軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ウロボロス劇毒

「魔法部隊を早く派遣なさい! 裁きの詠唱を! 早く!」

切羽詰まった様子で女王が言いますぞ。

「なんだあれは?」

「勇者様方も気を付けてください! アレは生き物を侵蝕し、急速に成長する化け物です! 絶対に触れてはいけません!」

なんとも恐ろしい化け物になった様ですな。

以前フォーブレイに行ったループで発生したマジカルハザードに状況が似ていますが、それよりも進行が遥かに早いですぞ。

「あの女だったように見えたが……」

「イワタニ様もご注意ください! 幾ら勇者と言えどウロボロスの使徒の侵蝕を相手にして生き残れるとは言えません!」

「正体を現したんですね!」

フレオンちゃんがここで羽毛を逆立たせて言いました。

「違います。ですが、少しでも早く処分せねば犠牲者は増えるばかりです」

「あれは……あれはマルティじゃったのじゃぞ!」

「貴方もわかっているでしょう! いいから早く! 手遅れになる前に!」

何やら切羽詰まった様子ですな。

「しょうがないですな。仲間だったせめてもの情けですぞ。安らかにですな!」

赤豚、お前の正体がここで明らかになるとは驚きですな。

しかし、口が腐りそうな手向けの言葉を贈りました。

俺は無数に手を伸ばす蔓を焼き尽くさんと魔法を唱えますぞ。

「リベレイション・フレイムフロアーⅩ!」

カッと、俺が指定したウロボロスの使徒の全てを魔法の炎で焼き焦がしてやりますぞ。

おや? 手応えからして随分と魔法防御が高い様ですな。

焼き焦がしているのに、まだ動いていますぞ。

炎から逃げ出そうとしております!

リベレイション、しかもⅩの魔法を受けて生きているとは……しぶといですぞ。

しょうがないですな!

「ブリューナクⅩ!」

横薙ぎブリューナクで更にトドメを刺しますぞ。

こうしてウロボロスの使徒なる赤豚が変異した魔物は完全に根絶する事が出来ました。

「アッサリと処理出来たみたいだが……」

「マルティイイイイ!」

クズが絶叫をしておりますが、その目は虚ろですぞ。

「ありえん! あってはならん! マルティ、なんでお前が! あああああああああぁあああぁぁぁぁぁぁ!?」

このうろたえ具合、今までの比ではありませんな。

俺の予想とは大分違いますが、相当ダメージを受けていますぞ。

つまりアレですな。

シルドフリーデンの時に出来なかった時の怨みをここで返してやりました。

「母上……」

ここで婚約者は女王に声を掛け、クズを見つめますぞ。

「随分とうろたえているみたいだが、何があったんだ?」

「いえ……当初は身内の恥を事前に処理するという程度の問題のはずだったのですけどね……」

と、女王はクズと赤豚が反省した振りをしてお義父さんの皿に毒を盛った現場を押さえて自らが服用した毒をその身に味わわせることで済まそうとしたと説明しましたぞ。

「つまり、どんな毒物か知らないがビッチは俺にとんでもない毒を盛ろうとしたって事でいいのか? で、クズは下剤だった訳だが……漏らすとかする所じゃないみたいだな」

お義父さんが青ざめた顔で赤豚がいた場所と放心しているクズを見ていますな。

クズは強力な下剤を飲んだのに、それ所では無いって顔ですぞ。

「姉上……なんて愚かな。ですが、この様な毒があるのですね」

「ええ……そうですね。メルティ、これは貴方には教えていなかった事なのですが、この毒に関して私達には因縁があるのです」

「え?」

「おそらくあの子が使用した毒はウロボロス劇毒のそれでしょう。かのゼルトブルですら製法を抹消したと言われる、その名を後世に残す事すら憚られる、禁断の毒物の名です」

どうやら女王はこの劇毒に関して知っている様ですぞ。

「そのような毒物が……それが私達とどのような?」

「メルティ、あなたには内容の一部を隠して話した事がありましたね。あなたの亡くなった兄の話です」

ん? どこかで聞いた覚えがありますぞ。

そうそう、以前のループで似た話を聞いた事があります。

確か婚約者の兄が毒殺されて亡くなっており、クズはシルトヴェルトを強く怨む様になったとか。

「確か毒殺された、と聞いておりますが……まさか!」

「ええ、そのまさかです。これはイワタニ様と直接の関係はありませんが、メルロマルクは過去、シルトヴェルトと友好を築こうとしている最中……の事です。オルトクレイがシルトヴェルト、亜人への憎悪を更に募らせる事になった出来事なのですが……」

