軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

①③

「──待ってくれ!」

アデラールは扉からものすごい勢いで出て行ってしまった彼女を求めるように、手を伸ばした。

ベッドには見覚えのある蝶が刺繍されたハンカチがあった。

(やっぱり彼女はあの時の……! 間違いない。彼女こそ、僕がずっと探していた女性だ)

本当はすぐに追いかけたい。彼女にすべてを説明して引き留めたいが、なんとか理性で抑え込む。

ベッドの足に繋がれて身動きが取れなくなっているラディング侯爵に目を向ける。

(ラディング侯爵……やっと捕えられたか)

彼の悪行の数々には王家も悩まされていた。

裏で派手に動いているはずなのに一向に捕らえられない。

内通者がいるのではないかと王家は頭を抱えていた。

どうにかして炙り出さなければ被害はどんどん拡大していくに違いない。

タチが悪いことに金も権力も持っているため、裏で彼を慕い加担する貴族は多い。

だからいつも煙にまかれるようにして逃げられてしまうのだ。

中でも問題なのは行き場のない令嬢を買い取っては、無理やりそばに置くことだ。

とりわけ悪質なのはそのやり方だ。

家族に虐げられた者、居場所がない者、魔法が火、水、風、地、雷、緑、光、闇など代表的な属性を持たない令嬢を好んで引き取っている。

つまり当主たちも結婚に役に立たないと判断して手に余る者たちだ。

今、アデラールも行き場のない魔法属性を持つ令嬢や令息たちを受け入れられる場所を作ろうと奮闘しているが、何人かの大臣たちがそれを阻むのだ。

彼らがラディング侯爵と繋がっているのかもしれない。

代表的な属性を持たなくとも国の発展に役立つ魔法はたくさんある。

それらを無駄にするのは国の損失だ。

そのためには悪しき慣習を断ち切り、根底から覆す必要がある。

アデラールも父もそう思っていた。

女神からの恩恵に無駄なものなどひとつもない。

父の代からなんとか貴族たちの意識を変えようとしているがなかなかに難しい。

それを阻む最大の勢力がラディング侯爵を筆頭とした貴族たちだ。

彼は貴族のそういった思想を逆手に取り、気に入った令嬢を妻としてそばに置く。

彼女たちは見目が整っており美しいそうだ。

ついには人身売買にも手を染めていると聞いて、この国の王太子として放ってはおけなかった。

母の親戚の令嬢が、ラディング侯爵と結託した友人に騙されて犠牲になり、婚約も破談されてしまい幸せを奪われた。

彼女は泣く泣く修道院に行ったそうだが、証拠も掴めずに母は悲しんでいた。

このままでは王家の信頼が失われてしまう。

しかしラディング侯爵は用心深く、滅多に尻尾を出さない。

唯一、顔を出すのは秘密の夜会で、それは狙いを定めた令嬢を食い散らすために用意されたものだということを知った。

これ以上、犠牲を出すわけにはいかない。

情報では、彼の獲物は紅椿の花が描かれた白い仮面をつけた令嬢であること。

それが今夜の犠牲者だ。娘は何も知らないまま彼のものになる。

そのほとんどは金目的で売られてしまう令嬢たちだ。

(なんて悪趣味なんだ……許せない)

令嬢を売り払った家族たちも処罰してやりたいが、証拠が掴めない上に警備も厳重。

彼の妻たちに接触しようとしたが、ずっと虐げられ続けた令嬢たちは、泣きもせず怒りもせず、すべてを諦めた表情で何も話してはくれない。

アデラールは己の無力さに打ちのめされていた。このまま好き勝手にやらせるわけにはいかない。

父には内通者を炙り出してもらい、アデラールは決定的な証拠を掴むために動いていた。

アデラールはなんとか夜会の招待状を手に入れることに成功。

潜入して決定的な証拠を掴もうとしていた。

王太子であるアデラールがそこまでやる必要はないと近衛騎士に止められたものの、剣の腕には自信があるし王族であるが故にどんな魔法も力で捩じ伏せることができた。

王族の中でも次期国王となる人間には特別な力が与えられる。

それは貴族たちよりも大きな魔法の力だ。

国に訪れる危機によって与えられるといわれていて、父も長期間雨が降らずに困り果てていた国内各地に雨を降らせた。

王家はいわば救世主のような立ち位置となり国民の支持を得ている。

そもそも魔法はこの国を作ったシュマイディトという女神によって与えられた力だといわれている。

強大な力は争いを招き、国を崩壊させてしまうため王家の血を引く貴族たちのみに受け継がれる。

魔法を持たない者と結ばれると血が薄まり、その力は消えてしまう。

そうしてこの国はバランスを保っていた。

大災害に備えて、王家に産まれたものは魔法の腕を磨き続けなければならない。

恐らくアデラールの代には旱魃か水害などの大災害が起こる可能性が高いということだろう。

それに次世代に必要な魔法属性が生まれるように相手も女神が選ぶという。

まるで運命に導かれるように父と母も出会ったと聞いた。

母は風属性の魔法を使う。アデラールは父の属性を引き継いだ。

アデラールは魔法の力も歴代の中でも最も大きいといわれている。

大体は六歳くらいで魔法の属性がわかるのだが、力が大きいほど早く目覚めるそうだ。

四歳で水魔法を使いこなしていたアデラールは幼い頃から厳しい教育を受けてきたのだが……。