軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

黒幕の黒幕

あるうららかな日、ローザは王宮での茶会に行くために、ヘレナをはじめとするメイドたちに化粧を施され、髪を結われていた。

「お嬢様、今日は閣下と王宮の庭園でお茶会なのですね」

王妃に是非にと熱望されてしまったのだ。

参加しないわけには行かない。

「ええ、まあね。もちろん茶会だから、ほかの方々もいるけれど」

ローザが気のない様子で答えると、ヘレナがローザの耳元でささやく。

「お嬢様、閣下と本当にご婚約なさるのですか?」

ローザはびっくりして椅子から飛び上がった。

「ま、まさか! それはないでしょう」

最近のイーサンを思い出してみる。

特に変わった様子はない。

彼も今回の捜査に加わり、飛び回っている。

進展があればローザにも逐一教えてくれていた。

「そうですか?」

ヘレナが疑り深い目で見る。

「あなたに隠し事なんてしないわよ!」

「何かこそこそやっていませんか?」

ローザはフルフルと首をふる。

「大丈夫。万事は順調よ」

「それならば、良いのですが、私もヒューも王宮の奥深くまでは入れませんので、十分にお気を付けくださいませ」

ヘレナの瞳は真剣だ。

なぜかローザの池ぽちゃ事件が彼らのトラウマになってしまったようで、申し訳ない。

メイドも帯剣した護衛も会場には入れないのだから、彼らの立場では不可抗力だ。

「もちろんよ」

ローザはにっこりと不敵な笑みをうかべ、自信をもって答えた。

ローザは王宮に入るとすぐに王妃につかまった。

イーサンに助けてもらおうにも、彼は国王につかまっている。

あちら方が大変そうなので、ローザはあきらめた。

王妃と延々とバスボムや商売の話をして、最後には太客になってくれることが決まる。

ついにローゼリアンも王家御用達のバスボム店になった。

いや、これから扱うのはバスボムだけではない。

あらゆるお風呂グッズを開発していく予定である。

店の発展を思うとローザの胸は希望に膨らんだ。

いずれこの世界にバスタイム改革を行うのだと理想に燃え上がる。

しかし、相手は王族、同席すればやはり疲れてしまう。

ローザはいつもの手を使う。化粧室でしばらくだらけてから庭園に出て、一人ひっそりとバラ園にある四阿で休んでいた。

もちろん、もう池のそばに行くという馬鹿な真似はしない。

四阿はとても大きくて、円テーブルに椅子が四脚ほど並んでいても余裕がある。

ローザが一人でひっそりと座っていると、芝生をふむ足音がして後ろから声をかけられた。

待ち人来たりだ。

「ローザ嬢、今回の件はたいへんだったね。いや、エレンには驚いたよ。まさか君を害そうとするなんて思わなかった。てっきり可憐で優しい人かと……」

アレックスが断りもなく、ローザの向かい側に腰かける。

自分はこの件に全く関与していなかったかのような口ぶりだ。

「そうですか、彼女は殿下の大切な恋人ではなかったのですか?」

ローザはにっこりと笑みを浮かべる。

それだけで意図せずとも、悪女の微笑みの完成だ。

「まさか、違う。私は彼女に同情していただけだ。相談に乗っていただけなのに、おかしな噂を立てられていい迷惑だ」

困ったように柳眉を寄せる。まるで自分は被害者だと言っているようだ。

「エレンはあなたと恋人関係にあったと言っているようですが?」

もう罪人なので、『エレン様』とは呼べない。

「バカな。私があのような罪人と付き合っていたなどあるわけがないだろう。身分違いも甚だしい。おかげで私まで聴取に付き合わされた」

しかし、二人の逢瀬を見ているので、ローザにはその言葉すら白々しく聞こえる。

それにエレンは深い関係にあったとも告白している。

嘘つきの彼女の言うことなので、定かではないが……。

「エレンはあなたを愛していたと私に言いました。愛ゆえに私を害そうとしたと」

ローザはアレックスに目を据えて、ゆっくりと話す。

「そのような一方的な思いを向けられても困る」

アレックスが迷惑そうに顔をしかめる。

ローザは彼の前に手紙の束をばさりと落とす。

「これはあなたの直筆だと思うのですが?」

それは、アレックスがエレンに送った恋文だ。

たくさんの愛の言葉がつづられ、最後にローザ・クロイツァーがいるからエレンとは結婚できないと書かれていた。

モロー一家が逮捕された後、押収されたものだ。

「違う。ローザ、信じてくれ! 誰かが、私を陥れようとしているのだ。王族が筆跡をまねされることなどよくあるだろう? それに私は不用意に手紙を書いたりしない。私のサインもないではないか。私が書いたと言う証拠にはならない」

確かに、サインのない手紙とは用意周到だ。

アレックスの言う通りこの手紙は何の証拠にもならないだろう。だが、彼のペースを崩すには十分だったようだ。

アレックスの顔色は途端に悪くなる。

エレンは、これを処分するようにアレックスから言い含められていたのに、大切に保管していたのだろう。

いや、したたかな彼女のことだ。

切り捨てられた時の保険としてとっておいたのかもしれない。