と、女王は過去の出来事を語り始めました。

その出来事とはメルロマルクに留まったループでの際、婚約者が教えてくれた赤豚と婚約者の間にいた王子の話ですな。

この時の話から俺はお義父さん達にフレオンちゃんの話をして、赤豚にフレオンちゃんが殺された事を諭されたのでした。

まあ、前座と言うか俺の事情を思い出すのは一旦置いておいて女王の話ですぞ。

どうやら女王が婚約者に教えていた赤豚の弟にして、メルロマルクの王子に関する話ですな。

前提としてお義父さんにシルトヴェルトとメルロマルクは長い事敵対関係にあった事の説明をしました。

もちろん、シルトヴェルトという国に関してメルロマルク側の認識での話でしたがな。

「このオルトクレイ……いえ、先ほどもこの名で呼んでしまいましたね。クズは過去、英知の賢王と呼ばれ、シルトヴェルトに攻め滅ぼされそうになっていたメルロマルクを救った智将にして英雄だったのです」

「コイツが?」

お義父さんが心の底から信じられないとばかりにクズを見ていますな。

「今ではその影もない事に関しては否定しません。ですが、それは事実である事を先にご理解ください」

「はいはい。それで?」

「クズのお陰で当時のシルトヴェルトの代表タイラン=ガ=フェオンは倒され、撤退を余儀なくされました。メルロマルクにこうして平和が訪れたのです。その功績により、クズは私の夫となった訳ですが……」

女王は一旦間をおいてから更にお義父さん達に説明を続けますぞ。

「そうしてやっとシルトヴェルトの過激派は勢力を弱め、友好派閥が勢力を伸ばし、メルロマルクとも友好的な関係を築こうとして行く所までにお互い譲歩し、それぞれの要望を叶えつつ、長き平和のために歩もうとしていたのです」

ですが……と、女王はクズを見ながら扇で口元を隠しました。

そこで王子暗殺ですな。

「シルトヴェルトから来た和平の使者が我が国の王子、シゼルを会食時にクズの目の前で毒殺したのです」

ここまでが以前のループで聞いた話ですな。

「母上……父上のこの様子からすると……」

「ええ……その際に使われた毒物が、このウロボロス劇毒と呼ばれる代物だったのです。毒によって死んだシゼルの亡骸は先ほどのビッチと同じく、魂諸共ウロボロスの使徒と呼ばれる化け物へと変貌し、周囲の生き物を巻き込んで勢力を拡大、辺りを汚染しようとし始めました」

ふむ……どうやらメルロマルクではそのような事があったのですな。

無数にループしておりましたが初耳ですぞ。

ただ……白衣豚だったかのホムンクルス研究所が起こしたマジカルハザードと呼ばれる現象によく似ている覚えがありますな。

これも考えうる災厄という意味では同じなのでしょう。

「一定の勢力を拡大した後は、その勢力内で化け物を生成し、更に勢力を拡大する……そのような化け物である、と過去の四聖勇者様が倒した記述には書かれております。それほどの脅威だと思ってくだされば十分です」

「なるほど……とてつもない毒物をビッチは持っていたって事でよさそうだな」

「その時はどのように処理をしたのですかな? 正直に言えばかなり手ごわい化け物だったのですぞ」

「一瞬で焼きつくして跡形も無く消し飛ばした奴が言うのか?」

まあ、俺からしたら蚊ほどにも脅威はありませんな。

ですが、耐久力はかなり高かったですぞ。

もしもまともな強化をしていなかったら、苦戦程度では済まなかったでしょうな。

「……イワタニ様達はご存知ないでしょうが、クズは杖の七星勇者と呼ばれる、四聖とは異なる武器の勇者だったのです。当時のクズは迷いに迷いましたが、杖を振るい、国の魔法部隊と連携して幾重にも儀式魔法を降らしてどうにか根絶させました。犠牲は最小限に抑えられたのが幸いだったでしょうね」

ですが……と、女王はクズを憐れむ目を向けております。

なるほど。

そういう事情ならばシルトヴェルトに強い憎しみを抱くのも納得ですな。

「七星勇者ねー……ならお前が勇者をやって波から世界を救えよ」

「内密にお願いしたいのですが、クズはこの時の出来事が原因でますますシルトヴェルトへの憎悪を募らせ、考えが凝り固まり……杖の七星武器はそんな復讐心に燃えるクズを見限ったのか、姿を消してしまったのです。これは諸外国には言えない事です。知られたら戦争になりますので、皆様、十分に注意をしてください」

女王が俺達に念押ししますぞ。

「無意味な争いはいけません!」

ここでフレオンちゃんが一歩踏み出して主張しますぞ。

そうですな。その通りだと思いますぞ。

「戦争なんてもっての他です。この事実は内緒にしてあげましょう!」

「なんでお前が仕切っているのかわからんが……話を続けよう。その毒物が使われたって事でクズがトラウマを刺激されたのはわかるが……幾らなんでもここまでうろたえるのはおかしくないか?」

