軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

116 フラグ

縮地ポイントの山道から街へ向かう。

「ところでラグナ卿。これからラウゼン家へ向かって、そこでラウゼン男爵令嬢と話をしてもらうのだけど」

「ああ」

「彼女、エミリア嬢と話したことはある? できれば詳しく思い出してほしいのだけど」

「エミリア・ラウゼン男爵令嬢とか? そうだな」

そうして考え込むということは普段からの知り合いではないのだ。

私の推論ではエミリア嬢とラグナ卿は、つながりがありそうと考えている。

でも、そのイベントごと私がぶっ潰した。

これは、ぶち壊したフラグを立て直す責任とかあるかしら?

二人が出会った時にどんな反応が引き出されるか、ちょっとワクワク。

「五年ほど前にヴォルテール家のパーティーに招待されていて、挨拶を交わした記憶があるな」

「え?」

ラグナ卿とエミリア嬢、知り合い?

「カーマインに言われて思い出してみたが、その時にラウゼン嬢が絡まれていたはずだ」

「絡まれていた?」

「ああ。ラウゼン嬢は当時、十歳を過ぎたあたりか? どこぞの子爵家の息子あたりにな」

「……もしや、困っている彼女をラグナ卿が助けたとか」

「助けたというほどではないが、そいつを追い払った記憶はある。俺と彼女は、その程度の関わりしかないと思うぞ」

いや、ヒロインイベントー!

十歳くらいのエミリア嬢が、嫌な思いをしているところを彼に助けられているぅ!

ええ? しかも、十六歳になったエミリア嬢が誘拐されていたところを、そんなラグナ卿が救出するはずだったの?

それは運命じゃない! むしろ本命?

エミリア嬢からすればフラグ待ったなし!

え? 私、そのフラグを叩き折ったってこと?

なんてこったい。

おお、お許しください、お釈迦様。大慈をたれたまい!

「そ、それはぁ……」

「どうした、カーマイン」

冷や汗が私の背中を伝う。

これ、悪い方向に他人の運命を変えちゃってない?

エミリア嬢の恋の行方が! そういうのを壊す趣味はないのよ。

いえ、別に本人たちの意見を聞いたわけじゃないのだけれど!

「い、いえ。ラグナ卿は婚約者もおられない様子ですから? お好みの女性などは、と思いまして」

「なぜ、突然にかしこまる」

いえいえ、アッシのような下賤な者は馬に蹴られてなんとやらですぜ、アニキ。

「俺の好みか。気にするのか、お前が?」

「それはまぁ、私の世代では大問題だから?」

「まぁ、そうだな」

ギフトの影響か、過去の聖女たちの働きのおかげか。

はたまた乙女ゲー的な世界観の影響か。

グラムザルト王国は、そこまで女性の権利が弱いということもない。

とはいえ、結婚相手の男性が持つ爵位や資産などが重要なのは、いつの時代、どこの国でも女性が気にすることではある。

現代日本を前世に持つ私は、ちょっと当人同士の気持ちが優先なきらいがあるけれど。

「だが」

そこでラグナ卿は私の真横に立って歩きながら、こちらを見つめてくる。ん?

「俺の好みは、 強(し) いて言えば、 お前だ(・・・) 、カーマイン」

「は……?」

何を言って。

私は思わず見つめ返すが、冗談の気配を感じない。

かといって真剣な告白でもなく。ただ『嘘はついていない』。そんな雰囲気。

「えっ」

ワイルド系の美形の異性が、背が高い視点から見つめてくる。

悪たれコンビの悪友感を出してからの、不意打ちイケメンムーブ。

この不意打ちに、私は反応せざるをえなかった。

「……!」

「ははは! いいな! 俺も少しはカーマインに男として見られているようだ!」

豪快に笑い飛ばすラグナ卿。

告白したあとに恥ずかしがるとか、そういうムーブはないらしい。

気持ちを伝える時もストレート。

引っ張ることはなく、堂々と正面からぶつかるタイプ。

いやいや!

