軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

②③

シルヴィーがホレスの名前を必死に呼んでいる時だった。

「ホレス、聞こえるかい?」

「だ、れ……?」

「君を助けにきたよ」

「…………?」

ホレスの顔は真っ赤になっているが、アデラールに名前を呼ばれて顔を上げた。

「ホレス、よく聞いて。君は今、力を抑えすぎているんだ」

「ちから……?」

「全部、解放してごらん」

しかしホレスは必死に首を横に振る。

アデラールが大丈夫だと訴えても、彼は頑なに否定を続けていた。

小さく呟くように「まま、かなしいから」と答えた。

「僕がホレスの力を打ち消すから大丈夫だよ。だから思いきりやってごらん」

「……!」

「ママに悲しい顔を絶対にさせないから。約束する」

アデラールの言葉から、ホレスの熱が出た原因が魔法にかかわることだとわかる。

(もしかして……わたしがホレスに魔法を使うのを抑えるように言っていたせいでこんなことに?)

シルヴィーは毎日のようにホレスに魔法を使わないように言い聞かせていた。

そのことが彼を苦しめる原因になってしまったのだ。

罪悪感や申し訳なさが込み上げてくる。だけど今は泣いて後悔している場合ではない。

アデラールの言う通りにした方がいいだろう。

シルヴィーは不安そうにこちらを見ているホレスを抱きしめてから頷いた。

「ホレス、全部力を使ってみましょう?」

「いいの……?」

シルヴィーがアデラールに視線を送ると、彼は柔らかい表情で笑みを浮かべている。

アデラールは王太子で強い魔法の力を持っているため、何らかの方法で力を防ぐことができるのかもしれない。

シルヴィーはホレスの頬を撫でながら頷く。

「ホレス、大丈夫だからやってみて」

「……うん!」

シルヴィーが頷くと、ホレスがゆっくりと腕を上げた。

「──えいっ!」

そんなホレスの声と共に竜巻のように大きな突風が空に浮かび上がる。

シルヴィーも立っていられないほどの風圧だが、なんとか吹き飛ばされないように踏ん張っていた。

ホレスも魔法を放った後、必死にシルヴィーにしがみつく。

「大きな力だね……皆、目を閉じていて」

アデラールの声が聞こえて、シルヴィーは目を閉じつつホレスを抱きしめる。

何かがぶつかる大きな音が聞こえた。

「わぁ……!」

ホレスが感動したような声を上げる。

シルヴィーも恐る恐る目を開くと、そこには霧のように降り注ぐ水と、

空に浮かぶ虹が見えた。

ホレスが降ろしてとでもいうように足をバタつかせている。

お腹を足蹴りにされているシルヴィーは痛みからホレスを降ろす。

先ほどまで高熱でぐったりしていたのが嘘のように、ホレスは虹に手を伸ばして追いかけている。

あんなにも体調が悪そうだったのに信じられずに、シルヴィーは驚きすぎて動けずにいた。

ホレスは何事もなかったように勢いよく飛び跳ねている。

「…………うそ」

思わず口からこぼれ出た言葉。

アデラールもそんなホレスを見て微笑んでいると、ホレスがアデラールに向かって両腕を伸ばしている。

「だっこ、だっこ!」

「うん、抱っこしようね」

ホレスはアデラールに抱っこしてもらい、虹に触ろうとしているのだろうか。

輝くような笑顔、こうして並んでみるとホレスとアデラールはよく似ている。

(ホレスが男性にすぐ懐くなんて……)

さすが国民に大人気の王太子といったところだろうか。

ほぼ毎朝といっていいほど顔を合わせていたベンにも挨拶できるようになるまでだいぶ時間がかかったし、新聞配達のレオンにも手を振り返すまでは長かった。

なのにアデラールには会ってすぐに心を許しているように見えた。

そんな光景を見つつ、シルヴィーはホレスの体調を問いかけるために二人の元に駆け寄る。

「ホレス、熱は!? 体調は大丈夫っ!? 痛いところはない?」

「ないない!」

「ほ、本当に?」

「うん!」

ホレスは先ほどの体調不良が嘘だったかのように元気になったようだ。

だけど何日も高熱で苦しんだはずなのに一瞬でよくなり信じられない気分だった。

「もうホレスは安心だよ。魔力を体内に溜めすぎたんだ」

「……やっぱり」

やはりシルヴィーの予想通りだったようだ。

(わたしのせいでホレスは……)

シルヴィーが青ざめていると、アデラールはホレスをベンとリサに頼む。

虹に触れようと夢中のホレスを抱き抱えているベンは、げしげしと胸あたりを足蹴りにされているではないか。

その間、泣きそうになっているとアデラールがシルヴィーの手をそっと握った。

指先まで美しいアデラールと、シルヴィーのボロボロの手が並び、急に恥ずかしくなってしまう。

慌てて手を引くと、困ったように笑うアデラール。

彼にどう言えばいいかわからずに戸惑っていると……。

「シルヴィーのせいじゃないよ」

「え……?」

「この力を一気に解放すれば街の建物は吹き飛んでいた。それほどにホレスの力はかなり大きいようだ。僕でも魔法を使えるようになったのは四歳の時だったらしいからホレスはそれを超えているね」

「……そんなに!」

アデラールは大きく頷いている。

「ホレスは城で適切な訓練をしなければ、また今回のようなことになってしまう」

「……!」

「本当はもっとゆっくりと時間をかけて説明したかったんだけど、今はあまり時間がないようだ」

シルヴィーはアデラールの言いたいことが途中で聞こえなくなるほどにショックをうけていた。

『城で適切な訓練を受けなければ』

その言葉の意味を何となく汲み取っていた。だけどホレスと離れたくないと思った。

それはもうここにいることはできないという意味なのだろう。

そしてシルヴィーは牢の中へ……。