軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

戦況反転

三日目。

人体改造を望む奴隷共に施した訳だが……。

改造とは言っても、するのに必要なエネルギーの関係で、三番塔のブースト解除までには数名の奴隷と数体の魔物しか出来なかった。

偽者達も数には数でと上陸する船が増えた。

「盾の神様の計画の邪魔をしないで!」

もはや三番塔の攻防は混乱の渦中にある。

総力戦だ。

ただ……何故か、奴隷共に施した改造による弱点を尽く突かれて、奴隷共は敗北を余儀なくされている。

「神様の言う通りに逃げるよ!」

「うん!」

二番塔の教訓を生かして、敗北時に捕まりそうになる問題は緊急脱出通路を設ける事で解決させた。

ワシの配下である者達は不利を悟ったら塔内の脱出口へ入るだけで安全に逃げ切れる。

さて……。

善戦しているのはラフ種とタリ種の概念が組みこまれた魔物共で、谷子やラトが激昂していた。

「侯爵ったら! 絶対に許さないわよ!」

「うん! 後悔させてやる!」

二人揃って激怒しているが、知らんな。

奴等が望んだ事だ。

それよりも……あいつ等、奴隷が補充されている事に、何の疑問も持っていなかったな……。

まあ非常事態には慣れているような連中だからしょうがあるまい。

……薄々は思っていたが、情報の漏洩をしている奴がいるのではないか?

早急に対応しなくてはならない。

お? メルティまで一緒に居るではないか。

かなり嫌がったが今回はフィーロとアトラ、フォウルと元康の布陣で塔のコアを守らせる。

それ以外の連中は塔に入ってきた敵の処理だ。

戦況は芳しくない。どれも撤退を余儀なくされている。

「また来たの? ラフタリアお姉ちゃん達……もうごしゅじんさまの自由にさせても良いと思うよ?」

「何が自由ですか! ナオフミ様は自分の世界に帰るのですから世界征服など必要ありません!」

「フィーロちゃん! いい加減にしなさい」

「あ、メルちゃん。メルちゃんはごしゅじんさまと一緒に来るよね?」

フィーロがメルティに小首を傾げて尋ねる。

しかし、残念ながらメルティはフィーロに笑みを浮かべてはいない。

「フィーロちゃん、そんな訳無いでしょう」

「そうなの?」

「当たり前でしょ。会ってはいないけど世界征服を画策したり、変な魔物を作ったり、村の子を改造するなんて真似をするナオフミを放っておける訳ないじゃない!」

「ごしゅじんさまねー、すっごく良い笑顔。フィーロね、ごしゅじんさまがあんなに楽しそうに笑ったのはあんまり見た事無かったの」

「え? ちょっと見てみたい気もするけど……ってそんなのは良いからフィーロちゃん! ナオフミを止めなさい」

「えー、さすがにメルちゃんのお願いでもそれは聞けないよー」

「……フィーロちゃん。ナオフミが元に戻ったらこっぴどく叱って貰うから覚悟してなさい」

「させないよー」

と、戦闘が始まる。

はずだったが、今まで黙っていた元康がフィーロに話しかける。

「ところでフィーロたん。先ほどラフタリアお姉ちゃんとあの豚を呼んでいませんでしたか?」

「むー! 話しかけるな!」

フィーロが露骨に嫌がって、会話を拒む。

やはりこの布陣は失敗だったか?

「おい。そこの婚約者! フィーロたんがお姉さんと本当に呼んだか?」

「誰が婚約者よ! ナオフミの戯言をまだ信じているの!?」

「うん。確かに話してたよ」

それをみどりが補足した。

と言うか補足するなよ。

「元康、気にするでない」

ワシが遠隔で話しかける。

「そうですかお義父さん」

「頷いてはいけません!」

「おや? 豚かと思ったら言葉を喋っているではないですか」

「言葉が……?」

む……元康の奴、事もあろうに偽者の言葉が耳に入ったのか?

