軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

家族団らん!

その日の晩餐は、家族がそろっていた。

食卓はいたってにぎやかで、父とフィルバートが商売の話に夢中だ。

その横で、母はローザを気遣う。

「ローザ、最近働き過ぎじゃない? なんだかやつれているように見えるわよ」

ローザはドキリとする。

「え? 本当ですか。それは気を付けなければ。私が疲れを見せるとバスボムの売れ行きに陰りがみえるかもしれません。『癒し』を売りにしているので。お肌はつやつやにしておかないと!」

ローザの反応に、母はがっかりしたような顔をする。

「ローザ、あなたって子は……。そうそう、今度私と一緒にお茶会に行かない? 若い紳士も集まるのよ」

「遠慮しておきます」

ローザには今、とんでもない悪評が流れている。

そんな中で婿探しをしろと言われても無理な相談だ。

それにローザには結婚する気はない。

母と茶会に行く行かないで押し問答していると、フィルバートが急に口を挟んできた。

「ローザ、モロー家から借金を返してもらったという話は父上からきいたろ?」

ローザはちらりと父を見る。

「はい」

ローザの返事に父が頷く。

「モロー家とは和解が無事にすんでね。今は良好な関係だ」

「よかったです」

そう言いつつも、ローザは父とフィルバートに突然ふられた話題に戸惑った。

「よかったのかなあ……」

「うむ、どうだか」

父とフィルバートが難しい顔をする。

「何かあったんですか?」

ローザの質問に父が口を開く。

「どうやらオリバー商会とモロー家は利害の一致でつながっているようだ」

「それは貴族社会へのパイプということですよね?」

父の顔はどんどん曇っていく。

「そんな生易しい話ではないようだ。モロー卿はアレックス殿下の婚約者に自分の娘を推しているらしい」

アレックスとエレンはもともと恋仲だし、ローザにとっては朗報だ。

これで毒殺の危機が避けられるというもの。

「別によいのではないですか?」

ローザがあっけらかんと答えると、父、母、フィルバートの視線が一気に彼女に集中する。

(え? 何か怖いんですけど?)

ローザは肉を刺したフォークを空中で止める。

「ローザ、私たちが知らないとでも思っていたの?」

母が悲しそうに身をよじる。

「はい?」

「お前の悪評だ」

父に……というより家族にバレていた。

「馬にけられたのは、私の自作自演ではありません!」

すかさずローザが叫ぶ。

「当たり前だ! やっぱりローザは知っていたんだな。なんで相談してくれなかったんだ」

フィルバートが悔しそうに拳を握りしめる。

「モロー卿はアレックス殿下と自分の娘の婚約を餌に、オリバー商会に借金の肩代わりをさせたのではないかと、私は考えているんだ」

父の推測にローザは驚いた。

「肩代わりと言ってもすごい大金ですよ?」

「さらにオリバー商会に後押しさせているらしい。裕福な伯爵家となれば、第三王子と結婚できるだろう。アレックス殿下の執務室にモロー卿の娘が通っているという噂がではじめている」

父の耳にも入っていたようだ。

「ずいぶんとモロー家にとって都合の良い話ですね。オリバー商会の代表は何を考えているのでしょう」

そこでローザはハッとする。

(だから、クロイツァー家が没落するの? いや、でもまさかね……)

「モロー家が後ろ盾では無理ですよねえ。でも、やっぱり、アレックス殿下とは婚約しなくて正解でした」

ローザの発言に、家族が一斉に頷いた。

「お前とアレックス殿下の婚約を阻止するために、モロー卿がお前の悪評を流したのだろう。さてどうしてくれようか」

父が黒い笑みをみせる。

(そんなことより、お父様には家の没落を心配していただきたいわ)

「お父様、せっかく盛り上がっているところ申し訳ないのですが、アレックス殿下とエレン様のご婚約が調うまで仕返しは待ってもらえます?」

「なんでだ、ローザ。お前らしくないぞ!」

フィルバートが叫ぶ。

「私らしくないって何ですか! 私だってちゃんと考えてます」

「やられたら、やり返す。貴族はなめられたら終わりだ」

フィルバートの言葉にふと前世のヤンキーを思い出す。

(あの世界と大差ないわね)

「お兄様、今動いたら、アレックス殿下とエレン様が婚約できないではないですか。それでまたアレックス殿下が後ろ盾欲しさに私に求婚してきたらどうしてくれるんですか? 私が面倒くさいじゃないですか!」

これはローザの心の叫びでもあった。

「まあ、ローザ。あれほど、殿下が好きだったのに、そこまで毛嫌いしているだなんて」

母が驚いたように目を見開いた。

「お母様。噂が正しければ、アレックス殿下とエレン様は恋仲ということになります。ということは私と婚約したら、エレン様はアレックス殿下の愛人になるのではないですか? そんなの絶対に嫌です!」

「ローザ、お前、商売以外にも賢いところがあったんだな」

フィルバートが感心している。

「当たり前です。お兄様、私をどれだけ馬鹿だと思っているのですか! 私は私だけを愛してくれる人としか結婚しません!」

ローザはきっぱりと言い切った。

(うん、相手がいないってわかってる。一生独身で悔いないし!)

兄に腹を立てつつもこれで漫画の流れは変わったと、ひとまず胸をなでおろす。

なんといっても毒殺だけは避けたいのだ。

しかし、疑問は残る。

(なぜうちの家門はつぶれたのかしら? いったい、誰にどうやってつぶされたの? これだけ大きな家をつぶすとなるとたいへんよね)

思い出そうとしても、漫画に記載があったかどうかすら覚えていない。

(多分漫画にないわよね。私って、第一章でぷちっと消えるもの)

食後に、ローザは絶品のフルーツタルトを食べて幸福感に浸り、ゆっくりと湯あみをしてからベッドに入る。

「はあ、バラの香りに包まれて寝るって至福よね」

あっという間にローザは深い眠りに落ちた。

――はあ、とりあえず私の毒殺はなくなったわね!