軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新しい材料を探します2

そして翌日。

1時間ほど馬に乗った私たちは、王都からほど近い砂漠にやってきた。なんと今回の随行メンバー、マリウムもマリアさんも含めて全員馬に乗れた。この国では女性でも馬に乗るのが当たり前なのだそう。そういえば嫁いでこられたヴィオレッタ王妃も乗馬を嗜まれると聞いたことがある。

「ヴィオレッタ様は嗜む、というレベルを超えていらっしゃいますけれどね」

嫁ぐ前の王妃と面識があったというマリアさんは、パンツスタイルで颯爽と馬に跨っている。その隣にはリカルド様。やや後ろに「これくらい淑女の嗜みよ」と 曰(のたま) いつつ乗りこなすマリウム。

そして私は……伯爵翁様と2人乗りである。いや、私も乗馬の練習はしてるよ? だけどひとりで乗りこなせるほどにはまだなっていない。何せ小柄なアンジェリカだから、馬が大きすぎるのだ。と心で言い訳する私の後ろを、やや小さめの馬を準備してもらったギルフォードがご満悦でついてくる。彼は確かに同い年だが、年中騎士の訓練に明け暮れている奴と比べないでほしい。

「アンジェリカ嬢は私と一緒にいた方が警備しやすいからの」

そんな私を慰めるかのように声をかけてくれる伯爵翁様はやはりいい人だ。

そのほかマリアさんとリカルド様の護衛などを含め、そこそこの人数でのお出かけとなった。これもすべて私とマリウムの化粧品開発のためだと思うとかなり申し訳ないが、乗り気のマリウムを止める方がもっと面倒なので、頭を下げつつ従うのみである。

王都を出ると一気に鄙びた空気になり、やがて道が消え、程なく砂漠に差し掛かった。

「すごいわね! 本当に一面砂なのね!」

感激するマリウムに「そうね」と相槌を打つ。何度も言うが、前世でアフリカに赴任していたから、砂漠はそれほど珍しくない。だがそんなことはおくびにも出さずマリウムのに従った。

「あちらにサボテンが自生していますね」

マリアさんの説明に一行は足を止めた。確かにとげとげしたサボテンが天に向かってにょきりと伸びている。その先にピンクの鮮やかな花が咲いていた。私たちは許可をもらって、そのサボテンを切り出してみた。マリウムが事前に鉢植えでもらってきたサボテンもいろいろ実験済みだが、花はついていなかったので、興味深くそれに手を伸ばした。

「あれ?」

「どうかした? お嬢ちゃん」

「これ、あんまり香りがしないなと思って」

マリウムが市場で仕入れてきた匂い袋はもう少し香りが強かった。不思議に思っているとマリアさんが「あぁ、それは」と説明してくれた。

「この国のサボテンの花は、乾燥させることで香りが増すんです。なぜなのかはわからないんですけれど」

「へぇ、珍しいですね」

「だからよく匂い袋に加工するのですわ」

「香油なんかにはしないのかしら」

サボテン本体をある程度鑑賞しつくしたマリウムも、私と同じく花に興味を持ったようだ。

「あまり考えたことがありませんでした。何しろサボテン本体の方が役立つ存在ですので。でも、香油って生花からとることが多いですよね。生花のままでは香りはほとんどないですから……あまり意味がないのではないかしら」

私たちの疑問にマリアさんが意見を述べる。

生花では用途が少なく、乾燥させると香りが増幅する花。しかも、地域によって種類が違う。

私は閃いた。

「ねぇ、これ、セレスティアで売ればいいんじゃない?」

「は?」

マリウムが目を瞬かせた。

「だって乾燥させた商品でしょう? ってことは輸送に最適ってことよね。しかもサボテンなんてセレスティアにはない植物だし。売り方によっては化けるんじゃないかしら」

「確かに、新しい商品にはなりそうね」

「匂い袋くらいなら庶民にも手が届く値段設定にできそうだし、工夫次第では貴族向けの商品にもできるわ。たとえば一種類だけじゃなくてブレンドして新しい香りを作り出すとか、高価な精油と組み合わせてセット販売するとか」

