軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

雨の日迷路

ユリダリス様とステラリアの結婚式は大きな問題も起こらず(当たり前!)、つつがなく終わりました。

祝福のフラワーシャワーに、旦那様の部下のみなさんが混じっていたのには驚きましたが。みなさんお仕事どうしたんですかね?

そして、結婚するにあたり、ユリダリス様はプルケリマ侯爵領の一部の『なんちゃら伯爵領』をもらうことになりました。

「これからは〝伯爵様〟ってお呼びした方がいいのかしら?」

ってユリダリス様に言ったら、

「堅苦しいし呼ばれ慣れてないんで返事しませんよ」

って笑われました。

そして式が終わると、余韻に浸る時間もなく、みなさん王宮へと戻って行きました。お仕事の時間です。上司だけサボらせるわけにもいきませんから、もちろん旦那様も一緒に連れて行ってもらいましたよ! まあ、いつものごとく、ユリダリス様が『はいはい、ふくたいちょーも一緒にお仕事行きましょうね〜』って引っ張って行ったんですが。

結婚式からしばらくして、新居が無事に完成しました。

「別棟と似たような感じなんですね。とっても住みやすそう」

「同じ敷地内だから本館や別棟と建築様式なんかが変わると違和感あるでしょ」

「なるほどなるほど」

出来上がったばかりの〝プルケリマ家〟をユリダリス様とステラリア、旦那様と一緒に見学させてもらいました。

本館とは対面の端に建てられた新居は、別棟をふた回りほど大きくした感じです。ウッドデッキはありますが、その前は池ではなく芝生の青々とした庭になっています。

別棟と同じような建物にしたのは旦那様の説明の通りです。確かに、同じ敷地内で違ったテイストの建物とかあったら、庭園の調和を愛するベリスに怒られそうですしね。

「今度からプチ家出する時はここに居候させてもらおうかな」

「いやいや家出しなくていいから」

「別棟に家出はダメなんでしょう?」

「こっちの方がもっとダメです!」

「ブーブー」

「新婚の邪魔しない。そんなに別棟がいいならしばらく別棟で生活する? なんなら今からでも」

「えええ〜!」

なんかスイッチの入った旦那様にズルズル……と別棟に連行されてしまいました。いや、別棟で生活しないけどね!

「さぁヴィー。お邪魔虫はさっさと退散するよ」

「あ〜れ〜」

数日後、ステラリアとユリダリス様は新居に引っ越していきました。

新居から本館までは庭園内に小道が整備されたので、ステラリアは公爵家の敷地を出ることなく安全に〝通勤〟しています。でも、本館と新居は少し(いや結構)離れているので、一人だと寂しくないかなぁって気になるんだけど。

「いつも一人で〝出勤〟してくるの? ユリダリス様の朝ごはんとか、どうしてるの?」

「朝一緒にこちらにきて使用人用ダイニングで一緒に摂ってますわ」

「なるほど。で、夜は?」

「ユリダリス様が定時終わりの時は使用人用ダイニングで私の仕事が終わるのを待ってくださってるので、一緒に帰っています」

「お屋敷内をさらに騎士様の護衛付きとは! うん、安全第一!」

「うふふふ。でも忙しい時は一人で帰りますよ」

「その時はカルタムに送ってもらってね」

「そうします」

新婚さんの生活も落ち着いてきて、お屋敷も通常運転に戻りました。

今日は朝から雨が降っています。

いまだに雨は憂鬱なものです。

だって大好き家事仕事ができないどころか、厳しいお稽古が待ってるからねぇ……。

私が上達したから最初の頃よりは易しくなりましたが、それでも手を抜いてるとバレたら、『おや、余裕ですね』とかなんとか言って『ターン連続○回』とか、難しいステップばかりぶっ込んでくるとか、ロータス〝鬼〟教官は健在なんですよ。

旦那様をお見送りしたらレッスンの開始です。

今日はダンスからでしょうか? それとも体術? 剣術?

