作品タイトル不明
混乱
旦那様をおびき寄せて拉致るつもりのオーランティア王太子兄妹。
ちょ、えらいこと聞いちゃいましたよ私!!
驚きのあまり、息が止まります。
ここは夜会会場の外。明るく賑やかな会場とは反対に、恐らく王太子兄妹と私くらいしかいません。
しかも、どう聞いてもわっるいことを相談していたようですから、偶然とはいえこっそりと話を聞いていたのがバレるとかなりまずい状況です。ここは隠密スキルをいかんなく発揮して、壁と一体化しましょう。
音をたてないように細心の注意を払って、さらに暗いところに移動しました。今夜が月の出てない夜でよかったです。大広間からこぼれる明かりと庭の松明の明かりが届くところ以外は濃い闇だからね!
そして、壁にめり込んじゃうんじゃないかと思うくらいに体を押し付け、息を殺し、闇に紛れます。
まだ何か重要なことを言うのなら、聞いておかねばなりません!
そうしてじっと二人の様子に注意していたのですが、さっきので密談が終わったのか、王太子兄妹は案外あっさりと会場へと戻っていきました。
「ふぁぁぁ~。びっくりした」
大きく深呼吸しながら、逸る鼓動を落ち着かせます。
って、こんなところでゆっくり落ち着いている場合じゃありませんよ! こうしている間にも旦那様に危険が迫ってるんです!!
今聞いたことを誰かにお伝えせねば……!
私は、今度はこっそりと、会場に戻りました。アノ人たちに、私が今まで外にいたことがバレではいけないのです!
そっとガラス扉を開け、中をきょろきょろと偵察し、誰もこっちを見ていないことを確認してから素早く体を滑り込ませました。
幸い誰にも気付かれずに会場に戻ることはできましたが、さて。これからどうしましょう?
……とりあえず、私一人がどうこうできるはずもありませんから、騎士団のどなたかにこのことをお伝えした方がいいですよね!
私の知っている騎士団の方といえば、元特務師団の方々だけです。旦那様曰く、みんな仲良く近衛に異動なさったそうですから、今日は王宮内で警備に当たってるかしら? ということは、大広間の外にいる? あ、でも、さっき旦那様を呼びに来た部下さんは、お給仕の使用人さんに変装していましたよね。
え? じゃあなに? 今日は変装して会場内に紛れてるってこと?! それともちゃんと近衛の姿で警備に当たってるの?! どっちなんだろ?? ちょ、紛らわしいことしないでほしいです!! って、お仕事にケチつけちゃいけませんね。
とにかく。変装しているならば会場内で見つけられるはず。
私はさりげなく会場内を見渡し、お給仕の使用人さんを探しました。
今日の招待客はそう多くないとはいえ、結構な数です。それをもてなす使用人さんたちもかなりの数がいるわけで。制服姿の使用人さんは着飾った方々の中では目立ってわかりやすく、探しやすかったのですが。
……つーか、誰も見たことない人だよ。
結論。
使用人さんの中に、私の知ってる方はいませんでした。ということは本物の使用人さんかもしれません。うっかり大事なことをお話してしまってはいけないのです!
ということで、違う方向を探しましょう!
では次、この会場内で明らかに騎士団関係者と思われる人物。それは、国王様たちの傍で警護している近衛騎士団長様と近衛騎士様数名。
どちらもお近付きになったことがないので、こちらから話しかけるのは勇気がいるのですが、そんなことでためらってる場合ではありません。
しかし。
臙脂の制服着てるし、剣も帯同してるけど、いかんせん、いらっしゃる場所が。
団長様のいらっしゃるのは国王様の真後ろ。他の騎士様たちも超VIP席の後ろなわけですよ。そんなところに乗り込んでいく勇気、私にはありません!
しかもVIP席ですから、も ち ろ ん アノ方たちもいるわけで。私が団長様にヒソヒソ耳打ちしに行ったらすぐさまアノ方にもバレますよ。怪しまれたりしたらますます旦那様の身が危なくなっちゃうじゃないですか!
