軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

115 ラグナを連れて

「カーマイン、 龍だぞ(・・・) ?」

「…………」

ラグナ卿が、成人した才気溢れる青年が、子供のように目を輝かせている!

そうかぁ、龍にときめいちゃうかぁ。

少年心を忘れないタイプか。

ドラゴンが巻き付いた剣のキーホルダーをプレゼントしたら宝石より喜びそう。

「……でも、目撃されたのは〝西〟ですか?」

「そうだな。国境の向こうでの目撃例が多数だ。だが龍は空を飛んでいる。そのせいか、こちらでも目撃されているのだ」

「それで、この場で警戒をしていたから私が引っ掛かったと?」

「空に意識を向けていたのは確かだが、姿を隠しているとは思っていないさ。だが、おそらくカーマインが近付いてきたからだろう。ピリピリとしたものは感じていたな。それが龍かと思い、出てきたが、領地の西側ではなく、こちら側だった」

相変わらず野性の勘がすさまじい。

これ、紅孩児のギフトと関係ない、個人のセンスでは?

紅孩児クラスになると『孫悟空』を意識しているのか。

ラグナ卿がギフトの性能を引き出したことで噛み合った結果なのか。

「……はぁ。今すぐに襲われそうではないのね?」

「まだ目撃例があるだけだな。縄張りを張ろうとしているのか。それとも 番(つがい) でも捜しているのか、この地方を飛んでいる理由はまだはっきりとしていない」

「どう対応するつもりです?」

「さて、なにせ前例がない。投石や弓の飛距離を伸ばせないかと試行錯誤しているところだ。もし、あの龍がヴォルテールを襲ってくるなら、どう考えても俺が出るよりないな」

「……そう」

紅孩児ならば。なんとかできなくもないはずだ。

だけど。

「カーマイン、その時はお前が救援に来てくれるか?」

「え?」

「龍が相手だからな。俺一人でどうとでもできると言ってやりたいところだが、人事を尽くしておかねばならん」

「……私の助力が、貴方の助けになるなら構わないわ。私も同じように貴方の手を借りたいと思っていたのだから」

「ああ、だからこれで俺たちの協定は成立だ」

ラグナ卿が手を差し伸べてくる。

握手を求めているのだ。流儀がいちいち男らしいのよね。

彼からすると、完全に『対等な存在』のように見ているのか。

女だろうと胸を張って戦友になれそうな気風だ。

……フィナさんと会ったらラグナ卿はどうなるのかしら?

ヴィルヘルムが絡む女性は、おそらくメリッサ嬢だ。

だからフィナさんとどうにかなるようには思わない。

でも、ラグナ卿はどうなんだろう?

フィナさんと会って、このワイルドなタフガイが骨抜きにされるの?

それとも逆にフィナさんがバルクアップに目覚めて、脳筋聖女になるのか。

科学反応がすごそう。

手を差し出すと力強く握られた。豪快な笑顔を浮かべるラグナ卿のアニキ。

だから完全に『男性の戦友』に向けた態度なのよねぇ!

私は公爵令嬢であり、淑女なのだけど?

ちょっと今、町娘スウェンちゃんスタイルなだけで。

「その龍なのだけれど。戦いになる可能性は私も否定はしないわ。でも、可能な限り、生け捕りというか、本格的に討伐になる場合は私に参戦させてほしい」

「何かあるのか?」

「説明が難しいのだけれど。私のギフトの〝仲間〟な可能性があるわ。もちろん、まったくの人違い…… 龍違い(・・・) かもしれないけれど」

「ほう? ギフトの仲間とは、また。謎かけか?」

「違うわよ」

西遊記を説明するのに、私が転生者であることを触れる必要はあるだろうか。

いや、ううん。

説明したところで、というか。

そもそも漠然と〝原典〟と解釈している西遊記事象だけれど。

西遊記の解釈は、私のいた時代では、もう夥しい数があるものだ。

二十数年前に出版されたような、大手から出た本も、それが作られた時点で三百は別の解釈が確認されたという。

派生作品まで含めたら、追い切れるものではない。

つまり、西遊記に絞ったとしても確かな知識とは言い切れない。

私個人が、私の知識をもとに立ち回る分にはいいだろう。

でも、それに他人を巻き込むとなると情報源が不確かすぎる。

それならむしろ、今世、この世界で生きる人間の、リアルな感情・価値観で物事を判断してもらった方が健全な気がするわ。

それに『虎先鋒の男』が原典では上司の『黄風大王』を従えていたりする。

能力の説明ならば、まぁ、そこまでハズレはなさそうだが……。

目的や人物像の割り出しに当てになるかと問われると微妙だ。

「ギフトが私に教えてくれるのよ」

「そうか」

うん。なんだろう、この厨二病感がすごい言い回しは。

でも実際、八戒の時は教えてくれたようなものだったけど。

近くにいけば玉龍か否かはわかるかな? 見に行くのもアリか。

「…………」

「カーマイン、気になることを言った俺も悪いが。優先順位をはっきりさせるといい」

「……そうね」

玉龍かもしれない。ならば他ならない私が責任をもって確認したい。

でも猪八戒の前例もあるから、玉龍はラスボス枠かもしれない。

すると今ここで、その龍の正体を確かめに行くのはバッドエンドフラグでは?

