軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

もう振り回されない

しかし、ローザの決断は早かった。

「わかりました。私もたいした情報は共有できないかと思いますし。

モロー様はあまり若い令嬢の受けが良くないんです。年配の淑女や殿方には彼女をかわいがる方々もいますが……。まあ、そんな形で私の情報は偏っています。なんなら、モロー嬢派の紳士・淑女の名前を書き置いておきましょうか?」

「いや、結構、今の話で十分収穫はあったよ」

ローザはきょとんとした。

「今の情報のどこに収穫が?」

ローザは先ほどからよい香りの漂う紅茶に口をつける。

「モロー嬢は天使のような女性で、皆から好かれると聞いていた」

イーサンの言葉に、ローザは口に含んだ紅茶を噴き出しそうになった。

「それはまた、うらやましい噂ですね。言っておきますが、私が聞いた噂が偏っているのかも知れませんよ?

私は若くてかわいらしい女性にあたりが強いと思われておりますから、皆さん気を使ってくださっているのかもしれません」

イーサンが首をふる。

「天使は庭園の暗がりで人の悪口を言ったりはしない。そして君は、彼女の言った君の悪口について、何一つ弁解しない」

それは単に、イーサンの好感度を上げようという気がないからだ。

嫌われている人間に好かれようとするのは無駄だとローザは思っている。

結局相手の顔色ばかり見て、振り回されるのがおちだ。それは前世で経験済み。

「なるほど……。ところで閣下、用事が済んだのならば、私はそろそろお暇したいのですが、よろしいでしょうか?」

長居をして、今度はイーサンに乗り換えたなどとおかしな噂を立てられたら、いい迷惑である。

イーサンは苦笑しつつも、ローザの言葉に頷いた。

「お嬢様、閣下といったいどんなお話をされていたのです」

ヘレナが、帰りの馬車で身を乗り出して聞いてくる。

「ああ、殿下のことよ」

「また何か言われたのですか?」

イーサンとローザの不仲を知っているヘレナが眉根を寄せる。

「今日はそうでもなかったわね。閣下に『貸し』もつくれたし」

「『貸し』ですか? 何か危険な取引でも?」

「まさか。社交界での噂を教えてあげただけよ。そんなことより、これから市場に向かうわよ」

ローザが張り切った調子で言う。

「え? 今からですか?」

「バスボムの評判が思ったより良くてね。もっと大量生産しようかと思っているの」

ローザがほくほく顔で言う。

「それはようございました。ですが、どうやって大量生産するんです? 私が手伝うとしても無理がありますよ」

ヘレナが首を傾げる。

「もちろん、人を雇ってよ」

「はい? なんでまたそんな大規模に?」

いったい何を言い出すのだろうという顔で、ヘレナはローザを見る。

「私、商売を始めたいのよね」

「え? それは初耳です。まさか、バスボムを売り出すのですか?」

「そうよ。でも、今すぐにというわけではないわ。まずはできるだけ多くの人に配って、バスボムの良さをわかってもらう。そこから始めようと思うの」

布教活動は大切だとローザは思う。

「配るって無償でですか?」

そのことにヘレナは驚いたようだ。

「興味を持ってくださった方々にね。それで口コミで広めてもらうつもり」

ローザは『損して得取れ』という前世の言葉を思い出していた。

まずは無料サンプルで試してもらい。売り物になりそうならば、店舗を構えればいい。

もし店舗を構えることができたら、バスボム以外にも、ハーブや香油などを取り扱うのもいいかもしれない。

ローザの中で夢は広がっていく。

「私、自分のお店を持って見たかったのよねえ」

「それよりお嬢様は、先にご婚約者を決めたほうがよろしいのではないでしょうか?」

直球でヘレナが言う。

「ふふふ、ヘレナ、甘いわね。私の悪評は広まっているのよ。その証拠に、この間の王宮の夜会ではお兄様意外とはダンスを踊っていないの。それに私が馬に蹴られた後、見舞いに来た殿方は殿下以外にいなかったでしょう?」

そう言ってローザは不敵な笑みを浮かべる。

「確かに。それは由々しき事態です。お嬢様、胸を張っておっしゃることではありません」

「そうかもしれないけれど。私にとって実家って結構居心地がいいのよね」

しみじみとローザが語る。

「そういう問題ではございません!」

鼻息を荒くするヘレナをローザは軽く受け流す。

「まあまあ、婚約の話はとりあえず置いておいて、市場へ向かいましょう。バスボムの材料を大量に仕入れたいの。いつまでも厨房で分けてもらうわけにはいかないでしょ? ということだからヘレナ、これからもよろしくね!」

ローザはいつまでも、漫画展開に振り回されるつもりはない。

前世のように人に使われ、金に振り回され、寿命を削るつもりもない。

だって、今世のローザは金持ちなのだから。

労働で過労死なんてしたくないし、かといって毒殺もされたくない。

「お嬢様、ヘレナは不安です」

言葉通り彼女は頭を抱えている。

「大丈夫よ。あなたの面倒も見るから。持ちつ持たれつで行きましょう!」

ローザは明るい声で言い放つ。

馬車は一路、市場へ向かった。