軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

『本物の夫婦』に対する見解の相違

翌日、セバスチャンやミシェルを筆頭とした使用人達との再びの別れを惜しみながら、私達はまた領地へと向かった。

ちなみに、今回もマリーとダリアは付いて来てくれる。

マリーが王都名物の美味しい物をゴッソリ鞄に詰め込んでいたので、恐らくベーカーはしばらく大忙しになる事だろう。

今回も2人とは違う馬車なので残念と言えば残念なのだが、旦那様と2人の馬車の旅も、まぁ悪くはないかなーなんて思ったり……。

ちらっと隣に座る旦那様の横顔を盗み見る。うん、今日も安定してキラキラしている。

私がチラチラ旦那様を見ていたせいで、ふとこちらを向いた旦那様とガッチリ目が合ってしまった。

『どうした?』と優しい目で微笑まれ、思わず胸がキュンッとする。

……って!

いやいやいやいや、恋心って自覚すると凄いな!?

いかん。このままでは脳内がお花畑になってしまう。

平民時代に、恋に浮かれて何故かポエマーになった友人を見てドン引きした思い出があるのだが、確かにこれは気を付けないと一編 嗜(たしな) んでしまうかもしれない。

ちなみにその友人は、数ヶ月後に自分を取り戻し、己の書いたポエムを読んで悶え苦しんでいた。

そんな自分は嫌だ! とばかりに、私は必死に世間話のネタを探す。

「そういえば旦那様! 少し前から思っていたのですが、何だか少し腕がガッチリしたのではありませんか?」

服の上から分かる程では無いのだが、エスコートの時に触れる腕や馬車の中で借りる肩に、何となく力強さを感じる様になって気になっていたのだ。

「そ、そうか? 自分ではあまり分からんが……」

『ユージーン、最近筋トレ頑張ってるもんね!』

『アナにいい所見せたいんでしょー?』

『ヒューヒュー! ユージーン、ヒューヒュー!』

精霊達が領地から王都に向かっていた時と同じ様に冷やかしてくるのだが、こっちの心境が大きく変わっているせいで非常にいたたまれない。

え? ていうか、旦那様が体を鍛えてるのってもしかして、前に私が『線の細い美形タイプより、ガッシリした美丈夫の方が好み』とか言ったから……? え、好き。

再びトゥンク……となりかけて、激しく首を左右に振る。ノーモアお花畑。ポエム駄目、絶対。

『アナ……自分の気持ちに素直になりなよ……』

カイヤが残念なものを見る目で言ってくる。

うわーん!

見透かしたみたいな事言うのやーめーてー。

違うのだ。確かに私は旦那様の事が好きだ。

それは認めよう。

でも、じゃあ旦那様も同じ気持ちかというとそれは分からない。何せ私は、『本物の夫婦になりたい』としか言われていないのだ。

しかも、何なら酔っ払っていたせいでその記憶すらない。

この『本物の夫婦』とやらが曲者で、政略結婚の多い貴族ならピンと来るものなのかもしれないが、平民育ちの私には今いちよく分からない。

恐らく、今はビジネスパートナーとしての偽装夫婦みたいな物だから、白い結婚をやめてちゃんと跡継ぎも作る『本物の夫婦』になりましょうって事だと思うんだけど……。

それって別に、私が好きとかそういうのではなく。

旦那様は変に律儀だから、最初のお話と随分変わってしまう事態に対して、自分が本当の夫として相応しいか『試用期間』をくれ、という流れになったのだろう。

つまり旦那様は、ようやく『政略結婚をした夫婦』のスタートラインに正しく立ったのだ。相手を邪険にする事なく尊重して、絆を深めていけばいい。

今の旦那様はまさにそうで、私を邪険にせず尊重して、夫として 妻(わたし) に尽くしてくれている。

一方の私は、それを飛び越して『恋愛結婚をした夫婦』のスタートラインに1人で立ってしまったのだ。

妻として夫を尊敬して支えて……とかではなくて、普通に男性として旦那様の事を好きになってしまった。

お互いが夫婦として上手くやっていきたいと思っている事には違いないので、一見すると問題無い様な気もするが、これは私が段々キツくなる奴だ。

……それに、この時代、実は政略結婚をした夫婦は最終的には離婚するパターンがとても多い。

経営パートナーになるのが目的で結ばれた婚姻なら、経営が安定してお互いの信頼関係が出来上がればもう婚姻は必要ないし、資金援助や後ろ盾が目当ての場合も難所を乗り切れば婚姻自体を継続しなくても問題無い。

跡継ぎさえ産んで貰えば嫁はもういらない、なんてケースもある。

やっぱり根底にある物が政略と恋愛じゃ全然違うよ……。

もし今更、『跡継ぎも出来て伯爵領の問題点も解決した。今までありがとう、もうアナは自由にしていいぞ?』とか旦那様に言われて離婚されちゃったら?

勝手に嫌な想像をして、顔からサーッと血が引いていく。やだ、そんなの今更絶対無理!!

「どうしたアナ? 顔が蒼いが馬車に酔ったか?」

旦那様が心配そうに声を掛けてくれる。

勝手に変な想像して、勝手に顔色を悪くし、挙句旦那様に心配をかけてしまった……。反省。

「肩に頭を乗せておくか? それとも少し横になるか? アナが嫌で無ければ膝も貸すぞ?」

ひ、ひ、ひ、膝枕!!

それは今の私には刺激が強すぎます、旦那様!

私が込み上げて来る感情と闘いながらプルプルと首を振ると、旦那様が『せめて風を入れよう!』と窓を開けてくれた。

気持ちの良い風が窓から入ってきて、私の頭も少し冷える。いかん、完全に取り乱していた。

うーん、人を好きになると、人間って周りが見えにくくなる物なんだなぁ。

変な事に感心しつつ、私は一つの覚悟を決めた。

よし、こういう相手がいる問題は1人でウダウダ悩んでも仕方ない!

こう言う時は正々堂々、本人に突撃するのが一番だ。

領地に着いたら、直接旦那様に聞いてみよう。

——— 私、旦那様の事が好きになっちゃったんですが、それって旦那様が求める『本物の夫婦』的には大丈夫ですか?

うん、これで行こう!