軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【スキル封印・小】②

「いやー、おいしいダンジョンだったねー」

ダンジョンから帰った日の夜。

いつもの酒場にて、周囲の喧噪の中テトが串焼きを手に上機嫌そうに言った。

俺もまったくの同意見だ。

熱砂浄土は、経験値効率もドロップ効率もいい大規模ダンジョンで、多くの冒険者が生活の糧を得る場にしている。

中でも、特に高レベルパーティーにとってうまみがあるのが、あの三十二層の中ボス〈デザート・ガネーシャ〉だった。

中ボスにしては珍しく、倒しても復活するので、実力のあるパーティーにとってはいい稼ぎ相手だ。

ドロップするのは宝石などの換金用アイテムばかりだが、金も経験値もたんまりもらえるとあっては、冒険者たちが放っておくはずもなかった。

これまで、相当な数のガネーシャが倒されたことだろう。

「でも、不思議よね」

杯を傾けながら、メリナが言った。

「中ボスって、普通は倒されたら復活しないものなのに。どうしてあのガネーシャだけは、何度来てもあそこにいるのかしら」

「復活する中ボスは、一応他にいないこともないんだが……」

「有名になってないってことは、経験値もドロップも少ないんでしょう? でもガネーシャは違う。普通の中ボスと同じくらい、どっちも稼げるわ。だから、なんだか都合がよすぎると思って」

「都合がいいってわけでも……ないと思いますけど」

パンを飲み込んで、ココルが言う。

「ガネーシャが毎回いるせいで、三十三層以降が攻略しにくくなってるじゃないですか。強い武器やレア素材が必要な人にとっては、ガネーシャはただ邪魔なだけです。あの象、宝石しか落としませんし」

「確かにな」

「それに……いつも簡単に倒せるってわけでは、ないと思います。中ボスですもん、ちょっと油断してたら簡単にやられちゃいますよ。もちろん、わたしたちだって」

ココルの言うとおり、ガネーシャはただのカモというわけではない。

攻撃力は高いしHPも多い。錫杖による刺突など、パーティーの崩壊を招きかねない危険な攻撃パターンもある。

実際、危なくなって途中で帰還アイテムを使い、赤字になるパーティーも少なくなかった。

いや、帰還できたならまだいい方だ。

アイテムの使用を惜しんだ挙げ句に……もしくは、惜しむ間もなくHPがゼロになってしまった冒険者だって、これまでに何人もいたようだった。

聞いたメリナが唸る。

「それは、そうなのだけど……そういうのは、あくまで私たちの側の問題であって……」

「たぶん、ガネーシャが攻略の目安なんじゃないかなー」

次の串焼きを取りながら言ったテトに、皆が注目する。

「ほら、熱砂浄土って三十三層からぐっと難しくなるでしょ? 他のダンジョンの同じ層と比べても、モンスターが強いし。たぶん、ボスもすごく強いんだよ。だからガネーシャを楽に倒せるようじゃないと、実力不足だから先へ進まないでねー、って言いたいんじゃない?」

「ダンジョンを作った人が……そういう意図で置いてるってことですか?」

「そうそう。きっとね」

なんでもないことのように、テトは言う。

にわかには信じがたい話だ。ダンジョンがそんな風に作られているなんて、ちょっと想像しづらい。

ただ、テトは幼い頃から冒険者をやっていたためか、ダンジョンやモンスターの意図のようなものを読み取るのが得意だった。だから、もしかしたら……と思えなくもない。

テトが食べ終わった串を振りながら言う。

「ま、作った人のことは置いておくとしてもさ、別にありえない話でもないでしょ。ダンジョンは必ずバランスが取れてるものなんだから。ココルの言ったとおり、あのガネーシャは全然弱くない。あれを安定して倒せるパーティーなら、がんばれば余所でも同じくらい稼げるよ。冒険者にただおいしい思いをさせるだけのダンジョンなんて、ないってこと」

