軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

商人への第一歩?

市場は王都の中心地でにぎわっていた。

ローザの気持ちも活気のある雰囲気に浮き立った。

彼女はそこで、重曹やクエン酸を大量に買い込む。

明日にでもクロイツァー家に届けてもらうつもりだ。

「ヘレナ、次は、ドライハーブと香油を買いに行くわよ!」

意気揚々とローザが言う。

「お嬢様、そろそろ日も暮れます。今日は帰りましょう」

そう言われ気が付いた。もうすっかり夕暮れだ。

「では、残念だけれど、明日にでもしましょうか」

あまり遅くまで外出していると、過保護な家族が心配する。

「お嬢様、買い物に行くのではなく、出入りの商人に頼んではいかがでしょう?」

その発想はなかった。

「なるほど」

「幸い旦那様の元には商人の出入りがたくさんございますので」

「ヘレナ、素晴らしい考えだわ! でもあと一つだけ、私どうしてもバスボムの型が欲しいの。球形のバスボムを作りたいのよ」

「はい? どしてまた?」

ヘレナが解せないという表情をする。

「だって、かわいいじゃない!」

ローザは市場の中を意気揚々と闊歩した。

結局ローザの望む型はなくて、特注となった。

ローザは家のポーチで馬車から降りると、父の執務室に突撃した。

「お父様! お話があります!」

バタンとドアを開けると勢いよく執務室に入っていった。

「なんだい。ローザ、今日は家紋の入っていない馬車に乗ってどこへ行っていたんだい?」

書類から顔を上げた父は、ニコニコしているが目が笑っていない。

「ええっと、それはまあ、お散歩兼お買い物ですわ?」

「まさか、どこぞの殿方の元にでも」

父の目がきらりと光る。

「違いますわ! お父様、私、お店をやりたいと思っておりますの」

「え?」

さすがの父も鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。

「それで、ドライハーブや、香油を取り扱う商人を紹介してほしいの」

すると父は突然笑い出した。

「ははは、お前が商売をしたいだと?」

「そこまですごいものではないですわ。小さなかわいい店が欲しいのです」

「ローザ! 商売というのはそのように甘いものではない!」

「え? だから、お父様そのような大げさなものではなく」

ローザは前世でぼんやりとお気に入りの雑貨を置いた店をやってみたいと思っていた。

だから、今世は財力を利用してその夢を叶えようとしただけだ。

幸いクロイツァー家にたくさんお金がある。小さな店舗を手に入れるなど、ローザの持っている宝飾品より、ずっと安いだろう。

しかし、目の前の父は、おかしなスイッチが入ったのか商人の顔になってしまった。いや実際は、彼は貴族なのだが。

「商売を立ち上げたいのならば、事業計画書を持ってきなさい!」

「はい?」

ローザは父に商人を紹介してもらいたいだけだし、それほど大きな事業を起こそと思っているわけではない。

ただ街角にあるかわいい小さなお店が欲しいだけだ。

「この父がお前に商売のイロハをおしえてやろう」

(だから、違うって! ……いや、前世パワポでプレゼン資料まとめていたから、結構どうにかなりそう? いや、でも採算が取れなければだめってことだし)

「はあ、わかりましたわ。お父様。ひと月ほどお待ちいただけます? そうしましたら、事業計画書を提出いたしましょう」

まずは市場調査が重要だとローザは考えた。

父がそんなローザを見て、満足そうにうなずく。

「では書き方は私が自ら教えよう」

だが、ローザは父の言葉をさらっと流す。

「ああ、結構です。間に合っておりますか。それより、五日後にうちの庭園で茶会をしたいのですが、規模はざっと五十人程度で」

父はキョトンとした顔をする。

「いや、その程度なら、造作もないが、商売の話はどうなった?」

「もちろん事業計画書を作るためですわ。お客様はお父様が集めてくださる? 年齢層は社交デビューしたてのかたから、年配の方々まで、すべて女性でお願いいたしますわ。貴族・平民問いません」

「何だって? 私が、招待客を決めるのか? というか若い紳士はいらんのか?」

「はい! 一人もいりません! 男子禁制のお茶会です。お父様と商売でつながりのある方ない方どちらでも。それから、クロイツァー家に好意的な方々でお願いしますわ。では、私は準備がありますので」

父が困惑顔でローザを見る。

「一人もいらないって……。ローザ、それに準備とはなんだ。執事やメイドにまかせればいいだろう」

「もちろん会場の準備はお任せしますわ。私は大切なお客様にお持ちいただくお土産を作ります」

「土産? お前の手作り……?」

唖然とする父を置いてローザは執務室を出た。

明日からはバスボムづくりで忙しくなる。香油も自分で仕入れなくてはならない。

ローザはやる気満々だった。

「あのお嬢様、本気ですか? 招待客五十人分のバスボムを一人で作られるおつもりですか?」

廊下を歩きながら、ヘレナが淡々と問う。

「もちろん! 私とあなたで頑張りましょう!」

ローザはいい笑顔でヘレナに向けた。

「お嬢様、お忘れのご様子ですが、私はメイドとして雇われております」

「まあまあ、いいじゃない。どうせあなたは私のそばにいて面倒をみなければならないのだし、ぼっと立っているより、一緒にバスボム作ったほうが楽しいでしょう?」

そう言われて、ヘレナは考え込む。

「確かに、最近のお嬢様はとても面白いので、楽しいかもしれません」

「面白いって何?」

「見ていて飽きないということです」

「意味を聞いた訳じゃないわよ。まあ、いいわ。二人で最高のバスボムを作って、市場調査じゃない……布教活動しましょう」

そんなこんなでローザの忙しい日々が始まった。