軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

奥様の暇の潰し方

今後の食事の方向性をロータスと確認してから。

なんとか朝ごはんを食べ終えて食後のお茶なんかをいただいてしまったら、後はなんというか端的に言って暇です。実家だと、あれこれと仕事が山積みなので暇なんて言ってる暇がなかったんですが、ここは天下の公爵家。仕事の手は有り余るほどに足りてます。むしろ『奥様』に労働なんて滅相もございませんよね。

しかし暇に慣れていない私は、うんうん考えても何もすることが浮かびません。

「奥様?」

一人でずっとソファの上でうんうん唸ってのたうちまわっている私を見かねたのか、ダリアが声をかけてきました。

「はい、なんでしょう?」

「よろしければ刺繍などされてはいかがですか?」

そうか。良家の奥様というものはこういうことで時間をつぶす……もとい、優雅に過ごすんですね~。こちとら何しろにわかセレブなもんで、そんなことちっとも思いつきませんでした。

しかし私にとって『裁縫』というものは。

「刺繍ですか。普通にできますが、専門は繕いものです」

お針子さん的発言やっちゃいました。

「……」

だって、実家では刺繍なんて非生産的なものよりも、家族の服の繕い物の方が断然多かったんですから。自分で言うのもなんですが結構器用な私は、つぎはぎ・かけつぎ何でもござれな腕前なんですよ~。あ、ダリアがかわいそうな子を見る目でこちらを見てます。そっとハンカチで目元を拭わない!

でも刺繍もできないことはないんですよ? 実用的ではないからそれだけをすることはないけど、よく妹の服にお花や鳥なんかを刺繍してあげましたからね。

そして前言撤回。

「……こほん。では何を刺繍したらいいかしら?」

改めて、ダリアに微笑みかけます。ダリアも気持ちを立て直して、

「手始めに旦那様のポケットチーフなどはいかがでしょう?」

そう提案してくれました。

「マア、ナンテステキナンデショウ!」

「そこで棒読みでなければもっと素敵ですわ」

「オホホホホー☆」

棒読みなのはスルーしてください。

お飾りの妻ですが、私の手製のものを身に付けていれば対外的には円満夫婦に見えますからね! さすがは侍女長、ナイスなアイデアです。

ミモザが手際よく用意してくれた刺繍セットで、私は旦那様に差し上げるためのハンカチを刺繍していきます。

ちまちまちまちま。

「できてしまったわ……」

ものの1時間もしないうちにポケットチーフは完成してしまいました。

「奥様、器用にございますね!」

ミモザが感心して褒めてくれますが、こんな小さいものでしたらあっという間です。大きいものでしたら弟や妹どころか自分の服まで縫ってしまう実力は持っています、私。

「本当にお上手ですわ」

ダリアも褒めてくれます。いや、ほんと、ちっさいからすぐにできるんですってば。

公爵家の紋章であるホオズキと、旦那様のイニシャルC.T.F。

それをチーフの端っこにちまちまっと刺繍するだけですから。

「でもあっという間でしたわね」

「それは奥様が器用だからですわ」

「う~ん、次回はもっと大胆な意匠にしようかしら? チーフいっぱいに紋章とか? いっそイニシャルをデザイン化するか?」

「「……」」

私のデザイン意欲の高まりを、何とも生温かい目で見守ってくれている侍女二人です☆

それから意匠を変えてあれやこれやと縫いましたが、結局午前中くらいしか潰れてません。

ビミョーに器用な自分が恨めしいわ!

指示通りの朝食リメイクの昼食を終えて、はて、午後からはどうしよう? 次はレース編みとかさせられるんじゃね? と腕組みして首を傾げていたら、次はロータスがやってきて、

「ご結婚祝いの贈り物のお礼状を書かれてはいかがでしょうか」

と、これまで公爵家に届けられた結婚祝いの数々が記された目録を持ってきてくれました。

誰が、どんなものをくれたのか。

ああ、これからそれらの品物にも目を通していかねばなりませんね。面倒ですがパラパラと目録に目を通しました。

おいおい誰だ? クマがシャケ咥えてる置物とか贈ったやつは。別棟にでも飾っていただこうかしら。

いや、でも、くださったものにお礼は必要です。人として。しかもこういったお礼状などは内助の功的なものですから、奥さんがする仕事ですよね。

「そうですね。こういうものは早くしておかなきゃね」

私はロータスから筆記用具とレターセット(公爵家特注家紋入り☆)を受け取りました。

後悔先に立たず。

後悔後を絶たず。

結構な数の贈り物が贈られていたんですね。私、知りませんでした。さすがは公爵家です。腐っても鯛。いや、腐ってませんゴメンナサイ。国内の有力者からはほぼ全員いただいておりました。

いちいち品物と贈り主を確認しながら、文章にも気を付けて、失礼のないように丁寧にお手紙を認めていくのは結構な重労働でしたよ。

肉体労働は慣れていますから得意ですけど、こういった机上のお仕事、いや、精神的な活動はほぼ皆無に等しかったので、かなり疲れました。

途中、ミモザの淹れてくれたお茶でおやつ休憩をした以外は、ほぼ休みなく執務机に向かって礼状を認めました。