軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

“ジュデッカ”①

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俺たちは魔王城十六層へと到達した。

これまでは階層を降りるごとに城らしい内装へと変化していたが……十六層は、少し様子が違っている。

「なんだか……十五層より古くなってません?」

廊下を進む途中、ココルが周りを見回しながら言った。

その通りだった。

隙間なく敷き詰められていた長方形のレンガは、ところどころが欠けて穴が開いている。絨毯の色はくすみ、額縁は床に落ち、シャンデリアには蜘蛛の巣が張っていた。

灯りの一部が消えているせいか、上の階層よりも幾分か薄暗い廊下を、俺たちは進む。

「まさか、こういう風に変わるとは思わなかったわね」

メリナが言った。

「やっぱり、普通のダンジョンとはちょっと違うみたい」

****

廊下の突き当たりには、これまでと同じように大きな扉と、傍らのセーフポイントがあった。

そこで一休みした俺たちは、扉の前に立つ。

装飾の具合などは十五層と同じ程度だが、やはり錆が浮いたり木が朽ちたりしていた。

「いよいよ四天王も最後かー。次はなんのモンスターなんだろーね」

頭の後ろに手を組み、軽い声でテトが言う。

「みんなで当ててみる?」

「わかるわけないでしょ……。今までの流れに、なんの法則もなかったじゃない」

「モンスターの種類は、モチーフとも特に関係なかったですしね」

「まあいいじゃん。ボクは植物系だと思うなー。一回くらい来るでしょ」

テトの言葉に、ココルとメリナが渋々考え始める。

「えー、じゃあわたしは……水系にします! マーマンとか魚とか。これまで水系ギミックは来てなかったですし、内装がぼろぼろになってるのもきっと浸水したせいなんですよ」

「妙に説得力あるけど、でも水系って範囲広くてずるくない? うーん、それなら私は……石系にするわ。ゴーレムとかガーゴイルみたいな。中ボスや固定シンボルの定番なのに、これまで来てなかったのはちょっと不自然だもの。魔王へ続く道の門番のイメージにも合うわね」

意外とノリノリで言った二人が、俺に話を向けてくる。

「アルヴィンはどう?」

「なんのモンスターが来ると思いますか?」

「俺か? 俺は……」

少し考えた後、にやりと笑って言う。

「今挙がったうちの、どれでもないモンスター、だな」

「えーっ! ずるくない?」

「それは反則ですよ!」

「待て待て。落ち着け」

俺は、抗議するテトとココルをなだめながら言う。

「これまで出てきたモンスターを考えてみてくれ。ケルベロスは獣系、フライロードは虫系、バフォメットはデーモン系。それから今挙がったのが、植物系に水系に石系だろ? あと何が残ってるんだ?」

「えっと……なんかある? ココル」

「巨人とか魔人みたいな、人系……でしょうか?」

「人型なら、バフォメットとちょっと被るだろ? アンデッド系もあるが、中ボスには少ないうえに、やっぱりバフォメットが取り巻きとして使ってきている。どちらも可能性は低い」

俺は主張する。

「だったら、そのあたり全部まとめてその他でもいいじゃないか。な? メリナ」

「私に振るの?」

メリナが少し笑いながら言う。

「ま、妥当なところだと思うわ。私たちのも十分範囲広いしね」

「うーん、メリナさんが言うなら……」

「じゃあそういうことでいいよ。アルヴィン」

「よし。楽しみだな」

俺は笑って言う。

なんとなく、当てる自信があった。

最後の四天王はおそらく、誰も知らないモンスターである気がしていたのだ。獣系でも虫系でもデーモン系でも、植物系でも水系でも石系でも、人系でもアンデッド系でもない、未知のモンスター。

