軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

始まりは何気ない一日 〜フィサリス公爵家の長い一日1〜

「ユリダリスは僕の補佐官になったんだよ」

「はい」

「ユリダリスは『近衞騎士隊副隊長補佐』になったんだよ」

「はい。さっきも聞きました」

「だから僕の代理としてユリダリスが行ってもいいんじゃないか? いやむしろ、行くべきじゃないのか?」

「…………」

今日、お屋敷に帰って来てからずっと旦那様が真剣な顔で駄々をこね……げふげふ、言い募っています。

何をそんなにグズグズ言ってるのかというと、来月予定されている国王様の隣国訪問に付き添って出張しないといけなくなったからだそうです。なんでも、今日の会議で決まったとか。

国王様が行くなら近衞隊長だけでいいんじゃないの? と言いたいところですが、今回は王太子殿下も一緒にお出ましなので旦那様も行くことになったのです。

しかしそこは旦那様。

「近衛だと、前みたいに家を空けずに済むはずだったのに! 何のために近衞に異動したと思ってるんだ」

いつものセリフを吐いています。

何のためにって、特務での勤務が長すぎると面割れの危険性が高くなるからいけないと言ったのはあなたでしょうが(特務はスパイ的な活動をする部署なのでね)。

「他国に面割れしてはいけないからでしょう?」

「そんなもの、口実にすぎない!!」

「…………」

いっそ清々しいほどに言い切りましたね、旦那様……。

まったくコノヒトは! 変なところでブレない旦那様に笑いがこみ上げてきますが、ここで笑ったら『ヴィーは僕がいなくても平気なんだね』とか言って拗ねそうなので我慢我慢。

「でも王太子様もいらしゃいますから、ここはサーシス様が行かないと」

「だから、そこは代理でもよくないかと言ってるんだよ」

「ええ……またそんな……」

トップ(ペルマム隊長)とナンバー2( 副隊長(だんなさま) )がいない間の代理として『補佐』がいるんじゃないでしょうか? ユリダリス様なら安心して留守を預けられると思いますよ?

「ユリダリス様がお留守番なのがご心配なんですか?」

「そうじゃなくて! 僕の代わりにユリダリスを出張に行かせるために……あっ」

「ご自分のお仕事はちゃんとご自分でなさってくださいませ。ステラリアにも怒られますよ」

「…………はい」

本当に困ったちゃんな旦那様です。

そんな風ふうに出立前はぐずっていましたが、なんだかんだ言いながらもちゃんとお仕事はする旦那様。

「あ〜。憂鬱だ」

「アンバー王国で美味いもんいっぱい食べてきてくださいね〜」

「ヴィオラと一緒じゃなきゃどんな料理も砂と変わらん」

「はいはい。さっさと行きますよ〜」

「くそ! 何のためにお前を補佐にしたと思ってるんだ?」

「え? お留守番のためでしょ?」

「…………」

公爵家、朝のエントランス。

旦那様とユリダリス様が仲良く言い合ってます。

なぜユリダリス様が公爵家にって? それは、旦那様が出かけるのを渋るだろうと予想して、うちまで迎えに来てくれたのですよ。さすがです。

飄々と答えるユリダリス様を恨めしげに睨む旦那様。しかし、ホントこの人たち仲良しさんですね!

私は旦那様とユリダリス様のやり取りを面白く見ていたのですが、

「旦那様、そろそろ本当に出発しないと間に合わなくなります」

このまま延々と続いていきそうな二人の会話をロータスがぶった切りました。さすがです。

「わかった。……じゃあ、ヴィー。行ってくるよ」

やっと覚悟を決めた旦那様にハグされ頬にキスされます。

「お土産、楽しみにしてますね~」

「手紙も書くから」

「たったの半月ですよ! お手紙やり取りしてる間に、サーシス様本人が帰って来ちゃうんじゃないですか!」

「それでも」

「はいはい。では楽しみにしていますね! お気をつけて行ってらっしゃいませ」

そう言って私もハグを返し、笑顔で手を振りお見送りしました。

「もう、毎回出張行くたびにこれだと、ロータスどころかユリダリス様にも呆れられてしまいますよねぇ」

「以前ほど家を空けることはございませんのにね。よほど奥様と離れるのがおいやなのですよ」

困ったちゃんな旦那様にため息をついていると、ダリアが優しく微笑みながら言いました。

「それほど愛されてるということですわ!」

ステラリアも生温かい……いや、ニコッと微笑みながら言ってます。そんな、みなまで言われると恥ずかしいよ。

「旦那様の代わりにユリダリス様を出張にって……いつかステラリアに刺されるわね」

「いえ……さすがにそれは……」

苦笑いするステラリアです。

旦那様が出張に行っている間、特に用事のない私はいつも通り過ごしますよ。

朝は使用人さん用ダイニングで朝食をとり、昼は使用人さん用ダイニングで昼食をとり、夜は使用人さん用ダイニングで賄い晩餐をいただき……って、毎食じゃん!! いいんです。みんなでワイワイ食べるの、やっぱり楽しくて好きなんですもの。それにここで食べるのも、すっかり旦那様のお墨付きだしね☆

お一人様であの広々としたダイニングで食べるのは、やっぱりどうしても寂しいから嫌なんです。

結婚当初はホントにぼっちで寂しかったのですが、今では旦那様と一緒にいる時のことを思い出して、さらに寂しくなっちゃう感じです。旦那様が帰ってくる日を指折り数えたりするようになるなんて、あの頃の私には想像すらできなかったなぁ。

