作品タイトル不明
デートの乱入者
「今日はお姉様方の旦那様たち、どうされてるんですか?」
うちの旦那様は置いてきましたが、お姉様方の旦那様はお仕事でしょうか?
職場や職種によってお休みが違うのがフルール王国では一般的なので、夫婦共働きだとお休みを合わせるのもなかなかタイミングが難しいと思います。
綺麗どころトリオはうちの旦那様と同じ職場だから、だいたい三〜四日に一度お休があるという感じでしょう。
もしかして今日がその、旦那様との貴重な一緒のお休みの日だったら申し訳ないなぁと思いつつ聞いてみると、
「大丈夫、今日は三人とも仕事してますよ」
「誰かさんと違ってね!」
「「「「ブッ……!!」」」」
誰かさんって、うちの旦那様ですよね、はい。
お姉様方、やっぱり狙って今日を選んでましたね! 旦那様が知ったら(って、旦那様は既に確信してましたよね)激怒しそう。でもお姉様方は気にしないんでしょうね。
テーブルに並んでいた全種類のケーキは、おしゃべりしている間にみるみるお姉様方の胃袋に収まっていき、なおかつ、
「まだ足りないわねぇ」
というアンゼリカ様の一言でさらに追加されました。
私も全種類を一口ずつ味見させていただけたので大満足です。旦那様ときてもさすがに全種類制覇っていうのはないのでうれしいですね。
それからもいろんな話——仕事場での旦那様のことや騎士団メンツの楽しい話などで盛り上がりました。
「あー、そういえば、ちょっと前でしたけど副隊長が『プルケリマ小隊長は男を好む』とか言うデマを流したときには大騒ぎでしたねぇ」
そう言ってクスクス思い出し笑いをするカモミール様。
はぁ? 旦那様が!? ……なんつーいたずらを!! そんなことする人だったの??
「ええ? 旦那様が??」
「はい! その前に王宮・騎士団女子の間で『小隊長に口説いて欲しければ目を合わせろ!』とかいう噂が流れて、小隊長を狙う女子どもがこぞって熱い視線をよこしてたんですよ」
「さすがにいろんなところでその熱視線を浴びて鬱陶しくなった小隊長が発狂していたら、副隊長が助け舟を出したのよね」
「そうそう。『ただし男に限る』ってね! 副隊長ったら、噂を聞くたびに訂正して回ったらしいですよ〜」
「…………」
旦那様、それ絶対助け舟じゃない。
「それを聞いて、小隊長を狙ってた女子は阿鼻叫喚。同じく小隊長を狙ってた男子はここぞとばかりに熱視線を送り、それを見て一部のマニアックな女子は鼻息を荒げるっていう、なんとも面白い……コホン、カオスな状態だったんですよ!」
「あれは面白かったわぁ」
「うんうん。小隊長、しばらくずっと戦闘体勢だったもんねぇ」
襲ってくるヤローどもをちぎっては投げちぎっては投げ……と、楽しそうに語るお姉様方。
さすがユリダリス様! 仕事ができるだけじゃなく男女問わずモテモテなんですね! って、違うか。
あ、でも、王宮でそんな噂が流れたら、女官をしていたステラリアの耳にも入ってるんじゃないですか!? 公爵家(うち) にきた後ならいいんだけど……。
「その噂って、いつ頃のことですか?」
噂の流れた時期がちょっと気になって私が聞くと、
「ええと、もうかれこれ半年以上は前じゃないでしょうか?」
唇に指を当て、思い出しながらアンゼリカ様が答えてくれました。
半年前……おぅ……ステラリア、まだ王宮にいたかも知んない。ひょっとしたら、ステラリアはその噂知ってるのかも。
あ〜、うちの旦那様が申し訳ないことした〜!
