作品タイトル不明
“ジュデッカ”③
「ふぅー、勝ちましたね!」
終わるやいなや、ココルがはしゃいだように声を上げた。
「一時はちょっとひやっとしましたけど!」
「本当にね」
メリナがやれやれと笑いながら言う。
「今までの四天王で一番強かったんじゃないかしら」
「今回はスキルの相性がよかったわけでもないから、まともに戦うことになっちゃったしねー」
テトがにっと笑って続ける。
「順番的に、そろそろアルヴィンの【ドロップ率減少・特】が役立つかと思ったんだけど」
「いやそんなわけないだろう」
俺は微妙な表情で答える。
「俺の【ドロップ率減少・特】はココルのおかげで発動していないんだぞ。それに、これまでみんなのマイナススキルが役立ったのもただの偶然じゃないか」
世の中、そんな都合のいいことばかり続くわけもない。
「そうですよっ。だいたい、【ミイラ盗り】でケルベロスのデバフが無効になったのも、半分はアルヴィンさんのおかげみたいなものじゃないですか」
「今回はアルヴィンがアイディアを出してくれたおかげで楽に勝てたんだから、それでいいじゃない」
「まーねー。……でも、終盤はボクも活躍したでしょ?」
「あれはやり過ぎです」
「ちょっと、天使がかわいそうになったくらいだったわね……」
「俺もさすがにあそこまでは考えていなかったな……」
属性を狙ったものに変えさせるところまでは、おそらく正規の攻略法だったんだろうが……まさか向こうも、属性変更バフまでいいように利用されるとは想定していなかっただろう。
まあそのおかげで、終盤はものすごく楽になったのだが。
「でも、普通に強い敵でしたよね」
ココルがぽつりと言う。
「わたしはレベルがレベルなので、たぶんなんとかなりましたけど……毎回弱点属性にされてダメージ二倍になってたら、普通は回復が追いつかないです。テトさんみたいに、属性付き投げナイフを都合よく持っている人も、そんなにいないでしょうし……」
「いや。今思えば、攻略法はいくつかあった気がするな」
俺は、セラフィムとの戦闘を思い出しながら説明する。
「とにかく、天使の属性をある程度固定できればかなり楽になるんだ。だから、たとえば前衛が属性付きの武器を使う手もある」
属性が付いた剣など珍しくもなく、どこの武器屋にも一本は置いてある。
さらに、たいていの前衛は予備の武器を持ち歩くものだ。俺も二本ストレージに入れてあるが、そのうちの一本にはそういえば火属性が付いていた。
「あとは、弓手がいればもっと楽かもな。高レベルの弓手はだいたい各属性矢をストレージに入れているものだから、テトとメリナの役割を一人でやることもできる」
「へー。なるほどねー」
「言われてみると、けっこう攻略のしようはあったのね」
「ああ。まあ、どうしても相性が悪いパーティーは……出直して来いってことなんだろうな」
そう言って、俺は背後で開け放たれたままになっていた扉をちらと振り返る。
ここに限らず、四天王の部屋はどれも撤退不可ではなかった。
というか、撤退不可の中ボスというのは普通ない。
相性が悪ければ、装備やパーティー編成を見直して再挑戦。それがダンジョンの基本だ。
ギミック付きのボス部屋などはその例外だが、そういうのはだいたい、うまく戦えばどんなパーティーでも勝てる難易度に設定されているものだった。
ダンジョンは、バランスがとれているものだから。
「いよいよ次は魔王かー」
テトが感慨深そうに言う。
「どんなやつかなぁ」
「じゃあ、また予想してみる?」
「えー、さすがに当てられる気しないよ」
テトとメリナがそんなことを話す。
俺はふと、ココルが静かなことに気づいた。
見ると、視線を下に向け、何か考え込んでいる様子だ。
「……ココル?」
俺は声をかける。
「どうかしたのか?」
