軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

全力鬼ごっこ!

「まさか王宮の見取り図が『迷路』として出題されるなんて誰が思います?」

「まあ誰も思わないね」

「でしょう!」

昼間散々 遊んだ(・・・) 迷路がまさかの『王宮の見取り図』と『 公爵家(うち) の見取り図』だったという衝撃を、仕事から帰ってきた旦那様にぶつけているところです。超・超・超極秘であろう王宮の図面を遊びにしてしまうなんて……公爵家、怖いところ!

「さらっと渡された紙ですよ。ただの迷路……パッと見たところではただの箱(部屋)と通路の集合体じゃないですか。いつもは立体的な『景色』としてしか認識してないですし」

「確かに。立体と平面じゃあイメージが違うよね」

「でしょう?」

今では隅から隅まで知っているはずのお屋敷でさえ平面図になってしまうと全然わからなかったし。ましてや王宮なんて、私が知ってる範囲は限られた場所だけだから余計にわかるわけないっつの。

「それで、王宮の図面は頭に入ったの?」

「バッチリですよ! 表の通路も隠し通路も隅から隅までずずずい〜っと!」

「よし、ロータス。グジョブだ」

「ありがとうございます」

何度も何通りも迷路を解きましたからね。

私がドヤ顔でない胸張ってたら、旦那様がロータスを褒めていました。

「これで王宮で何かあっても安心だね」

「もう何もないことを祈ってますけど。って、ちょっとサーシス様! あれはかなり怖かったんですから思い出させないでくださいよ」

「ごめん!」

旦那様が慌てて謝ってるけど……王宮で追いかけっことか二度としたくないわっ!

「でも図面は頭に入ってますけど、実際、現地で動けるかというと自信はないですけどね」

平面と立体は全然違います。

図面の上では動けても、実際色々な要素(壁だとか柱だとか色々)が入ってきたら混乱してしまいそう。それに隠し扉だって、一見してわからないようにカムフラージュされてるし。

私がう〜んと唸っていると、

「そんな難しく考えないでいいけどなぁ。頭の中に地図を浮かべながら動くといいよ」

旦那様はこともなげに言いました。

そんな簡単に……って、そうだ、コノヒトたち そういうの(・・・・・) も仕事のうちだったわ。

「そりゃサーシス様たちはそういう訓練をしてるから簡単なんですよ! 私はそんなのしたことないですから」

「う〜ん。じゃあ今度、うちで実際に見てみるといいんじゃないかな?」

「お屋敷の隠し通路と隠し部屋ですか? 見ていいんですか?」

「もちろん」

「やった!」

さすがに王宮の隠し通路とかは見れないですか。

あれからしばらく経った旦那様のお休みの日。

いつもなら『どこか出かけようか』とか言う旦那様ですが、あいにく今日は家のお仕事が溜まっていたので、ロータスから外出禁止を言い渡されています。

「レティのお父様、お仕事大変ですね〜」

「ぶ〜」

「早く終わるといいですね〜」

「ば〜」

「さぼるとロータスが怖いからね〜」

「きゃっきゃっ」

「おお……すごいウケてる……」

旦那様が仕事をしている間、私はレティと遊んで待っています。私たちだけで散歩とか行っっちゃったら、旦那様、すねちゃいますからね。

今日のお仕事はなかなか手強かったようで、大方片付いたのは、お昼ご飯は終わったけど午後のお茶には早いという中途半端な時間でした。レティはデイジーと一緒にお昼寝してしまいました。

