軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

星見酒

そんなこんなで夜になりました。

温泉浴場で相変わらず覗きをしようとしてお義父さんに叱られた後の事ですぞ。

サクラちゃんが婚約者を背に乗せて男湯へやってきました。

「わ! サクラちゃん!」

お義父さんが急いでお湯に浸かって背を向けますぞ。

サクラちゃんは婚約者を背から降ろすと天使の姿になりますからな。

「ナオフミー今日も一緒に入りに来たよー」

「わ、わかったから……というかメルティちゃんも一緒に来なくても良いんだよ」

「いえ……私は……」

何やら婚約者も頬を染めてお義父さんに近寄って行きますぞ。

「私もナオフミ様と一緒に入浴したくてサクラちゃんにお願いしたの」

「え?」

「だって私とナオフミ様は母上が決めた事とは言え、婚約者なんですよ。ですから一緒の入浴くらい共にしても……」

「だ、だけどね。ここには他にも客が来るかもしれないし……も、元康くんやコウ、他の男の子のフィロリアルも来るんだから」

「そうですぞ! ここは男の花園、来て良いのはフィロリアル様だけですぞ」

「いや、その理屈はおかしい」

「知らないわ! 私はナオフミ様とお近づきになりたいだけ」

婚約者は俺を睨んで怒鳴った後にお義父さんの背に触れます。

お義父さんはビクッと逃げるように温泉の端まで移動しますぞ。

「どうか遠慮しないでください」

「そ、そう言う訳にはいかないよ。君は女の子なんだし」

婚約者は逃げるお義父さんの方へ手を伸ばしてから、名残惜しそうに手を戻していますな。

なんですかな? その恋する乙女のポーズは。

フィーロたんという婚約者がいながらお義父さんを狙うとは……ハッ! まさか、フィーロたんとお義父さん、二人共同時に攻略しようと言うのですかな?

この元康、親子丼は許しませんぞ!

「私が……幼いからですか?」

「え?」

俺がそんな発想を抱いている最中にも、時は流れていますぞ。

見れば婚約者が震える声でお義父さんに話しかけています。

「昼間、シルトヴェルトの傭兵の方とは何の意識も無く隣に座っていたではありませんか。やはり盾の勇者であるナオフミ様は年齢を気にして私と仲良くして下さらないのですか?」

「ああ、ラーサさんね。彼女の場合は……なんとなくかなー何か相手をしてたら面白いだけで、別に淫らな気持ちで相手なんてしてないよ」

「いいえ……あの傭兵の事を気に掛けていますわ」

何やら婚約者が面倒な事を言っていますな。

サクラちゃんは首を傾げていますぞ。

「メルちゃん大丈夫?」

サクラちゃんの心配を余所に婚約者はお義父さんに詰め寄ります

「もっと見てください。じゃないと私……どんどん自分を嫌いになっちゃいそうで……」

すんすんと婚約者は鼻声になって両手で顔を抑えて俯きますぞ。

「そうやってお義父さんを落とそうとするつもりですな! フィーロたんはどうするつもりですか!」

俺の指摘を婚約者は全く相手にせずに泣き続けています。

無視? 無視ですかな?

「メルちゃん。大丈夫ーナオフミはサクラにも何か気を使ってこう言う時に全然相手してくれないよ?」

「え?」

サクラちゃんが心配しないでとばかりに婚約者を励ましてますぞ。

なんとも優しい限りですな。

ですが、お義父さんとフィーロたんを同時攻略するのは不誠実ですぞ。

「そういえば、背格好が近いサクラちゃんがここに来ると……」

婚約者はサクラちゃんとお義父さんの両方を交互に見ました。

「あのね。サクラなんとなく知ってるよ。こういう時にも何か意識してるのなら反応は別になるんだって、当たり前の様に相手された方が何の脈も無いんだってー」

「そ、そうなのかしら?」

「じゃあナオフミがパンダって呼ぶ人を連れてくるねー」

ボフンとサクラちゃんはフィロリアル形態になって垣根を越えていきました。

「な、なんだ!? あたいに何をする気だ、ちょ、近寄るな。ぎゃあああああ!」

垣根の向こうから、そんな悲鳴が聞こえてきます。

直後、ボーンとパンダ獣人が女湯の垣根から跳ね飛ばされて湯船に落ちますぞ。

「あいたたた……一体何をする気だ!」

「うわ! ラーサさん」

「ゲ!? ここは男湯!?」

パンダ獣人はパンダ姿のままタオルを体に巻いていますぞ。

湯船にタオルとは……マナーが悪いですな。

そもそも、毛深い種族が入浴すると毛が抜けて周りに迷惑が掛かりますぞ。

しかし同じ理由でフィロリアル様が入浴すると羽が抜けてマナーが……。

俺は途中で考える事をやめました。

「水着を着用している時から思ってたけど、毛が濡れて嫌だとか思わないの? 亜人の姿の方がいいと思うんだけど」

「こんな所でダメだし!? だからあたいを巻きこむんじゃないっての!」

パンダ獣人が恥ずかしそうに目を泳がせていますぞ。

お前までお義父さんを狙っているのですかな?

