軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

おしおき

「はぁ……コウ、君はキールくんは元より、仲間をなんだと思ってるのかな?」

「んー? 早くご飯!」

それが引き金でしたかな?

お義父さんの優しげな目が若干きつくなりましたぞ。

「……そうかそうか、コウはそんなにもキールくんを食べたくてしょうがないんだ?」

「うん!」

コウが元気良く、力の限り頷きました。

こ、これは!?

ピリピリとした不穏な空気が辺りを支配し始めました。

早くコウに謝罪させねば!

そうしなければならないとフィロリアル様と共に培った本能が訴えております。

「じゃあコウには……キールくんが味わった恐怖を味わってもらおうか。それでわからなかったらどうしようもないし、俺は見捨てるけど」

「ふぇ!?」

お義父さんがコウの喉元を掴みましたぞ。

もちろん、お義父さんは攻撃は出来ません。

ですが、相手を掴んで動きを封じる事は可能ですぞ。

「さーて……次のご飯はコウにしようか」

「え? え? え?」

コウが状況を理解できずに目を白黒にさせていますぞ。

お義父さんのお怒りはもっともですが、子供のした事なので許して欲しいですぞ。

俺はそう伝えるべく、口を開きました。

「お義父さん、それくらいにして――」

「元康くんは黙っててね。間違っても……俺の決定に逆らっちゃいけないよ」

「は、はい!」

おお……何でしょう。

この威圧感は未来のお父さんを彷彿とさせますぞ。

思わず頷いてしまいました。

「コウ、君は屠殺という言葉を理解した方が良い。君はフィロリアルという……馬車を引く魔物であって人間でも亜人でも無い。そしてフィロリアルには食肉用という分類の品種もあるし、お店でも売られてるんだ。この意味、わかってるよね?」

「え? うええ? コ、コウはそんなんじゃ――」

「例え勇者が育てたお陰で特別な育ち方をしても、そこは変わらないよね? いや、人間同士でも亜人同士でもきっとある禁忌はあるんだろうけど、なーに、君はフィロリアルだ。俺達にとっては禁忌じゃない」

「う、うえぇえええ……」

コウが涙目で俺に救い手のを伸ばしますぞ。

ですが、その手をお義父さんは掴みます。

「元康くんに助けを求めようとしても許さないからね。君は何度キールくんが言っても聞かなかったし、君がした様に俺が君を常に狙い続ける。最終的に元康くんが居ない所でやれば良いし」

「や、やだー! コウは! コウはイワタニには負けないもん! 絶対イワタニじゃコウに何もできないもん」

「はぁ……これで反省するならまだ許してあげようと思ったけど、どうやら無理なようだね。何も俺が君にトドメを刺さなくても手は幾らでもあるのは、今、喉を押さえつけられている君ならわかるんじゃないかな?」

ハッとコウは表情を青ざめておりますぞ。

ああ……今すぐ助けに行きたい衝動にかられますが、相手がお義父さんでは俺はどうしたらよいのですかな?

「サクラちゃんは……やってくれるかわからないけど、ガエリオンちゃん……最悪キールくんにコウの喉笛を噛み切ってもらえば……すぐに済むだろうね」

お義父さんは喉を握る手を持ち替えて背後に回り込みますぞ。

器用に盾にロープが出るものにしてコウを縛り上げて行きます。

その手腕、手際の良さに、その場に居る者は唖然としますぞ。

「さーて……」

焚き火の残った炭を拾って、お義父さんはコウの羽毛の上に線を描き込んで行きますぞ。

ミシン目で描いて行くその線はなんなのですかな?

「ここからが手羽先だね。コウはよく体を動かすから体が引き締まって美味しいと思うよ?」

「うー! 動けない! うっ!」

じたばたと暴れようとするコウをお義父さんは上から押さえつけております。

強化されたお義父さんではさすがのコウも手も足も出ませんぞ。

おお……心臓が自然とバクバクと音を立てて声が出ません。

お義父さん、どうかやめてください。

コウは悪くありませんぞ。

悪いのはこの元康なのですからどうかお許しを!