「ざっくり片付いたけど、微妙な時間だね」

「そうですね〜」

目を通して署名した書類を、ロータスが回収しやすいように二人で整えます。

「これから出かけるには遅いし、かといって早めにお茶するのもそんな気分じゃないし」

「そうですねぇ」

「朝っぱらから書類と格闘してたから体が固まったよ。剣を振るか、走るかしたい気分だ」

旦那様が立ち上がり、う〜んと背伸びをしながら言いました。

剣を振るのはわかりますけど、走るって、意味不明。

「どこを走るんですか」

「う〜ん、どこでも? 庭園とか?」

「ベリスに怒られそう」

「確かに」

綺麗に整えられている芝生の上を、歩くではなく走るとなると荒れますからね。……って、前にダッシュしたことありましたね、旦那様。

「じゃあ、屋敷の中?」

「さらに怒られますよ」

「でもヴィーは屋敷の中を走ってるでしょ」

「え、まあ、訓練として」

なんか体術とか剣術とかと一緒に、盛装モリモリで走らされましたねぇ……トオイ目。

「じゃあ訓練の一環として、鬼ごっこでもしようか」

「〝じゃあ〟の意味がわかりません〝じゃあ〟の! でも、鬼ごっこって」

「僕とヴィーとの全力鬼ごっこ。ほら、この間言ってたでしょ『隠し部屋とか通路を見てみたい』って」

「言いましたけど」

「隠し通路の確認もかねて」

「いきなり!? サーシス様が案内してくれるんじゃないんですか?」

「それでもいいけど、遊びの要素があるともっと楽しいでしょ」

「確かに!」

遊びながらだといいですね……って、んんん? って言って、先日も『迷路遊び』したんでしたね! 流されすぎか、私。

でも旦那様はすっかり乗り気になっちゃってるしなぁ。ま、いっか。

「僕が鬼でヴィーが逃げる。勝負はお茶の時間までで、敗者は勝者の命令をひとつ聞くっていうのはどう?」

旦那様がものすご〜くニコニコしながら提案してきました。……なんだろう、負けたら嫌な予感しかしない。

「わかりました。屋敷のどこを通ってもいいんですね」

「もちろん。 表(・) でも 裏(・) でも、どちらでもどうぞ。でもじっと隠れてやりすごすのはなしね、とにかく逃げ切る」

「ふむふむ……。ちょっと面白そうかも……」

「でしょ」

実践に近い訓練デスネ。

裏のお部屋(と通路)も知った今、お屋敷のことはもはや死角なし!

「じゃあ始めるよ。十数え終わったら追いかけるから。い〜ち……」

「えっ、はやっ!!」

旦那様がカウント始めてしまったので、私は急いで書斎から飛び出して行きました。

普段着なので靴はペタンコに近い走りやすいものを履いています。ふふふ、これなら勝算ありかもですね。

お茶の時間まで走り続けるのか〜。そう長くはないけど体力要りますね。直線勝負はなるべく避けましよう。だって旦那様の方が絶対速いもん。

せっかくだし、裏の通路とかお部屋も活用しまくりましょう!

部屋を出たり入ったり、カーブや階段をうまく使って……と考えていたらあっという間にテンカウントは過ぎていて、

「ヴィー! 行きますよ!」

という旦那様の声が聞こえてきました。

言うこと聞くより聞いてもらう方がいい(だって嫌な予感しかしないから)! 頑張りましょう!

書斎のある二階から一階に降りてきた私。続いて後ろから旦那様の足音が聞こえてきます。

ズダダダダダ……と私が廊下を走り抜けていると、すれ違った使用人さんに、

「何やってるんですか?」

と不思議そうな目で見られたり、

「また走る訓練ですか?」

と微笑まれたり。

「ちょっと急いでるんです〜!」

とだけ答えておきます。

直線勝負は避けたいとさっきも言いましたよね。ちょうど使用人さん用ダイニングが見えたので、あそこを通り抜けようと思います。今は休憩時間でもなんでもないので、誰もいないでしょうしね!

急いでいるのでバンッと勢いよく使用人さん用ダイニングの扉を開けると、誰もいないと思っていたダイニングにはカルタムとダリアがいました。

「きゃっ……!」

「曲者!? ……って、マダ〜ム!?」

私を侵入者か何かと勘違いしたカルタムが、とっさにダリアを背にかばいました。曲者じゃなくて私だっていうことに気付いた途端に目を丸くしてましたけどね!

