軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【2巻発売記念特別SS】マーカスのプロポーズ!?

「……と、いうわけでだな。マーカスにプロポーズの許可を求められたのだ」

「プ、プロポーズですか!?」

ある日の昼下がり。

お互い仕事が一段落したのでサロンでのんびりお茶を飲んでいると、突然旦那様がそんな事を言い出した。

えっ、ていうかプロポーズって、当主に許可を得てからしないといけないものなの? 嫌過ぎる!

しかも、マーカスとダリアが付き合い出したのってわりと最近じゃなかった? 展開はやくない?

「すみません旦那様。私はまだどうも貴族の風習に疎い部分があるようなのですが、その、家令がプロポーズをするのには当主の許可が必要なものなのですか?」

「そうだな。別に規則で決まっているわけでもないが、許可を取るのが普通だ。使用人とはいえ、自家と縁のある者が、例えば敵対する派閥の家の人間と縁を繋ぐとなると、色々問題も出てくるからな」

な、なるほど。確かにそうだけど気持ち的にはかなり嫌だな……。

「他にも、家庭を持つことで働き方を変えたいだとか、退職したいだとか、事前に話を進めておかなければいけないこともあるからな」

「うーん、確かにそう言われるとそうなのかもしれないですね」

貴族大変……というか、これは私が知らなかっただけで市井でもそうだったのかもしれないな、と考える。

いやまぁ、さすがに上司にプロポーズの許可は取らないとは思うんだけど。

「で、もちろん旦那様はOKしたんですよね? マーカスのプロポーズ」

「ああ、今思えばマーカスには随分と面倒をかけてしまったからな。時期は遅くなったが、家庭を持つ幸せも知って欲しい。……結婚はいいものだからな!」

目を輝かせながらそう言う旦那様に、微笑んで頷いた。

ええ、私も今ではそう思っておりますよ、旦那様。

それにしても、マーカスがダリアにプロポーズか。ダリア喜ぶだろうなぁ。

うーん、下世話だと分かってはいても興味が尽きない。マーカスはどんなプロポーズをするのかと想像するだけで他人事ながらワクワクしてしまうのだ。

「プロポーズかぁ……いいなぁ、どんな感じなんだろう……」

「!!」

マーカスは一見すると商人風の人の良さそうなおじさんだが、その実体は国有数の資産家ハミルトン伯爵家を支え続けたシゴデキ家令なのだ。

きっと華麗なプロポーズをするに違いない。

とても見たいけれど、さすがに他人様の人生の大切なワンシーンを、勝手に覗き見て良いわけがない。

あー、見たかったなぁ。ダリアはどんな顔してプロポーズを受けるんだろう。

……ん? プロポーズを、受ける……?

それってもしかして、ダリアが伯爵家の侍女を辞めてしまうという事なのだろうか。

それがマーカスとダリアの幸せに繋がるのだから、もちろん祝福しないといけないけど。でも……。

「ど、どうしたアナ? やはりプロポーズが……」

いつの間にか暗い顔をしてしまっていたらしく、旦那様がオロオロと話しかけてくる。

いかんいかん、おめでたい話なのに心配かけちゃった!

「大丈夫ですよ、旦那様! これは仕方のないことです。寂しくないと言えば嘘になりますけど……」

私が慌てて笑顔を作ってそう言うと、何やらオロオロしていた旦那様は「待ってろ!!」とか言って急に立ち上がり、そのまま凄い勢いで部屋を出て行ってしまった。

え、なんで? 私が寂しそうにしてたから?

旦那様まさかマーカスのプロポーズを邪魔したりしないよね?

いくらなんでもしないよね!?

