軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【ドロップ率減少・特】②

窓の外では、雨が降っていた。

俺は逗留している宿のベッドに横たわりながら、自分のステータス画面をぼんやりと眺める。

【43】というレベルに、 STR(筋力) 、 AGI(敏捷) といった各種パラメーター。そして――――スキル。

俺は溜息をついた。

厄介な代物だ。こいつのせいで、俺が今までどれだけ苦労してきたか。

スキルなんてもの……いやステータス自体、存在しなければよかったのに。

大昔の賢者が突き止めたところによると、この世界は 箱庭(シミュレーション) らしい。

ステータスなんてものがあるのは、この世界が箱庭だから。

モンスターを倒すとアイテムがドロップするのは、この世界が箱庭だから。

時々こうやって静かな雨が降るのも、この世界が箱庭だから。

人が泣いたり笑ったりするのも、この世界が箱庭だからというわけだ。

俺はステータス画面を消し、溜息をついた。

だからなんだ。どうでもいい。

この世界が 箱庭(シミュレーション) だろうとなかろうと、目の前の現実は変わらない。

世界の真実を気にかける冒険者なんて聞いたことがないし、俺もそうだった。

重要なのは、目下の悩み事だけだ。

「腹減ったな……」

一人虚ろに呟いた。 箱庭(シミュレーション) だろうと腹は減る。ただ今は、何かを口に入れる気力も湧かない。

パーティーを追い出されるのは、これで何度目だろう。

はっきり言って、俺は強い。

【43】というレベルは、普通の冒険者なら引退を考え出す頃にようやくたどり着ける水準だ。そのうえ【筋力上昇・大】、【敏捷性上昇・中】のようなパラメーター上昇系スキルのおかげで、実際にはレベル以上の数値を持っている。ダンジョンの深層にだってソロでも潜れる。自分で言うのもなんだが、剣士としてはこれ以上望むべくもない人材だろう。

本来なら、前衛として引く手あまただったはずだ。

【ドロップ率減少・特】という、特大のマイナススキルさえ持っていなければ。

そう、スキルだ。

俺は生まれながらに、七つものスキルを持っていた。

普通の冒険者ならせいぜい二つか三つ。ゼロという者も少なくない中で、これは破格だった。

どうやら世の中には、このようなスキルに恵まれた者がたまに現れるらしい。

ただ……まるで帳尻を合わせるかのように、そういった人間は必ず、他の者には見られない特殊なスキルを持っていた。

それが、マイナススキルだ。

マイナススキルとは何か。説明するのは簡単だ。

デメリットのあるスキル、と言えばいい。

【筋力減少】のようなパラメーター減少系は珍しくない。

【不器用】のような特定技術の成功率を下げるものもある。

【経験値減少】や【レベル上限】のようなマイナススキル持ちは、たいてい冒険者になどならず、畑を耕すか職人や商人に弟子入りするのが常だった。

俺の【ドロップ率減少・特】も、本来はそういったスキルだ。

冒険者は強ければいいわけでなく、それで生計を立てる必要がある。

【ドロップ率上昇】、【金運】スキル持ちや、帳簿計算の得意な者がどのパーティーでもありがたがられるのは、それが理由だ。

その観点からいくと、俺はもう疫病神のような存在だった。

なんと言っても、俺がモンスターをキルした場合、アイテムやコインのドロップ率が八割も減少してしまう。

パーティーを追い出されるのも、理屈の上では納得できていた。

しかし、だからといって今さら冒険者をやめるつもりはない。

もうこの道で生きていくと決めたのだ。

「はあ……」

ステータスなんてもの、なければよかったのにと思う。

すべてが努力で決まる世界だったなら、どれだけよかっただろう。

十四で冒険者になってから、五年。ほとんどソロでここまでレベルを上げた俺は、誰よりも努力してきた自負があった。

無論、無茶なレベリングで死なずに済んだ幸運も大きかっただろうが、俺は【幸運】のスキルは持っていない。

腐っていても仕方がない。

いい加減、この状況を打開しなければ。

「やっぱり、これしかないか……」

ベッド脇の卓から、一枚の紙を手に取る。

その打開の手立てが、一応あるにはあった。

紙には俺の字で、メモが走り書きされている。

冒険者ギルドの掲示板から書き写したそれは、最近見つかったダンジョンの情報だった。

ダンジョンは、消えることもあれば新しく生まれることもある。

多くの冒険者が普段生活の糧を得るような大型ダンジョンはともかく、小規模のダンジョンはこの近くの地域に限ってもたびたび生まれ、ボスモンスターを倒されては消滅していた。

最近見つかった、そんな小規模ダンジョンの一つ。

それにまつわる、気になる噂があった。

なんでも、そのボスモンスターがドロップするアイテムの中には――――持っているスキルを、消すものがあるという。

ダンジョンでは、壁や宝箱に入った紙片などに、回りくどい形で攻略のヒントが記されていることがある。

そういった 思わせぶりな原典(フレーバー・テキスト) の中に、どうやらそう解釈できる記述があるようなのだ。

それが判明してから、そのダンジョンを攻略しようとするパーティーは激減した。

ご丁寧にもヒントとして書かれているくらいだから、そのアイテムがメインのドロップになるのは間違いない。しかし……わざわざ自分のスキルを消したい者なんていない。

俺のような、マイナススキル持ちを除いては。

出現するモンスターに珍しいものはなく、ボスドロップもどのくらいの値がつくかわからない代物だけに、今はもうそのダンジョンに潜るパーティーはほとんどいなかった。

だから、誰かがボスを倒し、そのアイテムを市場へ売りに出すことも期待できない。

自分でやるしかない。

パーティーを組めない以上、 一人(ソロ) で。

ほとんど無謀だということはわかっている。

いくら俺のレベルが高く、ダンジョンの規模も大きくないとはいえ、ソロでボスに挑もうなど正気の沙汰じゃない。

しかし――――俺がこの先も冒険者として生きていくには、もうこれしかなかった。

いや、むしろ千載一遇の好機とも言える。

誰かに攻略されてしまえば、こんなチャンスはもう二度と巡って来ないだろう。

俺は少し迷って、ベッドから起き上がった。

――――冒険に行く前には、ポーションや食糧を買い込んでおかなければ。