RPGあるある、今のレベルで行ってはいけないところに行って敵が強すぎて全滅パターン。

そういうトラップの気配がしてならない。

せめて『聖女』フィナさんを同行させておくべきでは?

前回は、そのせいで大変な苦労をヴィルヘルムに背負わせたのかもしれないし。

「……龍についてはラグナ卿が行くべき、動くべき、と思ったときに便乗させてもらおうかしら」

「そうか! なにせ龍だからな。興味本位で近寄るわけにはいくまいが……カーマインと俺が手を組んでなら、確認ぐらいはしてもいいだろう!」

孫悟空と紅孩児だからねぇ。

最強コンビというより悪たれコンビな気がしなくもない。

問題児二人、ただし最強。

さて、そんな最強の二人で力を合わせて、ひとまずは目先の問題を片付けていこう。

「まず、どうするかだが……その前に、カーマイン」

「何かしら」

「その『縮地』とやらを、ぜひ体験させてくれ」

「…………」

合理的な高位貴族家長男としての判断。

そうとも思えるが、しかし、どう考えても『ワクワク』が勝っている。

いや、私だって他人にできると言われたら、ぜひにと願うけど。瞬間移動だもの。

オラ、ワクワクすっぞ!

「まぁ、判断材料として計算に入れておかないといけないものね」

「ああ!」

完全に『面白いもの』に吸い寄せられている俺様系ヒーロー、ワンコちゃんスタイルだ。

この人、普通の女性と結婚できるのかしら?

いや、こういう人にかぎって、至って素朴な、真面目な女性と良縁が結ばれたりするのだ。

むしろ、そういう女性はきちんと溺愛されそう。

「では、如意棒」

縮地の術は、別に如意棒を必要としない。

ただ地脈を探る際に、なんとなく如意棒で地面を突いていた方が感じやすいのだ。

ギフトなんて説明書のないもの、感覚が大事だと思っている。

というわけでヴォルテール領の地脈を探らせてもらう。

相変わらず、この地脈も雰囲気で捉えているのだけれど。

「この近くにはなさそう」

「ほう? どういう能力だ?」

「ええと、私もわかっているとは言い難いのだけど」

縮地の術で何が必要かをラグナ卿に伝えておく。

「地脈か……」

そういう概念、この国にもあるんだろうか。

どこの世界でもありそうとも思える。

とりわけギフトや魔法などのファンタジー要素のある世界観では、とくに。

「人間の尺度では測れないだろうが、領地を知る者として当たりはつけられそうだな」

「そうなの?」

「要するに自然の力が集まりそうなところ、ということだろう?」

「ええ」

「なら、山や川など、街を無視した自然が元気なところを辿るのが筋だな」

まぁ、私もそうかな、と思う。

というか、そう思っている私の解釈だから、ラグナ卿もそう受け取るのだろう。

ラグナ卿が地図で示した場所は、今いる場所からは少し離れた場所だった。

「では、俺もカーマインに倣って飛ぶとしよう!」

「え」

「 火尖槍(かせんそう) !」

ラグナ卿は、突然に火炎を纏った黒槍を出したかと思うと大地に突き立てる。

「 五行車(ごぎょうしゃ) !」

すると大地が盛り上がり、馬のない馬車、否。〝戦車〟のようなものが現れる。

孫悟空にとっての筋斗雲のようなもの。より攻撃的で戦闘に特化したそれ。

本来は紅孩児の配下たちが押して登場する。

だが、そのあと孫悟空と打ち合う中で、ともに空に駆け上がったもの。

火尖槍が放つ炎をエネルギーにして動く乗り物だ。

はたして、それが西遊記に出てきたものと同一なのかは曖昧。

西遊記の解釈は本当に多種多様あるから。

日本だと玉龍の存在自体がマイナーなのもそうよね。

孫悟空と立ち回れる時点で、西遊記に出てくる敵キャラたちは、だいたいが空を飛べる。

雲に乗るのが基本だと思うけど。

実際の紅孩児がどうかはともかく、ギフト『 聖嬰大王紅孩児(せいえいだいおうこうがいじ) 』の場合は、こうして飛ぶのだろう。

「はっはっは!」

火炎を纏いながら、本当に空を駆け始める五行車に乗るラグナ卿。

いやぁ、豪快にして、ド派手。見栄えも強さも超ド級。

孫悟空枠が私という弱めの器のせいで、おそらく最強。アアラライ!

ギフトと人間の器が噛み合っているのを感じるわ。

ヴィルヘルムが素のままで猪八戒のギフトを得ていたら、このレベルになっていたのだろう。

そう考えると『虎先鋒の男』の狙いは正確だったのでしょうね。

「カーマイン! お前もついて来い!」

「はいはい、筋斗雲!」

ラグナ卿のことだ。領地に戻ってからも人目を気にせずに乗り回していたのだろう。

もはや、この地では隠身法で隠すこともないか。

孫悟空と紅孩児のギフテッドが並び飛ぶ。

いやぁ、ラグナ卿といると自然と目立つ方向にいくわね!

そうして、見立て通りの場所に縮地ポイントを見つけ、ワクワクすっぞ状態のラグナ卿の手を取って私は縮地の術を使う。

あっという間にラウゼン領へと舞い戻ることができたのだった。