軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新しい料理に見えるが組み合わせ変えただけやでと笑う博之。ただ鶏の卵とじには「親子丼」と命名する

飯は、おおむね大好評だった。

弁当も、味噌だし巻きも、鶏と卵をとじた飯も、古参の面々はよく食べた。

特に最後の鶏卵とじ飯は、椀の底が見えるまであっという間だった。

「旦那、これは売れるで」

ヨイチが真顔で言った。

「城下でもいけます」

お花も頷く。

侍たちも、少し驚いた顔で椀を見ている。

「旅の途中でこれ食えたら、だいぶ贅沢やな」

「いや、弁当もええけど、この卵のやつは店で食わせる方がええ」

そんな声が続いた。

博之は、皆の反応を見てから、少し笑った。

「せやけどな」

そう切り出すと、全員が顔を上げる。

「これ、別に一から新しく作ったもんちゃうで」

その場に、妙な間ができた。

「……え?」

ヨイチが眉をひそめる。

「どういうことや」

「横丁で作っとるもんを、ちょっと使い方変えただけや」

皆の顔に、大きな疑問が浮かんだ。

博之は、弁当箱を指で示す。

「よう考えてみい。握り飯は、たくあんや紫蘇を刻んで混ぜただけや」

「ああ……」

「田楽も、豆腐田楽と茄子田楽をそのまま入れただけや」

お花が静かに目を細める。

「確かに、店にあるものですね」

「鶏もそうや。塩焼きと味噌焼きの違いはあるけど、横丁で焼いとるやつや」

博之は続ける。

「その日の仕入れや売れ行きで入れ替えればええ。値段も大きく変えんで済む」

ヨイチが腕を組んだ。

「……言われてみたらそうやな」

「せやろ」

博之は笑う。

「新しい料理に見えても、実は今あるもんの組み合わせや」

それから、皿に残った卵焼きを指さした。

「ただ、だし巻き卵はちょっと考えた」

「ちょっとやないやろ」

ヨイチが笑う。

「いや、まあ、少し考えた」

博之はごまかすように咳払いする。

「で、最後のあれや」

「鶏と卵の飯ですね」

お花が言う。

「名前をつけようと思う」

「名前?」

「親子丼や」

場が静まる。

「親子?」

「鶏と卵やからな。親子や」

ヨイチが少し考えて、それから笑った。

「まあ、わかりやすいな」

「で、もう一つ考えとる」

博之は真面目な顔で言った。

「豚汁の具を汁抜きにして、卵でとじて飯に乗せる」

「豚汁の具を?」

「せや。それは他人丼や」

一瞬、間が空いた。

そしてヨイチが吹き出した。

「旦那、それ今つけたやろ」

「つけてへん」

「絶対今や」

侍たちも笑い出し、子どもたちも釣られて笑う。

お花まで、口元を押さえていた。

「まあ、名前は置いといてや」

博之は少し照れたように言う。

「でも、あるものでできる」

その言葉で、皆の笑いが少し落ち着いた。

「これが大事やと思うねん」

博之はゆっくりと話す。

「名物になるかどうかは、まだわからん。でも、新しい食い方は作れる」

火がぱちりと鳴る。

「それに、海の方がつながれば、海産物も増える」

「魚だけやなくて、海藻とかですか」

「そうや。わかめ、ひじき、煮干し。出汁ももっと強くなる」

侍の一人が頷いた。

「そうなれば、また違う飯ができるな」

「せや」

博之は言う。

「だから、料理が好きなやつを何人か見つけたい」

ヨイチが顔を上げる。

「料理人か?」

「ちゃんとした料理人じゃなくてもええ。飯を考えるのが好きなやつや」

博之は指で机を軽く叩く。

「こう組み合わせたらどうなるか。こう焼いたらうまいか。そういうのを試すやつが欲しい」

そして、少し声を弾ませた。

「あと蜂蜜や」

「蜂蜜?」

「取れたらな」

子どもたちが少しざわつく。

「取り方はわからん。でも蜜が取れるなら、甘いものが作れる」

「甘いもんか」

「蜜を餡に混ぜるとか、餅に合わせるとか」

博之は思いつくまま続ける。

「蜜饅頭みたいなんもできるかもしれん。都には餡子もあるやろうし、餅や饅頭に甘い餡を

入れるのもええ」

ヨイチが感心したように言う。

「飯だけやなくて、甘いもんまでか」

「甘いもんは強いぞ」

博之は真面目に答えた。

「疲れた時に食うと、嬉しい」

それは、どの時代でも変わらないと思った。

「結局な」

博之は、弁当箱をもう一度指で示した。

「組み合わせや」

皆が静かに聞く。

「今あるもんでも、考え方次第でいくらでも変わる」

豚汁、田楽、鶏、卵、漬物、握り飯。

それぞれはもう店にある。

だが、組み合わせると別の飯になる。

「食い方を考えるんや」

博之は言った。

「どうしたらうまくなるか。どうしたら運びやすいか。どうしたら高く売れるか」

お花が静かに頷く。

「それなら、皆で考えられますね」

「せや」

博之は笑った。

「料理人だけの仕事やない」

ヨイチも、弁当箱を見ながら頷いた。

「……たしかに、ただ詰めただけやのに、別もんに見えるな」

「それが商売や」

博之はそう言って、残っていた握り飯を一つ取った。

「新しいもんいうても、だいたい今あるもんからできる」

場の空気が、少し変わった。

ただ飯を作るだけではない。

飯を考える。

売り方を考える。

名物を作る。

その考えが、古参たちの中にも少しずつ染み込んでいく。

誰かがぽつりと言った。

「次、何作ります?」

博之はにやりと笑った。

「それを考える会や」

屋敷の中に、また笑いが広がった。