フィロリアル以外の女はメルティ以外は聞こえないはずなんだが。

「メルティちゃん! 槍の勇者へ、私がフィーロの姉であると言ってみてください」

「お姉ちゃん覚悟!」

フィーロが偽者に向かって蹴りつける。

それを往なして偽者はメルティに頼んでいるようだ。

「レンさん!」

「ああ!」

錬がフィーロの前に立ちはだかる。

「どいて剣の人!」

「悪いが退けない。俺は尚文に恩を返すために戦っているんだ」

「むー!」

「俺もあの尚文を認める訳にはいかない。いや、今度こそ、尚文の為に……尚文が作ってくれた場所を元に戻すために戦う!」

錬の叫びに呼応するように錬が所持する剣が形を変える。

「成長する力……? これは……」

両刃の剣だった錬の剣が刀に形を変える。

これはまさか。

「グロウアップして……霊亀刀へと変化した?」

ぶんぶんと刀を振るって錬はチャキっと刀の峰に持ち直して、構えた。

突然敵が新たな力に覚醒とか、された側はたまったものではないな!

「む……」

錬とフィーロが睨みあいを始める。

下手に動いたら危険だと察したのだ。これはどちらも動けない。となるとどっちかに援護が入らないとダメだ。

アトラは何をしている? と、見るとリーシアに遮られて、横やりを入れられない。

あの偽者め! 次は何をする気だ。

錬や樹、リーシアが偽者を援護しているこの状況だ。

脱出している奴隷やキールを呼びよせるか?

いや、塔の内部はかなりの数の村の奴隷が既に占拠している。

フィーロ達で一掃しないと不利だ。

くっ……こんな時にサディナは……村の奴隷達に苦戦していた。

魔法は使っているが足が速いのか命中していない。援軍は期待できないな。

「フォウル君もフォウル君です!」

「お、俺もか!? だが……」

「アトラちゃんが大事なのは今まで一緒に修行していて知っています。ですが……その大事なアトラちゃんが悪い道へ進んでいるのを黙って見ているのが……本当に優しい兄のする事なんですか!」

「うあ……俺は、俺はアトラの味方だ!」

フォウルが偽者に向かって拳を振るう。

だが、偽者に拳は届かず、偽者が乱暴に拳を振るうフォウルの頬を強く、手で平手打ちした。

はは、なんだあの攻撃は、まったく威力なんて無いようだぞ。

「私はナオフミ様がおかしくなったら、道を正すため、こうして前に立ちはだかります。ですが貴方はなんですか? 妹を腫れもののように扱って……それでは何も解決なんてしません。終いには……アトラちゃんはあのおかしなナオフミ様に汚されてしまいますよ! それが妹の事を思っての事ですか!」

ハッと我に帰ったかのようにフォウルは偽者を見る。

「……その通りだ。俺は……俺はアトラを大事にし過ぎるあまり、アトラの事を何にも考えてなかった。少しは認めていたけど、間違ってもあんな奴に、アトラを渡す訳にはいかない!」

バッと事もあろうにフォウルは反転し、アトラの方に向けて技を放った。

それを見切って紙一重で避けるアトラ。

「……お兄様、これは何の冗談ですか?」

「冗談では無い! アトラ、俺はお前が間違った道を進もうとしているのを全力で阻止して見せる!」

「尚文様を裏切るのですか?」

「ああ、あんな奴は、間違っても俺の知る奴じゃない。奴はあんな不気味な笑顔をしないし、もっと武骨な優しさを持っている。あの……武骨な奴になら、お前を少しは任せても良い」

く……フォウルの奴、裏切ってアトラと戦い始めた。

元康は何をしているんだ!?

「ねえ。私に手を出せるの? フィーロちゃんの婚約者の私に手を掛けたらどうなるか分かってるわよね?」

「むー。メルちゃんは怪我するから帰って!」

フィーロはメルティが怪我をするのもイヤだけど、元康が見えるのも嫌らしく錬から目を離さず叫ぶ。

「ぐ……」

しかし元康の方はメルティの迫力に押されている?