「あ……いえ。ちょっと四天王のこと、思い出してまして」
「思い出すって、何を?」
「なんか……おかしくなかったですか? 今までの演出」
ココルが、内心の疑惑を吐露するように言った。
テトとメリナもこちらに気づいて言う。
「おかしかったって何が? まあ、全部おかしかったといえばおかしかったけどさ」
「何か気になることでもあるの? ココル」
「はい。……喋ってなかった、ですよね?」
「え……?」
「四天王全員……戦闘中は、誰も」
疑問に眉をひそめる俺たちへ、ココルが説明を始める。
「ケルベロスはガウガウ、バフォメットはコホーとか言ってただけですし、フライロードに至ってはブンブン羽音を立ててただけです。今回のセラフィムなんて……」
「……喋ってはいたが……何か、呪文みたいな言葉だったな」
思えば確かに、どの四天王も戦闘中は俺たちにわかる言語を話していなかった。
言葉が理解できたのは、始まりと終わりの演出の時だけだ。
「あの演出は……本当に、四天王が喋っていた内容だったんでしょうか?」
「な、なんだか気味が悪くなってきたわね」
表情を引きつらせ、メリナが言う。
「でも……だとしたら、それってどういう設定なのかしら?」
「うーん……やっぱり、災厄は四天王が引き起こしたわけじゃないってことなんじゃない?」
難しい顔をしたテトが言う。
「そんな大それたことをした割りには、弱いしさ……。それに、倒しても災厄は収まらないんでしょ? じゃあ、そういうことなんじゃない? 四天王は全員、実はただのモンスターに過ぎなくて……」
「すべての災厄は、魔王一人が引き起こしてるってことか?」
俺が言うと、テトがうなずく。
「うん。そういうことだと思うけどなー。テキストにもそんな感じのこと書いてあったじゃん。魔王がすべての不幸の根源だって」
「……それが正解に思えてきたわね。魔王に会ったら種明かしがされるのかしら?」
「ぜひしてもらいたいですね……このままじゃさすがにもやもやします!」
三人が盛り上がる。
そんな中、俺はまだ考えていた。
本当に……黒幕は魔王なんだろうか?
賭け事で負けすぎて気が変になっていた時、俺はこんな風にも思っていた。
誰かがイカサマをし、俺を 陥(おとしい) れているのではないか……と。
冷静に考えれば、そんなわけがないことがわかる。それ以外の理由で、俺の負けは簡単に説明がついてしまうからだ。
胴元が勝つ仕組みを理解していなかった無知。単純な技術の不足。そしてそれらを覆せるほどの、強運を持ち合わせていなかったこと。
つまるところ巨大な不幸とは、小さな偶然や必然の積み重ねだ。悪い何者かが単独で引き起こしているわけじゃない。イカサマ師をどれだけ探したところで、俺の負けは返ってこないのと同じことだ。
諸悪の根源など、本当に存在するのだろうか。
実は魔王もまた――――ただのモンスターに過ぎないのだとしたら?
しかしそうなると、四天王を 騙(かた) っていた演出の声は、一体何者なのか……。
「アルヴィンー。ほらもう行こうよ」
テトの声にはっとすると、皆部屋の奥へと進みながら俺を振り返っているところだった。
「あ、ああ」
あわてて返事をしながら、俺は思い直す。
考えすぎか。所詮はこのダンジョンだけの設定に過ぎないのだ。ここにだけ、諸悪の根源がいてもおかしくはない。
部屋の最奥には、これまでと同じように一枚の扉があった。
入ってきたときのものよりずっと小さい、次の階層へ向かうための扉だ。
ただ……今回のそれは、これまでのものとは少しデザインが違った。
「あれ、何か書いてあるよ」
扉を間近で見たテトが、ふと気づいたように言った。
「テキストみたい」
皆で近寄って、それを読む。
“物事には必ず、終わりが来る――――…………