軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

②④

(ホレスだけは幸せにしてほしいって伝えないと……伝えないといけないのにっ)

突然やってきた別れに涙が込み上げてくる。

先ほど振り払ったアデラールの手を取ってから、涙を堪えながら顔を上げた。

「ホレスを……っ、幸せにしてください」

「ああ、約束する」

「……わたしはっ、どうなっても構いませんからホレスだけはっ」

シルヴィーの声は震えてしまう。泣き顔を隠すようにして俯いていた。

異変を感じ取ってかホレスがいつのまにかシルヴィーの足にしがみついた。

泣いていることをバレないようにしなければならないのに、次々と涙があふれて止まらない。

「泣かないで、シルヴィー」

「…………っ」

アデラールがそう声を発すると、ホレスがシルヴィーを守るように両手を広げた。

「めっ!」

「ホレス……?」

「だめっ! あっち、めっ!」

ホレスはどうやらアデラールがシルヴィーを泣かせたと思っているのだろう。

(ホレス……ありがとう)

シルヴィーはホレスを後ろから抱きしめる。

小さい体で懸命に守ろうとしてくれているのだろう。そんな姿が愛おしい。

ホレスはシルヴィーの髪を小さな手で撫でながら「まま、いいこ」と必死に励まそうとしてくれている。

そんな気持ちが嬉しいのと同時に悲しいのだ。

「ごめんね、ホレス……!」

「まま、だいじょうぶ?」

「大丈夫よ、ありがとう」

ホレスに不安が伝わったのか涙目になって、必死にシルヴィーにしがみついている。

何も言っていないのに離れないからとでも言いたげだ。

シルヴィーもホレスに気持ちを返すように抱きしめていた。

騒ぎを聞きつけてか人もちらほらと集まりだしている。

怒っているホレスに視線を合わせるようにアデラールは膝を突く。

「僕はママをいじめたいわけじゃないんだ。ただ一緒に来てほしいだけなんだよ」

カタカタと震えているシルヴィーを見て、ホレスはアデラールの腕を弾き飛ばす。

「……だめっ!」

「アデラール殿下、そろそろ……」

ベンがアデラールに耳打ちしていた。

「とりあえず馬車の中で話そう」

「……わかりました。ホレス、行きましょう」

ここで騒ぎを起こすのは避けた方がいいだろう。

アデラールたちの後についていくと豪華な馬車があった。

彼は何を思ったのか、シルヴィーの震える手を取りそっと口付けた。

それにはシルヴィーも驚いて顔を上げる。

ライトブルーの瞳はこちらをまっすぐに見つめていた。

「君は嫌なのかもしれないけれど、これだけは言わせてほしい。本当はあの時に告げるべきだったんだろうけど言えなかったから」

「…………っ」

シルヴィーが自分の死を受け入れる覚悟を決めて、ギュッと目を閉じた時だった。

「僕と結婚してくれないだろうか?」

「…………は、へ?」

「君とホレス、二人のことを幸せにしたいんだ」

「ふぁ……!?」

予想もしない言葉に驚いてしまう。

アデラールはシルヴィーと結婚して、ホレスと共に幸せにしたいと言っているように聞こえたのだが気のせいだろうか。

(まさか騙してホレスを奪うつもりなのかしら……)

シルヴィーは確認するために問いかける。

「わ、わたしは……殺されるんじゃないのですか?」

今度はアデラールの方が目を丸くしている。

何かが噛み合っていない。そんな感覚だった。

先に口を開いたのはアデラールの方だ。

「……どうしてそんなことを?」

「だってわたしは……アデラール殿下にあんなことをっ」

「いや、僕こそ何も説明せずに君にあんなことを……」

歯切れの悪い言葉。語尾がだんだんと尻すぼみになっていく。

二人で目が合うと顔を真っ赤にさせて俯いていた。

しばらく経つとアデラールが申し訳なさそうに言った。

「それに僕が君に殺されることはあっても、殺すなんてありえないよ」

「え……?」

「あのことは全部、僕のせいだから」

さらに赤みを増すアデラールの頬。

シルヴィーは否定するように慌てて首を横に振る。

アデラールが気を遣って、そう言ってくれていると思ったからだ。

よく覚えてはいないが、酔っ払ってアデラールを襲ったシルヴィーのせいではないのだろうか。

「いいえ、わたしのせいです。わたしが……」

「いや、君は悪くないよ。僕が油断して毒を刺されたから……」

「毒っ!? 毒ってどういうことですか!」

「部屋の前にゴロツキがたくさんいたから、ちょっと揉めてね」

シルヴィーもよく覚えている。

部屋から出ると男たちが山のように積み上がっていて、逃げる時にぶつかってしまったのだ。

アデラールの話を聞くと、シルヴィーを助けようと戦ってくれたのだとわかる。

あそこにアデラールがいてくれなかったらシルヴィーはどうなってしまっただろうか。

「どうしてそんな無茶を! 何かあったらどうするんですかっ」

「君を囮にした。何があっても助けようと思ったんだ」

「囮だなんて……! あれはわたしが騙されただけでっ」

「怖い思いをさせたんだ。それくらいは当然だろう?」

二人で三年前のことについて言い争いをしていたが、次第におかしくなってしまい笑みがこぼれる。

いつの間にか笑い合っていると、ホレスが不思議そうにしているのが見えた。

「なかよし?」

「「…………」」

ホレスの問いに、二人で再び目を合わせて困ったように首を傾げることしかできなかった。

するとリサが馬車に顔を出して、ホレスの面倒をみてくれると申し出てくれた。

ホレスはリサの元に駆け寄り、いつものように遊ぶと思っているのかついていく。

その間にアデラールと話してということだろうか。

どうやら今すぐに牢の中に入れられることはないようだ。

(でも殺されないのならよかった……ホレスの成長を見られるのは嬉しいわ)

アデラールに結婚を申し込まれたことも忘れて安心していると……。

「どうやら互いに勘違いしていたみたいだね」

「……そう、みたいですね」