貴様は勇者だろうが。

何を小娘に心負けしているんだ。

「さっきの質問だけど、そうよ。ラフタリアさんはフィーロちゃんのお姉さんに該当する人物よ。ナオフミからしたらね」

と、メルティが偽者を指差して答える。

偽者は胸を張って、元康を睨んだ。

「そ、そうでしたか!」

「私の声が聞こえますか?」

「は、はい。フィーロたんのお美しいお義姉さん!」

コイツ……直前まで豚と罵っていた偽者を賞賛し始めた。

元々女を豚と間違えたり、鳥に欲情したりとおかしい奴ではあったが、どこまで目が腐っていくんだ。

「ではモトヤスさん。ナオフミ様を止めるお手伝いをしてください。フィーロの姉である私からのお願いです」

「聞きいれるな元康、さっさと偽者共を処分するのだ」

「ナオフミ様は黙っていてください!」

「黙るはずもなかろう。ワシは――」

バキンと偽者が事もあろうに音声を発生させているバイオプラントの装置に剣を投擲した。

再生まで三十秒掛る。どうしたものか。

「今のナオフミ様は呪いの力でおかしくなっているのです。一緒に居てわかりませんでしたか?」

「そうでしたか? お義父さんは前からあんな感じだと思いますが」

「……貴方の悪い所は人を全然見ず、自分の事しか考えていない所です! そんな人にフィーロを渡せるはず無いとナオフミ様は思っているのです!」

「そんな! では、私は……」

「今からでも遅くありません。聞きましたよ。フィーロがおかしくなった時、貴方は止めようと頑張ったと、その時のように……今はフィーロを止め、ナオフミ様を止めれば良いのです!」

