作品タイトル不明
犯人探しが始まりました3
「なんですか、ロイ様。まだ何か?」
ルビィが眉間に皺を寄せる。ロイは2、3歩だけ部屋の中に足を踏み入れ、ルビィに向き合った。
「靴をもう一度確認させていただきたいのですよ」
「靴?」
「えぇ。あなたがいつも履いている靴です。かかとのあるショートブーツを制服に合わせていますよね」
「え、えぇ。今履いておりますわ」
言いながらルビィは足元を少し見せる。メイド長のルビィの制服はくるぶしほどの長さの紺色のワンピースだ。白いカラーと黒いボウタイだけが飾りらしい飾りだ。そこに彼女はヒールのついたショートブーツをいつも合わせている。ヒールといってもピンヒールではなく、太めで高さも控えめな実用的なタイプのものだ。彼女が歩くといつも「コツコツ」と太めのヒールの音が響くので、近くにいることがすぐにわかる。その足音が聞こえると私やミリーはおしゃべりを潜め、慌てて手を動かすか逃げ出すかしていたというのはまぁ、置いておくとしよう。
そんな彼女のトレードマークのショートブーツが、いったいどうしたというのだろうか。控えめに差し出された彼女の靴の爪先を見て私は首を傾げた。
「おや、今日はいつもの黒いブーツではないのですね」
ロイの指摘に、ルビィは軽く瞠目した。
「え、えぇ」
曖昧に頷くルビィは、ロイの言葉から逃げるように足元をスカートの中に戻した。だが完全には隠せず、爪先がちらちらと見えている。ロイが指摘した通り、黒ではなく明るい茶色のブーツだ。
「その、いつも黒とは限りませんの。この色も昔から使っておりますわ」
「えぇ、それは知っています。たとえば休暇をとられて私服で帰省されるときなどは、その茶色のブーツを履いていらっしゃいましたね」
「えぇ。そのとおりですわ」
「でも仕事のときはいつも黒でした。私はそれを、制服の色味に合わせてそうしているのだと思っていました。あなたの制服のボウタイは黒ですしね」
「……いつもそう決めているわけではありませんわ。たまには茶色も使っていました。ロイ様がお気づきになられなかっただけでしょう」
「そうですか、それは失礼しました。では黒のブーツを見せていただけますか」
「その、だいぶ傷んでおりまして、お見せするほどのものでは……」
「おや、どうして傷んでしまったのですか。昨日まで履いていらっしゃったのに」
「……!!」
ロイの追及にルビィは驚くほど顔色を変えた。全員が固唾を飲んで会話の行方を見守っていたが、誰の顔にも「いったいなんの話をしているのだろう」という疑問符が浮かんでいる。
かくいう私もそうだった。ルビィのブーツの色がいつもと違うことに、何か意味があるのだろうか。
「実は、旦那様には報告申し上げておりませんでしたが、先ほど畑でこんなものを見つけたのです」
言いながらロイはポケットからハンカチを取り出し、それをめくってみせた。彼はまずそれを父に向けて差し出した。
「これは……」
父が呻くように呟くのと同時に、中身が私たちにも晒された。ハンカチの中に黒く平べったいものがある。
「それなぁに?」
父はすぐに思い当たったようだが、私にはなんなのかさっぱりわからなかった。
「これは、靴のかかとに取り付ける金具です、お嬢様」
「かかとにつけるもの?」
私は足を軽く上げて、かかとの部分を確認した。よく見ればかかとの部分だけ分厚くコーティングされている。プラスチックやゴム……はこの世界にはないはずだから、金属を加工したものだろう。
「かかとの部分は消耗が激しいですから、このようなもので覆っているのです。使用するうちに磨耗しますが、この部分だけ交換すれば、靴自体は長く履き続けることができます」
ロイの説明はとてもわかりやすかった。前世でもかかとのすり減ったところだけを直すサービスがあった。
かかとに取り付ける金具。彼はこれを、荒らされたじゃがいも畑で見つけたと言った。
「それって……」
一度消えたはずの疑念が再び湧き上がる。ルビィの足元に視線を向ければ、彼女は何かをごまかすかのように後ずさった。靴の色を隠したかったのかもしれないが、スカートが大きく揺れて足先がよりはっきりと見えるから逆効果だ。
紺色のシンプルなデザインのワンピースに、洒落た明るい茶色のブーツ。取り立てて変とは言えないが、色の取り合わせとしてはぎこちない気もした。特に、これだけ小さな部屋でもセンスよく飾るような人なら、なおさら。
「さぁ、ルビィさん。黒のブーツを見せてください。昨日まで普通に履いていましたよね」
「……」
ルビィは既に顔色を保てておらず、その目があちこち泳いでいた。
誰も何も言えない中、ロイだけが淡々と言葉を重ねていく。
「……仕方ありませんね」
嘆息した彼は、視線を継母に向けた。
「奥様、クローゼットの中を確認されましたよね」
「……えぇ。」
「黒いブーツはありましたか」
継母は固まったまま動けずにいた。是とも否とも答えられず、ただ立ち尽くしている。
その態度がまさしく肯定の返事でもあった。
「……失礼します」
ロイはクローゼットに近づき扉を開けた。事件の最中でありながら彼の手つきはとても丁寧で、誰も口を挟むことができないほど優雅でもあった。
ハンガーにかけられたワンピースの裾を捌きながら、彼はクローゼットの下から目的のものを取り出した。
「ありました」
彼が見つけたブーツは遠目からは綺麗に見えた。黒光りした革の光沢がまるで昨日今日磨いたばかりのようだ。
ロイはそれをひっくり返し、かかとの部分を見せた。
「左のかかとのパーツがありませんね。そして私が畑で拾ったものと……ぴったりです」
彼の指の先で、ルビィの靴は完全な形を取り戻していた。