覚悟の決まっている私はどれが来てもいいように構えていたのですが、

「今日は迷路遊びをしましょうか」

「は?」

ロータスの口から出た言葉に拍子抜けしました。

「迷路遊び?」

「ええそうです。面白い迷路がありますので、それを制限時間内に解くというものです」

「すごく面白そう!」

珍しい遊びに、私はすぐに飛びつきました。

「この印は内側からしか出られません。こちらは逆に外からしか入れません」

「ふむふむ」

大きな紙に描かれた迷路。それをサロンのテーブルに広げて、私はロータスから、迷路のお約束に関する説明を受けています。

迷路は大きく三つのステージ(?)から構成されていて、それぞれは何箇所かの通路で繋がっています。

入り口や出口はいくつもあるようです。普通で入り口は一つずつじゃない?

それに迷路の中には、外側からしか通れない入り口、内側からしか通れない入り口があります。ちょっと変わった迷路ですね。

出入りする方向が決まってるところがあるので、なんの制約もない迷路より難しくて面白そうです。

「ではまず、この入り口から入ってこちらの出口から出てください。用意……始め!」

「はいっ!」

ロータスは声をかけると同時に砂時計をひっくり返しました。

大きな空間(部屋?)があるかと思えば小さめの空間もあるし、通路らしきものも太かったり細かったりと何種類かあります。よく見ていると部屋の大きさや通路の太さに規則性はあるんですけど、そんなものをじっくりと見ている暇はありません。時間内に脱出しなきゃ。

「ここからこう通って、こう行けば……うん、出たわ」

ドヤ顔でロータスを振り返ったら、砂時計を確認してにっこり微笑んでいました。

「なかなか早くできましたね」

「えっへん!」

砂時計が半分も落ちないくらいで解けましたからね! 楽勝です。

「これはほんの小手調べですから、あっという間でございましたね。では、次のルートにチャレンジしましょうか」

「はいっ!」

同じ迷路を使いますが、さっきとは別の入り口から入って別の出口から出るという課題を出されました。

さっきのよりも遠くて複雑そう。やる気湧いてきましたよ〜!

「では……始め!」

「よっし!」

ロータスの合図と同時に私の指が迷路の上を走り始めました。

「ええ……と、ここを通って……あら、行き止まりだわ。じゃあ、こっちは……あらやだ内側からしか通れないじゃない!」

今度はなかなか一筋縄ではいかなくて、何度もやり直しています。

もたついている間にもどんどん砂は落ちていく〜! い・そ・げっ!

「できた!」

「終わり!」

私が出口に到達したのとロータスが終了を知らせたのはほぼ同時でした。

「間に合った?」

「まあ、おまけで合格としましょう」

「やたっ!」

「では、次はもっと難しいですよ」

「頑張りますよ〜!」

それからも出口と入り口を変えて何通りも遊びました。

しかし何回もやっていると出入り口の方向(外側からなのか内側からなのか)を覚えてくるので、迷路内の距離が増えても脱出する時間はどんどん短くなっていきます。

「もうこの迷路、すっかり頭に入っちゃったわ」

迷路の描かれた紙を持ち上げ、端から端まで見ました。

「そうでございますか。記憶力がよろしいですね」

ロータスが満足そうに微笑んでいました。

楽しく遊んだけど、これいったい、なんの役に立つのかしら? ——面白いから、まあいっか。しかも『記憶力いい』って褒めてもらえたし。

「うふふふふ〜」

「では違うものにいたしましょうか」

「まだあるのね! やるやる〜」

ほぼ全ての出入り口を制覇したところだったので、また違う迷路あるなら新鮮でいいですよね。

ロータスは私からさっきまでの迷路を受け取ると、また違った迷路の描かれた紙を渡してくれました。

今度も大きなステージが三つある迷路です。

「さっきのは一つ一つのステージが四角かったけど、今度のは〝コ〟の字型をしているのね」

「左様でございます」

「これもさっきと同じルール?」

始める前に『外開き』『内開き』などのお約束を確認しておきましょう。

「はい。同じ規則で描かれておりますので、外開き扉、内開き扉にご注意ください」

「了解!」

さっきの迷路のおかげで 印(しるし) はすっかり頭に入ってます。

「では、まず初級から」

「は〜い」

「用意……始め!」

ロータスが砂時計をひっくり返すと同時に、私は指と目を、迷路に走らせました。

二枚目の迷路もルートを変えて何度もトライしました。今回もすっかり迷路(地図?)が頭に入りましたよ!

