軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

池ポチャ事件

ここはボート遊びができる池、ある程度の深さがある。

試しに足をのばしてみたが、底には届かない。

水はあっという間に重いドレスにしみこみローザはブクブクと沈んでいく。

徐々に水の冷たさが身にしみてくる。

その時になってローザはようやく気付いた。

(ああ、そうか、さっき渡された食べ物か飲み物に眠り薬のようなものが混ぜられていたのね。ってか溺死って違くない? 毒殺どうした?)

混乱のなか、ごぼごぼとローザは沈んでいく。

前世、彼女は泳げたようで、何とか犬かきで浮上しようとするが、ドレスもペチコートも水を吸って重くてどうにもならない。

(そうだ。ぬいでしまえば!)

そこまで考えて、一人で着るのが無理な代物だったことを思い出す。

完全に頭が水の中に沈み、耐え切れなくなって、ごぼりと水を飲みこんでしまう。

(息が・・・)

意識が遠のく、その瞬間、誰かに強い力で腕を掴まれ引き揚げられた。

ざばりと水面に引きずり出されたところで、ローザの意識は途絶えた。

「ローザ! ローザ! しっかりしろ!」

眠いのに体をゆすられる。

のどに何かがせりあがってきて、ローザはごぼりと水を吐き出し、咳き込んだ。

「ローザ、私がわかるか?」

ローザは目の前がゆらゆらと揺れて見える。

ぼんやりとすぐそばに男がいるのがわかった。

次第に視界がクリアになっていく。白皙の額に濡れそぼった銀髪が額に垂れている。

必死な表情をたたえた紫水晶の瞳。そして、濡れたシャツが肌にはりついて。

(推しが! 色っぽい!)

ずぶ濡れのイーサンを見て、再びローザの意識が遠のきかけた。

「ローザ!」

「……大丈夫です。そんなに大声出さないで……。薬を盛られたみたいで、眠いんです」

そんなローザの気持ちとは裏腹に、イーサンはローザの体をゆする。

「頑張って、もうしばらくだけ意識を保ってくれ。今から医務室に運ぶから」

ふわりと抱き上げられた。

先ほど抱き上げられた時よりもずっと安定感があり、安心できる。

「池に投げ込んだりしないでくださいね?」

「馬鹿なことを言うな。まったく君っていう人は」

叱られてしまった。

「医務室までいったら、眠っていいですか」

「眠るのは、着替えて薬を飲んでからだ」

「閣下も……びしょぬれです」

ローザはろれつの回らない口調で言う。

「ローザ、イーサンだ」

ぼうっとする頭で、なんとなく一連の出来事を理解した。

ローザは薬を盛られ、池に投げ込まれ、そこをイーサンに助けられた。

その後は、ぼうっとするなか、王宮女官に着替えさせられて、イーサンに薬を飲まされた。

次に目が覚めた時には、泣いている母、心配そうな父とフィルバートがローザをのぞき込んでいた。

「ローザ、可哀そうに。なんてことかしら、池に突き落とされるだなんて」

母がハンカチを握りしめ悔しげに言う。

(正しくは投げ込まれたのよね)

「しかし、無事でよかった」

フィルバートが少しほっとしたような顔をする。

「なぜローザばかりが狙われる。ゆるせんな!」

珍しく父が怒りをあらわにしている。

「こうなるとローザが馬に蹴られたのも偶然ではないのかもしれない!」

フィルバートの声が聞こえる。

(いやいや、馬に蹴られるなんて偶発的なものでしょう? そんなうまくいかないわよ)

「ローザ、いったい何があったんだ。状況の説明はできるか?」

だいぶ眠気も冷めてきたローザは、父の言葉に頷き、目をこする。

「はい、できると思います」

意外としっかりとした声が出た。

「では、今から取調官が来るから話をしてくれ、閣下も一緒にいてくださるから安心だ」

父の言葉にローザは頷いた。

その後、両親と兄が退出した。

ローザはイーサンに向き直る。

「で、私は今、どういう状況なんでしょう?」

「ではまずは私の話しから。君の姿が見えないので探していた」

ローザはイーサンの言葉に頷いた。

「パウダールームから出ると閣下が王族の方々とお話をされていたので、お邪魔をしてはと思い、私はひっそりと軽食コーナーに向かいました」

「お腹がすいていたんだね」

図星をさされた。

「はい、まあ、そうともいいます」

ローザは赤くなりコホンと咳払いして、一連の出来事を話し始める。

ローザは親切な青年に飲み物や食べ物を持ってきてもらい、飲み食いするうちに急に眠気を覚えと――順を追って話していった。

「なるほど。ローザ、知らない人から食べ物や飲み物を貰ってはいけないよ」

子供が受けるような注意をされてしまった。

「万全の警備がなされている王宮だったのでつい油断して」

「王宮だからこそだよ」

幾多の毒殺の試練を潜り抜けてきたイーサンから言われてしまうと、さすがのローザも言い返す言葉が見つからない。

しかし、どのタイミングで薬を仕込まれたのか見当もつかなかった。

「私は君の姿が見当たらないので、すぐに軽食コーナーの給仕に話を聞いたんだ」

なぜ、ピンポイントで軽食コーナーにローザを探しに行ったのか突っ込みたいところだが、話の腰を折りたくなかったので黙っていた。

「その後、君がテラスから庭園に出たことが給仕の話しで分かった。嫌な予感がして、急いで庭園にいくと、ばしゃりと大きな水音が聞こえてきた。もしかしらと思い走って池に向かったんだ。すると水の中に沈んでいく君のドレスがみえてね。飛び込んで助けた」

「ありがとうございます」

ローザは深々と頭を下げた。

今回は勘が良すぎるイーサンのお陰で、命拾いしたようだ。

「当然のことをしたまでだ」

「イーサン様は泳げたんですね?」

ローザはそのことに驚いていた。

「ボート競技に参加していたからね。泳ぎは得意だ」

イーサンが意外な特技を持っていたおかげでローザは助かったのだ。

「私も泳げそうな気がしたんですが、ドレスが水を吸って重くなって」

悔しそうにそこまで言って、ローザははっとする。

「すみません! せっかくいただいたドレスをだめにしてしまいました」

「それは仕方がない。君を池に投げ込んだ男が悪い。今容疑者と思われる怪しい男が拘束されている」

ローザは急展開に驚いた。

「ええ! もうつかまっているんですか! 見た目は感じの良い青年貴族でしたよ?」

「感じがよいかどうかわからないが、今から面通しをしよう」

なんだが、話がとんとんと運んでいく。

(いやいや、絶対裏があるだろう)

ローザはそんな予感がした。