軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

兄妹喧嘩

「お兄様! 私も戦いとうございます!」

「ダメだ!」

フォウルが帰って来てからアトラはずっとフォウルと問答を繰り広げていた。

いきなりフォウルを襲って黙らせるとかはさすがのアトラも考えていないようだ。

まあ、そんな真似をしたら俺が絶対に参加なんてさせないけどさ。

信用できないし、そう言う奴。

アトラか……。

俺の言う事は絶対みたいな所があるし、何を言っても肯定する。

ただ、俺の命が関わる事となると梃子でも動かない時があるのがアトラだ。

俺に対して絶対至上主義。

女の子に盲従されるってちょっと憧れていた所もあったけど、実際に出会うとその子の事が心配で仕方が無くなる。

俺は悪人で、人が不幸な目にあっていると笑っているし、ぶっちゃけるとそう言う資格は既に無いのかもしれない。

死地へ喜んで行かせるよう奴隷共を育て上げてしまった悪人が所帯を持つだなんて……ある訳ないだろ?

だから俺はフォウルとアトラの問答を黙って見ていた。

フォウルとの約束でもあるし、その条件でフォウルを戦わせるのだと思っている。

だからアトラを説得するのはフォウルの役目だ。

「こんなにもお願いしているのに、ダメなのですか?」

「ああ、アトラ。お前をそんな危険な場所に連れてなんて行けない」

「お兄様、危険が無い場所なんてありませんわ。いつ、何が起こって死んでしまうかわからないのです」

「違う。少なくともここにいる限りは安全だ」

「……果たしてそうでしょうか? 尚文様が留守の間に川へ毒を流す輩がいないとも限りません。突然の疫病によって死んでしまうかもしれません。尚文様のご活躍を妬んだ者が村に攻めてきて、運悪く私が巻き込まれるかもしれません」

また極端な例を持ち出してくるな。

……全部実際に起こった事だけどさ。

毒とか、ガエリオンの疫病とか、俺が召喚される前のこの村とか。

「屁理屈を言うんじゃない!」

「安全だなんて幻想でしかないと言っているだけですわ。私はそんな不幸から尚文様をお守りしたいだけなのです! 先ほどの可能性だって、尚文様にも当てはまります。私がいない時に、突然の流れ矢が尚文様に当たってしまうかもしれません」

え? 俺が巻き込まれるのもカウントしてるの?

スゲー理屈。

ここは異世界だぞ。流れ矢程度で盾の勇者殺せる訳無いだろ。

「私はもう守られているだけの存在ではありません! どうか私にも戦わせてください」

「だからダメだって言っているじゃないか!」

「私はもう弱くなんてありません!」

「その慢心が危険を招くんだ!」

ああもう……ずっと問答をしているな。

かといってここで口をはさんでも碌な結果にならないからどうした物か。

年齢を理由にお前はダメだって言っても、アトラ以外にも実年齢は幼い子が戦う訳だし、元病人に無茶をさせれないと説明しても治療した奴隷も戦うから理由にならない。

……今更だが、俺って相当外道なんじゃないか?

「……平行線だなアトラ」

「はい」

「じゃあ、ハクコの血を引く者として、やる事はわかっているな」

フォウルがアトラに拳を向けて構え、殺気を放つ。

お前等、何を始めるつもりだ。

「ええ、意志を貫くためなら……私の強さをお兄様に見せて認めさせるまでです」

「俺に負けたら約束は守るんだぞ」

「私に二言はありません」

そこへ落ちて行くの?

と言うかフォウルとアトラの対決ってよく見ている様な気がするんだが。

もちろん基本アトラが勝っている気がするんだけど。

と、思いつつ、最近の戦績を思い出す。

そういえば、おかしくなった俺の事件を解決した後、フォウルは基本的にアトラに勝ち続けているらしいな。

腫れ物の様に扱っていた妹から脱却して、戦う様になったらしいけど。

まあ、武器屋で武器を作らなかったのは加減が出来ないで、殺してしまうかもしれないかららしいけどさ。

勝っていると言っても、他に仲間がいてナンボだし、一対一で戦ったらどうなる事やら。

錬達の証言だとアトラの方が伸びが良いらしいが、根性とかそういう部分を考慮するとフォウルにも軍配が上がるだろう。

天才タイプのアトラは不利を悟ると引くからなぁ。

そういう意味ではここ一番の攻めではフォウルが有利か。

まあ、フォウルは俺達と出会う前から戦っていたんだから経験の差、という物かもしれない。

「ではお兄様、勝負です」

「ああ」

アトラもフォウルに手を向けて構えた。

よくよく見ると二人とも戦い方がかなり違う。

フォウルは言うなれば拳で相手を殴りつける戦い方をするのに対して、アトラは突きをメインにした、なんて言うか、殴りではなく急所に突き刺す気の攻撃だ。

この戦いで、アトラが鳳凰との戦いに参加するかが変わってくる。

ヒューっと風が通り過ぎ、風に舞うバイオプラントの葉が一枚、近くに飛んでくる。

それが地に落ちた瞬間、勝負は始まった。

「だぁあああああああああああああ!」

早い!

