軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

パレードまでの日々

領民達が凄い盛り上がりを見せる中、あまりの事態に呆然としていた私は、旦那様に突然ふわっと抱き上げられた。

「アナ、私と一緒に帰ってくれるか?」

いきなり抱き上げられただけでもドキドキしてるのに、捨てられた子犬の様な目でそんな事を聞いてくる旦那様。

先程の領民に対して言葉を発していた伯爵然とした姿と、今の表情のギャップが凄い。

ううぅ……旦那様が色々ずるい……。

恥ずかしさと嬉しさと好きの気持ちと罪悪感と。

色んな物がごちゃ混ぜになって脳みそは破裂寸前なのに、ちゃっかり胸はキュンキュンしてる私には、そのまま小さく『……はい』と返事するのが精一杯だった。

あああー、お花畑が私の脳内に押し寄せて来るー!

旦那様は私の返事を聞くと、蕩ける様な笑顔で近くで待っていた自身の愛馬に私を乗せた。

「私の女神に許しを貰えたので、私達は戻るとしよう! 皆も良い一日を!」

わああぁぁ……!

再び凄い盛り上がりをみせる領民達に手を振り、旦那様は私の後ろにひらりと飛び乗ると、そのまま馬を走らせた。

こういうのが絵になるんだから、美形は困る。

す、好きとか愛してるとか言われたし。

……後、女神って何?

色んな事で頭も心もいっぱいいっぱいだったけど、久し振りに乗る馬はとても気持ちが良かった。

風を受けながら心地良い馬の振動に身体を預けていると、少しずつ心が落ち着いて来る。

……馬って言葉は、しばらくトラウマになりそうだけど。ウマだけに。思い出すだけで顔から火が出る程恥ずかしい。

「旦那様。勝手に勘違いして迷惑かけて、申し訳ありませんでした……」

背中越しに感じる旦那様の体温にめちゃくちゃドキドキしながらも、何とかそれだけは伝える。

「いや、私こそアナの気持ちに気付けなくてすまなかった。これからは、何でも私に話してくれると嬉しい」

「……はい」

このぬくもりを失くさずに済むんだと思うだけで心底安心する私は、実は相当重症なのかもしれない。

邸に帰ると、使用人達がみんな心配そうに私達を待っていて、もの凄く申し訳ない気持ちになった。

半泣きで抱きついて来たマリーに謝り、こういう時の特命をミシェルから受けていたというダリアにきっちりお説教もされた。

まだ貴族としての経験が浅い私を導くのも、侍女長としての大切なお役目らしい。

伯爵領は治安もいいし、私も街は慣れてるし。

成人した大人がたかだか数時間家を空けるくらいなら平気かな? と思ったのだが、どうやら私には伯爵夫人としての自覚が足りなかった様だ。猛省である。

私のせいで到着早々にそんな騒ぎはあったものの、その後の領地での時間は順調に過ぎて行く。

パレードの日は1カ月後に決まり、なんとお義兄様とカーミラ王女殿下からもパレードを見学したいとの申し出を受けた。

正直気恥ずかしい気持ちはあるが、嬉しい気持ちの方が勝ったので、旦那様と相談して是非来て下さいと返事を出した。

……お義兄様が王都を離れられる様になったと言う事は、公爵とクリスティーナの処分も正式に決定したのだろう。

もう私とは関係の無い人達だけど、どうなるのか位は最後まで見届けたいので、会った時にお義兄様に聞いてみようと思う。

まぁ、私を散々いじめていたあのバイタリティーがあれば、きっとクリスティーナは何とかやっていくだろう。

公爵? 知らね。

マリーが先頭に立って動いてくれていた領民達の意識改革は、伯爵様降臨事件もいい感じに作用して一気に改革に近付いた。

これを一時のお祭り騒ぎとして終わらせず、パレードが終わっても安定して仕事を続けてもらえるかどうかが肝になるだろう。また色々と作戦も考えたいと思う。

それから、布織の事業化について少し考えさせて欲しいと言われていたエイダさんからは、ついにイエスの返事を引き出す事に成功した。

夜会でのドレスアピールは成功だったし、ハミルトン・シルクに興味がありそうなご令嬢方は沢山いた。

このハミルトン・シルクは、伯爵領の特産物として大切に育てていきたいと思う。

私が盛大に身バレしてしまったせいでマリーも伯爵家の侍女だという事がバレてしまった訳だが、それでもマリーは今まで通り街に通えている。

マリーに聞いた所、私に関しても

『いやー、まさかアナちゃんがアナスタシア奥様だったなんて驚きだね!!』

くらいな感じで受け入れてくれているらしい。

伯爵領の領民達の人の良さがますます心配になってしまう話ではあるが、騙していた様で罪悪感を感じていた私にとっては非常にありがたい話だった。

ドレスの時の事もあるし、私も是非領地のみんなに恩返しがしたい。

こうなったら私も腹を括って、領地のみんなが喜んでくれる様なパレードをどーんとご披露しようと思う。

けど、その前に……。

旦那様は、ちゃんと私に想いを伝えてくれた。

だから今度は——— 私の番だ。