軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

「お前を愛することはない」と言われたけど、協力してくれるようです

前世は、どこにでもいる会社員だった。

日本という食に豊かな国に生まれ、食べるのに困ったことはない。

今世だって、貧富の差は大きいけれど貴族の娘として生まれ、本来なら飢えることはないはずだった。

けれど、お母様が亡くなり、義母と義妹ができてからすべてが変わったのだ。

労働は耐えられた。

ドレスや宝石を奪われたことも、大きな問題ではない。

私を 蝕(むしば) んだのは、食事だった。

食事を減らされ、奪われたことで、常にお腹は空いていた。手足は震え、めまいと吐き気に悩まされ、思考がろくに働かなくなっていく。

自分が自分でなくなっていく感覚。

ゆるやかに、けれど確実に衰退していくのだ。

もう絶対に飢えないよう、飢えるという意味を理解させないといけない。

だから雇い主の旦那様の意向に背こうと、罰を与えなくてはならない。

「──どうしても譲れないと言うなら、医師を常駐させて安全を確保した状態に限り、許可しよう。だが、コレッティーナがその部屋に入るのは禁じる」

「それじゃ、本当にやっているのか分かりません」

いくらでも嘘はつける。

自分の目で確認しないと、安心できない。

「目的が報復ではなく、理解させることなら十分なはずだ」

「…………分かりました。私の代わり、デザーに見に行ってもらうのは構いませんか?」

「あぁ、問題ない。ここから先は、俺がやる。コレッティーナは菜園に何を植えるかデンガと相談して決めておいてくれ。理解させるかではなく、コレッティーナが安心して生活できるように整えてくれないか?」

優しい穏やかな声だが意志の強い眼差し……、最大限譲歩してくれているのが伝わってくる。

これ以上は無理……か。

そう頭では理解しているのに、「わかった」と言いたくない。

嫌で嫌で仕方ない。

「コレッティーナと使用人たちの間に、大きな確執を作るわけにはいかないんだ」

私のため……なのは、わかる。

前世の私から見れば、今の私の言っていることは明らかにやりすぎで、犯罪だ。

それを旦那様が、ギリギリできる範囲で引き受けようとしてくれている。

……もしかしたら旦那様の倫理を踏み越えてくれているのかもしれない。

諦めなきゃ。

嫌だけど。すごーく嫌だけど、ごはんをくれる人を困らせちゃいけない。

罰はあるんだ。

諦めろ。

どうにか小さく頷けば、旦那様はホッとした顔をする。

「いい子だ。いい子なコレッティーナには、あとで珍しいお菓子をあげような」

「……珍しいお菓子ですか?」

「 金平糖(こんぺいとう) という異国のお菓子だよ。知人からもらったんだ」

「ありがとうございます!」

嬉しい。

けど、悔しい。

私に力さえあれば、直接罰せられたのに。

「……ごめんな」

「何がですか? まさか、金平糖くれないとかです!?」

「いや、コレッティーナが望めばいくらでも用意するよ」

「約束ですからね!」

食事さえあれば、満足できた。

けど、今はそれだけじゃ足りない。

私をこんな目に合わせた人たちを、同じ目に合わせたい。

食べることが満たされたら、次が生まれたのだ。

「ねー、旦那様」

「何だ?」

「旦那様は、名誉がほしいですか?」

欲しがってほしい。

けど、拒絶してほしい。

「いや、これ以上忙しくなるのは御免だな」

「そう……ですか」

……そっか。

いらないんだ。

「急にどうしたんだ?」

怪訝そうな顔を向けられ、笑みを浮かべる。

「実家を潰します。あそこは悪い事だらけです」

旦那様に耳打ちすれば、濃紺の瞳が見開かれ、そこにはにこにこと笑う私が映っている。

「復讐は新しい憎しみを生むだけかもしれない。でも、やられっぱなしではいられないんです。旦那様にはご迷惑かけないように頑張りますね」

「……それは、俺がやるんじゃ駄目なのか?」

ただでさえ忙しいのに、何を言ってるんだか。

雇用主に個人的なことを頼む従業員なんて、ありえないでしょ。

「駄目です」

きっぱり言えば、旦那様の眉間にシワが寄る。

「なら、協力させろ。一人でやるな」

「……やっぱり権力がほしいんですか?」

「違う。俺にも思うところがあるだけだ」

…………?

よく分からないけど、旦那様の個人的な感情ならそこに関しては協力者でもいいのかな?

「分かりました。じゃ、そのまえに使用人たちのお片付けをしましょう。私に好意的な者、中立、悪感情を持つ者に分けますから、その方たちの判断は旦那様にお任せします。私は食事さえ奪われなければいいので」

ちゃっちゃと分けていく。

その中で、ずっと下を向いているセナさんが気になった。

彼女は旦那様の言う通り、自分の意思じゃないかもしれない。

けど、同じ状況になったら、繰り返す可能性が高い。

被害者であり、加害者。

そもそも加害者でもある自覚はあるのだろうか。

「……旦那様。セナさんは ラビソン伯爵家(実家) で雇入れするのは駄目ですか?」

あそこは、悪いことで溢れている。

もしそこで流されなければ、信用してもいいのかもしれない。

流される人間は危険なのだ。

敵にも味方にもなるから、同じ空間に置きたくない。

また、食事を奪われるかもしれないから。