軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

毒殺犯その1が協力してくれるようです

「では、閣下がお気に召すまで、バスボムの開発に努めたいと思います」

ローザは忙しいし、なぜかイーサンがいるとある種の緊張を強いられるので、用件が済んだらお帰りいただきたかった。

「あと一つ、私から提案があるのだが」

「何でしょう?」

「うちで、夜会を開こうと思う」

「え! 閣下がですか?」

ローザはびっくりした。

彼は治癒師としていつも忙しく、独身のせいかほとんど夜会や茶会を開かない。これはレア案件だ。

「君の情報収集に協力しよう。クロイツァー家の敵対派閥と私は仲が悪いわけではないから、何かしらの情報が得られるかもしれない。ただ私からの情報はあまり期待しないでほしい。表立って君の調査はできないからね」

確かにそんなことをすれば彼はクロイツァー派のレッテルを張られてしまう。

「それは、とてもありがたいですが、なぜそこまでしてくださるのです?」

「家族のことで気になることがあってね。だから、私も君の自作自演だと言う噂の火元が知りたいんだ」

彼が家族と言ったら、アレックスのことだろう。

しかし、アレックスがそんな噂を流しているとは思えなかった。

なぜなら、ローザに求婚するという行動と矛盾しているからだ。

(それに……エレンである訳がないのよ。なんといっても漫画のヒロインなのだから。漫画にもなかったのよね。じゃあ、いったい誰が?)

ローザにはとんと見当がつかず。

またイーサンの意図もよくわからない。甥についての疑いを晴らしたいのか。

(とりあえず、閣下は毒殺犯その1から、はずしても……)

そこでローザはハッとする。

(いくら太客になりつつあると言っても、完全なシロとわからない限り、外したら駄目よね)

ローザは気を引き締めた。

ローザはイーサンの要望するバスボムを作るのに忙しい日々を送っていた。

今では家にいる時間より、店にいる時間の方が長いのではと思うほどだ。

それには理由があって、フローラルな香り広がる作業場が妙に薬臭くなってしまったのだ。

ヘレナに作業場に呼ばれたローザは匂いに酔いそうになった。

「お嬢様、これはでは匂いがまざってしまうかもしれません」

「仕方ないわね。とりあえずは作業場を仕切りましょう。これからは作業場を増設して対応します。この先もバスボムが定着していくようなら。いろいろと設備投資を考えなければなりませんね」

どのみち香りによって、作業ラインを整えなければならない。

まさかここまで商品が売れるとおもわなかった。従業員のためにも投資は必要だ。

「オーダーメイドの値段を上げようかしら。もちろん、香りに限ってだけれど」

ローザがふと漏らす。

「確かに。それはよいお考えだと思います」

ヘレナが頷いた。

その後、改良に改良を重ね、やっとイーサンの満足のいくものが納品できた。

イーサンは驚くほど、気前よく金を払ってくれた。ローザの大好きなキャッシュで。

だが、ローザの本来の目標は達成されていない。

彼が依頼した品は、すべて医療用なのだ。

関節の痛みや体の冷えに効果を発揮しているという。

(違う、そうじゃないのよ。閣下を広告塔にしたかったの)

ローザはどこまでも俗物だ。

『グリフィス閣下ご愛用』のバスボムを商品化できないのは非常に残念で、遺憾の意である。

ちなみに店では男性用に試験的に『フィルバート愛用』のバスボムは出し始めた。

兄はモテるのだ。

ローザの読み通りモテたい殿方に売れて、男性客の取り込みに成功しつつある。

その日も馬車馬のように働き、日が暮れて仕事がひと段落したところで、ローザは店から帰宅することにした。

「ローザ様、明後日は閣下の開く夜会ですが、お忘れではないですよね」

「も、もちろんよ」

(すっかり、お忘れでした)

「肌のお手入れをした方がよいかと思います」

いわれてみれば、最近食事もおろそかになりがちで少し痩せて、肌がかさついているような気がする。

「は! 私ったら、見た目だけが取り柄なのに」

ついうっかり図々しい本音が口に出る。

ローザは全くモテない残念美人で、男性は財産目的以外では近付いてこない。

その点、主人公のエレンは家に財産などなくとも男性に大人気で、それこそより取り見取りだ。

ローザも生涯に一度でいいから、心から「愛している」と言われたい。前世でもなかったような……。

ローザは嫌なものを思い出しそうになり、慌てて首をふる。

「そんなことはございません。美しさ以外にも取り柄はございます。ローザ様は経営者としてたいへん優秀なお方です」

今まで、彫像のようにおとなしかった護衛のヒューが口を開く。

彼は鉄面皮だが、結構優しいのだ。ただ女性の褒め方が独特だ。

店が繁盛しているせいか、ヒューはローザのそばでずっと警護を続けてくれている

たいそうな威圧感があり店で浮いてしまい、始めは戸惑ったが、精悍で整った顔立ちをしているので意外に客から『かっこいい護衛さん』として人気者になっている。

今では時々客の案内までするようになっていた。彼目当ての女性客も増えている。

ヒューは護衛として優秀だし、店の売り上げにも貢献している。

父の見る目に間違いはなかった。

そして、ローザが店にいる時間帯には、外にも警護の者が配置されていて、親の過保護ぶりがうかがえる。

ローザは今夜も自室で、金貨を数えた。自分で稼ぐようになってからすっかりそれが日課になっている。

(家族全員で外国に逃亡するにはまだ少し足りないわね。もう少し頑張らないと!)