「分かりました、お義姉さん! この元康、フィーロたんとお義父さんを想って、涙を呑んで敵になってみせます!」

「ナオフミ様が正気に戻ったら、貴方が頑張ったと口添えする事を約束します!」

「むうううううう! お姉ちゃんひどーい!」

「あらフィーロ? これで嫌いな人がナオフミ様の近くからいなくなりますよ」

「あ、そっか。お姉ちゃんありがとう!」

「ありがとう、じゃない!」

ワシは再生させた音声装置から怒鳴りつける。

フォウルと元康め、何を懐柔されている。

お前等が抜けたら、唯でさえ戦力的に乏しいこちらが大損害じゃないか。

「ごしゅじんさまどうしたの?」

「周りを見渡してみろ」

「えー?」

アトラはフォウルと敵対し、フィーロは錬と元康を相手に戦う事になり、しかもメルティまでいる。

ついでを言えば、元康が敵になるという事は三色フィロリアルも敵になるという事だ。

戦況が一気に反転した。

これでは万が一にも勝機が無い。

「フィーロ、元康を嘘でも良いから説得するのだ」

「うん。フィーロを助けてー槍の人」

「残念だけどフィーロたん。お義姉さんと一緒にお義父さんを止めてからだよ」

「ひどーい!」

「これもフィーロたんの為、ああ……この元康、愛の使命に目覚めました」

「「「むー! 結果的には良いけどあのメスにって所が気に入らない!」」」

相変わらず訳のわからない事を口走りながら自分に酔う元康と、フィーロを目の仇にする三色フィロリアル。

こんなアホな連中だが、いるのといないのとでは戦力に大きく差が出るのだ。

これは撤退を命令せねば危険だ。

「……些かこちらが不利ですね」

「でも頑張るよー!」

「ダメです。このままでは生け捕りにされます。尚文様、どうか帰還の許可を」

「……やむをえん。許可する!」

ワシの命令に従い、アトラは捕えようとするフォウルの手を払って、緊急脱出を作動させる。

くっ……一気に予定が崩れた。

これでは明日も明後日も防衛は難しい。

「えー……フィーロ負けてない」

「これから負けるのですよ」

「むー……明日は負けないよ!」

多勢の無勢とは正にこの事だ。

偽者一行に囲まれたフィーロが悔しそうに地団駄を踏みつつ、床を蹴りつけて穴を開け、下の階の脱出通路に駆け出して行った。

「待ってフィーロちゃん!」

「フィーロたん!」

「追跡はあの結界が邪魔して無理です。今は塔を破壊しましょう」

おのれ……偽者め、言葉巧みに元康とフォウルを味方にするとは。

どうした物か……このままでは非常に不利になってきている。

案の定、三番塔は破壊され、後五つになってしまったのだった。

「さて……反省会」

本拠地の研究所で疲れ切ったキールが、代表して改造された奴隷と魔物共に向かって話す。

「今回の騒ぎでフォウル兄ちゃんと槍の勇者様があっちに付いて行っちゃった」

あの裏切り者共が。

……そういえばもう一人裏切り者が居たな。

「俺達も頑張ったのにな」

「なんで尽く弱点を突かれてしまったんだ?」

「それはワシが教えるとしよう」

ワシは石板を弄って、とある人物の映像を写す。

その人物は、反省会の中でも余裕を見せているかのように、みんなの面倒を見ていた人物だ。

「サディナ。お前じゃないか?」

「あら? どうしてそう思うのかしら?」

「塔での攻防に対するやる気の無さ。他にお前の前で弱点を話す事の多さ、そして見周りの数だ」

薄々気付いていた。

さすがにワシの前で裏切りをするという愚かな行為をなんだかんだで有能なコイツがするとは思っていなかった。

いや、共にラフタリアを失った仲なのだから悲しみを分け合えると思っていたのだ。

しかし実際は偽者達に情報をリークしていたとはな。

だが、さすがに疑惑は確信へと変わった。

泳がせていたとも言えるのが今回の結果。

ワシがちゃんと監視していなかったのが原因であるのだが、ラフタリアを挟んで同盟を結んだコイツが裏切り者だとワシは思いたくなったのだ。

「偶然じゃないかしら?」

「そう思われるような戦い方をしたのが悪い。残念だが、お前は我が研究所で幽閉する。明日改造した奴隷と魔物の弱点を突かれなかったら、お前は裏切り者だ。ワシの研究材料として他の奴隷共よりきつーい実験をさせて貰おう」

「あらー……」

サディナが後ろに手を回して銛を掴もうと――

「変な真似をしたら私が相手しますわ」

「フィーロもー」

する前に、アトラとフィーロがサディナの後ろに付く。

「あらら、じゃあお姉さんは素直に投降しようかなー」

サディナは両手を上げて降参する。

「どうしてこんな真似をするんだ」

「ナオフミちゃんが偽者だって思っている子が本物だからよー」

「ハッ! とんだ茶番だな」

あの偽者が本物だと?

本物は既にこの世にいないのだ。

だからワシが蘇らせなければならない。

「そいつを牢屋にぶち込んでおけ!」

ワシの作った牢はサディナでは破壊できない強固な素材で作ってあり、魔力を吸引する装置の近くに設置しているので、魔法は使用できない。出力を弄る事が出来て、今回は根こそぎまで吸うように設置した。