俺は負けませんぞ!

「いきなり何をすんだい!」

「ね? ナオフミはーパンダの人を何も意識して無いでしょー?」

「そ、そうね。凄く自然に話をしているわ」

「だからー、大丈夫」

「何が大丈夫か知らないけど、あたいを巻きこむんじゃない!」

「あ、星見酒とかしてるとラーサさんらしいよね」

「してたよ! 悠々と楽しんでたのをアンタの所のフィロリアルがあたいを蹴り飛ばしてきたんだよ」

パンダ獣人の手には酒瓶がありますぞ。

中身は大丈夫だったのですかな?

「そっか……うん。やっぱラーサさんはそうだよね」

「何を期待してんだ!」

拳を握りしめてパンダ獣人はお義父さんに怒っています。

「は、話の前後から察するに、あ、あたいが、お前なんかと、そんな関係……」

くたっとパンダ獣人はお義父さんにもたれ掛かる体勢で倒れてしまいましたぞ。

「うわ! 大変だ。ラーサさんがのぼせた! 温泉に入りながら酒を飲んでいた挙句、頭に血が上った所為だ! 急いで介抱しないと」

パンダ獣人の部下が慌てていますぞ。

どうしてそんなに説明口調なのですかな?

お義父さんがのぼせているパンダ獣人をサクラちゃんに預けました。

「急いで女湯の更衣室の方へ連れて行って服を着せて! のぼせちゃってるから冷まさないと! メルティちゃんもお願いね。君は水系統の魔法が得意でしょ?」

「は、はい! わかったわ!」

婚約者は先ほどの泣いていた様子を微塵も感じさせずにサクラちゃんの背に乗り、パンダ獣人に水の魔法を唱えながら垣根を越えて行きました。

「急いで俺も行かなきゃ!」

湯船から出たお義父さんが更衣室の方へ駆けて行きますぞ。

「なおふみが出たの!」

俺も追い掛けるかと足を出したその時、ガサッと垣根をよじ登り、ライバルが温泉の方へ行きましたぞ。

何をしているのですかな?

パタパタと男湯の温泉の上に滞空し、お義父さんが先ほどまで座っていた辺りにライバルが飛んでいますな。

湯船に頭を向けて何をしているのでしょう?

ま、気にしている暇はありませんぞ。

「んっく……んっく……ぷはー! さいこーなのー!」

などと言う声が聞こえましたが男湯に温泉卵でも設置していたのですかな? いや、パンダ獣人が持ってきた酒瓶か何かを盗み飲みをしたのでしょうな。

パンダ獣人が落としたのを見ましたぞ。

落ちた物を食うとは、なんとも下品ですな。

それに比べてフィロリアル様達は品がありますぞ。

などと思いながら俺はお義父さんの後を追ったのです。

結局、パンダ獣人は直ぐにのぼせから立ち直ったそうですぞ。

少し酒の周りが早かったのが原因ですな。

ですがパンダ獣人自体は酒にかなり強く、相当飲んでいたのだと女湯の客は言っていたそうですな。

そういえばお猪口でしたか? では無く瓶で飲んでいましたな。

ずいぶんと深酒をしていたのではないですかな?

むしろ完全に背景と化していたパンダ獣人の部下の方が大変でしたな。

パンダ獣人が男湯にやってきて、しかものぼせた所を見せられてしまって釣られて温泉でダウンしてしまったそうですぞ。

なんとも間抜けな出来事ですな。

ですが、そんな騒動の裏側で厄介な出来事は進行していました。

その日の晩……メルロマルクへ向かう最後の船に、出港直前に飛び乗った連中が居ました。

この事実を俺達が知ったのは、船が沖に出てしまった後の事だったのですぞ。

そう……十分にLv上げを終えた錬と樹一行が、国に無断で逃げるように船に乗って出発していたのでした。