ダンジョンは、バランスが取れている。

確かに、そこに例外がないのは事実だ。

しかし。

「うーん、都合がいいだけのダンジョンがあるかはともかくとして……逆に、なんのうまみもないダンジョンなら結構あるけどな」

「 仕掛蟻塚(しかけありづか) はひどかったですねー。ろくにドロップも拾えないし、ひたすら面倒なだけでした!」

「ダンジョンそのものだけじゃなく、何に使えるのかわからないアイテムとか、明らかに効果が噛み合ってない武器とかも多いわね」

「まあそれは、この世界を作った人も万能じゃないってことだよ」

それは、なんだか不安になってくるような考え方だ。

もし本当にそうだったのなら嫌すぎる。

「あ、武器と言えばさー」

不意にテトが、そんな調子で話題を変える。

「あれ、ほんとにどうしよっか」

「あー、そうですねぇ……」

「いつまでも私たちで持っていてもね」

「そうだな……」

皆が渋い表情をする。

俺は黙ってステータスを開き、ストレージを操作して一つの武器を取り出した。

手に収まったのは、鮮やかな虹色に染まった大ぶりな弓。

俺たちが出会うきっかけとなった落日洞穴のボス〈ダスク・ドライアド・ミューラルメイカー〉が落としたボスドロップだ。

当たり前だが、俺たちの中に弓手はいない。

大事にとっておいたところで持て余すだけで、それどころかアイテム運搬上限を圧迫してしまう。

だから、早々に手放すつもりでいたのだが……、

「それの買い手、なかなか見つかりませんねぇ……」

「強いんだけどなぁ、それ。威力高いし、矢に火と水と風属性付与されるし、DEX上昇効果まで付いてるし。デメリット効果さえなければねー」

ココルとテトの言うとおり、肝心の引き取り手を見つけられないでいた。

初めはとりあえず、武器屋やギルドの買い取り所に行ってみたのだが、【スキル封印・小】というデメリット効果がネックとなって、ろくな値段がつかなかった。

誰も使わないとはいえ、俺たちが出会ったダンジョンで、全員で手に入れたボスドロップだ。

期待外れの物ではあったが、安値で売ってしまうことにはみんな抵抗があった。

しかしながら、武器屋の言い分もわかる。

【スキル封印・小】とは、なかなか厄介な効果だ。

曰く、『持っているスキルを一つ、ランダムで使用不可能にする』。

あの後、皆で効果の仕様を確認してみたのだが、どうやら人によって無効になるスキルは固定らしかった。

たとえば俺の場合は【敏捷性上昇・中】で、これは何度弓を装備し直しても変わらない。よくよく考えると、これが毎度ランダムならいらないスキルが無効になるまでひたすら装備し直せばいいだけなので、デメリットじゃなくなる。当然の仕様だ。

無効になるスキルの種類や、リスト上の位置は本当にランダムなようで、俺たち四人ともバラバラだった。

だから実際に装備してもらうまでは、どのスキルが無効になるのかわからない。

俺たちは次に、ギルドの掲示板に貼り紙を出すことにした。『ボスドロップの弓、売ります』と書いて、デメリット効果の説明まで載せて。これなら多少時間はかかるが、いずれは引き取り手が現れるだろうと目論んだ。

ただ……貼り出してからだいぶ時間が経った今でも、まだ貰い手は見つかっていない。

弓手は、ただでさえ数が少ない。

そのうえ、デメリット効果にそれほど影響を受けない冒険者となると、相当に限られてしまう。

高い威力に DEX(器用さ) 上昇効果、毒矢と麻痺矢の成功率アップという高スペックに惹かれて話を聞きに来るも、いざ装備すると重要なスキルが無効になってしまい、やっぱりいらないと断られることが続いた。

買うと言ってきた者の中には、スキルを持っていなかったり、弱いスキルしかない関係で、デメリット効果の影響を大して受けない冒険者もいたのだが……結局、彼らに渡すこともしなかった。

皆一様にレベルが低く、ステータスも低かったせいだ。

あの弓はスペックが高いだけあってそれなりに重量があるので、 STR(筋力) が低い者が装備すると AGI(敏捷) に下降補正がかかってしまう。弓手は機動力が重要なので、立ち回り面で致命傷になりかねなかった。

それでもいいと言ってきた者もいたが、さすがにこちらから断った。

俺たちが渡した武器のせいで死なれても困る。

というわけで、例の弓は未だ俺の手元にあった。

「アルヴィンにずっと持ってもらったままでいるのも、悪いわね」

「いや、俺は別にかまわないぞ。運搬上限にも余裕があるしな」

「ダメよ」

メリナがきっぱりと言う。

「ストレージが余計に埋まっていると、予備の武器やアイテムを持つのをためらうでしょう? その分危険が上がることになるんだから」

「まあ……多少はな」

気にするほどでもないと思うが、一応それも事実だ。

ドロップアイテムを持ち帰るために、ストレージは常にある程度空けておく必要がある。

「あ、じゃあさー」

何か思いついたように、テトが声を上げる。

「ボクが預かろうか、それ」

「テトさんがですか?」

「あなた、アルヴィンより運搬上限低いでしょう。自分の部屋にでも置いておくつもり?」

「部屋じゃないけど、ボク武器屋に倉庫を借りてるんだ。そこに仕舞っておこう。ちょっと取り出すのが面倒になるけど、鍵もかかるし、昼間は人が居るから安心だよ」

「へえ。あなた倉庫なんて借りてたのね」

「お金持ってますねー。でも、なんでそんなの借りてるんですか?」

「拾ったはいいけど、売るのがもったいない珍しい武器を置いてるんだよ。ボク、貧乏性だから。ちなみにアルヴィンには見せたことがあるんだけど」

「えっ、そうなんですか!?」

ぐるりと首を回してこちらを見るココルに、俺は言葉を濁す。

「ああ、まあ、そうだ。レア武器があると聞いて気になったから、一度見せてもらったんだが……」

「どうしたのよ」

歯切れの悪い俺に、メリナが訝しげな目を向けてくる。

俺はちらとテトへ視線をやったが……本人も暢気に首をかしげているだけだった。

じゃあ、ギリギリ大丈夫なのかもしれない。

俺はふと笑って言う。

「うーん、じゃあ、そうしてもらおうかな。俺としてもその方が助かる」

「せっかくだから、みんなで見に行きましょう! テトさんのコレクション!」

妙に勢いのいいココルの一言により、次の日に皆で武器屋へ行くことが決まったのだった。