軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エピローグⅥ

「苦しいです! る(・) る(・) の顔のうえで寝ないでください!」

ルルは、自分の顔に張り付いていたふわふわの物体を剝がしながら叫んだ。

それが何か確認せずとも分かったからだ。

案の定、それはふてぶてしい顔をして、また平気な顔ですやすやとベッドの上で眠り始めた。言わずと知れたけだまだ。

「いつかそのもふもふ刈ってやりますからね!」

「ルル……、元気そうで安心したわ」

腹を出して寝ているけだまを指さし喚くと、部屋の隅に設えられたコモードの上で、洗面にハンカチを浸していたミレーユが苦笑していた。

「ふえ? あれ、ルル……なんでまたお昼寝してるんですか?」

ふかふかのベッドの上で寝ていたらしい自分に気づき、ルルは首を傾げた。

「覚えていないの? ゼルギス様とご一緒して、その時に倒れたこと」

「あ、そうでした! 面白いお部屋を探索していたんです!」

「けだまも心配してずっと傍を離れなかったのよ」

「本当に心配してるなら、人の顔の上では寝ないと思います!」

危うく窒息死するところだったと文句を言うと、そこでミレーユの衣装が純白のドレスから、菫色のカラードレスへと変わっていることに気づいた。

「あああ、もう着替え終わっているってことは、火山バンってするの、終わっちゃいました!?」

「いえ、着替えが終わっただけで、まだそちらは終わっていないわ」

「本当ですか!? やった!」

「そ、そんなに楽しみなの?」

どちらかというと恐怖で怯えているミレーユからすれば、意図的に火山を爆発する光景など恐ろしくて失神しそうなのだが。

「それよりも、本当に身体は大丈夫なの?」

「はい! いっぱい寝てまた元気になりました」

「約束の間に入って倒れたと聞いたから、とても心配したわ」

「そういえば、お部屋に入った気がするんですけど……」

ルルはしばし考え込むが。

「……あれ?」

思い出せない。ゼルギスと一緒に、扉の中に入ったことだけは覚えているのに。

「うーん……あ、でもすごく幸せな気持ちになったのは覚えてます!」

「幸せ?」

「はい!」

「……そう。よかった」

それ以上ミレーユは深くは訊かず、ただ静かに笑みを浮かべている。

花が咲くような柔らかな笑みに、ルルは一瞬何かを思い出しそうになったが、またすぐに霞がかかったように閉ざされてしまう。

「姫さま……」

「なあに?」

「ルル、姫さまが結婚しても、お傍にいてもいいですよね?」

不安そうな声を出すルルに、ミレーユは一瞬驚き目を見開いた。けれど、すぐにそれは笑顔に変わる。

「当たり前じゃない。私はまだまだ半人前だもの。ルルがいてくれないと困ってしまうわ」

ミレーユの言葉に、ルルは照れたような顔で「へへ」と、嬉しそうに瞳を潤ませた。

「ルル、ずっと側にいてくれてありがとう……」

「へ? 何かおっしゃいました?」

「いいえ、何でもないわ。――ところでルル。体調に問題がなければ、ゼルギス様のことを助けてあげて欲しいの」

「ふぇ?」

「ルルが倒れたことで、不埒な行いをしたんじゃないかって嫌疑をかけられているのよ……」

実は、隣の部屋ではわりとカオスな状況に陥っていた。

「とくにナイルさんが怒っていらして……。とても怖いの……」

「ふらちなおこない、って何ですか?」

よいしょっとベッドをおりながらルルが問う。

ミレーユは、「えっと、それは」と言いにくそうに言葉を濁しつつ、二人で扉に向かうと、思い出したようにルルが後ろを振り返り。

「お前、いつまでも寝てるんですか。置いていきますよ!」

ベッドの上でだらんと身体を伸ばしていたけだまに声をあげた。

けだまは「はいはい」とばかりにベッドから飛び降りると、ぴょんとルルの頭の上に乗る。

「あら、今日は仲がいいのね」

「ふふん。けだまはしょせん、ルルよりもちっさいですからね! ネコと言えど、べつに怖くないです!」

腰に手をあて、えっへんと胸を反らす。

「でもルル、けだまは……。いえ……なんでもないわ」

その得意げな仕草に、ミレーユは出かかった言葉を飲み込んだ。

けだまの猫種は、ルルの知る猫サイズではない。成猫となればルルの身長ほどになり、尻尾の長さをいれればその全長はルルよりも大きくなる。

そのことを知らないルルは、ふっふっふっと勝ち誇ったような笑みを零しているが……。

ミレーユは伝えるべきかどうか迷ったが、せっかく上機嫌でけだまを受け入れようとしているルルに水を差す気にはなれず。

(もう少しだけ、黙っておこう……)

ひっそりと、ミレーユは心に決めていると、部屋の扉が開いた。

「ミレーユ、ルルの様子はどうだ?」

カインだった。元気そうなルルの姿に、彼も安心したようで。

「安心しろ、ゼルギスの息の根は私が必ず止めてやる」

任せろとばかりに、とても物騒なことを言った。

「ええ、そしたらルル未亡人になっちゃいます~」

「まだ結婚してないんだから違うだろう!」

そんなカインのツッコミをすり抜け、ルルは隣の部屋へと走っていく。

「あ、こら、ルル!」

危ないからアイツに近づくなと止めようとするカインを、ミレーユはじっと見つめた。

「なに、どうした?」

「カイン様は、ルルにお優しいですよね」

「ミレーユの妹みたいな存在なんだ。当然だろう……――私はミレーユ一筋だぞ!」

別の意味が含まれているのだと感じたのか、慌ててカインが宣言する。

「あ、いえ。そういう意味ではなくて……。カイン様は、ルルの言うことなら、ちゃんと聴いてくださるとナイルさんも仰っていたので」

鷹族の兵が生きていられたのもルルの助言があったからだとか。

そのことを彼に伝えれば、

「ルルの言葉は、ゼルギスよりよほど有意義だからな。それに、」

「それに?」

「なんとなく、ルルの言うことはきいている方がいい気がしてならないんだ……」

熟考ののちそう答える彼に、ミレーユは口元を押さえて笑った。

「え? どうした? そんな笑うようなことを言ったか?」

ふふ、と笑うミレーユに、カインはただただ首を傾げた。