軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三話 トワレ・シュクセの真実

結論から言おう。

意識を取り戻した数時間後、リベルタは、荷物と共に寮を追い出されていた。

無理矢理寮に住み込んでいた彼女に、拒否権はないのだ。

次の日には、聖女が寮にやってくる。

本当なら、柱にしがみついてでも寮から出るつもりはなかった。

トワレと過ごせる時間も、あまり残されていない。

だからリベルタは、部屋の中の物をドアと窓に積み上げバリケードを作ろうとした。

トワレとの時間を奪われるくらいなら、全てを壊しても良いとすら思った。

今までにないほど荒れに荒れているリベルタ。

その様子を横で見ていたトワレが、実に目の覚めるような素敵な代替案を出してくれた。

「2人で、寮を出れば良いんじゃない?」

「え?でも、それじゃ、トワレの住むところが……」

「実は、リベルタと共同開発したシャンプー、リンス、その他諸々が売れまくったおかげで、なんと、貴族街の端っこにお店を出すことに成功したの!」

リベルタを驚かそうと、開店までは極秘にするつもりだったらしい。

「店舗の2階には、一応、居住スペースがあって、卒業後は私がそこに住み込んで店を経営する予定だったの」

リベルタのお陰で、高位貴族とも人脈を築いたトワレ。

その情報網と顔の広さを最大限に生かす為に決めた立地らしい。

魔石を超高速で運ぶ手段を編み出したトワレの父親は、貴族になったと言えども、一代限りの男爵。

一人娘であるトワレが考え出した、

『実店舗を構えた貴族の御用聞』

という仕事に将来性を感じて援助してくれた。

なにせ、リベルタとトワレが次々と開発したコスメは、既に、『リベトワ』という名前でブランドを確立している。

その専門店というだけでも、需要はあるのだ。

「ねぇ、リベルタ。もしよければ、そこで一緒に」

「住む!住む!住む!住む!」

「あー、もう、圧が強い!」

しがみつくリベルタを引き離すのに小一時間を要し、逆に三十分で試作品のマジックバック数個に部屋のものを全て片付けた。

「名残惜しいわ、トワレ。私、悲しくなっちゃう」

「その割には、貴女、ワクワクした顔をしてるわよ」

何もかもが消えてなくなり、ガランとした2人部屋。

さっきまで立て籠もりを計画していた人間とは思えない満面の笑みで、リベルタはこの部屋を去った。

次の日、ヒロインのボニートが部屋に来て、

「一人部屋なんて聞いてない!お助けキャラはどこ!」

と叫んでいたことを知れば、リベルタはどう思っただろうか?