サディナは牢屋に入ると同時に、人化して手枷で吊るされた。

「ここでしばらく反省しろ」

「あらー……」

まったく、これで本当にスパイだと確定したら目に物を見せてくれる。

「と言う事で、これからは確実に戦果を期待できるはずだ」

「さすが兄ちゃん! しっかしサディナ姉ちゃんひっでー」

「そうだな。これで本当だったら事が終わった時、サディナには拷問に処さねばならん」

「罰ゲームだな! 姉ちゃんをゼルトブルに買い物でも行かせるのか?」

「拷問だ」

まったく、ふんどし犬は相変わらず平和な脳ミソをしている。

こっちの大きな戦力だった元康が奪われてしまったんだぞ。

腐っても勇者だ。改造奴隷では不利……そうか、元康の弱点は沢山あるじゃないか。

「フィーロ」

「なーに?」

「元康を悩殺しろ、出来れば忠誠を誓わせるくらいにだ。あの偽者がしたように、説得するんだ」

「えー……」

露骨にいやな顔をするフィーロ。

「槍の人、全然話を聞かないよ?」

「む」

そう言えばそうだ。あの偽者はよく会話で説得できたものだ。

ワシだって元康を上手く説得できる自信はあまりない。

今まではフィーロに代弁させてどうにかなったが……。

フィーロに説得を試みさせたけど、もう間違った目的を得てしまった元康を止める事は出来なかった。

股を開いて誘惑しろと言えば……いや無理だ。あの猪突猛進がその程度で止まるはずない。

くそ……どうするべきか。

「兄ちゃん。みんな兄ちゃんに付いて来ているんだ。一人で悩まないで頑張ろうぜ」

奴隷共と魔物共が共にワシを熱く見つめてくる。

……そうだな。やっていくしかあるまい。

「ではお前等の改造を続けて行こうではないか」

本物のラフタリアの研究をする必要もある。

ラトの魔物、ミー君のボディの調整も大分済んでいるし、ベストを尽くすしかない。

現在は魔物の改造で判明した概念を第三世代として組みこんでいる最中だ。

「まずはフィーロのパワーアップから始めよう」

「わーい!」

フィーロを連れてワシは研究室に戻る。

キール達には四番塔での攻防をシミュレーションさせる事にした。

弱点を知られている連中はなるべく変身せず、攻められそうな道具や攻撃を無効化してから攻撃。

新しく改造する連中を主軸に戦わせる。

これで偽者に弱点を突かれたらサディナは白、突かれなかったら黒だ。

「尚文様」

アトラもワシに付き従う。

「明日の戦いではお前の兄はお前が止めろ」

「はい。この命に代えましても」

「無理なようなら撤退しろ、命を賭けるな。損耗無しで相手を倒さねば勝利とは呼ばない」

「分かりましたわ。ですが、それでよろしいので?」

「ワシの頭脳で解決できない事は無い。最後の塔さえ残っていればどうとでもなるのだ。それまでに決戦用のラフ種を完成させる! 完成すれば一匹で奴等全てを相手に戦えるはずだ」

