軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

おうちでゆっくり

疲労からぶっ倒れて数日。

カルタムの胃に優しく栄養たっぷりの病人食、香りや目で癒してくれるベリスの綺麗なお花、そして旦那様が持ち帰ってくる王宮薬草庭園のお薬のおかげで、みるみる回復していきました。上げ膳据え膳は当たり前、いつも以上に至れり尽くせりの王様のような生活は、貧乏性が抜けきらない私にとっては逆に心苦しすぎます。

「早く元気にならなくちゃ!」

「そうそう。その意気です」

もはや心を無にしてひたすら休養しました。早く治すためには集中しないと(何に?)。とにかく、旦那様や使用人さんたちの過保護シフトのおかげで、すっかり元気になりました。

ようやくいつも通りに起きて着替え、旦那様と朝食を摂るという日常業務ができるようになりました。

「ヴィーが元気なだけで嬉しい」

「それは大袈裟すぎです。いつも元気です」

起きて着替えてご飯食べてるだけで褒めてもらえるって、なにもできない子みたいじゃないですか。と言うのは冗談ですが。旦那様もそれだけ心配してくれてたってことですよね。ごめんなさい。

仕事に向かう旦那様を送り出して一番に向かったのは、使用人さん用ダイニングでした。あ〜、ここってほんとに居心地いい。ホームに帰ってきた感じがします。厨房ではカルタムが、今日の食事に使う食材をチェックしていました。

「心配かけてごめんなさいね。カルタムの美味しいご飯ですっかり元気になりました!」

「おぉ……顔色もいつも通りに戻りましたね。よかったよかった」

「三日も動かなかったから、むしろ太ったかも」

「それは元気になった証拠ですよ」

「確かに」

「消化にいいものから、徐々に栄養がつくものにシフトしていきましたからね」

「え、そんな細かい計算されてたの!?」

「もちろん! だから頬も健康的な薔薇色に戻ってますよ〜」

ドヤ顔で華麗にウィンクをキメるカルタム。言われてみれば、最初は喉越しのいい〝だけ〟のものだったけど、少しずつ体に負担のない範囲で食材が増えていったっけ。回復度合いに合わせてしれっと料理をシフトアップさせてたなんて、全然気付かなかったわ。さすがうちの自慢の料理長ですね。

「カルタムったら、旦那様にお出しする料理よりも、奥様のお食事の方を優先させていたんですよ」

「おっと、リアちゃん。バラさないで欲しかったなぁ。ははは!」

ステラリアの暴露に明るく笑ってるカルタムだけど、待って、そこは旦那様を優先しないといけないよね? ああもう。使用人さんたちにまで甘やかされてるわ、私。ん? 今に始まったことじゃないって? 確かに。

回復はしたとはいえ過保護シフトは続いているようで、いつものお仕事は任せてもらえません。

「お掃除は体力を使いますから、まだ先にしましょう」

要約:フラフラ動き回るな。

「お庭の手入れはベリスがきっちりやっていますから、ご心配には及びませんよ」

要約:外に出るな。

あれもダメこれもダメ、心静かに美味しいもの食べてさらなる体力回復を……て、むしろ動かなさすぎて太っちゃう!

「もう元気なのに」

「そんなむくれないでくださいませ」

「私からお仕事を取ったら何が残るの」

「たくさん残ります」

「い〜え、そんなことはありません! お掃除がしたい、庭いじりがしたいっ!!」

ほらほら、私がお掃除しないと超高級窓ガラスが曇りますよ? 廊下の隅に埃が溜まっちゃいますよ? ——なんてことはうちの使用人さんに限って絶対にあり得ないから言えないけどさ。

どうやって〝私の日常〟(?)を取り戻そうか。恨めしげにロータスを見ていたら。

「ああ、そうそう。しばらくは社交もお休みでいいですよ」

「えっ!?」

「お出かけは体力を使いますからね」

「おっ、大人しくしておきますわ! おほほほほ」

堂々と社交しなくていいなんて! ロータス様様! そうそう、お出かけは体力も気力も半端なく消耗するから、病み上がりにはキツいんですよ〜。引きこもり奥様万歳!!