と、言いたくなるほど、真に迫った脅迫が続いて行きます。

どうして俺が動かずにいられるのかと言うと、時々、お義父さんがこちらにウインクをして合図をするのです。

これはしつけであって、本当にするつもりは無いと。

ですから、この元康は黙って成り行きを見ていられるのです。

これがお義父さんでは無く、別の者でしたら命を以って報いを受けさせてやりますぞ。

「さてキールくん、コウの喉笛を食い千切って」

「え? でも……それに……」

キールは引き気味ですぞ。

しかし、お義父さんの言葉通り、キールは数歩前に出てコウに描かれた線とお義父さんを交互に見ます。

「これは……コウを仕留めた後、ナイフで切る為の解体用の線だよ」

「ヒィ!」

迫真の演技でお義父さんは、腰に下げた調理用のナイフをコウに見せつけるように、コウの頬に当てますぞ。

「これはわかるよねー? 何度もコウの目の前で魔物を解体した事があるし……コウを美味しく切りわけるために必要なんだよ。まずは手羽先で何をつくろうか? 唐揚げ? 骨はスープにしてー……フィロリアルに無駄な場所は無いよね?」

「ギャー! 恐いよー!」

お義父さんの脅しでコウが叫びをあげましたぞ。

俺が助けても、隙あらば狙われて、俺がいない時に同じ事をされる。

お義父さんの脅しでコウの羽がバラバラと抜け落ちて行きますな。

「あ、キールくんの料理方法で頼んでたソースをコウに掛けようか。それからキールくんにコウの喉笛を噛み切ってもらおう、うん」

「や、やだー!」

コウがこれまでにないほど、涙目で懇願するように言い放ちましたぞ。

「コウは……コウはご飯じゃない! ご飯じゃないよ!」

「コウ、君はキールくんがご飯だとでも言う気かい? 君がキールくんにしつこく言っていたのはこういう事なんだ。さてコウは何回キールくんに同じ事を言ったかな?」

「う……キタムラー! ユキ、サクラ、ルナ! た、助けてー!」

コウが助けを求めると同時にお義父さんに睨まれてしまいましたぞ。

これでは動けませんぞ!

うう……コウ、すぐにでも助けに行きたいのですが、足が……。

これは……試練ですぞ。

元康、お前のフィロリアル様への愛はこの程度なのか?

お義父さんにフィロリアル様が料理されるのが、愛なのか?

愛……愛ですぞ。

愛とは自由……それがフィーロたんに関わりがあるのなら、何者も俺は受け入れる所存。

愛ならば何でも許されるのですぞ。

全て運命……俺がフィーロたんを追い求める運命にあるように、コウにはコウの運命があるのですぞ。

確かに俺は出来る限りの命を以ってコウを助けましょう。

ですが、相手はお義父さん、お義父さんはフィーロたんの親にして絶対なる存在。

そのお義父さんがフィロリアル様を食したいと申しているのです。

ですがこの元康はフィロリアル様を一人足りとて見捨てたりできません。

では――

「あ! 槍の兄ちゃんの頭から煙が出て動きが止まったぞ!?」

「……ダメですわ。元康様は相反するナオフミ様の命令とコウの助けを求める声に自己矛盾を受けて硬直してしまいましたわ。コウ、元康様の救援は諦めて運命に身を任せるしかありませんわ」

「キタムラー! 助けてー!」

「頼みの綱の元康くんがこれじゃあ、コウの命は無いも同然だね」

「ユキ、サクラ、ルナ助けてー!」

同様にお義父さんに睨まれてユキちゃん、サクラちゃん、ルナちゃんは動きが止まってますぞ。

いや、ルナちゃんは別ですな。

「キールくんは食べ物じゃないもん。キールくんを狙うコウは、敵……」

冷酷に突き離されてコウはそれこそ命がけの抵抗をし、張り裂ける様な声で鳴きますぞ。

その視線の先はユキちゃんとサクラちゃんですぞ。

「ええっと……ナオフミ様がコウを御所望なのですから、私は止める術を持っておりませんわ。ええ……相手がナオフミ様で無ければどうとでも出来たのですが、相手が悪かったですわ」

