軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

仲良くしませんこと?2

ジュリエットはそれからおずおずとテーブルにあるバスボムの入った箱を手に取る。

食いついたとローザは思った。

「ジュリエット様は、ミュゲの香りが好きですよね。だからこちらのバスボム、特別に香りをつけてみました」

「え? わざわざ私のために?」

(そりゃあ、おどろくわよねえ。今まで犬猿の仲だったもの)

ローザはしみじみと思う。

「よろしかったら、箱の上から匂いをかいでみてください。開封しなくても外からほんのりと香りがしますよ」

ジュリエットはおずおずと箱を手に取ると、顔に近付ける。

途端に破顔した。

「まあ、私の大好きなミュゲの香りですわ!」

頬を紅潮させ、目を輝かせる。

「でしょ? 調合するのに苦労しましたわ」

いや、ノウハウはあるので、実はそれほどではない。

「まさか、私のために?」

「ええ、『ローゼリアン』ではお客様のオーダーメイドも承っておりますの」

ローザが得意げに答える。それをきらきらとした目で見るジュリエット。

「では、私のほうからも何かお返ししなくては……」

途端に、そわそわしだす。やはり、人は一点ものに弱い。特に自分のためだけにあつらえられたものには。

「いいえ、それには及びませんのよ。うちの店に買い物に来てくださればそれで充分ですわ」

「え? 行っていいんですか!」

今までの敵意が嘘のように霧散している。

どうやら、今話題のバスボムがずいぶんと気になっていたようだ。

こうしてローザはまた一人顧客をゲットした。

そこでローザは本来の目的を思い出し、ハッとする。

バスボムはいわば、袖の下でローザは自分の悪評を探るために、家が中立派のジュリエットに近付いたのだ。

「もちろんですわ」

鷹揚に頷きつつローザは用件に入る。

「それで、ですね。実は折り入ってジュリエット様にご相談がございまして」

するとジュリエットは再び警戒したように顔を引き締める。

そして取られまいとするようにバスボム入りの箱をぎゅっと胸に抱く。

「難しい相談ではありませんのよ。私、最近、馬に蹴られたのはローザ・クロイツァーの自作自演ではないかという噂を耳にしましたの。ジュリエット様、何か聞いていませんか?」

「ああ、そのお話でしたら――」

ジュリエットも最近その噂を耳にするようになったと言う。

「私にとっては非常に不名誉なことです。だって、死にかけましたもの。そうまでして馬をけしかけるだなんて、私はまるでおバカさんではないですか? それでその噂はどこで耳にしましたか?」

「私の友人たちからですわ。さすがに真に受けませんでしたけれど」

ジュリエットが意外なことを言う。

これもバスボム効果だろうか。

「噂の火元はわかりませんか?」

するとジュリエットはバスボムの入った箱をぎゅっと持ったまま答える。

「このバスボムにかけて、火元は私ではありません」

「それがわかっているから、お尋ねしているのではありませんか」

「まあ、ローザ様……」

ジュリエットの瞳がきらりと光る。

「だって、ジュリエット様は直接殴りに来るタイプですもの。そんな小賢しくてまわりくどい真似をするわけがありませんわ」

「……」

ジュリエットの表情が引きつったが、ローザはお構いなしに先を続ける。

「だから、あなたに相談したんです。それに私とは派閥が違うから、別の情報も入ってくるかと思いましたの」

「承知いたしました。クロイツァー家の反対派の派閥に幾人か知り合いがおりますので、聞いてみますわね」

意外にもジュリエットは噂の火元探しを手伝ってくれるようで、ローザは驚いた。

てっきり渋られると思っていたので、第二第三の案を考えていたのだ。

「それほど、驚くことでもありませんわ。中立派は争いを好まない者が多いのです。もちろんうちの父もそうです。だから、父は二つの派閥の間で、よく蝙蝠のような真似をしていますわ」

イプス家は裕福なはずだが、強い派閥の間に挟まれてなかなか苦労しているようだ。

「まあ、そうでしたの」

「そんな父を情けなく思うこともありましたわ。でもイプス家はそれで財産をなしてきたので、今では何とも思っていません。もちろん、裏切るのではなく、時に利用し、争いを避けるための処世術です」

胸を張ってジュリエットは答える。

「実利的でよろしいかと思います」

それ以外に生き残るすべがないのならばーー。

「私、今回は噂を流した者の悪意を感じます。ローザ様は馬に蹴られて何の得もありませんでした。そのうえ、せっかくの殿下のお誘いを断わっておいでと聞いております。微力ながら、協力させていただきますわ。ただ、かなり広がっている噂のようなので、火元を特定できるかはわかりませんが」

バスボムのお陰か、ジュリエットは力になってくれるようだ。

そして店の常連客になってくれたら、なおさら嬉しい。

(よし! 中立派にもぐいぐい食い込んで販路を広げていくわよ!)

ローザは決意を新たにした。

その後もローザは積極的に夜会に参加したが、『ローゼリアン』の顧客が増えただけで、一向に噂は集まらなかった。

ただ、中立派の貴族と仲良くなったことは家族に称賛された。