「……私たち、思えば中ボス戦を前になんでこんなこと真剣に話してるのかしらね。別に何か賭けてるわけでもないのに」

冷静になって思ったのか、メリナが微妙な表情で呟いた。

俺は苦笑して答える。

「まあいいじゃないか。こういうのも冒険の楽しみということで」

そう言いながら、俺は扉を強く押した。

強く軋んだ音とともに、巨大な扉がゆっくりと開いていく。

全員で部屋の中へ歩み入る。

そいつは最初から、部屋の奥に浮いていた。

全身から光を放っているかのようなその神々しい姿に、俺たちは思わず見入ってしまう。

「……予想は、俺が当たったみたいだな」

わずかに引きつった笑みとともに、俺は呟く。

そいつはシルエットだけを見れば、巨大な人間と言えた。

バフォメットほどではないものの、人の二、三倍はあろう背丈を持ち、二本の足と二本の手を有する、人型のモンスター。

ただ、巨人や魔人といったモンスターとは、明らかに様子が異なる。

そいつは背に、六枚の白い翼を生やしていた。

『――――ある時、我が光を灯した』

部屋に、声が響いた。

それはこれまでの四天王の、どれよりも高い声だった。

『すると、世界が 遍(あまね) く照らし出され、そのすべてが 露(あら) わとなった』

その中性的な声は、そいつに似つかわしく思えた。

ひらひらとした純白の装束。巨大ではあるが細い体。その割に厳めしい肩幅。モンスターの造形にも性別が意識されていることは多いが、こいつは男とも女とも言えない造形だ。

長い髪は老人のように白く、袖から覗く肌は死人のように白い。顔はのっぺりとした、これまた白い仮面で覆われている。

右手にはメイスを携えていた。ただし、神官が持つような儀礼用のメイスではない。高耐久の相手を痛撃するような、武器としてのメイスだ。

六枚の白い翼を広げ、浮遊するその姿はまるで――――、

『人々は知った。隣の土地には、豊かな畑があることを。川の向こうには、金を生む山があることを。砂漠の先には、油の湧く泉があることを。人々はそれらを、ひどくうらやんだ』

「……天使?」

ココルが呆然と呟く。

そいつは確かに、聖典に記されているという天使の姿に似ていた。

『それらを手に入れるため、人々は攻め入った。隣の土地へ、川の向こうへ、砂漠の先へ。住民たちは殺され、富は収奪され、文化は失われた』

「……まさか、天使型のモンスターとはね」

メリナが、やや硬い声で言う。

「初めて見たわ。というか聞いたこともなかったけど。……まさか、アルヴィンの予想が当たるとは思わなかったわね」

「……俺も、こんなモンスターだとは思ってなかったけどな」

話す俺たちを余所に、声は続く。

『すべてを破壊し、手に入れ、人々はようやく気づいた。自分たちもまた、光によって照らし出されていたことに。ひどくうらやんだ目で、別の人々から見られていたことに』

「……今度こそ、戦争がモチーフのモンスターみたいだね」

テトが小さく言う。

「やっぱり、災厄のうちに入ってたんだ」

『破壊が繰り返された。侵略に次ぐ侵略によって、様々なものが上書きされ、消滅した。それも仕方のないことなのだと、人々は次第に諦めるようになっていった』

演出が続く。

天使の語る戦争の内容は、およそ荒唐無稽なものに思えた。とても現実に起こるとは思えない。

所詮は聖典に記された架空の出来事だから、仕方ないのかもしれないが……。

『それにもかかわらず、人間は――――未だ、希望の光を絶やしていない』

「……そろそろだな」

俺は剣を抜く。

飛行しているモンスターなら、剣が当たるのは接近した時だけだ。

魔法は当たるとしても、あまりメリナにばかりヘイトは集められない。取り巻きを出してきたりしない限りは、序盤は守りが中心になるだろう。

『どこまで足掻くか、人間よ。よもや、すべての災厄の根源を見つけ出すとは』

「……今度は変な攻撃パターン、ないといいですね」

「え、そーお? ボクは望むところだよ。その方が楽だし」

「それは、今までがスキルでうまく無効化できていたからでしょう……。今回もそうとは限らないわ」

「そうだな」

俺は短く言う。

あまり都合のいい展開は期待しない方がいいだろう。

ただ――――、

『しかし、それも無意味なこと。その剣は、魔王には届かぬ。お前たちもまた、より大きな力によって滅び行くのみ』

俺は小さく笑って言う。

「まあ俺たちなら、正面から戦っても倒せるさ」

純白の天使が、六枚の翼を大きく広げた。

まるで闇を切り裂くかのように、白いメイスが振るわれる。

『四天王第四の円環にして第一の騎士、征服の“ジュデッカ”――――この先へ進まんとする者は、一切の希望を捨てよ』

台詞と同時に、天使の上方に文字列が表示される。

〈ホワイト・セラフィム・オーバーライター“ジュデッカ”〉

種族名は、どうやらセラフィムというらしい。

俺は皆に向けて言う。

「さあ、最後の四天王だ――――集中していくぞ」