「えっとー……サクラはー……うーん、ごめんねーナオフミはサクラのごしゅじんさまだから助けたくても出来ない」

キールは既に敵ですからな、残されたのは助手と魔物しかいませんぞ。

助手はキョロキョロとうろたえるように顔を動かして辺りを見守る事しかできないご様子。

「ガウ!」

魔物は何を言ったのですかな?

コウの目から溢れる涙がさらに増しましたぞ。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! お願いだから食べないでー!」

「俺に言ってもその台詞は見苦しい命乞いにしか聞こえない。それはキールくんに言う言葉でしょ?」

「キールくんごめんなさい! もうしません。だから……だから助けてー!」

コウが何度も瞳から大粒の涙を流しながらキールに向けて謝罪しましたぞ。

「に、兄ちゃん……もう、良いんじゃないか?」

「ダメだよ。コウは全然反省していないよね? 口約束かもしれない」

「や、やー! 嘘じゃない! 嘘じゃない! ごめんなさい! ごめんなさい! 二度としないから助けて!」

「よく覚えておくんだよ? 君が常にキールくんを狙うのと同じ様に、狙われてる事を」

そう言うとお義父さんはコウを解放してくださいました。

叫び疲れたのかグッタリとしたコウがスンスンと啜り泣きをしながら、キールに宥められております。

「もうしない。ごめんなさい、許して……ごめんなさい」

「はあ……本当はこんな真似はしたくないんだけどね。ちゃんと覚えておくんだよ」

「一度反省すれば二度目はないですぞ! フィロリアル様は賢いですからな!」

「わ! 元康くん、硬直から立ち直っていきなりそれ?」

優しげな表情に戻ったお義父さんが驚いた様に俺に言いましたぞ。

「サクラびっくりしたーナオフミこわーい」

「私もそう思いましたわ」

「俺もびっくりした。やっぱ兄ちゃん時と場合で態度が違うな」

「うん、びっくり」

と、サクラちゃんとユキちゃん、キールにルナちゃんが言いましたぞ。

助手は胸をなで下ろしております。

魔物の方は舌打ちしてますぞ。

「だってしょうがないでしょ。目を離した隙にキールくんが食べられてしまいましたじゃ……冗談じゃ済まないよ」

「う……そう思うとこえーな……」

ブルルとキールが震えておりますぞ。

反面コウはずっと泣いておりますな。

俺はコウに寄り添い、少し離れた所に座らせて宥めますぞ。

板挟みで何も出来なかった俺を憎んで良いですぞ。

俺は……とても弱い男ですぞ……こんな時、昔の俺なら迷わず目の前の泣いている子に手を差し伸べられたのに……。

ああ、俺は全然前に進めておりませんぞ。

こんな時、最善の選択は何処にあるのでしょうか?

お義父さんがフィロリアル様を皆殺しにせよと命じた時、俺は……どうしたら良いのですか?

命令に背く事も出来ず、フィロリアル様を傷つける事も出来ない。

……いえ、これは他にも問題があるのですぞ。

何もお義父さんの命令ではなく……敵がフィロリアル様を使役していた時、俺はどうなるのですかな?

幸いにして俺はそんな事態に直面しておりませんが、無いとは言い切れません。

そんな時、俺はどうしたら良いのでしょう?

尚、コウはそれ以来、キールを食べたいと言う事がなくなりました。

お義父さんのお仕置きは効果抜群ですな。

フィーロたんもお義父さんにお仕置きされるような事があったのでしょうか?

そう思うと、ゾクゾクとしてきましたぞ。

ちなみに、この一件以降、フィロリアル様達の中でお義父さんは頂点である、という共通認識が生まれました。

皆、お義父さんの言う事を素直に聞く様になりましたぞ。