攻略本を丸暗記し、いちいちお助けキャラなどに質問しなかった前世の頭だけはズバ抜けて良い二十九歳喪女は、知ろうともしなかったのだ。

ゲームを円滑に進める為に、質問したら答えてくれる便利な存在がいたことを。

特に名も呼ばれない、ただ、ヒロインと同室のお下げ頭の女学生。

しかし、ゲーム開発者は、このキャラクターに自分だけが呼ぶ名前をつけていた。

それは『トワレ・シュクセ』。

香水(トワレ) のように女性に寄り添い、主人公を 成功(シュクセ) へと導く者。

「こんなの、おかしい。絶対、誰か他に転生者がいるんだわ!」

美しい顔を歪めると、こんなにまでも醜悪に見えるのか。

そう思われても仕方ないほど、ボニートの表情は悪鬼のように恐ろしかった。

言葉から察せられる通り、彼女もまた、この世界に転生した者らしい。

しかし、二十九歳喪女とは対照的な、十六歳女子高校生。

大好きだったゲームの、それもヒロインに転生したと知った時、彼女は、人生勝ち組になったと狂喜乱舞した。

ストーリーは、全攻略対象をコンプリートしたことで大体把握している。

ただ、攻略対象毎に内容が違う為に、全てを覚えきったわけではない。

その為、最短で全コンプをする目的を果たすためにも『お助けキャラ』は必須だった。

「許せない。私がヒロインなのよ!」

地団駄を踏んでも、状況は変わらない。

それどころか、学園から提示された教育係は攻略対象人気投票一位のフレルト・ポルポではなく、五位にも入っていないアルバトロス・ボルケーノ。

熱血漢の辺境伯子息は、最も攻略が難しい曲者だ。

先ず、彼は、相手の話を半分も聞いていない。

そして、何事も猪突猛進に突き進むため、こちらの思惑通りに動いてくれない。

彼の気を引くためには、他の生徒達から虐められなければならない。

何故なら、可哀想なヒロインを守るという大義名分がなければ、わざわざ女子に寄ってくることもないからだ。

攻略の難易度の高さの割に、美味しいところが少なすぎることで有名なアルバトロス(アホウドリ)。

ボニートは既に、攻略を進める気力を失いつつある。

しかも、大本命だったフレルト・ポルポも実在するのだ。

余りにも変わり果てた姿で。

三十人を十人ずつのチームに分けたクラス編成だが、すべては試験などの実力順で並べられている。

しかし、本来最上位クラスに居るはずのフレルトは、次の試験で結果を出さなければ退学となる最下位になっていた。

顔にも訓練で出来た青痣があり、プヨプヨとした体は、ゲームのケースカバーに描かれた美しさからほど遠い。

「こんなんじゃ、わざわざ全コンプの意味ないじゃない」

コレクターだからといって、要らない物まで集める趣味はない。

「頼みの綱は、魔法科のクルーガー・ザーロモンね」

ゲーム内では、騎士科からフレルト、魔法科からはクルーガーが聖女のお世話係として選ばれる。

元平民の聖女が学園内の授業にいきなりついていくのは無理だろうと、三人だけで授業が行われるようになるのだ。

「おはようございます」

気分を新たに、指示された部屋のドアを開けたボニートは、そこにいるメンバーに、愕然とした。

「よお!ボニート、早く座れよ!」

気軽に声をかけてくるアルバトロスの横には、

「初日から遅刻とは、いいご身分だね」

フレルトに似た黒縁メガネをクイッと人差し指で上げる、嫌味しか言わないモブが座っていた。

ヒロインを虐めるのが役割なのだろうが、セリフがモブ過ぎてダメージすら与えられない残念キャラ。

しかしウザさだけはウルトラ級で、ゲームをする際は、時間短縮の為に必ず避けて通った相手だ。

「なんで、こんなことになってるのよ!」

半狂乱で叫ぶボニートにモブは後退り、アルバトロスは眉間にしわを寄せる。

「聖女という割には、禍々しさは魔王級だな」

ここで、アルバトロスという男の攻略難易度を高めるもう一つの要素が発揮される。

それは、頑固。

彼は、一度心のシャッターを下ろしたら二度と開かない。

ボニートに背を向けると、黒板に視線を固定して、話しかけてもこない。

モブに至っては、モブらしく完全に気配を消すことにしたようだ。

そこに、

「はい、授業を始めますよ」

と入ってきたのは、なんと、シャイネンだった。

「え!まさか、貴方が担任なんですか!」

思わぬ優良物件の登場に浮足立つボニートだが、

「いえ、私は荷物を運んできただけです。では先生、よろしくお願いいたします」

と後から入ってきた教師を残して去っていった。

「君が、聖女ボニートだね?私は、王家の血を引くスパイトロフだ。副学長を務める私に、全て任せなさい」

ニタニタと笑う『王族ではない人』は、ポッコリと前に出たお腹を撫でながら、ボニートにねっとりとした視線を向けた。

「嘘でしょ……」

ボニートが何か悪いことをしたわけではない。

それなのに、理不尽なまでに書き換えられているストーリー。

「こんなの、許されない」

前世十六歳のJKは、正しい物語に戻すことこそが正義なのだと信じて疑わなかった。