軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

旦那様の、秘密の計画

バイオレットとの日常と並行して新しい赤ちゃんをお迎えする準備……と、ただそれだけなんだけど案外やることはたくさんあって、慌ただしい毎日を過ごしています。特にお急ぎ案件なのが、バイオレットのお部屋の引っ越し&赤ちゃんのお部屋です。バイオレットの新しい部屋は、旦那様の書斎を改装することにしました。これだと私たちの寝室の隣だし、バイオレットのたっての希望である『赤ちゃんのお部屋の近く』も叶うからです。じゃあ旦那様の書斎はどうするって? 大丈夫、本館には使ってない部屋がまだまだあるんです。テキトー……げふげふ、旦那様の好きな部屋を後日改装予定です。

「ここはもともと殺風景な部屋……じゃなくて、シックなお部屋だったから壁紙を貼り替えて雰囲気をガラッと変えちゃわないと。カーテンは新しい子供部屋のも一緒に作ると手間が省けるわね。それから、家具はどうしましょう。レティの部屋のがまだまだ使えるし……。あ、そうだ。色を塗り替えるのがいいわね! 得意のリメイク〜」

あれもこれもと、こだわり出したらキリがない! やることリスト作らなきゃ、何か忘れそうです。

「わたくしたちにお任せくださればよろしいものを」

ダリアがくすくす笑っています。

「そんな人任せになんてできないですよ。だって可愛い我が子ですよ?」

「そうでございますね」

「しっかり準備してお迎えしたいじゃないですか」

「おっしゃる通りでございます。思う存分準備してくださいませ。あ、ただし——」

「ただし?」

「無理だけはなさらないでくださいませ」

「はーい」

しっかり釘を刺されました。てゆーか、自分だけだと無理しがちだけど、うちの使用人さんたちってば私のことを私以上に把握してるから、いい匙加減でコントロールしてくるじゃないですか。

あれもして、これもして——と、ワタワタしているのは私だけ……ではありませんでした。

「ロータス。ベリスはどこにいる?」

「呼んでまいりましょうか?」

「いや、自分で行く」

なんか違う行動をしている人が約一名。ベリスといえば力仕事か庭仕事。今全然関係なくない?

「ベリスに何かご用なんですか?」

「え? あ〜、いや、まあ、ちょっとね」

旦那様ったら目を泳がせて……明らかにはぐらかしてます。また何かコソコソやるつもりでしょうか。

「じゃあ、外に行ってくるよ」

「…………」

鼻歌を歌いながら庭園(ベリスのところ?)に出ていく旦那様を見送りながら、

「ご機嫌ですが、また何か企んでます?」

「さあ?」

ふとロータスの顔をみたら、何やら意味深な微笑み。これはきっと何か知ってる顔だわ。でも、ここでしつこく粘ってもどうせ教えてもらえませんよ。ええ、知ってますとも。旦那様ってば変なところで秘密主義だから、しっかり箝口令しいてるでしょうし。まあ、いいや。そのうちわかるでしょ。

「サーシス様はおいといて、やることをどんどん片付けなくちゃね」

「そうでございますね」

ロータスも穏やかなので、よからぬことではないでしょう。そういう時は放置に限る。

——が、しかし。

旦那様の秘密の計画(?)、放置したのはいいけれど、私の日常生活にちょっと支障が出ました。

「ベリスのところに行って、綺麗に咲いてるお花をもらいましょ」

私が日課のようにしているお屋敷中の花の入れ替え。今日はどんなお花がオススメかしら? ベリスが勧めてくれるお花はどれも素敵で、お屋敷を華やかに彩ってくれるんですよね〜。いつも温室(と書いてベリスの巣とも読む)に行くのを楽しみにしてるというのに、

「お花はベリスに見繕ってもらって、こちらに運ばせましょう」

ロータスに、庭園に出ようとしているところをやんわりと止められました。ん? 出るな、とな?

「あら、私も一緒に相談したいわ」

「おや。ベリスの選択ではお気に召しませんか?」

「——いや、むしろ私よりセンスあります」

「ではお任せしましょう」

「ハイ、ソウデスネ」

んもう!

他の日も、やれ『風がめちゃくちゃ冷たい』とか『雨が降ってる』だとかで、全然温室……いや、庭園そのものに出させてもらえなくなりました。待て待て、ついこの間まで、寒かろうが雨が降ろうがお構い無しに出てましたけど!? 庭園のどこかで何かが進行中なのがあからさますぎでしょ。お腹の赤ちゃんも〝ドコドコドコドコ!〟っと蹴り倒してきます。

「いててててて。めっちゃ蹴られる」

「お子様も、室内で大人しくしておきましょうと、お母様に申し上げているんですよ」

ほらほら中へ〜と、有無を言わさず強制連行されるけど、これは絶対お子の『外に行かせろ!』という抗議だと思います!

外に出られないストレスは、シルバー磨きにぶつけさせていただきました。おかげでどの食器もピッカピカでいっ!