そう……ラフタリアの蘇生はまだ叶わないが、研究は進んでいる。

今はやるべき事をしていくのだ。

フィーロを培養槽に入れて技能を発動させる。

「な、なんだ!?」

フィーロがどう自身を改造してほしいのかと言う情報を読み取る前に、フィーロ自身の情報に驚く。

ワシが研究しているラフ種と酷似する改造跡が多数見受けられる。

これはフォウルを分析した時にも類似の個所があった。

「どうしたのー?」

「気にするな」

お? ワシと同じくセキュリティまであるではないか。

ワシ以外がラフ種を育てても、本来の成長をしないようにする物だ。

これがあるおかげで、ラフ種はワシ以外ではまともに育てるのが不可能となる。

精々三割の性能を出せれば十分であろう。

それと似たセキュリティがフィロリアルには組み込まれている様だ。

ただ、ツギハギだらけで、肝心な個所がぼやけてしまっている。

第一世代と第三世代をツギハギで繋げたような部分、参考にするべきか悩むな。

フィーロ以外の被検体が欲しい。複数のフィロリアルがいれば、研究が進むだろう。

配下にフィーロ以外にも何匹がいたな。後でサンプルを取るか。

他、裏切り者のフィロリアルの方のデータも欲しい。捕獲を考えておこう。

とりあえず今はフィーロの情報を複製して保存しておく。

「で、フィーロは確か空を飛べるようになりたいんだったか」

「うん。ガエリオンに負けたくないの! ごしゅじんさまを背に乗せるのはフィーロなの」

「ふむ、わかった」

ワシは、改造項目を確認しつつ、個所を見る。

ん? 不自然に繋がっていない場所があるな。

改造ツリーを見ると、必要要素が足りていないツリーを発見。

ここを繋げると何か技能が習得できる。

羽が関わっているようだ。

長い時を経て、失われてしまったモノの可能性が高い。

メルティが宝物として持ってきた空を飛ぶフィロリアルの化石と言う物が倉庫にあった。

これを解析すれば繋げられると思う。

ここを弄ると先祖返りが可能だ。

素材がかなり希少な物だ。ワシの倉庫には一つしかない。

後、大きな問題がある。

「どうしたの?」

「フィーロはどんな飛び方をしたいんだ?」

「どんな?」

「羽ばたいて飛ぶ、魔力を出して飛ぶ、空気を足場にして浮く、体内にガスを貯めて浮くと色々とある」

空いたツリーを埋めるにはそのどれかで埋めれば大丈夫そうだ。

最後のは個人的な理由で、バルーンフィロリアルとでも名付けよう。

フィーロの返答しだいだが、個人的にはこちらを薦めたい。

何故かバルーンには強い魅力を感じる。

きっとバルーンフィロリアルなら元康を倒してくれる。

そんな気がするのだ。

「浮くだけは、やー」

「……そうか。じゃあ羽ばたくか魔力だ。前者は体力、後者は魔力を消耗するぞ」

「ガエリオンは?」

「確認していないが後者ではないか? 羽ばたきは最終的に長く飛べるが体重を軽くしないといけないから全体的に能力が落ちる。その点、魔力は関係が無い代わりに、飛行時間が制限される」