「なるほど。香水とは違う楽しみ方を提案するわけね」

「そう! それに構想中の高級スパにも取り入れてもいいんじゃない? だって天然成分の商品だもの。温泉とも相性がよさそうよ」

「香りと温泉……そうか、硫黄成分のあの独特の匂いを打ち消せるかも」

「化粧水に入れるのが難しかったとしても、実際のエステの場では使えると思う」

「そうね……面白そうだわ」

「でしょ? あの、マリアさん、リカルド様、この花って輸出できませんか?」

私の問いに美しい姉弟は顔を見合わせた。

「サボテンの花を輸出……各地域で匂い袋にして商品にしているくらいですから、できなくはないのかしら」

「だが輸出となると、話はだいぶ大きくなってきますね。今は自生しているサボテンから適量採取して流通させているのみだと思いますから。それで輸出となると……」

「えぇ、自生分だけでは難しいと思います。商売にするならサボテンの栽培が必要でしょう」

「「サボテンを栽培!?」」

トゥキルス人の2人にとっては想像もしなかったことなのだろう、奇妙な顔つきになった。私はそのまま商談を推し進めた。

「どのみち栽培はどこかにお願いしたいと思っていました。サボテンに含まれる保湿成分は十分に商品価値のあるものです。そちらを得るためにも誰かと契約する必要があります。サボテンはこのように乾燥した高温の地域でしか育たないのでしょう? でしたらこちらで栽培や加工をしてもらったものを輸入するよりほかありません。さらにその花にも利用価値があるとすれば、願ったりです。できれば我がダスティン家と専属契約を結んでいただきたいところがあればと思っています」

「話はわかりましたが……だがはたして、サボテンを栽培したいと思う者がいるかどうかですね」

「ではリカルドさんはどうですか?」

「私が?」

「はい。そもそもリカルドさんが研究所に視察にいらしたのは、イヴァン王太子様のような功績をあげるためでいらっしゃいましたよね? ですが研究所はできて数年たっていますし、めぼしい成果は出尽くしていて、目的は叶わなかったと思います。でしたらサボテンの栽培事業で名をあげるのはいかがでしょう?」

「ふむ……」

考え込む彼に、私はさらに推してみることにした。

「我が領は現在、マリウムという研究者を迎え、化粧品開発と温泉開発に力を入れています。幸い第一弾の化粧水は飛ぶように売れています。今後は温泉事業と絡めた戦略を推進していくつもりです。その中で、このサボテンという素材は欠かせないと考えています。その身からは保湿成分が、花からは豊かな香りが得られることは、トゥキルスでも生活に根付くほどに実証されていますよね? それがセレスティアで広まらないわけがありません。私たちは売り方を心得ています。そして開発の技術も。必ずリカルド様にご満足いただける結果をお出しできると確信しています」

強気の姿勢で彼を見上げる。リカルド様はその美しい眉根をきゅっと寄せたが、それも一瞬のことだった。

「わかりました。ただし僭越ながら条件を提示させていただきたく思います」

「なんでしょう?」

「まずはアンジェリカ様たちが考える、サボテンを使った試作品を実際に見せていただきたいのです。保湿成分を使った化粧品でも軟膏でも、なんでもかまいません。それと、サボテンの花を使った商品も。それを見せていただいた上で判断させていただくのはどうでしょう」

「なるほど。わかりました。ではそれでまいりましょう。うまくいけば本契約を、ということでよろしいですか?」

「はい」

そのあと帰りがてら話を詰めた。開発に必要な原材料はすべてリカルド様が準備くださること、それを用いて試作品の作成、もしくは販売構想の構築をダスティン家で行うこと、期限は半年後までにということになった。

突如としてまとまった商談だったが、マリウムはたいそう乗り気だった。

「面白そうじゃない。やってやりましょう」

「頼りにしてるわよ、マリウム」

がしっと握手する私たちの上に、突如として大きな手が降りてきた。

「私も入れてください」

「りっ、リカルドさん!?」

「私も共同開発者に入れていただけるのでしょう?」

「え、えぇ、もちろんです!」

「マリウム、それにアンジェリカ様。“礎”となるあなたとともに歩めることを光栄に思います」

「光栄だなんて、そんな。あの、リカルドさんも“礎”となられる方だと思います。この事業がうまくいって、リカルドさんの成功につながるよう、協力させていただきます」

成り行きで決まったトゥキルス行きだったが、この道中、彼には言葉にできないほどお世話になった。道中だけの話ではない。そもそも化粧品工場がうまく稼働している背景には彼の力も大きい。彼の実りある未来のために、ぜひとも恩返しがしたかった。

こうして私たちの商談(仮)は纏まった。

それにしてもサボテンがこんな話に発展するなんて……前世から生きていても驚くことばかりだわ。