お部屋の準備にお洋服の準備、使用人さんたちに手伝ってもらいながら着々と進めていきました。おおかた整ったのではないでしょうか。

「いつ出てきても大丈夫よ〜安心して出ておいで〜」

すっかり大きく重たくなったお腹に向かって語りかけます。臨月近いお腹は、もうはち切れる寸前って感じですよ。

「レティの時って、こんなに大きかったかしら? 重たいと思ったのは変わりないけど……」

「お子様によって大きさが違うので、なんとも言えませんが……そうでございますねぇ……私の経験からですが、ティンクトリウスは大きく生まれましたので、なかなか大変でございました」

ダリアの顔が一瞬お母さんの顔に戻りましたよ! 見逃さないよ! って、ツッコミどころはそこじゃなくて。

「大きいと、大変……」

うん、確かに、痛そうですね。てゆーか、産む時ってどんなだったっけな? 経験済みのはずなのに忘れきってるわ。

「ま、まあ、それは個人差がございますから。今から心配していても始まりませんよ」

「そうね。なるようになるわね。おばあちゃん先生もついてるし、何より心強い 使用人さんたち(みなさん) がいる!」

痛みを想像して一瞬ドヨンと落ちかけたけど、持ち前のポジティブマインドが勝ったようです。うちの使用人さんたちが付いているので、大船に乗った気分になっていると。

「そこに僕が入っていないのがすごく寂しいんだけど?」

いつの間にか帰ってきていた旦那様が、サロンの扉のところに立っていました。

あらやだ私ったら、すっかり話し込んじゃってたもんだから、旦那様のお帰りに気が付かなかったなんて。ちょっとロータス〜! ちゃんと呼びにきてよ〜。

扉にもたれかかった旦那様が、こっちを恨めしそうに見てます。

「そそそそそんな! サーシス様は当たり前すぎて出さなかっただけですよ〜」

え? これ拗ねるパターン? やだなぁ、拗ねたらめんどくさ……じゃないじゃない、宥めるのが大変です。

「はははっ! そんなに慌てなくても大丈夫だよ。使用人たちが心強い味方だってことは間違いないしね」

「そそそそそうなんですー! あははははー」

拗ねたふうに見せていたのはどうやら演技で、私をからかっただけみたいですね。焦っている私を見て楽しそうに笑っています。拗ねてなくてよかった〜!

「——でも」

「でも?」

「忘 れ ず に 、ちゃんと僕もそこに加えておいてよ」

「もちろんですとも!」

「よし!」

まあなんか旦那様の機嫌も直ったし、一件落着、かな。

「ふぅ……あ、お着替えしてきてくださいませね。今日の晩餐は、カルタムと相談して煮込み料理にしてもらったんですよ! 最近寒い日が——」

温暖なロージアですが、最近は寒さが続いていて雪なんかも降ったりしています。いくら馬車とはいえ、外から帰ってきたら冷えているに違いありません。ということで、今晩は温かい煮込み料理にしました。お肉をほろほろになるまで煮込んでもらってます。あれ、体の芯から温まるんですよねぇ〜。

私の話が途中だというのに、旦那様は私の唇に指を当て、続きを奪ってしまいました。ちょ、ちょっと、いきなりなんですか〜!

「今日は気分を変えて違う場所で食べようか」

え? 違う場所で食べる? ていうことは、外食するってこと? せっかく美味しい煮込み料理を作ってもらったっていうのに? そんなのもったいないお化けが許しませんよ!!

「それは別の日にしませんか? 今日はもうお料理ができてるんですから」

「まあまあ、そうプンスカしない。もちろん今日の料理はちゃんといただくよ」

「別の日にってことですか?」

「違う違う、今から」

「はい?」

もう旦那様が何言ってるのかわからない。じゃあ、ダイニングじゃない場所で食べるってこと? こんな夜に? 今から出かけて?

「? ? ?」

理解が追いつかなさすぎて首を傾げていたら、

「秘密の場所が出来上がったんだよ」

イタズラっぽく笑う旦那様。

「秘密の場所?」

「そう。ヴィーに内緒でこっそり作ってたやつ」

「あ〜〜〜!」

そうだそうだ。私が赤ちゃんの準備に右往左往している間、旦那様がロータスやベリスとコソコソしてた、例のアレですね。秘密基地を作ってたんですか! ベリスが絡んでるから庭園だとは思うんだけど、一体どこに作ったんでしょう?

「今日はそこに特別席を作って晩餐を食べようと思うんだ。コホン。——準備はできておりますから、あとはご主人様が登場するのみでございます」

ひとつ咳払いをすると、今度は恭しく手を差し出してくる旦那様。

秘密が晴れるスッキリ感と、また何かやらかしてくれるワクワク感。旦那様って、こういうのほんと大好きですよね。そうですか、主人は私ですか。

では、こちらも全力で乗っかろうじゃありませんか!

「まあ! どんな趣向が凝らされてるのかしら?」

「それは後のお楽しみでございますよ、我が君」

侍女さんたちにしっかり防寒着を着せられた私は、旦那様に手を引かれて、久しぶりの庭園に出たのでした。