実際、ガエリオンの飛行時間はそんなに長くは無い。

滑空している事も多いし、何かしらの手段で魔力を補給しているのだろう。

って、フィーロは魔力を回復する手段を持っているではないか。

「後者の方が楽だ」

「じゃあそっちが良い」

「わかった」

素材は希少だがフィーロをパワーアップさせるには良いだろう。

ボコボコと音を立てて、フィーロは失われていた本来の力を一つ取り戻した。

「これでフィーロもガエリオンに負けないぞー!」

フィーロの改造が終わるまで数時間。

ワシはフィロリアルの研究結果、魔物の改造結果を参考に第三世代ラフ種……後のリーア種の概念を構築する。

他にドラゴンも参考に使いたい。

「改造が終わったら、一仕事してきてくれ」

「うん!」

改造が終わったフィーロが羽を振るわせると、光の残滓を出しながら浮き上がる。

「わぁあああ! 本当に飛べたよごしゅじんさまー!」

大興奮で、フィーロはワシに報告する。

「ああ、だが、お前の魔力で飛んでいるんだ。長い事飛び続けるのは難しいと思え」

「うん!」

「じゃあさっそく任務を言い渡す」

「なーに?」

「あのな――」

「キュア!」

「なんでガエリオンを捕まえて来なきゃいけないのー?」

「参考に欲しいのと戦力増強だ」

ガエリオンがワシの元へ来たがっていたのは知っている。

だから空を飛べる様になったフィーロで強襲させ、招待したまでだ。

「……なぜ、我を招いた?」

親ガエリオンが表層に出てくる。

「ワシが招いたのは貴様ではない。さっきも言ったが戦力の増強だ。偽者に付き従うよりも子ガエリオンはワシの元へ来たがっているようだったからな」

ワシはフィーロにもう一仕事を頼んでいる。

フィーロは頷き、またも飛んで行った。

「ぐ……出てくるな、大人しく「キュア!」」

ガエリオンの中で人格が争いを始めている。

ふむ……。

「ガエリオン。お前は力が欲しくてラトの奴に改造を頼んでいたではないか。ワシではダメなのか?」

「ダメでは無い。だがフィロリアルと同列に扱われるのは我慢ならん」

「ふ……子ガエリオン。頑張ったらお前の望むとおりに改造してやる」

「ぐぬ! やめ、やめぬか!」

しばらくガエリオンは頭を押さえてうずくまっていたが、やがてムクリと顔を上げ。

「キュア!」

と、親ガエリオンを抑えて子ガエリオンが鳴く。

「お前はどんな改造をしてほしいんだ?」

ついでにドラゴンの改造でどれくらい研究が捗るかを見るとしよう。

結果だけで言えば、ガエリオンは馬車を引いても速い足を望んでいた。

ライバル意識を燃やしていたのはフィーロだけではなかった様だ。

陸上での足の遅さを相当悔しがっていたのだろう。

だから調査ついでに足を早くしてやった。

もちろん、ワシの元に付くと言う約束をさせてだがな。

後はフィーロに色々とやって貰って、裏切り者のいる村のフィロリアル共を殆どこちらに引き寄せる事に成功した。

方法?

要であるヒヨだったかをどうにかすれば、空を飛ぶフィーロを見て、ワシの方へ付かないフィロリアルなど限りなく少ない。

それが四日目での攻防の結果だ。

やはり勇者共が束になってくるとこちらは決定打に欠ける。

だが、判明した出来事がある。

改造した奴隷共の弱点を突かれなかった。

つまりはそう言う事だ。

四番塔が破壊される直前、偽者がワシに向かって怒鳴っていた。

サディナをどうしたのか、とな。

「さてサディナよ、分かっておるな。案の定、偽者共は弱点を知らなかった」

「あらー……」

手枷を付けさせ、戦えないサディナを研究室に連行させたワシは、サディナを培養槽に無理やり入れて尋ねる。

「お姉さんはどうなっちゃうのかしら?」

「そうだな。まずはその変身後の全身プニプニの肌に毛を生やさせてやる。色は茶色だ。尻尾は黒と茶色の縞々柄にしてやろう。これから貴様は海に入る度に海水が体に纏わり付くのだ!」

「あら怖い」

「後は大きな二本の牙を生やさせて、毛の生えたシャチなのかトドなのかアザラシなのか分からない生物に改造してくれるわ!」

「きゃー怖いわー、ついでにもっとお酒に強くさせて欲しいわー、エラとか付けてずっと海の中を泳げるようにしてほしいわー」

「……余裕あるな、お前!」

裏切り者の分際で生意気な!

命を賭けるくらい、痛い改造を施してくれる!

と、サディナに技能を発動させ、言葉を失う。

な、なんだ?

サディナの改造ステータスを見たワシは、言い寄る事の出来ない物で絶句してしまった。

フォウルやアトラ、他の亜人共のを改造した時のような物とは決定的に違う。

言うなれば改造跡、魔法的痕跡、と言った物が全く無い、澄んだ肉体構成をしていた。

紙に例えるとしよう。

フォウルやアトラ、キールやフィーロなどの連中は最初から色や混ぜ物がある。

赤や青などの色の要素があると言っても差し支えない。

だが、サディナは限りなく白と言う純粋な亜人であり獣人である。

本物……それがこれほどぴったりと来る言葉があるだろうか?

「お前……本当に何者だ?」

「あら? それはどういう意味かしら?」

「お前には他の亜人共にある違和感がない」

「ああ、そう言う事ね。お姉さんの地元はねー……代々続く家系だし、排他的だからーなんじゃない? 内緒だけどラフタリアちゃんもそうよー」

「ラフタリアもか!?」

と言う事は……亜人とは一体どういう存在なのか、また一つ謎が増えた。

……この概念を解析しないとラフタリアを蘇らせるのは難しい。

「ま、これはこれ、それはそれだ」

と、ワシはサディナにきつーい改造を施した。

裏切りには罰だ!

