改めてヴィルヘルムと、問題解決のための前向きな作戦を立てることになった。

今すぐ動くのではなく、現在の情報を把握し、私に何ができるか、ヴィルヘルムはどうサポートするのかを詰めることに。

一旦、宿に泊まり、翌日になってから改めて屋敷を訪問。

使用人たちには下がってもらい、屋敷で机を挟んで頭を突き合わせることに。

「まず、俺があやしいと見ている商会の名は、レギデーシュ商会。俺が商談した相手は商会長であるゴロッソ・レギデーシュだ。彼の護衛で、只者ではない気配をしていた男は確かルドロフと呼ばれていたな」

ゴロッソとルドロフねぇ。

とくに名前でピンと来るものはない。

「あくまで俺の勘にすぎず、なんの証拠もないのが現状。ただ状況的に怪しいと感じてしまった、それだけの話だ」

「支援物資をたんまり蓄えていた。凄腕の護衛を雇っている。それだけですものね」

「ああ」

それは別に責められる筋合いがないことだ。

災害に備えた備蓄をしていただけかもしれないし、護衛を雇う権利だってあるだろう。

「実際に話してみて、あやしい素振りでも?」

「そうだな……。こう言ってはなんだが、俺はアイゼンハルト家の小侯爵だろう?」

「ええ」

「ゴロッソからしてみれば、商会が拠点を構えている地の領主の後継。もう少し、敬意を払う雰囲気があってもいい、気がしたな」

「態度が悪かったんですか?」

「軽んじられているようには感じた。だが、明確に尻尾を掴ませたとは言い難い。俺のプライドが高いだけだと言われれば、何も返せない程度。ただ違和感を覚えた」

どれもクロだと断ずるには値しない。

本当にヴィルヘルムの勘が引っ掛かった、というところか。

あとは市井に妙な噂が流れていることもある。

でも噂では罪を問えないだろうし、ヴィルヘルムは噂を真に受けるタイプではなさそう。

「ヴィル様はなぜ、それだけの情報で、そのようにあやしく感じたのでしょう? ただの勘と言われればそれまでかもしれませんが。他に理由が?」

「……ああ。これはカーマイン嬢だから言えることだが、魔獣災害は、おそらく人為的に起こされたことだろう。それはあの黒水晶を見た俺たちなら共有できると思う」

「ええ、それはわかります」

「人為的にそうしたなら、その先も見据えていたはずだ。災害が起きるとわかっていたからこそ、ああいった支援物資を貯め込んでいた。そんなふうに思ってしまった」

その手の決め打ち推理は私がよくやることだ。ヴィルヘルムを責められまい。

「やっぱり調べる必要はあると思いますね」

「そうだね。でも、それはまず表向きの調査となる」

当然そうなるだろう。ただ私のギフトなら、さくっと潜入調査ができてしまう。

だから、つい楽をしたくなっていたわけだ。

興味もある。この先の展開に関わってきそうな予感がした。

推定ヒーローの領地問題だし、魔獣災害にも関わってきそうだし。

私が介入しなかった場合を考えると、ねぇ。

「そういえばヴィル様」

「ん?」

「ここに来る途中、私、賊を捕まえましたの」

「……賊?」

「ええ、賊。どうやら物資運搬の商団を狙っていた様子なのでギフトを使って、えいやこらと」

「……カーマイン嬢」

「はい」

「危険だよ?」

「……はい」

「貴方は貴族令嬢で、公爵令嬢で、しかも一人で行動していたね?」

「…………はい」

「それがなぜ『賊を捕まえた』という話になるのかな?」

「つい?」

「つい、ではないよね。危険だからね? 他でもない君が」

「……はい、それは、はい」

としか言えないわぁ。良い子の貴族令嬢は絶対に真似しちゃダメよ?

「そんな君の行動力に助けられた俺が言えたことじゃないかもしれないが……」

「いえいえ、ありがとうございます。心配していただけて嬉しいですから!」

「そうかい?」

「はい!」

とりあえず話を戻して。

「その賊は、市井の噂の種になっている連中かもしれないね」

「ええ。ヴィル様の話と照らし合わせるとそうなるかと」

「となると手掛かりか……」

「ええ。街の衛兵に引き渡しています。まだ捕まったままかと」

「わかった。問い合わせてみよう。何か聞けるかもしれない」

それが正攻法といったところね。

ただ、ヴィルヘルムが心配しているのは私の単独行動だ。手掛かりは問題を解決しない。

「カーマイン嬢、君が隠したいことなのは承知の上で聞くが……君はいったい何ができる?」

ヴィルヘルムは核心を問う。

協力関係になるのなら、打ち明けるべきことだ。またリスクについても。

「何がと問われると、本当にいろいろとあるので説明が難しいところです。ただヴィル様に見せたことのある能力をいくつか共有、します」

「……無理には聞かないけれど。いや、聞かせてほしい。他言はしないと約束する。俺にだけ、教えてくれるかい?」

ヴィルヘルムは、私の話を聞くという責任を負う覚悟を見せた。

興味本位で聞くのではないと、そういう信念を感じられる。

「私が使える力のうちのいくつかですが……」

透明になれる『隠身法』。

戦闘能力としてシンプルな情報の『金剛不壊』『剛力』『棒術』『如意棒』『七星剣』。

雲に乗って一人で移動できる『筋斗雲』。

髪の色を変えたり、姿をころりと変化させたりできる『七十二変化』。

赤髪の妖精、もといミニ・カーマインを呼び出して使役する『身外身法』。

炎を避けられる『避火訣』。

遠くを視たり、怪しい何かを見抜けたりする『火眼金睛』。

相手を金縛りにできる『定身法』。

といった情報を伝えた。すでに情報過多である。

これで終わりではなく、まだまだあるわけだが、とりあえずこれだけ。

「…………」

聞いたヴィルヘルムは眉間を指で挟んで天井を仰ぎ見るような姿勢を取った。

ミーム化した『なんだ今の?』のポーズである。

「規格外すぎるな……」

「ギフトは万能なんですが、それを使う私が足を引っ張ることもありますので……」

「そういう問題だろうか……?」

流石のヴィルヘルムも、私の能力を受け入れ、理解して飲み込むのは苦労するらしい。

「カーマイン嬢が一人で動きたがる理由がわかった気がするよ……」

「えへへ」

誰だって孫悟空の力を振るえたら、一人で動いた方が早くない? と思っちゃうわよね。

大規模戦闘になれば八戒や悟浄を頼るとしてもよ。

それ以外なら、だいたいアイツ一人でいいんじゃないかな、である。

むしろ孫悟空が自由に動き回っている間、お師匠様を守ってもらうのが仲間の役割だ。

「そして、これが最も私のギフトにとっての重要なことですが」

「まだあるのかい?」

「はい」

困り顔のヴィルヘルムは、再びキリッと表情を正し、私を見つめる。

「私は殺生ができません。人殺しだけでなく、キメラを殺すこともダメでした。ダメというのはできないのではなく。もし私が生き物を殺してしまったら、この頭の金の輪が締めつけられるんです」

私は変化で隠していた頭の緊箍児を見せた。

「その冠は、あの時の……」

「これは冠ではなく輪です。頭を締めつける、戒めの輪」

ヴィルヘルムの目が私の頭に向かい、そのあと目を合わせる。

「ヴィル様、行動を起こす前に。私の能力検証に付き合っていただけませんか? 『殺すのがダメ』というルールが、どこまでのものか、はっきりとさせておきたいのです」