一瞬、目で追いきれないかと思う速度でフォウルがアトラの目前にまで近付き、拳を振り下ろす。

「てい!」

その拳に手を添えて軌道をずらし、アトラは紙一重で避けた。

フォウルの拳が地面に刺さる。

ズシンと音と共に地響きを立て、フォウルの拳が当たった場所にヒビが入った。

「今です!」

その地響きを立てたフォウルの背中に向けてアトラが手を振り落とす。

「させるか!」

地面に付いた拳を軸にして逆立ちになったフォウルが体をねじってアトラに蹴りをお見舞いする。

「チッ!」

片手でフォウルの蹴りを受け止めたアトラがその威力を受け流すためにフォウルの足を軸にして体を捻り、着地。そのまま再度突きを繰り出そうとすると、今度はフォウルが逆立ちしたまま飛びあがって体勢を立て直し、アトラに向けて飛び蹴りをした。

この間、5秒。

どんだけ武闘派なんだよ。

と、呆れつつ、俺はそれぞれの対処方法を目算していた。

フォウルの拳が振り切る前に……とか、アトラの突きに対しては……とか。

もはや職業病状態だな。

バッと両者距離を取り、呼吸を整える。

「やはり昨日よりも目に見えて強くなっているな、アトラ。兄ちゃんは毎日誇らしく思う」

「その上からの目線が敗北を招くのです。お兄様」

「三ヶ月……僅か三ヶ月でここまで上り詰めると考えると驚異的だ。俺も、アトラも」

「そうですわね。三ヶ月、短いようで長い期間に人は変わっていきますわ」

「アトラは変わったな。昔は生きているだけで迷惑を掛けると嘆いていたのがウソのようだ」

「……今も変わりませんわ。私は生きているだけで様々な人に迷惑をお掛けしています。ですから、その分誰かが掛ける迷惑を被りたいのです。それはお兄様も入っております。私はお兄様も守りたい」

呼吸を整え終えた二人は攻防を繰り広げながら会話を続ける。

良くもまあ、やるとは思う。

「今の私は、安全だと言われた所で危険が去るのを待って居たくは無いのです。私の力で尚文様やお兄様、この村の方々を守れるのなら喜んで前に出ます。それが尚文様のやろうとしている事ならば、尚文様の分まで私は守りたいと思っております」

「どうしてそんなにアイツの肩を持つんだ!」

「お兄様はお分かりにならないのですか? 尚文様の底に何があるのかを」

「……」

それぞれ決定打を出しきれないと言う状況で、殴り合いを続けている。

二人ともかなり早く、ギャラリーは追うのがやっとだ。

あれ? なんで人が増えてるんだよ。

ああ、俺の所は警戒が強いから、何かあると直に群がってくるもんな。

頼もしい限りだ。

まあ、今はフォウルとアトラだ。

頼もしくはあるだろうな。

錬や樹も、どう対処するのか考えているのだろう。それぞれ武器を強く握りながら目で追っている。

俺も客観的に見るとああいう風に考えているんだろう。

「お前の決意は十分に理解した。だが、それでも俺は認める訳にはいかない。そろそろ決めさせて貰う!」

フォウルが腕を前に出し、意識を集中する。

「うおおおおおおおおおおおおおおお!」

バサッとフォウルは獣人形態に変身する。

それだけでフォウルの能力が劇的に跳ね上がる。

あの状態のフォウルに追いつけるのは、本気になった勇者かラフタリア、フィーロ、ババアくらいな物か?

一応、アトラも該当するか。

と言うかまだ本気の戦いじゃなかったんだよな。

「ええ……そうでしょうとも、ですが認めさせるため、私も本気で行きます!」

両者共に無双活性を発動させる。

空気が震えているような気がした。そして殺気にも種類があるのをその場にいる者は感じている。

フォウルの殺気は野生の獣が出すような殺意だ。熱いとも取れる怒りに似た気。

対してアトラが放つ殺気と言うのは……冷たい……冷酷な、人の持つ物ではないかと俺は思う。

相手をねじ伏せると言う熱さと、相手を仕留めると言う冷たさ。

両者が勢いを付けてぶつかる瞬間をギャラリーは固唾を飲んで見守る。

「変幻無双流拳技! タイガーブレイク!」

フォウルの気が膨れ上がる。そして拳をアトラに向けて放った。