思わずポカンと旦那様を見送った後、ハッと我に返った私は慌てて部屋を出る。

……が、もう既に旦那様の姿は見えなかった。

旦那様はこういう時、変に行動力があるから困りものだ。

まぁ、さすがにおかしな事はしない……と思っておこう。うん。

「あら、もうお茶のお時間は終わりですか? 領地から送られてきた新商品の焼き菓子をお持ちしたのですが……」

私がさてどうしたものかと廊下で考えていると、噂をすればなんとやら。

私の中では今1番の時の人、ダリアがお茶菓子を持って歩いてきた。

「え、ええ。旦那様が急用を思い出したとかで、ちょっと。……それより、新商品なんてとても興味があるわ! 私だけでもいただいていいかしら?」

「ふふっ、もちろんですよ。さぁ、お部屋に戻りましょう?」

ダリアに促されて部屋へ戻り、また椅子に姿勢良く座りなおす。

その間にダリアはその新商品に合わせて選んだ銘柄の紅茶を慣れた手つきで準備してくれていた。

そんな様子を見ながら、私はぼんやり考える。

ダリアがいなくなったら……寂しいなぁ。

ダリアだって、マリーだって、デズリーとアイリスだって。きっとずっと一緒にはいられないのだ。

「どうかされたのですか? 奥様」

「あのね、例えばなんだけど。仕事をしている貴族のご令嬢が結婚したら、やっぱりその仕事は辞めてしまうものなのかしら?」

私の雰囲気がいつもと違うことを感じ取り心配してくれたダリアに、思わずそんなことを聞いてしまう。

「一般的にはそうですね。そもそも、仕事をしている貴族令嬢というのがそんなに多くもないですし……。『結婚するまでの行儀見習い』としてこんな風に他家へ仕えている場合が多いですから」

「やっぱりそうよね……」

ダリアの返事を聞いて、思わず肩を落とす。

「でも、私は出来れば結婚後も仕事を続けたいと思っていますよ?」

「え? そうなの!?」

「はい。私は仕事が好きですし、奥様の側にもいたいです。結婚後も働けるような制度があるとありがたいですね。領地では、小さなお子さんがいる若いお母さんでも働きやすいように、色々な改革をなさっているでしょう?」

そう、今まさにハミルトン伯爵領ではそんな制度を整えつつある。

何せ今や王都で大人気のハミルトンシルクの次代の作り手候補は、小さい子供のいる母親達なのだ。

「もしかして奥様、私達の誰かが、すぐにでも侍女の仕事を辞めてしまうとお考えになったのですか? 何かそういうお話でも?」

……うう。違うとは言えない。

けど、まさかマーカスが旦那様にプロポーズの許可を取りに来たなんて言える訳がない。

私が言葉に詰まっていると、何か心当たりがあったのかダリアがふっと笑って言った。

「もしかして……私ですか?」

「ごめんなさい、ダリア。ダリアが幸せになることなら喜ばないといけないのに、もしダリアが侍女を辞めてしまったらと思ったら……正直少し寂しかったの」

「アナスタシア奥様……」

私の言葉を聞いていたダリアは、少し照れたように頬を染めると今度はふわりと微笑んだ。

「私は……もっとずっと、奥様のお側でお仕えさせていただきたいですよ?」

「ええ、そうして貰えるように、私も頑張るわ!」

マーカスのプロポーズがどうなるのかは私には分からないけれど、きっと2人は然るべき時に然るべき報告をしてくれるのだろう。

自分達の幸せはもちろん、私や旦那様、ハミルトン伯爵家の事を考えてーー。

ありがとう、ダリア。私も女主人として、みんなが望んでくれるなら結婚後も仕事を続けられるような、そんな環境を整えてみせるからね!

すっかり元気を取り戻した私は、領地の新商品の焼き菓子を堪能しながら、ダリアと内緒の恋愛トークを楽しんだのだった。

ちなみに。

何故かその晩、100本はあるのではないかというような巨大なバラの花束を抱えて真っ赤になった旦那様に、

「これからも私の妻でいてください!!」

という謎のプロポーズ(?)をされるわけだが。

まぁ、それはまた別の話という事で……。