「目を閉じたらまぶたの裏に蘇る二つの迷路……夢に出てきたらどうしよう」

二つの迷路が残像のように残っています。たかが迷路なのに……って私は思っていたんだけど、ロータスは違ったようです。

「それくらい熟知しておかれると大変よろしいかと存じます」

「なんで?」

にっこり笑っています。何かそんなに褒められるようなことしたっけ?

「お気付きではございませんか?」

まだ微笑みうかべたまま私を見てきます。

「?」

「そうでございますねぇ……ヒントは二枚目の迷路の〝大きな空間の位置〟でしょうか」

「二枚目の、空間の位置?」

ロータスがちょんちょん、と二枚目の迷路を指差しながら言いました。

さっきも言ったけど、この迷路、大きな空間と小さな空間、そしてそれらを繋ぐ大なり小なりの通路と扉から構成されています。

「空間の……位置……んんん? わかんない。さっぱりわかんない!」

「まあまあそうおっしゃらず、よくご覧ください。奥様もよくご存知の配置でございますよ」

ただの迷路じゃん! と逆ギレしそうになった時、ロータスがもう一つヒントをくれました。

よく知ってる配置?

「〝コ〟の字型で、真ん中に太い通路があって……大きな部屋が続いていて……おや?」

なんかモヤっと頭の中にその形が浮かんできました。

「この部屋からは外側に出入りできる扉があって隣の部屋に出入りする扉もある。そして隣の大きな部屋には外側に出入り口がないけど太い通路には出入りできる……」

サロンから隣のメインダイニングに通じる扉がある。サロンから庭園に出入りする扉はあるけど、ダイニングからは庭園に出られない……!

一つピースが嵌ると、その他の部屋なり通路なりがどんどん頭の中で立体化し、構成されていきました。

これ、 公爵家(うち) の見取り図じゃない!?

「ロータス! これって、お屋敷の見取り図じゃ……」

「やっとお気付きになられましたか」

「お気付きにって……うちのお屋敷は迷路だったの!?」

「そうじゃなくてですね」

ロータスの笑みが苦笑に変わりました。

迷路をよくよく見たら、まったく、うちのお屋敷でした。

「全然気付かなかったわ」

「そもそも〝これは迷路〟と思って見ておられたからですよ。これが〝お屋敷の見取り図〟だという先入観があればまた違って見えていたでしょうけど」

確かに、私は〝ただの迷路〟としか見てませんでしたからね。てゆーか、迷路の形が〝コ〟の字の時点で何か気付こうよ私……。

図面を見ながら自分にツッコミを入れていましたが、でも一目見てそれだと気付かない、ちょっとした違和感があるんですよね。

こんなところに細い通路なんてあったかしら? とか、この小部屋、なんだろう? とか。

「そうね〜。でも……」

「どうかなさいましたか?」

「私の知らない通路とか小部屋があるんです。ほら、こことか、こことか。だから気付かなかったんだと思う」

気付いた違和感をロータスに言うと、

「それは『隠し通路』と『隠し扉』でございますよ」

にっこり。またロータスは満足そうに微笑みました。

「隠し通路と隠し扉ぁ?」

「はい。緊急時に旦那様や奥様、場合によっては私どもも、そこに身を潜めたり、もしくは通路を通って脱出したりするためにございます」

「そんな緊急時怖い」

「主人方を安全に逃がすための大事な設備でございます」

「まあ……そうだけど」

そんな緊急事態、起きてほしくないです。平和万歳。

「これで奥様は、名実ともに公爵家の隅から隅までを把握されたということですよ」

「あら」

「今度、実際に見てみるのもよろしいですね」

「そうね!」

毎日あちこちウロウロしてるから隅から隅まで知ってると思ってたけど、奥が深いなぁ、公爵家!

私が妙な関心をしていると、ビリビリ! という音が聞こえました。

何を破いてるのかしら……ってロータスの手元を見たら、それ、さっきまで迷路遊びしてた公爵家の見取り図〜〜〜!!

ロータスが公爵家の見取り図を見る影なく破いてしまいました。笑顔なのが怖い。

そしてその紙くずを集めると、さっさと暖炉に持っていって焼いてしまいました。

「門外不出でございますからね」

「ソウデスネ」

こうして公爵家の秘密は守られてるのですね!

* * * * * *

「ところでもう一枚の迷路、あれはなんだったの?」

「あちらは王宮でございますよ」

「は?」

「王宮」

「…………それも破いて焼かないの?」

「厳重に保管しております」

「!?」