軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

私のヒーロー

バーベナ様からのお茶会断る口実を考えていたら、なんともタイミングよく義父母の訪問予告がきました。

「そう言えば、お義父様たちには私のこと伝えてあるの?」

「いいえ。言わなくてもいいと旦那様がおっしゃいましたので、あえて伝えておりません」

「そうよね。無駄に心配かけるだけだもんね」

そもそもとっくに回復してるし。だからと言って使用人さんと一緒になってお迎えの準備に張り切って……はしなくていいですよと釘を刺されました。本当、うちの使用人さんは私のことをよ〜く理解していらっしゃる。お義父様たちがこちらに来るといっても滞在は別棟だし予定も色々おありだから、私の生活に影響出るとかそんなことはほとんどないからますます問題なし。

「別棟を整えておきましょうか」

「かしこまりました」

私もたまに使うので掃除は行き届いていますが、念には念を入れてさらにピカピカに磨いておきましょう。

バタバタと義父母をお迎えする準備をしていると、あっという間にその日はやってきました。

「またお邪魔するよ」

「レティはまた大きくなったわね! あ、そうそう。ヴィーちゃんの好きな果物や野菜をた〜くさん持ってきたから、いっぱい食べて!」

そう言ってたくさんの果物や野菜をお土産に持ってきてくれました。どれもこれもピエドラ特産の、王都ではなかなか手に入らないものばかりです。そうそう、この星型のフルーツ! これ私、大好きなんですよね。

「こんなにたくさん! ありがとうございます」

「そうそう、いつも通り私たちは勝手にするから気を使わないでね」

「はい」

いつものことですけどね。お義父様たち滅多に 王都(こっち) に来ないから、来るといつもお茶会やなんや〜であちこち引っ張りだこですもん。

お土産の野菜や果物を贅沢に使った晩餐を終えてくつろいでいるところに、さっそく王宮からお手紙が来ました。もちろんお義父様とお義母様宛て。そこにめちゃくちゃホッとしているのは内緒です。

「もうきたか〜」

「空気読んでもうちょっと後でもいいのに」

なんて二人ともブツブツと言いながらお手紙を開けています。めんどくさい気持ち、よ〜くわかりますよ! まあ今回のは他人事なので、穏やかな気持ちでお二人を見ていたんですが。

「あら」

そう言うとお義母様とバッチリ目が合いました。

「?」

「王妃様とのお茶会、ヴィーちゃんも是非一緒にって」

「まあ!」

そうきたか。幼馴染同士の気楽なお茶会にしておけばいいのに……なんて思っても言えないや。

「当日は姫君たちも参加するから、ヴィーちゃんもどうぞですって」

これは完璧に『断れない系』のお誘いですよ。しかももうお断りする口実もないし、行くしかないでしょ。そうだ、過保護シフトを敷いたままの使用人さんなら止めてくれるかもしれない!

ロータス! これは行かなくてもいい?

一縷の望みを持ってロータスを見たら……黙って首を振られました。ダリアは? おっと、同じリアクション。そうか、やっぱ行かないとダメか。

「あ〜……はい。喜んで」

できる限りの笑顔で答えておきました。

久しぶりの外出は、お支度だけでも大変です。

「私用といえど王宮ですから」

というステラリアの言の下、いつもの愉快なエステ隊の出動こそありませんが、私付きの侍女さんたち総出で準備を手伝ってくれてます。完全正装よりは少しフランクにはしているけど、普段からナチュラルが好きな私にとってフルメイクは相変わらず特殊メイク気分なんだよなぁ。すっぴんお仕着せが流行る日は……まあこないか。

「もう疲れた」

「まだ早いです。さあさ、準備が整いましたよ」

「うい〜。気合い入れて頑張ってきますか!」

大丈夫。今日のメインゲストはお義母様だから、私は隣で微笑んでいるだけの簡単なお仕事のはずだし。

義両親と一緒に馬車に乗り込んだらいざ王宮。

「定期的に領地とか国境の報告はしてるんだけど、ちゃんと読んでるんだろうか?」

「そりゃあもちろん読んでるでしょう。アルゲンテア卿が」

「そんな気がするね」

いやいや国王様は読まへんのか〜い! というツッコミが喉から出てきそうなのを黙って飲み込みました。馬車の中、お義父様たちが他愛ない会話をしているのを、私はニコニコしながら聞いています。特に私が口を出さないといけないこともないし、同意も求められてないしね。

テキトーに相槌打ちながら話を聞いていたんだけど、途中からちょっと具合が悪くなってきました。

グルグルする視界と、ムカムカする胃のあたり。この感じ……う〜ん、馬車に酔っちゃったかも? ここしばらくお屋敷に引きこもって久しぶりだから? それともドレスの締め付けがキツイ? 両方? 実家の安物の馬車と違って、公爵家の馬車は地面からの振動も柔らかくふわふわした感じなんだけど、それが今日は逆に辛い。こんな馬車酔いなんて初めてですよ。気付かれないようにゆっくり深呼吸してみたりするんだけど、治る気配がありません。こんな体調じゃあお茶会乗り切れる気がしない……。気分が悪いのでお屋敷に帰らせてもらおうかな——。

「姫君たちもヴィーちゃんと会えるのを楽しみにしてるんですってよ!」

お義母様、タイムリーすぎる。帰りたいなんて言い出せないっつの!

引き攣らないよう気をつけて微笑み返すのが精一杯。幸いお義母様たちには、体調の急変がバレてない様子。よし、頑張れ、私! 馬車さえ降りたらなんとかなる! ……はず。

早く着いてくれ〜外の空気を吸わせてくれ〜! と心で祈りつつ、込み上げてくるムカムカと戦っていると、ようやく王宮に到着しました。エントランスには侍従や女官を従えた王妃様や姫君たちが、わざわざお出迎えに来てくれていました。さすが義両親。

いつもならここでバッチリ気後れするんだけど、今の私は気持ち悪すぎてそれどころではないのです。とにかく一刻も早く新鮮な空気を胸いっぱい吸い込みたい。かと言って真っ先に飛び出してゼーハーできるわけもなないし。平静を装って、お義父様、お義母様の後に続いて静々と馬車から降りるんです。しかし、どうやら自分では気が付かないうちに限界が来ていたようで、椅子から立ち上がった途端に視界がぐにゃりと歪みました。

え!? なに!?

強烈な目眩でふらついた拍子にそのまま外に出てしまったようで、踏ん張ろうとして出した足は空を切り、ふわっと体が浮く感覚がありました。あれ、足置きどこ行った? ……じゃないですね。めっちゃ踏み外してるじゃないですか。

うわぁ、落ちる! このままだと地面に激突する!!

「きゃー!!」

「ヴィーちゃん!?」

「どうした!」

周りの人たちの悲鳴が聞こえてきます。そりゃ人が馬車から落ちかけてたら驚きますよねー。って、そんなツッコミしてる場合じゃない。

体術のお稽古で習った受け身を取るのがベスト。瞬時にそう判断して体勢だけでも整えようとした時でした。

「ヴィー!!」

聞き慣れた、安心する声。今は切羽詰まった感じだけど。そっか、ここは王宮。旦那様の仕事場だもんね。

旦那様の声が聞こえたと同時に体がぐいっと引き寄せられました。そのまま抱き上げられた感じがするので、どうやら地面激突は回避されたようです。

ああ、旦那様。貴方はいつも私のピンチに駆けつけてくれるんですね。

それだけ思うと、私の意識は暗転しました。