旦那様が恋しくなってきたなぁってタイミングで、お手紙がきました。

どこかで見張られてるのかしら?? そういえば旦那様(とその部下さんたち)はそういうのが得意な人ですからねぇ。って、さすがにそれはないか。

使者様が届けてくれたのは、戦に出ていた時のように分厚いお手紙。そこにまた笑いがこみ上げてきます。でも今は大丈夫。便箋が何枚にもわたってようが、ちゃんと読めますよ! 今回のお手紙は『アンバー王国リポート』って感じです。

「素敵な国ね、行ってみたくなるわ〜」

「そうですね。とても穏やかな国だそうですし」

手紙と一緒に届けられたアンバー王国特産の花を見ながら、私たちは隣国に想いを馳せるのでした。

旦那様を想う時は長いような短いような。明日には旦那様が帰って来るという日になりました。

朝起きたらまずお仕着せに着替え、朝食を使用人さんたちといただきます。

「今日はいい天気だから、庭いじりにぴったりね! 旦那様からいただいた花を植えましょ」

「よろしいですね」

「デイジーも一緒にお散歩いきましょうね〜」

「デイジーも連れて行くなら上着を取ってきますね〜」

雲一つない晴れ渡った空に、お日様の光が心地よいいい天気です。まだちょっと寒い時期なのですが、こういう日は外で土いじりが楽しいのですよ。

私はミモザとデイジー、そしステラリアを従えて、お気楽ワタシ庭園に向かいました。

ワタシ庭園には以前の外出で旦那様が買ってくださった花や、ピエドラの領地で買ってきた花など、結構いろいろなものが植わっています。それだけではありません。旦那様ったらことあるごとに花をプレゼントしてくださるので、ワタシ庭園がどんどん充実してきてます。先日の改修の時にここも拡張してもらったというのに、もうすぐにいっぱいになりそう。

旦那様が送ってきてくれたお花を適当な場所にいい感じに植えます。ええ、相変わらずアバウトですが何か?

雑草などは毎日のように手入れしてるからほとんど生えてないので、そのまま庭園でゆっくりすることにしました。

天気がいいので東屋ではなく芝生の上に敷物を敷き、ゴロゴロしながら花を 愛(め) でます。花と同じ高さで愛でる。 愛(め) で倒す。上から覗き込むのとは違って新鮮ですね。ちょっと虫の気分。

「かわいいね~、綺麗だね~。また他の色も欲しくなっちゃいますね~」

白、桃色、赤。小さな花が風にゆらゆら揺れています。かわゆし。

ピエドラで買ってきた花は、ハート形の葉がキュートです。

う~ん、どれもかわいいなぁ。綺麗な花は見てるだけでも癒されますねぇ。

「そうですね〜。花を植える場所も増やしてもらいましたし、何と言っても快適な東屋まで建ててくださいましたし」

ミモザが、以前よりも広がり手入れされた『ヴィオラ庭園』を見渡しながらしみじみ言います。

「そうだね! あ、せっかく広げてもらったことだし、違う種類の花も欲しいなぁ。そうだ、お小遣いもできたことだし、思い切って自分で買っちゃおうかな~。あ、公園とか、道端で摘むっていうのもあり……」

「ません。それはやめてください。ベリスに言えば何でも仕入れてくれますよ! あ、でもそこはむしろ旦那様におねだりするべきではございませんか? 奥様のおねだりでしたら、旦那様、喜んで買ってくださいますよ!」

道端で摘む発言したら、ステラリアが食い気味に止めてきました。やだなぁそんな真顔で止めなくても〜。冗談なのに、冗談!

「さ、奥様。いくら日差しが暖かいとはいえ、あまり長居しているとお風邪を召しますよ〜。まだ風は冷たいんですから」

過保護なミモザが早く部屋に入ろうと言いますが、私の体にはしっかりと温かい毛布が掛けられてるんです。もうちょっとかわいい花を愛でていたいんだけど、でも結構時間経ってますね。そう言われると、ちょっと体が冷えてきています。

「え~、大丈夫よぉ。毛布だって掛けてくれてるのに! ――へっきし」

「ほら! 言ってる傍から。もうお部屋に入りましょう」

ステラリアがじとんと睨んできます。

「違う違う。ちょっと鼻がムズムズしただけよ!」

「おーくーさーまー!」

ミモザも怖い顔で睨んできます。ハイ、くしゃみしましたごめんなさい。

ちょっと分が悪い私は、

「ねぇねぇ、ミモザとリアは『武士派』?『騎士派』?」

「「え?」」

「くしゃみが『へぶし』になるか『へっきし』になるか~」

ニヘッと笑って怒られるのを回避しようとしたんですが、

「はいはい、さ、奥様、しょーもないこと言ってないでお部屋に入りましょうね~」

「お部屋の中でゆっくりいたしましょうね」

しれっとながされてしまいました。

「ぶーぶー。でも私よりもデイジーが風邪ひいちゃかわいそうだから、そろそろ戻りましょうか」

実はちょっとぶるっと悪寒がしたんですよね~。それを二人に言ったらマジ怒られるし、心配度合いがすごいことになるのが想像つくので、ここは黙っておきましょう。ちょっとしたことで心配させるのは申し訳ないですもんね。デイジーにかこつけて退散です。

口ではぶーぶー言いながらですが、大人しく連行されることにします。

しかしこの時の私は知りませんでした。

この後すぐ、この何気ない平和な日常が大きく揺すぶられるということを——。