とっさに奥さんをかばうなんて、愛ですねぇ〜! ふぅぅぅぅ〜! ……違くて。

「お取り込み中ごめんなさ〜い! すぐ出て行きま〜す!」

「はぁ?」

ダダダ……と走りこんできたかと思うと、厨房の方の扉から出て行く私をポカンと見つめるカルタム夫妻。……後でダリアにめっちゃ怒られるんだろうなぁ、私。覚悟しとこ。

ちょうど私が厨房から出るタイミングで旦那様がダイニングに走りこんできたみたいで、

「旦那様まで!」

「すまない! 邪魔した!」

とか言ってる声が背中の方から聞こえてきました。

私はまた階段を駆け上がり、二階の廊下に出ました。

確かこの先の部屋に隠し部屋に通じる扉があったはず。せっかくだし使ってみましょう。

私は頭の中の地図を頼りに、その部屋に駆け込みました。

「ここにあるはず……って、本棚!」

頭の地図ではそこに扉があるはずなのですが、そこには本棚が置かれてあります。おいおい、扉じゃないのか〜い! ……って、これがカムフラージュですよね。

よく思い出せ、私。迷路では……ここは内開きの扉……だったはず。ということは引けばいいのか!

私は本棚の端に手をかけ引っ張ってみました。

思ったより軽く本棚は動き、隠し通路へ通じる穴が開きました。

「ふおおおお……って、感心してる場合じゃない」

旦那様の足音が迫ってきています。

私はそっと中に入り、また扉を閉めました。

中は薄暗く、人が一人通れるくらいの広さです。

「頭の中の地図で自分の位置を確認しなきゃ迷子になるわね。ふうん、ここは絨毯敷きなのか」

足元は絨毯が敷かれてあるので足音がしません。きっとこれは中の音が漏れないようにという工夫なのでしょう。敵に隠し部屋を勘付かれたら大変ですもんね!

頭の中の地図を頼りに進んでいると、

「ヴィー。ここに隠れてるのはわかってるんだよ」

「きゃ〜〜〜!!」

どこからか旦那様の声が響いてきました。

旦那様も 隠し通路(ここ) にいるのか!

じゃあ外に出る方がいいわよね? だって旦那様の方がここをよく知ってるだろうし。

よし。一番近くの扉から脱出しましょ!

私はここから一番近い扉に急ぎました。

私が外に出るのと同時に、別の扉から旦那様が出てくるのは同時だったようです。

二階の通路(もちろん表ね!)に出ようと部屋の扉を開けたら、別の部屋の扉を開けた旦那様と鉢合わせしました。

「見つけた!」

「見つかった〜!」

再び私達は廊下を駆け出しました。

お茶の時間は……もうすぐね!

直線勝負は避けたいから曲がらなくちゃ。ああ、階段! 下に逃げましょう。

落ちないように気をつけつつも全力で階段を下りていると、同じように階段を下りてこようとする旦那様が見えました。逃げ切れるか!?

階段を下りきり角を曲がって……って、もうここ廊下しかな〜い! また部屋に駆け込みたいけど扉を開けてる時間も惜しい。

避けていた直線での勝負だけど……仕方なし。私は最後の力を振り絞り廊下を駆け抜けます。

「ヴィー、僕の勝ちだね!」

という旦那様の声がすぐ後ろに迫ったので振り返り、距離を確認したら、あともう少しで手が届いてしまう感じです。

やば〜い!!

捕まる! と思った瞬間。

「何を、していらっしゃるのですか? お二人とも」

ガチャッと重たい音がして、私たちが通り過ぎたあとの部屋の扉が開きました。

二人同時にピタリと動きを止めて振り返ると……。

そこにはいつも以上に笑顔のロータスが立っていました。

それから二人、お茶の時間まで(いや、お茶の時間を過ぎても)ロータスとダリアのお説教をくらいました。

いい大人が家の中で鬼ごっことか、マジスミマセン。

そして、残念ながら鬼ごっこの結果は引き分けということになりました。

ホッ……?

「結局隠し通路のこと、あんまりわかりませんでしたよ」

「じゃあまた今度……」

「今度はちゃんと案内してください! もう、ロータスに頼もうかな」

「ちゃんと案内するから!」