「それで、その噂はどうなったんですか?」
「小隊長が副隊長とお話し合いしたそうですよ……拳で」
「お〜……」
そっか、拳で話し合いするくらいに切羽詰まってたということは、ステラリアに知られてたんでしょう。
ユリダリス様、あなたは殴ってもいい!
「結局、副隊長が噂の回収してたわね」
「そうそう。あれはデマだって。本命(♀)いるから諦めろってね」
そりゃそうです。自分で蒔いた種ですきっちり回収してください!
旦那様のやらかしたいたずらに私がこめかみを押さえていると、
「そういえばその本命の人って、こないだ小隊長が婚約した人ですよね? 奥様の侍女をされてるんじゃありませんでしたか?」
カモミール様が聞いてきました。
「そうです。とっても素敵な人なんですよ〜!」
「その前は王宮女官をやってて……」
「はい!」
「あ〜だから、小隊長、噂を否定するのに必死だったんだわ」
「副隊長殴っても!」
「「「なるほど〜」」」
みんなでユリダリス様の行動に納得していた時でした。
「……ん? なんか人影」
「怪しい感じ?」
私たちの席は、今日もお店の一等席、隣接する公園の花壇が一望できる場所です。
アルカネット様が、店からそう遠くない場所にある大きな木を密かに指差し、カモミール様とアンゼリカ様に注意を促しました。
三人とも表情はさっきの談笑している時のままなのに、周りの空気がピリッと張りつめました。一瞬でお仕事モードに入ったお姉様方、かっこいいです!
でも何ですか? 不審者とか? え? 私、自分の身しか守れませんよ!?
「え?」
ちょっと不安になった私がアンゼリカ様を見ると、
「あ、奥様は心配しないで大丈夫ですよ〜。私たちがいますからね!」
安心させるように優しく微笑みかけてくれました。
そうですよね。よく考えると、一緒にいるのは騎士団の中でも実力が上位という現役騎士様ですよ。大丈夫!
「あの木陰に……四人、かしら」
「そうね」
「誰を狙ってるのか知らないけど、ただじゃすませないわよ」
「こっそり背後をついて捕まえる?」
「いえ、ちょっと様子を見ましょ」
一見笑顔でなごやかな雰囲気のままなのに、交わされる会話は穏やかではありません。ひえ〜、私素人です! もし万が一の時には足手まといになっちゃう!
一人ドキドキしながら引きつり笑いを浮かべていると、問題は向こうから解決してくれました。
お姉様方が警戒していた木の幹の影から、ドサーっと男の人が四人こぼれ出てきたのです。
地面に転ぶことなく軽やかに体勢を整えたのは、立ち姿も綺麗な濃茶の髪の男の人で……って、えええ!? 旦那様!!
他の三人は地面(芝生)の上に積み重なっています。黒いローブを着た人、王宮での正装を着た人、騎士様の制服だけど見たことない色——青色を着た人です。
後の三人は誰だかわからないけど、確実に一人は旦那様じゃないですか!! あんな美形、他人の空似とかないわ。
「旦那様!」
「「「うわぁ……うちの旦那だ……」」」
私の叫びとお姉様方が頭をかかえるのは同時でした。え? 旦那様なんですか?