「ええ、ただそれだけであったのならばまだ良かったでしょう。ですが、ビッチは過去の件でも無数に怪しい行動をしているのです。一応、犯人であるシルトヴェルトの者が自白をしたのですが……その真実を暴いたのは、あの子でした」

「ビッチの証言だと? そりゃあ怪し過ぎるだろ」

「一応、様々な証言などを総合すると実行犯にあの子が混じっているのは難しいと思われていました。ただ……私には真実は別にあったのではないか、とも感じる、忌まわしい出来事だったのは事実です」

なるほど、その様な事があったのですな。

きっと赤豚が犯人でしょう。

どういう仕掛けをしたかはわかりませんがな。

あとは、もうおわかりになるでしょう。

と、女王はクズの肩に手を置いて言いました。

「クズ、どうやらシゼルを殺したのは、あの子だった様ですね」

「――!! ァアアアアアアアアアアアアアアア!?」

クズは頭を押さえてそのまま蹲り絶叫をしておりました。

これはおかしな結果になりましたな。

「ブブ!」

やがて影豚が何やら女王の下に駆けこんできました。

何やら瓶を持っていますな。あの瓶は……ウロボロス劇薬の瓶に似ている気がしますな。

「中身は無いようですね。気化している様でもありますが……あの子の部屋の壁の一部に隠し戸棚があったのですね?」

おや? おかしいですなー?

俺が盛ったウロボロス劇毒は証拠隠滅のために槍に収めたはずですぞ。

証拠は絶対に出てこないはずですが……。

「つまりビッチは俺に追い込まれた事で秘蔵の毒物を盛ろうとして、逆に自身が飲む事になったってわけか。完全な自業自得だな」

「ええ……本当に愚か所か処分しなくてはいけない子だったようです」

クズが泣くのをやめたかと思うと、覇気の全く感じさせない、年老いた老人とばかりにぼんやりと立ち上がってふらふらと歩き始めました。

どこに行こうと言うのですかな?

「……クズをしっかりと捕らえ、然るべき部屋で監視する様に……」

女王の指示でクズはそのまま兵士達に連れられて行きましたな。

今までで見た事がない程、老けた様な顔をしている様に見えました。

「この瓶の中身の分析を行ないなさい。ですが、忌まわしい物なので厳重に調査するのですよ」

俺が使ったウロボロス劇薬はもうありません。

ですがもう一本瓶が出てくるという事は……赤豚の闇はおぞましいですな。

ただ、最初の世界の事を考えると、おそらくあの瓶の中身は既に無かったのでしょう。

お義父さんに盛ろうとした毒は早急に治療すれば間に合い、治療院に運ばれる程度の毒でした。

「ああ……ああああ……」

おや? 後方を確認すると仙人が絶句した表情で成り行きを見守っておりました。

やりましたな! 目には目を! 歯には歯をですぞ!

とは思ったのですが、仙人は信じられないとばかりの表情をしております。

「や、槍の勇者様、あ、あなたまさか……!」

おお、真実に気づいたのですな!

そうですぞ!

フレオンちゃんを毒殺した赤豚には相応しい毒殺ですぞ!

イェア! ですな!

「……フレオン、ここは危険だ。早くこの場から去った方がいい」

「おや? 仙人さん、どうしたのですか?」

「どうしたではない……」

仙人が俺を睨んでおりますぞ。

「槍の勇者様、貴方にフレオンを預けたのは失敗だったようじゃ」

「それはどういう意味ですかな?」

俺は何かしましたかな?

仙人の信用を損なう事をした覚え等全くありませんぞ?

「わからないのですか? 貴方がした事はとても胸を張って出来る事ではない!」

おお、どうやら仙人は赤豚が毒殺された件の犯人が俺である事が許せないのですな。

これは認識の違いですぞ。

俺からすると大事な最初のフィロリアル様であるフレオンちゃんは赤豚に殺されているのですから、これは復讐であるのですな。

ですがこの仙人はフレオンちゃんが幸運にも生きているのですぞ。

俺は誠実に生きるようにフィーロたんに命じられているのですぞ。

悪には容赦しませんぞ。

誠実に怒りを、報いを受けさせたのですぞ。

ですが仙人は納得はしてくださらない。

なら……その怒りを鎮めるために言うべき台詞がありますな。

「俺は無実ですぞ。この程度で満足なんかするはず無いですからな。奴をこんな楽に逝かせてはいけなかったのですぞ」

そうですぞ。

次の周回でも赤豚には報いを受けさせねばいけないのですからな。

この返事に仙人は呆気に取られた様に呆然としております。

「槍の勇者様は……いえ、ワシの勘違いじゃったという事か……?」