軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

至宝の君Ⅱ

以前、ロベルトも自室に閉じこもったエミリアの部屋の扉 を蹴り破っていたが、それとは破壊力がまったく違う。

ミレーユの与えられた部屋の扉は、窓を含め、すべて守りの術が込められた魔石が使用されており、外部からの侵入者を拒む魔術が施されているのだ。

しかし両開きの隙間から見える長い脚は、それをいともたやすく蹴り破った。

「まったく。建具の不具合くらいすぐに直して……――おや?」

侵入者は、部屋には誰もいないと考えていたのか。ミレーユとルルを見るなり、顎下に手を置き、考えるそぶりを見せた。

そして、何かを思い出しように笑う。

「これはすまない。部屋を間違えてしまった」

爽やかな謝罪だった。

ミレーユは呆気に取られながらも、相手の顔をまじまじと見つめた。

煌めく太陽の瞳と、それを縁取る長い睫毛。肩よりも短い黄金の髪は、極上の金を流したかのように美しい。衣から覗く手足は長く、体形もスラリとしている。

どこからどう見ても文句のつけようのない美青年だ。

(あら? この方……)

その美しい造形もさることながら、輝く髪色と顔立ちにはどこか既視感があった。

戸惑うミレーユをしり目に、侵入者は悠然とこちらへ歩み寄ってくる。

一本の線を歩くような優雅な足取りと身のこなし。堂々とした気品に、ミレーユは知らず息を呑む。そんなミレーユよりも、先に我に返ったのはルルだ。

「不審なイケメンですぅううう!」

指をさして喚くも、侵入者は愉快そうに笑うだけだ。

「おや、こちらは可愛らしい子猫だね」

子猫と言われ、てっきり地震にもまったく動じず長椅子の上で眠りこけているけだまのことを指しているのかと思えば、ルルのことだったようで、よしよしと頭をなでている。

子猫扱いされたことに、ルルは頬を膨らませて怒った。

「ルル、ネコじゃないですっ、ネズミです!」

「これは失敬。では、可愛い子ネズミだね」

すぐさま訂正してくれたことで、ルルの顔に笑みが広がる。

髪をわしゃわしゃと混ぜられても満足げで、嫌がって振りほどくこともない。

そんなルルの様子に、ミレーユの警戒心も自然と解かれた。

ルルは自分よりもよほど人の心を見極める目を持っている。母国の者からすれば、それはただの野生の勘というものらしいが、実際大きく外れたことはなかった。

「あ、あの、どちらの部屋とお間違いになられたのでしょうか? 私もあまり詳しくないのですが、場所によってはご案内できるかもしれません」

問いかければ、目の前の人物はミレーユをマジマジと見つめ、おもむろに長い指先をミレーユの顎下に置いた。

手慣れた仕草でスッと持ち上げられ、ミレーユが驚くことすらできないでいると、端整な顔立ちが柔らかな微笑を見せた。

太陽の光を真正面から浴びたかのような威力が、ミレーユの眼球を襲う。

「淀みのない黒眼だね。アレが選ぶだけある」

「え?」

どういう意味だろう。

艶やかな美貌が眩しすぎて、心臓がどきどきと高鳴り思考力がそがれる。

(……ちょっと待って。この感覚は……)

つい最近も、同じような動揺をある人物に感じた。

そう。この世にただ一人、ミレーユの鼓動を速くさせる想い人。

いままで彼以外に、こんな感情を持ったことなど一度たりともない。

だというのに、目の前の人物に似た感情を抱いてしまったのは、その彼に似すぎているからだ。

狼狽えるミレーユに、ルルが怪訝な顔を見せる。

「姫さま、お顔真っ赤ですよ? 浮気ですか?」

「ち、違っ! だって、この方……っ」

カインに似すぎているのだ。

キリリとした瞳と顔の造形、煌びやかな髪色。堂々たる年上の所作は、まるで想い人の数年後の姿のようで。

ミレーユは目の前の人物に、成長したカインに出会えたような不思議な感覚と高揚感を覚えた。

(でもっ、でもっ、けっして浮気心などではないわ!)

弁明しようとした瞬間、そこでやっと「あ!」と気づいた。

(もしや、この方はカイン様のお父様では!?)

見た目はかなり若いが、竜族の寿命はミレーユたち齧歯族とは異なる。

彼らはどれだけ年を重ねていても、若いときの姿を保ったまま長く生きるのだ。

(そうよ。カイン様に似たお顔立ちに、堂々としたお姿。きっと、この方が前竜王様だわ!)

確信しつつも、しかし瞳の色が金色であることに疑念を抱く。

黒竜王であるならば、その瞳の色は黒のはずでは?

「ミレーユ、大丈夫か!?」

突如、声と共に扉が破壊された。

こちらは蹴破ったレベルではなく、完全なる破壊。

一瞬で扉を消炭にしてしまった張本人は言わずと知れたカインだった。

「いまの揺れで怪我でもしてないか心配で……って、なぜミレーユの部屋にいるのですかっ!――――母上!!」

彼の怒声が、広い室内に響く。

(ははうえ……? え、母上?!)

思いもかけなかった称呼に、ミレーユの頭に何度も『母上』という単語がこだまする。

母上ということは、…………女性?

(ええええええぇ?!)