軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【3巻発売記念特別SS】双方型全方位夫婦、爆誕??

「アナスタシア奥様、お疲れですか?」

ハミルトン伯爵家と仕事上の取り引きがある貴族家から招待を受けて参加したお茶会から帰ってきた私は、自室のソファーで「んーっ」と伸びをしたところでマリーにそう声をかけられた。

「温かいカモミールティーをお淹れしましたよ。本日はもうゆっくりお過ごしくださいね」

そう言っていつものように笑うマリーに、心配をかけた申し訳なさを感じる。

いけない、そんなに疲れが顔に出ていたかしら。いくら自室とはいえ気を付けないと。

最近は私も伯爵夫人として最低限の社交をこなすようにはなったのだが、どうにもお貴族様のやり取りに馴染みきれない私は、家に帰ってくると安心感からドッと疲れを感じてしまう。

しかも今日はちょっと、想定外のこともあったし……。

「ごめんなさい、大丈夫よマリー。ちょっと、お茶会でカルチャーショックを受けたというか」

「何かあったのですか?」

「……実はあったのよ、中々に衝撃的なことが」

マリーと私は今でこそ専属侍女と女主人という関係だけど、マリーは私とは違って生まれた時から貴族令嬢として育っているのだ。

私よりこういった貴族社会の感覚に慣れているかもしれない。

そう考えた私は、重い口を開いてマリーにことのあらましを説明することにした。

「なんというか、あの手この手で私と親しくなろうとしてくださるご令嬢がいたのだけど、目的がわからなくて」

私の話を聞いて、マリーもうんうんと頷きながら先を促す。

「最初はいつもみたいにハミルトン・シルクが欲しいのかな?くらいに軽く考えていたのだけど……。『私は奥様にも忠誠を誓えます』とか『必ずお役に立ってみせます』とか、何だか変なことを言い始めたの」

「あー、なるほどそういう訳ですか」

私が詳しく話していないにもかかわらず、マリーは得心がいった顔で頷いたあと、可愛い眉間にキュッと皺を寄せた。

この様子を見る限り、やはりアレは貴族社会ではよくある話なのだろう。

妻(・) が(・) 夫(・) の(・) 愛(・) 人(・) を(・) 手(・) 配(・) す(・) る(・) 、というのは。

件のご令嬢も私の口利きで旦那様の愛人に……あわよくば第二、第三夫人にでもなりたかったのだろう。

嫌過ぎる。私に旦那様をシェアする趣味はない。

私の方に直接こんなアピールがあるくらいだ。

きっと旦那様の方にもそういう打診はあるのだろうなぁと思うとゲンナリする。

旦那様に限ってそんな話に乗るわけがないのは分かっているし、むしろ女性関係に潔癖な旦那様が怒り出さないか心配なくらいなんだけど、それでも。

……いやだなぁ。

何だかモヤモヤと嫌な気持ちになってしまうのは抑えられない。

私のなんとなく暗い雰囲気に気が付いたのか、マリーは明るく笑うとこう言った。

「大丈夫ですよー! 何せ伯爵様は『全方位嫁の男』ですから!!」

マリーの言葉を聞いてブハッと飲んでいたカモミールティーでむせそうになる。

な、何その『全方位嫁の男』って?

「あれ? 『嫁全方位の男』でしたっけ?』

知らんけども!

何それ私、全方位囲まれちゃってるの!?

……あながち間違ってもいないな?

夫婦揃って参加する社交の場で、私の周りをやたらウロチョロ徘徊する旦那様の挙動を思いだし、思わず吹き出しそうになった。

確かに元王太子主催の例の夜会で『円満アピール』はしたし、領地で行った成婚パレードの話やら何やらも風の噂で広まって、私と旦那様はすっかり相思相愛の夫婦として社交界でも認知されたようなんだけど……。

やり過ぎ! 多分やり過ぎですよ旦那様!!

一体何をして、そんな通名付けられちゃったのですか!?

先程までのモヤモヤはどこへやら。今度は恥ずかしさで頭を抱えたくなったところに、ちょうどトントンとドアがノックされた。

「アナ、いるか?」

旦那様だ!

ドアへ向かおうとするマリーを制止し、自らドアへ歩みよりそのまま開く。

「おりますよ。どうされましたか旦那様?」

「ああ、せっかくアナが帰ってきたところなのにすまないな。実は急な打ち合わせで今から邸を出ることになった。夕食までには戻るから、すまないが留守を頼む」

見れば確かに旦那様は外出の準備を済ませた姿になっている。

ちぇっ、午後は旦那様とゆっくりできると思ってたのになー。

残念だけれど仕方がない。当主というのは多忙なものなのだ。

玄関まで見送りに出た私のおでこにチュッと挨拶のキスを落とすと、旦那様は優しい笑顔で手を振り馬車に乗り込んでいった。

……心配だな。

「フォス、クンツ、カイヤ、いる?」

そっとその場で呟けば、3人の契約精霊達はポンッと私の前に現れた。

『いえーい、呼んだ!?』

『アナ、どうかしたのー?』

『……まぁ、大体想像は付くけどね』

悟ったような言い方をするカイヤの言葉に苦笑いしながら、私は3人にこう頼んだ。

「……誰かまた、旦那様の護衛に付いていってくれない? お礼にクッキー焼いて待ってるから」

『『『出たよ、似たもの夫婦』』』

呆れたようにそうぼやく三人に返す言葉もない。

結局、『僕に任せてー!』と飛んでいったフォスの背中を見送ると、私はクッキーを焼くためにいそいそと邸の中へと戻っていった。

ーー私達が「双方型全方位夫婦」と呼ばれる日も、そう遠くはないのかもしれない……。