わぁ……! 困りました。
もうこうなったら、大広間の外で警備をしている近衛騎士様しかいませんよね!
私はできるだけ急いでいるふうには見えないように気をつけながら大広間を横切り、外の回廊に続く扉に急ぎました。
夜会が行われている間も人の出入りはありますので、簡単に廊下に出ることができました。
そっと扉を後ろ手に閉めてから、改めて近衛騎士様の姿を探したのですが……。
「え? うそ! 誰もいない?!」
思わずひとり言が漏れてしました。
というのも、扉の外で警護しているはずの騎士様の姿が見えなかったのです。
ちょ、仕事サボってんじゃないわよ!! ……違くて。
正確に言えば、いないことはありませんでした。会場外の警護の騎士様は、扉のすぐ外ではなく、ちょっと離れた、回廊の曲がり角にいたのです。あまり警護が厳しく見えないように配慮したのかしら? ヨクワカリマセン。
しかもその騎士様は、私の知っている旦那様の部下の方ではありません。
わぁ。ちょっとためらわれるんですけど。
人見知りとかそういうのではないんですけど、ちょっとデリケートなお話だから、旦那様の部下さんの方が話しやすいというか……。
でもそんなこと言ってる場合ではないですよね!!
私が拳を握り、意を決して騎士様のところへ足を踏み出したところで。
「おや、公爵夫人ではありませんか。こんなところでどうされました?」
タイミングよく(悪く?)大広間の扉が開き、後ろから声を掛けられました。
ちょ。や~な予感しかしないよ?
背中を走る悪寒に冷や汗。呼び止められてしまったので、応えないわけにもいきません。
私が恐る恐る振り返ると、会場から出てきたのは、オーランティア王太子様。
やっぱりか!
うわぁ……! 今一番会いたくない人に会っちゃったよ!!
その場に固まり、王太子様を凝視することしかできない私。ニッコリとその濃い顔に笑顔を貼り付けている王太子様と目が合いました。
顔は笑ってるけど、目が笑ってない!!
先日の夜会の時のような笑みです。ナニコレやな予感しかしないんですけど?!
視線で射殺す気ですか?!
つか、ここでコノヒトに捕まってはいけないと、私の中で「デンジャー! デンジャー!」と、警報が鳴り響いています。さっさと退避あるのみ!
私は自然と引きつる頬を叱咤して無理矢理微笑みを作ると、
「ちょ、ちょっと庭に出てみようかなぁと思いまして」
では失礼しま~すと、ちょこんと淑女の礼をしてさっさとその場を後にしようとしたのですが、
「庭は、こちらではないようですが?」
クスッと笑いながら言われてしまいました。
おおう。まっとうなツッコミきましたよ! そんなこと、重々承知してるよ! もう、私のバカ! もっとちゃんとした口実考えなさいよ!!
冷静になってるつもりですが、やっぱりパニクってるのね……。
「あ、あはっ! そうですよね~」
「ご気分でも悪いのですか? 顔色がよくない」
笑って誤魔化そうとしたのですが、誤魔化されてくれません。顔色はアナタのせいですよ! 引きつってんのもアナタのせいですよ!!
「ちょっと、人に酔ったのかなーっと……」
「それはよくないですね。そうだ。休憩用にと開放されている部屋で休んではいかがかな?」
「結構です!!」
さすがに即答しました。
そんなことしてる場合じゃないんですよ!! って、当事者この王太子だから、まだ大丈夫か?! って、そうじゃない!!
王太子(もはや呼び捨て☆)はここにいても、手下が旦那様を拉致ってるかもしれませんもんね!!
王太子は、なんだかんだと私に話しかけながら、じりじり寄ってきます。いや、なんで寄ってくるよ?
私はそれに合わせてじりじりと後ずさりし王太子との間合いを保ちながら、丁重に……いや、強めにお断りしたのですが、
「いやいや、そう言わずに――」
とか言いながら私に手を伸ばしてくる王太子。
これ、捕まったら絶対ヤバいパターンよね!
私はその手から逃れ、身を翻し、ダッシュしました。
って、うわ! こっち近衛さんがいない方!!