軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ローザ、一計を案じる

そこでローザは一計を案じる。

「そうだ。イーサン様にご相談があります」

ローザがベッドで背筋をのばし、きりりと顔を引き締める。

取調官が来る前に、彼とは話をつけなくてはならない。

「君がそういう顔をするときは、とんでもないことを思いついた時が多い。聞きたくないんだが?」

イーサンがほんのりと憂鬱そうな表情をうかべ、額に手を当てる。

「私はその男性の顔をはっきりと覚えているんですよ。でも、覚えていなかったことにします」

「なんてことを……。つまり君は、その男を泳がせようと言うわけだね」

イーサンは呆れを通り越して、感心したように言う。

「イーサン様、うまいことを言いますね。今度はその男に泳いでもらいましょう」

ローザの軽いのりに、イーサンが盛大なため息をつく。

「ローザ、これは遊びじゃないんだ。現に君は死にかけている」

「だからこそです! あの貴族青年はきっと誰かに頼まれたか、脅迫されたかしたんです」

「君がそう思う根拠は?」

「はい。『悪いね。こうでもしないと俺は生きていけないんだ』と言っていました。恐らく脅されたか、やとわれたか。だから、私は黒幕を突き止めたいんです!」

数を打てば当たる方式で、刺客が次から次へと送り込まれてはたまらない。

「なるほど、そのために泳がせると……」

「はい、黒幕を釣り上げるための餌になってもらいます」

「拷問して真実を吐かせればいいだろう」

怖いことをさらりと言う。

こういうところが王族なのだ。

「その青年が真実を知らない場合もあります。それに私は、彼がどこへ逃げ込むか見届けたいのです。彼はどう見ても貴族の子弟に見えました。役者か、本物か……」

「役者ね。ちなみにマーピンは『殺し』には手を貸さないよ」

イーサンのマーピンに対する信頼がどこから来るのか、問い詰めたいところだが、今は話を進めるべきだとローザは判断した。

「オリバー商会が絡んでいるのか絡んでいないのか。私は証拠をつかみたいんです。うやむやなままにしらを切られて、トカゲのしっぽ切りのように終りたくないのです」

もう少しで殺されるところだったとはいえ、その場であ

っさり捕まってしまうなど、プロにしてはあまりにも 杜撰(ずさん) すぎる。

逃げ道すら、確保していないなどきっと素人だ。

どこかの没落貴族の青年ではないかとローザは見当をつけていた。

オリバー商会もいつまでも王族と結婚できないモロー家を見限っているのではないか、という疑いがローザの中に芽生えている。

「確かに私はイーサン様がいなければ、死んでいたかもしれません。でもやり方が杜撰すぎませんか?」

「水音はかなり大きかったからね。プロならば人知れず君を亡き者にするだろう。それに逃走経路も準備しておくはずだ」

「怖いことをさらっといわないでくださいよ。どちらにしろ、私の殺害を依頼している人間を捕まえない限り、事件はあとをたたないでしょう」

「わかった。ならば、私が取調官と交渉する。だが、危険な賭けだぞ、君を狙った犯人が再び野放しになるんだ」

イーサンが厳しい顔をする。

「同じ者をもう一度使うとは思えません。犯人がうまく馬脚を現してくれるといいのだけれど」

(犯人は切羽詰まっているのか、馬鹿なのか……)

しかし、犯人が馬鹿だと認めたら、まんまとしてやられたローザも馬鹿ということになる。

それを認めるのは業腹だ。

「下手したら、そいつは依頼主に始末されるかもしれない」

イーサンの言葉にローザは一瞬詰まる。

「そうかもしれません。でも嫌なのです。このまま命を狙われ怯え続けるなんて。そんな生き方はしたくないのです。私は自由に生きたい」

ローザの決意は固い。

嫌がらせから始まり、これほど執拗に命を狙われるとは、思わなかった。

「わかった」

頷いたイーサンにローザはさらなる提案をする。

「それでご相談なのですが――」

ローザの目の前には、少し憂鬱そうにしたイーサンの美しい顔があった。

「まだ、何か?」

その後、ローザは使用人が入れ替わったクロイツァー家ではなく、より安全なグリフィス家に預けられることになった。

そこにはもちろんローザの目論見がある。ローザの希望で男の行先は逐一グリフィス邸に報告されることになっていた。

時刻はすでに深夜を回っていた。

ローザにはイーサンが豪華なゲストルームを準備してくれた。

だが、彼女はまんじりともせずにグリフィス邸の豪奢なサロンのソファに居座り、濃い目の茶を飲んでいた。

(当事者であるのに、蚊帳の外に置かれるなんて冗談じゃないわ!)

はやる気持ちを紛らわせるために、ぱたぱたと扇子をあおぐ。

ちなみにローザを池に落とした青年貴族の身元ははっきりしていない。

青年貴族は取調官の追及をのらりくらりとかわしたという。しかし、招待状を持っていなければ会場には入れないはずだ。

だから、どこかの家の招待状を持っていたはず。

青年貴族は釈放されると、まずオリバー商会に向かったが、追い出されるように出てきたという一報が入った。

「やっぱり、オリバー商会が関係していましたね!」

ローザは興奮気味にソファから立ち上がる。

「追い出されたと言うことは、そのオリバー商会にも見放されたのだろう。それよりローザ、少し休んだら、どうだい」

イーサンがなだめるように言う。

「イーサン様、お心遣いありがとうございます。ですが、私はここで結果を待ちます」

「夜も遅い。徹夜になるか、明日以降に持ち越すかわからない、少し眠るといい」

ギンギンに目覚めたローザを寝かしつけようと、イーサンが何度目かの説得を試みた頃、第二報が入った。