軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

叔父と甥

「叔父上」

イーサンが王宮の長い回廊を歩いていると呼び止められた。

「なんだ。アレックス、どうした?」

「少しご相談したいことがあるのですが、久しぶりに一緒にお茶でも飲みませんか?」

アレックスが昔から変わらない穏やかな笑みを浮かべる。イーサンは彼の言葉に頷いた。

アレックスに誘われ、イーサンは王宮の庭園で茶を飲むことになった。

目の前には小川が流れ込む池があり、茂みからは爽やかな風が流れてくる。

メイドが茶の準備を終えると、アレックスは珍しく人払いをする。

「どうした。珍しいな。内密の話か?」

イーサンは軽く応じる。

「実はローザ嬢のことでお話が。叔父上は最近ローザ嬢と懇意にしているようですね」

ローザとは懇意にしているというより、協力し合う仲

だ。

「気になるのか? お前の所には、モロー嬢が通ってきているそうではないか」

アレックスがため息をつく。

「やはり噂になっているのですね。正直に言いますと、以前に何度か来たことはあります。が、私はローザ嬢に求婚した身なので、おかしな噂が立つと困るから、来ないように言ってあります」

まるでエレンが一方的に訪れているような言い方だ。

そういえば、彼はローザが訪れていた時期もそのような言い方をしていた。

今のこの状況を考えると、アレックスが何か相手に気を持たせるような言動を常日頃からしているのではないかと勘繰ってしまう。

「だが、求婚の件はクロイツァー嬢に断られたのだろう?」

アレックスはイーサンの言葉に一瞬唇をかむ。

「……思ったのですが、ローザ嬢は叔父上にのりかえたのではないでしょうか?」

イーサンはそれを聞いて、思わず失笑した。

「クロイツァー嬢はそういう人ではないよ。今は商売に夢中なようだ。私もあの店にはいくつか商品を発注している」

「え? そうなのですか?」

アレックスが驚いたような顔をする。

「店主と客の関係だ」

イーサンから見たローザは、男性を追いかけるより、店の経営の方がずっと楽しそうだ。

それに今は自分の悪評をまいた奴は誰かと息巻いて探している。とても恋愛どころではないだろう。

「それで、お前はどうするんだ。求婚を断られた以上、自由に相手を決めてもいいのではないか」

「父上が納得する相手でなければ、結婚はできません。それに道義的責任があります。ローザ嬢の顔には傷がのこっているでしょ?」

それが気がかりだというようにアレックスは訴える。

「傷跡ならば、問題ないと思うが? それと、お前はローザ嬢に関するよくない噂を聞いていないのか?」

アレックスがエレンから聞いているのは知っているが、イーサンは彼を試したくなった。

「噂……ですか。馬に蹴られたのが、自作自演だという話ですよね」

「やはり聞いていたか。かなり噂は広がっているようだからな」

「だから、不安なんです! 私が誰かと婚約が内定したとして、彼女が前言を翻したら?」

「婚約の承認を国王から得てから発表すれば、彼女が前言を翻したところでどうにもならないだろう」

「しかし、クロイツァー家は王族にとっても脅威です」

アレックスが憂鬱そうに髪をかき上げる。

「で、結局、お前はどうしたいんだ? クロイツァー嬢と婚約したいのか?」

イーサンはいささかうんざりして来て、核心をついた。

「私は、ただ彼女の豹変ぶりが怖いんです」

「クロイツァー嬢にそれほど、とらわれる必要はないと思うが。九死に一生を得て、人生観が変わると言うのはよくあるそうだよ」

気楽な調子でイーサンが答える。

「なんだか、叔父上の方がローザ嬢のことをご存じのようですね?」

アレックスのその一言で、二人の間の亀裂が顕在化する。

「彼女はいたってわかりやすい人だろう」

それにはアレックスも頷かざるを得ない。

「いっそのこと、ローザ嬢が誰かと婚約なり、結婚なりしてくれれば気が楽になるのですが……。もちろん叔父上と、ということではなく。誰か彼女と似合いの相手と」

こういう物言いをされるとアレックスに牽制されているように感じる。いや、実際そうなのかもしれない。

「アレックス、私はそろそろ診療の時間だから、失礼するよ。お前は好きな相手と結婚するといい。周りの思惑にとらわれるな。私が言えるのはそれだけだ」

アレックスに対するイーサンの最期のアドバイスだ。

これ以上は時間の無駄だと思い、イーサンはアレックスとの茶会を切り上げた。

子供のころは第三王子ということで両親に顧みられず、アレックスはさみしい思いをしていた。

そんな時イーサンがよくアレックスの話し相手になっていたし、彼に勉強を教えていたこともあった。

しかし、今の彼はエレンと付き合いつつも、ローザと婚約したがっている。

クロイツァー家の力を利用しようとしているようにしか見えない。

(いつからそんな野心に目覚めたのか……、それとも私が見抜けなかったのか)

一抹の寂しさを覚える。

現在のローザはまったくアレックスに執着していない。

むしろ責任を取るなどと言って婚約を迫っているのはアレックスのほうだ。

そしてエレンとアレックスの仲は噂になり始めている。

アレックスはイーサンに本心を明かすことなく、忠告を受け入れることもない。

イーサンは彼の将来に陰りを感じた。