「旦那様……なにやってるんですか」
急いでレモンマートルのお店を出て旦那様たちのところに急いだ私たち。
逃げることなくその場にいた旦那様をじとんと睨んだのに、旦那様ったらにへらって笑って誤魔化そうとしてます。
「え〜と、ちょっと散歩に出てきたらたまたま偶然ヴィーたちを見つけたんだよ」
「……ロータスに聞けばすぐにバレますよ?」
「ごめんなさい」
「帰ったらゆ〜っくりお話しましょうね」
「わぁ……。ヴィーとお話ってうれしいはずなんだけど、今日は嫌な予感しかしない」
やっぱりこっそり抜け出してきたようで、ロータスの名前を出すとあっさり白旗を揚げました。
私たちの横では、それぞれお姉様方(とその旦那様)が、
「仕事はどうしたの!」
「え〜、休憩中にちょっと出てきたんだよ〜」
「嘘おっしゃい。あなたの休憩時間だと、ここと王宮往復するだけで時間無くなっちゃうでしょ」
「誰に仕事を押し付けてきたの?」
「さっさと仕事に戻りなさーい!!」
そんな会話が繰り広げられていました。……いずこも同じですね。
とりあえず旦那様方はみんな仕事中(旦那様はお休みだけど家のお仕事中)なので、さっさと王宮とお屋敷に帰らせました。
ほんともう、油断も隙もありゃしない。ロータスがキレてませんように!! いや、キレてもいいか。
その後しばらく町の中をお散歩してからお屋敷に帰りました。
旦那様や家族以外とこうしてお散歩することなんてなかったので、とっても新鮮でいい気分転換になりました。
でもお屋敷に帰ったら旦那様とお話しないといけませんね!
私が綺麗どころトリオに送られてお屋敷に帰ると、一番に飛んできそうな旦那様がいませんでした。ロータスもいません。
「あれ? 旦那様は? 先に帰ったはずよね?」
出迎えてくれたステラリアに聞けば、
「はい。帰ってこられておりますが、まだ書斎から出てきておられません。奥様が帰られたことをお知らせはしたんですけど、仕事が忙しくて手が離せないからとおっしゃって、そのまま続行なさっています」
苦笑いしながら答えてくれました。
はは〜ん、これはロータスに捕まって書斎で軟禁されてますね。
ロータスを出し抜いてサボった分、しっかり働いてくださいよ!
結局旦那様は晩餐までにお仕事が終わらなかったので、遠慮なく一人で先にいただきました。
そしてようやく旦那様とゆっくりお話できたのは、もう寝る直前でした。
「ごめんなさいごめんなさい」
「何ですか旦那様」
「わぁ……『旦那様』呼びに戻ってる」
「どうかしましたか 旦那様(・・・) 」
「ちょー他人行儀になってる」
ベッドの上、正座で旦那様と向き合っています。
旦那様はさっきから平謝りしています。
いつもは『サーシス様』って呼んでますけど、さすがに今日はそんな気分じゃない。怒ってるんですよ、私は!
「今日は溜まってるお仕事してるんじゃなかったんですか?」
じとんと旦那様を睨めば、
「資料が足りなかったから集めてもらってたんだ。で、ちょっと疲れたから散歩に……」
「ふうん?」
しどろもどろに言い訳をする旦那様。いつもは流暢におしゃべりする人だから、余計にバレバレですよ!
見え見えの嘘なんかつくから、さらにじっと旦那様の濃茶の瞳を見ると、
「ヴィオラが心配だったからつい見に行っちゃっただけだよ! もうロータスを出し抜いたりしませんから! もう女子会を覗いたりしませんから許してください!」
旦那様はガバッと頭をベッドにつけました。
まあ、私が心配だったからっていうのは本当なんでしょう。いつも過保護ですからねコノヒト。でも行き過ぎはよくないんですよ、たまには自由も大事なんですよ。
とか言ってるけど、だいたいいつも自由にさせてもらってますね。
あんまりいじめるのもかわいそうかな。きっとロータスにこってり絞られてるでしょうし。
「旦那様、本当ですね?」
「本当です!」
真っ直ぐ私の目を見て断言する旦那様です。これなら大丈夫でしょう。
私は睨むようになっていた目力を緩めました。
「もういいです。お仕事も終わったんですよね? じゃあもう寝ましょう」
「ヴィー、許してくれた?」
「はい。もうしないんですよね?」
「もちろんです! じゃあ、許した証拠にそろそろ名前で呼んでほしいんだけど………」
旦那様がおずおずとお願いしてきました。
はいはい。仕方のない人ですね。
では。
「サーシス様。さっさと寝てください」
「わかりました」