「〇〇家・△△家での夜会のご招待が来ていますが、これは何か口実をつけてお断りしておきます」

「ワァ、ザンネンダナァ」

「棒読みですよ」

お屋敷中を動き回るのだけが私のお仕事じゃないもんね。そうだ、久しぶりに刺繍に没頭してみようかしら。バイオレットのドレスを縫うのもありだし。せっかくだから深窓の奥様ごっこを楽しんでみよ〜っと。

引きこもり——もとい、深窓の奥様ごっこはやっぱり楽しくて、お屋敷の居心地の良さを改めて思い知らされました。

「レティにはまだ針は危ないから、ビーズ貼り係さんね」

「は〜い」

バイオレットと一緒にお裁縫の時間。色とりどりのガラスビーズを糊で布に貼っつけてもらいます。旦那様の部屋に飾るタペストリーを作ってるんです。バイオレットの好きなように配置してもらっているので、でたらめだけどかえってそれがモザイク画のようで斬新で素敵です。

「これはなに?」

「おはなと、とりさんです」

言われてみれば暖色のビーズを花の形に配置してますね。鳥も、それっぽい感じになってるし。

「——ん? この黒いのは?」

草原のような緑のビーズの中に黒い丸っこいものが……。まさか、ね?

「クマしゃんです!」

「おう……」

そうきたか。

ま、まあ。とにかく自由に楽しく配置してるからよしとしましょう。しかし、どれもそれっぽく見えるから、うちの子芸術的センスがあるかも!? すみません、親バカ爆発してしまいました。

「モノトーンの部屋が明るくなるね。出来上がりが楽しみだ」

作業の様子を見た旦那様も喜んでくれています。

「でしょう?」

「ああ。あまりに芸術的すぎて、王宮の大神殿に飾らせてくれと言われたらどうしよう」

「それは困ります!!」

親バカ、増殖中。

「クッションカバーはほぼ一新したし、レティのドレスもたくさん縫えたし、大満足!」

バイオレットといっぱい遊んで、食べて、寝て。何この幸せ〜! あ、もちろん お仕事(・・・) も忘れてませんよ。お屋敷中の食器、カトラリー、傷ひとつなくピッカピカにしてやりました。磨き上げてやりました!

なんて満足の高笑いをしている今日この頃。このまま社交のない平和な日々が続くといいなぁ……なんて幻想を抱いている私に、現実がやってまいりました。

「アルゲンテア家からお茶会のお誘いが来ておりますが、いかがいたしましょう?」

ロータスが招待状を持ってきました。

「お茶会は社交に含まれるのでは!?」

「そうでございますが、アルゲンテア家のお嬢様とは仲良くされていますので」

脊髄反射的に拒否った感じになっちゃいましたが、確かにロータスの言うように、バーベナ様はいつも良くしてくださるので行った方がいいに違いないんだけど……。引きこもりに慣れてしまった身としては、もはやお出かけがめんどくさくなっちゃってるのが本音。バーベナ様、ごめんなさい!

「むむぅ……。行かないといけないのは頭では重々承知してるんだけど、できれば断りたいんだけどな〜。今はあんまり行きたくないんだけどな〜」

らしくなく、ウジウジと悩んでます。

「まだ日がございますので、じっくりお考えください——あ、少し失礼します」

「はぁい」

ロータスが使用人さんに呼ばれて席を外したので、その間に考えておきましょうか。お茶会……。他でもないバーベナ様からのお誘いだし? 断るのは心苦しいし? 断る口実、なんかいいのないかなぁ。って、もう〝行かない気〟満々じゃないですか、私。

体調不良……は、使えないよね。なんのために緘口令しいたんだか。じゃあ、私じゃなくバイオレットの不調? ——うん、これはもっとヤブヘビになるのが目に見えてる。逆に見舞いだのなんだので騒がしくなっちゃうわ。

もっともらしい口実——。

「義父母が来るからその準備で忙しい、とか? ……な〜んて、嘘バレバレか」

「いえ。現実になりそうでございますよ」

一生懸命断る口実を探しているところにロータスが戻ってきました。

「はい?」

「たった今ピエドラのご領地から連絡がございまして、大旦那様たちが近々こちらに来られるということでございます」

「うそん」

なってこった。嘘から出たまことになっちゃった? いや、お義父様たちはめちゃくちゃいい方たちなので、来てもらうことは全然問題ないですよ!

「どうやらアルゲンテア家のお茶会の日程と近いようでございます」

「そっかぁ……じゃあ、今回お茶会はパスさせてもらおう」

嘘でもなんでもなく断る口実できました。ラッキー。

「お茶会をパスされるのは結構ですが、準備に走り回るのはご遠慮ください」

「……はい」

やっぱり過保護モードは健在でした。