但し、仮にもラフタリアの保護者であったのだからギリギリ、元に戻せる範囲の改造で留めてやる。

後は体内に戦意がなくても、ワシの思い通りに戦うようにコアを移植して、偽者と戦わせることにした。

「あら、ナオフミちゃんったら過激ね。お姉さんいきそうー」

「どこまで余裕があるんだお前は!」

常人だったら失神するほどの改造を施しているのにサディナは終始余裕を見せていた。

と、元康とフォウルの抜けた穴を埋める非道な策略や、町の方での人員勧誘等、色々とやる事はやって行ったのだが……五日目に親ガエリオンが裏切って穴が出来、戦力不足のまま偽者と勇者共の前に敗北を繰り返してしまった。

サディナも制御コアを破壊され、そのまま偽者の軍門に下ってしまう体たらく。

それが四日目から七日目の出来事だ。

そうして八日目。

「兄ちゃん! もう抑えきれない!」

八番塔のコアを偽者達に破壊され、研究所の結界は全部破壊されてしまった。

再度建てなおすには時間が足りない。

前にも考えたが、調整が難しく、研究所を移転するにも根を張らせた研究所を放棄するしか方法は無くなってしまった。

やっとのことで第八世代ラフ種、タリ種、リーア種、ラフタ種、タリア種等、ラフタリアを蘇らせる研究が目の前に近付いているのだ。

限界ギリギリまでやっておかねばワシは死ぬに死に切れない。

それに……既に最終決戦兵器は完成している。

……本当はラフ種を作らず、大量殺戮兵器の開発にエネルギーを割いていれば勝てたかもしれない。

と言う考えは捨ておこう。

ワシの目的はラフタリアと共に世界を征服する事にあったのだから。

ワシは世界征服よりも、ラフタリアを優先したまで。

その事に後悔は無い。

「兄ちゃん! 早く逃げなきゃ! もう直ぐ来る、みんな捕まって来てるよ」

研究所にまで乗り込んできた偽者と勇者共、配下の者達が逃げ場の無い前線で戦い、敵に捕えられて行く映像が流れている。

ここらで潮時か。

「俺も行くから兄ちゃんは逃げてくれよ」

「落城か……そういえばキール」

「なんだ? 早くしないと危ないぜ?」

「前にクレープの木を作ってくれと言っていたな」

ワシは改造したバイオプラントの種をキールに渡す。

「ほら、クレープの木の種だ。難点は繁殖能力が無いから増えないぞ」

「兄ちゃん……」

「何があろうと生き残るんだ。わかったな」

「うん! 兄ちゃんの為に頑張るよ!」

そう言ってキールは走って行った。

「尚文様」

アトラがフィーロと共にやってくる。

「ああ、お前達か……キールと共に最終決戦に挑め。ワシはまだやらねばならん事がある」

「ごしゅじんさまはー?」

「お前達が負けた場合、最後の手段を発動させる」

ワシは巨大培養槽で培養中だった、最終兵器をアトラ達に見せる。

「それにワシ自身にも戦う手段がない訳ではない。安心して戦うが良い」

「うん、わかったー」

「尚文様を守る盾となるべく、命を賭して戦わせて頂きます」

「頼んだぞ」

「その言葉だけで、頑張る甲斐があります」

と、アトラとフィーロが走り去って行った。

……まあ、基礎概念は既に第七世代に組み込んでいる。

ワシが志半ばで果てようとも、第七世代が自然に増えればやがて第八世代が生まれ、完成するだろう。

どれだけ時間が掛かろうとラフタリアは蘇るのだ。

ラフタリアに魔物化するような能力は無いが、今のワシには時間が足りなかった。

むしろ、ワシの技術でもそれが限界か……。

出来る限りの時間を掛けて第七世代を一匹でも多く増やしておけば、もしかしたらラフタリアが蘇るかもしれない。

確率は低いが、それしか今のワシには方法がないのだ。

最終決戦が始まる。