「何を急に言い出すのよ」

「カーマインが言い出したのだろうが。俺の好みの女性がどうのと」

「それは……そうだけど」

確かに話を振ったのは私だけれど、まさか、こっちに火の玉ストレートが飛んでくるとは思わないじゃない。

「そ、そういう割には、かなりクールなアプローチじゃなくて?」

「はは。カーマイン、俺はお前を気に入っているがな。それは前回、殺し合うように打ち合ったうえで、お前を認めたからこそだ。だが、普通に考えて俺とお前の縁は、あの時のものだけ。こうしてお前と会って言葉を交わすのは、まだ二度目だぞ」

「そういえばそうだったわね……」

なんかラグナ卿の印象が強すぎて、もっと深く知っているような錯覚をしていたわ。

「だから、縁がつながれるならば、これからだろう」

「…………」

けっこう本気なのだろうか。

ラグナ卿からすれば、紅孩児のギフトと渡り合える相手なんて、そうはいなかっただろう。

『カ〇ロットを倒すのは、この俺だ』的なライバル心だったりしない?

ちなみにこの呼び名は単に私の名前、カーマイン・マロットを略したものであって、特定の作品とはなんの関係もございません。

「カーマインを気に入っている。そう感じている。今、俺から言えるのはこれだけということだ」

「……そう、わかったわ」

どこまでもまっすぐに。

これがラグナ・ヴォルテールという人間の感性なのだろう。

信用に足る相手だ。

なにせ、こちらを騙すような気配がない。

「以前にもお会いしたことがありますが、改めて挨拶致します。ヴォルテール辺境伯令息。私は、エミリア・ラウゼンと申します。以後、お見知りおきを」

「おう! よろしくな、ラウゼン嬢!」

改めて。ラウゼン家にラグナ卿を連れていき、二人を引き合わせた。

普通に挨拶を交わし合う二人に、私だけがオロオロと見守ることになる。

フラグは? フラグはどこに?

エミリア嬢が情熱的にラグナ卿を見つめるシーンとかは?

ラグナ卿は鈍感そうだから何もなくても不思議じゃないけど。

いや、鈍感に見えて気を配れるタイプな気もするわね……。

ラグナ卿が言ったように、私はまだ彼とはそんなに会ったことがないのだ。

互いに気を許し合っているのは、それこそ一度戦ったから。

今はきっと戦友のような感情なのだろう。

私は、ラグナ・ヴォルテールのことをまだ知らない。

「……ちょっとゲーム的に考えすぎなのよね」

フィナさんと結ばれるかもとか、エミリア嬢とフラグが立っているとか。

もっと現実に生きている人間を見ないと。

でも、この推論でヴィルヘルム案件を未然に防いだこともある。

今、フィナさんがそばにいないけれど、彼女のそばにいれば、より強くそう感じることも。

未来視などはできないものの、これから起きる運命に対する予測としては大きく外していない気もしている……。

この推論を完全に捨て去るのは、まだ早いはずだ。

もしかしたら、私が頭で組み立てている推論とは別に、孫悟空の超感覚が私にいろいろな予感をさせてくれているのかもしれないし。

あながち、あり得ないとは言い切れないのよねぇ、孫悟空の感覚。

ラグナ卿も、どうやら匂いという形でいろいろと見破っている節があるのだし。

『あの方からも、強い何かを……感じます』

「アンリエッタさん」

幽霊メイドのアンリエッタさん。推定『 烏鶏国王(うけいこくおう) 』のギフテッド。

彼女がその感覚から私の助力を求めたように。

やはり、ラグナ卿にも感じるものはあるようだ。

すると、やっぱり本来は彼が解決するべき事件なのかもしれない。

あとは、できればフィナさんも連れてきたいところだが……。

虐待児童がいるなら医者と聖女の両方を揃えておくのがいい。

浄化のギフトが最適解になるかもしれないし。

「さて、カーマイン。さっそく話を進めようか?」

こうして異色のメンバーでベラゴート伯爵家の問題に取り組むことになった。